雨と霧の中をさまよう「守門岳」    登山日2003年7月26日

残雪とニッコウキスゲ

大岳(おおたけ)(おおだけ)標高1432m 新潟県栃尾市・北魚沼郡/青雲岳(あおくもだけ)標高1490m 新潟県北魚沼郡/守門岳(すもんだけ)標高1537m 新潟県北魚沼郡

守門岳の登り口である二分駐車場に着いたのは、朝の爽やかさが残る6時前だった。しかし、今年の梅雨は例年になく長引き、いまだに明けていない。この日も朝から雨が降りしきる梅雨らしい日となっていた。この天候のために登山者は誰も居らず、静かな登山口の佇まいを見せていた。この二分駐車場はキャンプ場も兼ねていて、草地のキャンプサイトが出来ている。ご多分に漏れず行楽客のゴミが散乱していて、決して気持ちの良い場所ではなかった。駐車場は舗装がされており、区画線もきちんと引かれていた。

 支度を整えて、雨が小降りになるのを待ってみたが、雨は一向にやむ気配はない。携帯で雨雲の様子を見ようとしたが、圏外で確認することも出来なかった。そのうちに一台の軽自動車が駐車場に入り、一人の男性が山の支度をはじめた。かなり慣れた様子で、準備を整えていく。そうこうしているうちに、時間がどんどん過ぎていく。もうこうなったら行くしかあるまい。

 駐車場からは沢に沿って、林道を歩く事になる。この道はやがて大きな堰堤にたどり着く。どうやらこの堰堤工事のために作られた道らしいことが分かった。ここからはいよいよ登山道らしくなってきた。しかし、なんというヤブ道なのであろうか。葦に覆われ、木の枝は低く垂れ下がり、道はぬかるんでいる。雨具はズボンのみで、暑さによる蒸れを嫌って、上の方はTシャツに傘と言うスタイルだ。だから、傘は木の枝に引っかかり、思うようにさせず、Tシャツは見る間にびしょ濡れになってしまった。

 この山はウルシの木が多いらしく、歩いていると妙に腕の露出部に触れてくるのが気になる。鬱蒼とした木の枝をかいくぐり、傘をあちこちに引っかけながら徐々に登っていく。なにか珍しい花でも咲いていないかと、眺めたがそれらしきものは見られなかった。
保久礼小屋
 暫く歩くと、突然目の前が明るくなり、車道に出てしまった。その先には広場があり、そして黒い不気味な建物が雨の中に煙りながら浮かんでいた。ちょっとその不気味さに足が引くほどだった。これが保久礼小屋であることを、やっと認識したのは暫く経ってからだった。ともかくその小屋に近づいてあたりを観察することにした。2階建てで屋根には朽ち果てかけた煙突が乗っかっていた。外観は黒で統一され、ドアや窓までも黒かった。一階の引き戸を引っ張ってみたが、鉄の戸はびくともしなかった。そこで錆び付いた外階段を上り、2階の扉を開けようとしたが、錆び付いていて動かない。断念して中を見ることは止めた。(本当は開かなくて良かったと、心の中で思った)

 保久礼小屋からは、立派な偽木で組まれた階段が延々と続いている。ちょっと過剰な設備なような気もするが、この赤土の滑りやすい道はこんな雨の日にはありがたい。この道は今までの道とは違い、刈り払いもされて良く整備されていた。それにしてもここの標識は書き込みが多い。コースタイムが間違っているとかいろいろ書いてある。しかし、標識なんて当てにする事自体が間違いだから、目くじらを立てることもあるまいと思う。

 そんな階段を上っていくと、キビタキ清水に到着した。小さなせせらぎに水飲み用のカップが置いてあった。展望もなく、鬱蒼とした樹林に囲まれた中では、休み気にもならずそのまま歩き続けた。キビタキ清水を過ぎると、キビタキ小屋との分岐になる。小屋に立ち寄る必要もないのでそのまま直進した。ぬかるんだ道をひたすら登ると、再びキビタキ小屋からの道と合流。そのまま少し歩くと展望台と呼ばれる場所に着いた。確かに休むには良い場所で、樹林が途切れていた。しかし展望は全くなく、雨の白いカーテンが目の前に引かれているだけだ。ともかくここで腰を下ろして休むことにした。ザックから水を出して口に含んだ。暫くボーッとして座り込んでいると、下から登山者が登ってきた。駐車場で見た男性で「いやあ、早いですね、全然追いつけませんでした」そう言いながら休むわけでもなく、歩いて行ってしまった。(そちらの方こそ早いじゃないですか)と心の中で叫んだ。

 その登山者が去ってから5分ほどしてザックを背負って歩き出した。道は今までと違って傾斜が緩くなった様な気がする。それにうるさい灌木が無くなってきている。そしてほどなく不動平に到着したが、展望はガスに囲まれて全く無かった。その不動平では休まずに、そのまま通過して登り続けた。

