新緑の上武国境稜線を辿る「大ナゲシ」「宗四郎山」 






大ナゲシからの展望(赤岩岳から宗四郎山)


野栗澤案内マップの一部

大ナゲシ(おおなげし) 標高1532m 群馬県多野郡/宗四郎山(そうしろうやま)標高1510m 群馬県多野郡・埼玉県秩父市



去年の秋に南天山から県境稜線を辿った。その時、天丸トンネル先の県境稜線に特徴ある宗四郎山の鋭鋒が見えた。その厳しい姿からとても登れそうにないような感じを受けた。しかし、ネットで検索するとそれほどの苦労もなく歩いていることがわかる。それでは登ってみようと言うことで計画を立てたが、ピストンではつまらない。大ナゲシから縦走するとなると周回コースになるが、林道歩きが大変だ。実際、「TNCねくらハイキング」さんの記録でも大変な苦労があったようだ。そこで、今回も職場のTさんに声を掛けて、車2台を分散して縦走してしまおうと考えた。


5月16日(土)
当初の予定では、大ナゲシから六助を経て倉門山・大山経由で下降しようと考えた。しかし、いまにも降り出しそうな空模様を考えるとこの計画は修正せざるを得ないと判断した。天気予報では夜遅くなってからと言うことだが、どう見ても午後から降り出すようだ。したがって午後1時まで行動することにした。そこで計画は変更して六助まで歩いて天丸トンネルに下降する短縮コースをとることにした。Tさんの車を天丸トンネルの群馬県側に置いて、私の軽トラックで大ナゲシの登山口となる胡桃平の赤岩橋までやってきた。赤岩橋の周辺は広くなっており、車の駐車には全く問題なかったが、山側は落石の心配があるため、谷側に駐車することにする。支度を調えるが、今回は岩場が想定されるので、ザイルもザックの中に入れた。



赤岩橋に駐車する

赤岩沢を登る

赤岩沢上部(このあたり泥炭層がある

赤岩峠自記雨量観測所



赤岩沢に沿って登る道は、入り口にチェーンが張られている。堰堤の工事に作った作業道なのか、コンクリート舗装のある道をしばらくは進む。そこを過ぎて山側に高巻くと、本格的な登山路となる。沢沿いの道なので荒れていることを予想していたが、踏み跡はしっかりとしており、岩には赤ペンキマークがあるなど、明瞭なルートになっていた。それに要所にはステップがあり、さらには短管パイプで組んだ橋まである。しかし、このコースは急坂の連続で、たちまち汗が噴き出してくる。先行するTさんは、1ヶ月以上のブランクがあるにもかかわらず快調に登っていく。付いていくのもやっとで、オーバーペースの酸欠状態で登る羽目になった。しかし、そんなことが長く続くわけもなく、見かねたTさんが登りはじめて1時間で休憩としてくれた。

休憩時にゼリー飲料とパンを食べると元気が湧いてくる感じになった。どうやらシャリバテ状態だったのかもしれない。道はやがて沢を離れて九十九折りに斜面を登って行くようになる。振り返ると彩度を高めた新緑が曇り空だというのに眩しい。それは狭い谷底から解放されたことから、明るさが倍増されたのかもしれない。ミツバツツジはまだ蕾が多く、これからが楽しみと言う感じがする。登り上げて木々の間からハッキリと大ナゲシが見える頃になると、「赤岩峠自記雨量観測所」の標識があった。かなり老朽化が進んで文字も読みにくい部分があった。さて、ここからは目の前の稜線にむかって徐々に登って行く。

赤岩峠は十字路になっており、道も良く踏まれている。やはり一番良く踏まれているのは日窒鉱山からのもので、かつて12年前にこの道を登ってきた事が思い出された。賽銭が置かれた石祠は埼玉方面を向いておかれていた。さて、ここから西に向かって進んでいくことにする。なによりも天気の崩れが心配なので、赤岩峠では立ち止まっただけだった。



ミツバツツジは咲きはじめ

赤岩峠



大ナゲシに向かう稜線の道は良く踏まれており、間違えようもなかった。新緑の緑のトンネルをくぐって快調に進んでいく。1493mのピーク手前にまき道があり、そこを辿ると北に向かって稜線から離れて行く。一旦鞍部に向かって下降してから大ナゲシの基部にたどり着くことになる。12年前は左の壁をトラバースしたような気がするが、しっかりした踏み跡は岩壁をまっすぐ登るようになっている。そこにはフィックスロープがあるので難易度は高くない。それよりもロープを使う必要もないほどホールドやスタンスがある。たしか、昔はもっと藪になっていて、懸垂下降で降りたところだと思い出した。Tさんは高所恐怖症の割にはスイスイと登って行ってしまった。どうやら高所恐怖症は慣れと訓練で克服できるものだと思ってしまう。この岩場を抜けると昔のトラバースの道の名残と合流し、さらに上部に進んでいく。ちょっとした灌木帯を抜けると、再び岩壁に到達する。見上げると圧倒されそうな姿だが、実際に取り付いてみると困難もなく登れてしまう。鎖も設置してあるが凍結でもしていなければ使うことはないだろう。

