恐怖の鍾乳洞の探検「立処山(西上州)」
登山日1997年5月25日


立処山(たとろさん)標高730m 群馬県多野郡
鍾乳洞内部
 5月25日(日)

 寝ぼけ眼で外をみると、とんでもない良い天気となっている。昨夜は飲みに出かけ、夜中の12時半頃に帰って来たのだが、そのときには盛んに雨が降っていたのに信じられない。ともかく今日は村上さんと山に行く約束になっている。慌てて、無線機のスイッチを入れて村上さんを呼んでみる。どうやら彼は、すぐにでも出発出来るような雰囲気だ。ともかく散在している山道具をかき集めて、車に飛び乗り出発した。

 当初はスクーターでの移動を考えていたのだが、夕方は雷雨になることも考えて4輪を使うことにした。神流湖を過ぎて万場町を過ぎたあたりで、村上さんを呼ぶと既に登山口に到着している様子である。どうやら30分程度待たせてしまうことになってしまったようだ。

 
 中里村に入り、志賀坂峠に向かう道に入るために「古鉄橋」に左折する。橋を渡りすぐに右の狭い未舗装の道に入りそのまま少し進む。するとちょっとした広場があり、車を数台駐車できる余地がある。ここには、かつて吊り橋があったらしく、「こてつはし」と記された橋脚が残されている。そしてその上部にはスズメバチの立派な巣が残されていた。もうすでに準備万端、ハイキングシューズの靴紐もしっかりと締めている村上さんと、ここで落ち合うことが出来た。こちらは慌てて車の中を引っかき回して、ザックの中にそれらを詰め込んだ。

 天気は快晴、少しだけ両神山の方に積雲が見られるのが気にかかる。立処山鍾乳洞の略図を兼ねた案内板が、歩き始める農道の入り口に設置されていた。全くの漫画のようなものだったが、どうしてこの案内板は登山道のすべてを表していた。

 コンニャク畑の中を突っ切って、雑木林の中に入ると思ったほど下草はなく、登山道は歩きやすい。しかし、かなりの急登でたちまち汗が吹き出てくる。所々道を見失うこともあるが、わかりやすくしっかりとした道だ。村上さんはストックを片手に、軽快に登っている。どうやら今日は村上さんの方が、体調が良さそうだ。足下を見るのも億劫になって何気なく歩いていると、「大塚さんエンレイソウを踏みつけてます」とお叱りを受けてしまった。

 麓では国道を走るバイクの騒音が、いつになっても聞こえてくる。それもそのはず、高度は稼いでも、水平距離は稼いでいないので騒音は間近に聞こえるはずである。急登の斜面に鎖場が現れた。そしてその鎖に掴まって斜面を登ると、鍾乳洞の入り口にたどり着いた。入り口は狭い割れ目の様な形状になっており、なかなか踏み込むには勇気が必要である。村上さんとザックをおろして、中からライトを取り出して準備を整えた。

 鍾乳洞の中に踏み込むと、ひんやりとした空気があたりを支配していて、おもわず身震いを感じる。目が暗闇に慣れれば、ある程度の状況はつかめると思ったが、いつになってもそれは望めなかった。なにしろ外の光は一切入り込まない世界なのだから。ライトに照らされた場所だけが、何となく明るくなるだけで、光がどこかに吸い込まれてしまったような錯覚に陥ってしまう。そして照らされた部分も、凹凸がはっきりしないので、歩くのが困難だ。

 村上さんが呼び止めるので天井を見ると、コウモリが一頭ぶら下がっていた。カメラを向けて写真を写したのだが、フラッシュに当たっても悠然としていて、逃げることもなかった。不安にかられながら先に進むと、所々に小さな穴が見られ、なにか妙なものが潜んでいないかとドキドキしてしまう。また、誰が持ち込んだものだろうか、木の枝が何かの骨の様にも見えて、目をそらせてしまう。天井からはひっきりなしに、水滴が降り注いでくるので、カメラをかばうようにして周囲を伺う。

 石筍はほとんどが小さく、それがかえって観光地化されなかったのかもしれない。だから手つかずのこの鍾乳洞は貴重ともいえる。しばらく進んだところで、行き詰まってしまった。広場のような所なのだが、広場の真下あたりが直径2メートル程の穴になっており、これ以上は先に行けそうにない。村上さんがその穴を注意深く観察すると、どうやら鎖があることを発見してしまった。

 しかたない、あまり気持ちの良くないその穴に入って見ることにした。穴の中は湿気が強くメガネが曇って、周囲の状況がなかなか把握できない。こんな時はメガネは明らかに不利である。鎖が終わると、今度は梯子が出迎えてくれていた。その梯子に掴まって降りるとそこが最低部で、わずかながらのあまり綺麗ではない水たまりがあった。やがて村上さんが到着したが、あまり気持ちが良くないので、早々に引き上げることにした。

 鍾乳洞から出ると、そこには別世界の緑の光に満ちた世界があった。やはり外の空気はおいしいと深呼吸をしてしまった。この鍾乳洞は怖くて絶対に一人では入れない場所である。今回は村上さんという同行者のおかげで、なんとか内部に入ることが出来た。どなたか一人で入って見る勇気のある方はいるだろうか。

 鍾乳洞からさらに斜面を登って、山頂を目指すことにする。ここもかなりの急登で、あえぎながらもなんとか稜線にたどり着いた。そこを左に向かって進むと、ちょっとした岩場に突き当たった。石灰岩の岩は、所々握りこぶしの大きさの穴が開いていて、昨日の雨がその中に残っていた。

 そしてひと登りで、明るい山頂に飛び出した。山頂からは展望が良く、国道299号線を挟んで、御荷鉾山塊が間近に迫っている。振り返れば両神山が、そして2ヶ月前にやはり村上さんと登った大ナゲシと赤岩岳が新緑の衣をまとっていた。山頂にはおなじみGさんの標識が立ち木に打ち付けられていた。

 山頂では、村上さんが430Mhzで盛んにCQを出すが、あまり応答は良くないようだ。それもそのはずで、周囲はここよりも高い山々が取り囲んでいるからだ。ゆっくりしていると、そのうちに両神山の山頂部分が、雲にっている。どうやら天気は不安定で雨が降り出すのも時間の問題と思われた。

 実は今回はもう一つ、この立処山のすぐそばにある「叶山」が私の目標となっていた。果たしてどこから登ったらよいのか?私の目はその登山口探しで、終始「叶山」の尾根を眺めていた。

「記録」

登山口09:30--(.31)--10:01鍾乳洞10:35--(.08)--10:43立処山山頂11:55--(.20)--12:15登山口


                    群馬山岳移動通信 /1997/


          





立処山(たとろさん)多野郡中里村 登山日1999年2月27日


久しぶりに職場山岳部のメンバーを引き連れて、西上州の立処山に行って来ました。
当日は心配していた雨も上がり、まずまずの天候になりました。
立処山は、鍾乳洞があることが魅力です。
しかし、こんな風にパーティーで行くには問題ないのですが、単独で鍾乳洞に入るのはかなり勇気が必要です。


民家の土手には福寿草が咲いていました



立処山の登りは結構苦しい


鍾乳洞の天井にはコウモリがぶら下がっています




鍾乳洞の最深部はかなり広い




JQ1HXF/大塚 /1999/