 展望はなくとも、いままでの鬱蒼とした灌木から開放されただけで何となく気分が良くなる。草地の中の道を気持ちよく歩くと、不動の像が道から少し外れた場所にあった。その像は小さな水場を守るように置かれていた。写真を撮ってから再び歩き出すが、わずかな距離で大岳の山頂に着いてしまった。

大岳山頂の鐘青雲岳


 大岳山頂には鐘があり、ほぼ同時に到着した先ほどの登山者が、その鐘を大きく鳴らした。私も負けずにその後大きく鐘を打ち鳴らした。大岳山頂は岩がゴロゴロした広場になっていた。展望は霧で全く見られず、雨こそ止んでいたが、湿度も多くあまり快適ではなかった。先ほどの登山者と何となく話を始めた。寺泊から来たというその登山者は、今日は本当は平ヶ岳に登る予定が、天候が悪くこちらに回ったという。深田100名山を目指して間もないところを見ると、今が一番楽しいに違いない。

 大岳山頂を後にして先に進む事にした。ニッコウキスゲが霧の中で鮮やかな黄色で埋め尽くされていたが、ヒメサユリは見る事ができなかった。まあ時期的に仕方ないと諦めたが、来年は浅草岳にでも登って見ようかと思った。地形図で見ると守門岳まではアップダウンが少ないと思っていたのだが、実際は大岳からは勿体ないほど標高を下げる事になった。ストックを慎重に使い、ゆっくりと下った。なにしろ左膝は内靱帯損傷、左足裏は足底筋膜炎で痛みが取れない。これ以上の悪化はさけたいと言う気持ちが支配していた。この下りも鞍部につくと、今度は登り返す事になる。しかし、ゆったりとした登りで気になるほどではない。やはりニッコウキスゲと時々現れる残雪が、気分を和ませてくれるからかもしれない。

 道は二口登山口からの分岐に突き当たった。二口への道は灌木に覆われて鬱蒼としていた。この分岐を左に分かれて青雲岳に向かう事になる。ゆったりとした道をしばらく登り詰めると、霧に囲まれて展望のない草原上の青雲岳に到着した。山頂はニッコウキスゲに覆われて、その一角に山頂標識が目立つ場所に立っていた。その草原には植生保護のために木道が敷かれており、それ以外は立ち入り禁止になっていた。わずかに下り勾配になっている濡れた木道を慎重に歩いた。ところが、濡れた木道は予想外に滑りやすく、ついに尻餅をついてしまった。尾てい骨を木道のつなぎ目にしたたか打ち付けてしまい、その瞬間は息が出来ないほどだった。しかたない、木道から降りて草地を歩く事にした。

守門岳の鐘守門岳で記念撮影


 なだらかにアップダウンを繰り返して道を辿ると、待望の守門岳山頂に到着だ。山頂からは大展望が得られるはずだったが、あいにくとガスに阻まれて何も見えない。山頂は裸地となっており、三角点はその中心に置かれていた。またここにも鐘が設置されており、叩くと澄み切った音が霧の中に響き渡った。

 誰もいない山頂であったが、隅の方に陣取って腰をおろした。幸いにも雨は小康状態だったので、コンロを使って温かいラーメンを食べる事が出来た。それよりも缶ビールは何よりのご馳走だった。携帯電話はかろうじてつながったので自宅に電話をした。無線の方はフィールドデーと言う事もあり、相手には不自由しなかった。約1時間の休憩だったが、まったく人影は見られず静かな時間を過ごす事が出来た。
中間点(なんにも見えない)やっとの思いで下山

 山頂をあとにしていよいよ下山に移る。下山は登ってきた道を辿るのも癪なので、二口登山口に回る事にした。ところがこの道は下山には適さない道だった。雨に濡れて滑りやすくなった赤土の道は、思ったように歩けない。それに展望もなくなんの変化もない灌木の中を歩くだけだ。途中の中間点では滝の展望が良いと言う事だったが、轟音が遠くから聞こえるだけで、すべては霧に包まれていた。

 長い時間をかけて二口登山口に着いたときは、汗と泥にまみれてヨレヨレになってしまった。それから二分駐車場に向かって長い車道を登る頃になって、雨も止み薄日が差すような天気になっていた。


二分駐車場06:28-(.25)---06:53保久礼小屋07:01--(.26)--07:27キビタキ清水--(.37)--08:04展望台08:15--(.10)--08:25不動平--(.19)--08:44大岳09:08--(.26)--09:34分岐--(.15)--09:49青雲岳--(.14)--10:03守門岳11:02--(.23)--11:25分岐--(.43)--12:08中間点--(.40)--12:48護人清水--(.20)--13:08二口登山口--(.17)--13:25二分駐車場


群馬山岳移動通信/2003/