岩場を抜けると、三等三角点のある大ナゲシ山頂だった。ここからの展望には息を呑む迫力がある。天候は曇りで赤岩岳付近にはガスがかかっているが、ガスの流れに沿って展望は徐々に開けていた。眼前になる赤岩岳は人を寄せ付けない迫力があり、連なる赤岩尾根は鳥も通わぬ屏風の壁となっている。さて目を転じると、これから向かう宗四郎山はここから見ても尖ったピークとして目立っていた。さて、大展望を見ながら大休止としよう。Tさんが持ち上げてきた、グレープフルーツとリンゴを食べると、疲れが一気に吹き飛んだ。大展望はともかく、眼下に広がる広葉樹の森は緑色の絵の具を、濃淡を変えてちりばめたようだ。いつまで見ていても飽きない素晴らしい景色だった。当初9時45分までと考えていたのだが、時間が過ぎていき10時丁度まで延長することにした。しかし、雨の心配もあることから去りがたいが、山頂を辞して県境稜線に戻ることにした。



赤岩岳の岩壁は迫力がある

大ナゲシへの登り

大ナゲシから赤岩岳

大ナゲシから宗四郎山

大ナゲシ山頂

大ナゲシ山頂から眼下の新緑



先ほどの1493mのピークまで戻り、西に向かって歩くことにする。道は稜線上にハッキリと付けられていたが、それもすぐに怪しくなった。尾根をそのまま南に下降するように続いていたからだ。すぐに気が付いて修正したが、天候が悪ければ展望も得られず危ないところだった。そのまま下降すれば1423mのピークに行ってしまうところだった。鞍部に着くとそこが雁掛峠で小さな石祠が置いてあった。往時の面影となるような峠としての上武を繋ぐ踏み跡は見られなかった。ハッキリとした踏み跡をたどりながら快調に進んでいく。総じて埼玉県側はカラマツの植林地、群馬県側は広葉樹の天然林で、これを分ける県境稜線の踏み跡は背の低い馬酔木が草のように茂っていた。それにしても新緑は素晴らしく、Tさんとこの色彩を褒め称えながら歩いていった。



1493mからの道

雁掛峠

ミズナラの大木

新緑にミツバツツジ



1443mピーク付近で小休止してから、先に進んでいくと、地形図で1490mの等高線で囲まれたピークに、急登を登って到達する。ここから見る宗四郎山はどこから取り付いたらよいのか、果たして登ることができるのだろうかと不安になってくる。ともかく先に進むしかないと言い聞かせて、1490mのピークを下降する。するとすぐに広い刈り払いのある場所に出くわした。まるで林道のようにも見える。おそらく防火帯としての切り開きなのだろう。道のようにも見えるので、天候が悪ければ迷うことにもなりかねないだろう。宗四郎山が近づいてくると、思わぬ景色の出現に目を疑った。それは埼玉県側の木が伐採されて丸坊主になっていたからだ。さらに県境稜線に沿って延々と防獣ネットが張られていたのだ。おそらく植林後の幼木を守るためのものだろうが、この山奥にこれだけの工事を行うとは驚きである。たしかにこのネットによって遮断されているのだろう、獣の臭気があたりに充ち満ちていた。ネットに沿って進んでいくとやがて上部に登る踏み跡が現れた。その踏み跡の先には木製の踏み段もあるではないか。全くの秘境と思われた山に人工のものがあるとは、予想していなかっただけに拍子抜けがした。どんどん高度を上げていくと、先ほどまで滞在していた大ナゲシが遠くに見えていた。眼下には林道が見えていたが、土砂で埋まっている部分も見えているので、使うことは出来ない道なのだろう。一歩一歩高度を上げて登っていくと目の前が開けて大展望の広がる、あこがれの宗四郎山の山頂に飛び出した。思わず、Tさんと握手をして喜びを分かち合った。山頂からの展望で目に付くのは、やはり去年の秋に歩いた南天山から県境稜線の長かった道程である、あれが滝谷山、あれが帳付山と指さしながら二人で確認した。それにしても倉門山の脇に見えるまだ未登の焼岩が気になるところだ。山頂の枯れ木にはフェルトペンで山名が期してあり宗四郎山のほかに山吹沢の谷山と言うのもあった。どちらも良い名前だと思った。



新緑が眩しい

防獣用のネット

宗四郎山への登り

宗四郎山から大ナゲシを振り返る

宗四郎山山頂

天丸トンネル



さて、あとは六助まで一気に下降していく。恐ろしいような急傾斜の道を慎重に下降するのだが、なんとここにもロープが設置されて至れり尽くせりと言った感じである。踏み跡をそのまま進んでいくと、右側に分岐する道があったが、それを遮断するように木の枝が置いたあった。その先を覗いてみると、道が崩落しているようなので、それを知らせるものらしいとわかった。あとは一気に転がり降りるように下降すると、懐かしい六助のコルにたどり着いた。この前は埼玉県側に下降したが、今回は車を置いた群馬県側に下降する事にする。ヒノキの樹林帯の中に付けられた道をどんどん下降すると、怪しかった空から雨が降り出してきた。その雨もやがて音を立てる程の強さになった、幸いにも樹林帯の中で濡れることもなく、天丸トンネルに駐車した車にたどり着いた。時計を見ると13時ちょっと前で、当初計画した通りの時間だった。

Tさんは所要で早く帰ったので、1人ですりばち荘の風呂を独占して、雨の降る景色を眺めながらゆっくりとした。


赤岩橋06:55--(1.28)--08:23雨量観測所分岐--(.15)--08:38赤岩峠--(.19)--08:57分岐--(.25)--09:22大ナゲシ10:02--(.32)--10:34稜線(1493m)--(.05)--10:39雁掛峠--(1.13)--11:52宗四郎山12:21--(.21)--12:42六助--(.15)--12:57天丸トンネル


群馬山岳移動通信/2009



GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

赤岩橋から赤岩峠はGPS電波の受信状態が悪く途切れている