総勢13人で登った「西上州・立岩」  登山日1996年2月24日


立岩(たついわ)標高1265m 群馬県甘楽郡
山頂で記念撮影
 1月に所属している職場山岳部の若手3人が妙高山で雪崩に巻き込まれ、全身を埋められたにもかかわらず奇跡的に生還した。そんな議題を含めて会議(酒宴)がもたれた。その時にOBが再び山に戻って、山行を企画して指導をする事が成りゆきで決まってしまった。そこで最初に計画を組む羽目になってしまったのは私だった。今まで西上州を歩いていてもっとも気に入った「立岩」をその場所に選んだ。しばらく団体の山登りを嫌い単独行をやっていたので、その計画の面倒くささに少々うんざりしてしまった。


 2月24日(土)

 集合時間から40分ほど遅れて全員が揃った。女性4人を含む総勢13人のパーティーに膨れ上がり、どうなるものかと一抹の不安がある。出発してからなんだかんだと寄り道をしながら、やっとの事で車3台が登山口の線ヶ滝に着いた。これから出発まで30分も掛かってしまった。無理もない、スパッツの装着から教えて行くのである。しかしこれは考えてみれば、自分も昔は先輩にこうやって教えてもらったのだから。特に女性にはじっくりと教えてやりたくなる所など男はいくつになっても下心があるのかもしれぬ。

 総勢13人が雪道を並んで歩く様はまことに見事なものだ。新雪の上に瞬く間にトレースが出来上がってしまった。話声もあちこちで聞く事が出来て、まことに賑やかだ。12年ぶりに山に戻ってきた先輩などはうれしさの余りわざわざ回り道をしながら歩いている。

 歩き始めて40分ほどで早速休憩だ。こんな時は女性の手作りのクッキーなどが出てくる所などは団体登山のうれしい場面だ。全員が休んでいるところで、一足先に出発する事にした。それはこの先にちょっとした岩場があるからだ。先行するとすぐに後から一人の男が追いついてきた。やはり若い体力のあるものは凄い、先ほど妙高で雪崩にあった男だ。最近はアイスクライミングに重点を置いており、海外遠征にも何度か挑戦している。すぐに追い越されて、先に岩場に到着してしまった。

 二人でここから岩場を見ながら検討した。その結果はやはり雪があるので、ザイルで確保をした方が良いと言う結論になった。あとから追いついて来た後輩にザイルを出して確保をする事を指示した。もっとも確保するのは女性4人と、男性2人だけだ。とにかく初心者と思われる3人はゼルブストにザイルを結び付けて確保、あとの3人はザイルをフィックスさせてカラビナを通して登攀をさせた。

 それだけで30分の時間を要してしまった。しかし、登山計画書の欄にリーダーと書かれてある身では時間は掛かっても安全を意識しない訳には行かないものだ。妙に慎重になっている自分を見ると、昔の団体登山が中心だった時の事が思い出された。

 岩場を越えてからも難所は続いた。それは妙に滑り易い斜面で、アイゼンを持って来たものは全員に装着させた。アイゼンを装着していないものはかなりの苦労をしながら斜面を登る事になった。

 やがて山頂部の稜線に着き、反対側の景色を見て歓声を上げてしまった。切れ落ちた断崖の下に雪に埋もれた山村の風景が広がっていたからだ。そこからわずかで木像の脇を抜けて山頂にたどり着いた。しかしこの前に来たときの経験からこの先のピークの方が展望が良いのでそこまで進む事にした。

 そこは松の木が一本あり西上州が一望出来る場所だった。目の前の大屋山の向こうには御座山から両神山にかけての山並が遠望できる。振り向くと荒船山の一角の経塚山と兜岩山のローソク岩が尖ってそびえていた。ここで昼食とする事にして、大休止となった。その途端に各自のザックからいろいろなものが出てきた。ビール、ワイン、ウイスキーとよくもこんな重いものを持ち上げたものだと感心した。早速、乾杯となった、これまでの無事と家にいる私の妻の誕生日を祝った。(妻がいないところで遊びながら乾杯とはちょっと気がひけた)

 その内に女性陣がなにやら始めたようだ。のぞき込むとなんと大きなコッヘルを出してなんと「おしるこ」を作りだした。なんとも甘い香りが周囲に立ちこめてきた。アルコールに「おしるこ」とは妙な取り合わせだが、これも山に来て味わえるものである。振る舞われたものを見ると「餅」が5個も入っていた。これが13人分なのだから凄い。さらにフライパンが登場して今度は「ホットケーキ」作りが始まった。単独行では全く考えられない光景だ。そんな事をしている内に瞬く間に時間は過ぎて、100分ほど山頂で過ごしてしまった。

 ちょっぴりアルコールで足元がふらつきながら下山となった。そんな訳があるのかどうか雪の斜面で何度も転ぶことになった。しかしそれも人数が多いから楽しい、皆で笑いながらの下山となった。

 そして威怒牟幾不動に着いた。ここは頭上から飛沫状の滝が水を落とし、下部はその水が凍り付いて青く見えるまことに素晴らしい場所だ。ここでしばらく全員で朽ち果てた不動様のお堂でお参りをしたり、付近を散策して楽しんだ。

 休憩の後は植林の林の中の柔らかな雪を踏みしめて下山をした。久しぶりの団体登山はしばらく忘れていた山の楽しみのひとつを思い出させてくれた楽しい旅だった。それにしても今回は無線機に全く手が出なかった。これも最近では珍しい山行となった。(もっとも立岩は山ランのポイントの対象とならない)


 帰宅してからは子供会のお供で「妙義少年自然の家」で一泊、今度は団体生活のわずらわしさをたっぷりと味わう羽目になった。


「記録」

 線ヶ滝09:56--(2.21)--12:17立岩山頂14:00--(1.38)--15:38威怒牟幾不動--(.20)--16:08線ヶ滝



                       群馬山岳移動通信 /1996/