梅雨の晴れ間を狙って登る
杣添尾根〜横岳(三叉峰)〜赤岳〜権現岳〜三ツ頭〜天女山
登山日2009年6月25日




キバナシャクナゲ(三叉峰から赤岳への縦走路)


三叉峰(さんじゃほう)標高2825m 長野県南佐久郡・茅野市/赤岳(あかだけ)標高2899m 長野県南佐久郡・諏訪郡・茅野市・山梨県北杜市/権現岳(ごんげんだけ)標高2715m 長野県諏訪郡・山梨県北杜市/三ツ頭(みつがしら)標高2580m 山梨県北杜市/前三ツ頭(まえみつがしら)標高2364m山梨県北杜市



去年の夏に阿弥陀岳南陵を登ったときに対峙して見える長い尾根が気になった。それは権現岳から赤岳に延びる尾根で、ルート途中には大きく切れ込んだキレットが挟まっていた。このルートは体力があれば、赤岳または権現岳からピストンで片づけるか、稜線上で一泊すれば可能と思われる。しかし、現在の自分の体力と現状の自分の環境を思えば難しいものがある。そんな折りに、おなじみの職場の同僚Tさんと車を分散にて配置すれば日帰りで縦走が可能だと言うことに気がついた。そこで、早速実行に移すことにした。ルートは海ノ口から杣添尾根→横岳→赤岳→キレット→権現岳→三ツ頭→天女山とすることにした。


6月25日(木)


梅雨の晴れ間を狙って天気情報をチェック、晴れの確信がもてる日は平日となった。Tさんとともに休暇願を出して、決行することにした。実は、数日前の日曜日に狙っていたのだが、あいにくの降雨で断念していた経緯があるから、どうしても登りたいという気持ちが強かった。Tさんに先行して前日の夜11時に天女山の駐車場に到着して、軽く350CCを呑んでから仮眠を取ることにした。 日付が替わって午前2時半にTさんが天女山駐車場に到着した。なんでも仮眠も取らずに駆けつけてきたようなので、これからの行動に不安が残った。とりあえずTさんのジムニーで海ノ口の杣添尾根登山口に向かうことにする。


杣添尾根登山口の駐車場は、車が一台もなくひっそりとしていた。車のライトを消すと周囲は漆黒の闇となった。二人ともこのルートは初めてなので慎重に進むことにする。ヘッドランプを点けて登山口の標識を見ると、富士見岩の案内となっているのでちょっと不安が残る。このヘッドランプに照らされた狭い視野の中で慎重に道を辿る。何度も車道を横断するので、今歩いているところが本当に登山道なのか頭の中が混乱するほどだ。傍らの沢のせせらぎがかなり大きく二人の会話をかき消される程だった。やがて堰堤のような場所に着いたが水の流れがあり、この先に道が続いているのか暗闇の中では確認がなかなか出来ない。しかし他には道はないようなので思い切って進んでみると明らかな道がそこに続いていた。さらに進むと再び広い車道に出ることになった。ここは広場のようになっており、治山の説明を記した大きな看板が設置されていた。ここでザックをおろして一休みにする。そんなうちに、時刻は4時を回り、空の上が明るくなってきた。日の出は4時半頃だからもうすぐ周囲も明るくなるだろう。登山道はよく踏まれており、急な所もなくひたすら樹林帯を歩くことになる。もし周囲が明るくともこの樹林帯の中を歩くのなら、展望はないだろう。


一本調子で登っていた道も、右にトラバースする頃になると植生も変化してダケカンバが多くなってきた。それとともに残雪がわずかに道を塞いでいた。ここで、後から登ってきた単独行者に追い越されることになった。聞けば我々よりも一時間遅い出発だったようで、我々が遅いのか彼が健脚なのかどちらかだろう。このダケカンバの林を抜けると標高2600m付近の森林限界となり、ハイマツ帯となった。それとともに周囲の展望がひらけ八ヶ岳の盟主である赤岳が姿を現した。更にその横には雪の筋が縦縞模様となった富士山が雲の上に浮かんで見えた。稜線まであとわずかな距離となり、足取りも軽くなるのがわかる。



杣添尾根登山口

残雪の道を行く



三叉峰に着きその高みに登ると、眼前には迫力ある赤岳〜中岳〜阿弥陀岳のパノラマが迫って見えた。Tさんと二人で歓声を上げずにはいられなかった。足元には高山植物が咲き乱れ山上の花園となっていた。これから辿る赤岳への道は大きく切れ込んだコルから大きくせり上がっていた。今日は平日なので登山者の姿は少なくこの展望をゆっくりと楽しむことが出来るのは本当に幸せだと思った。三叉峰から先は、まだ歩いたことがないのでワクワクしながら、赤岳に向かって歩き出した。



杣添尾根の森林限界
赤岳と富士山

杣添尾根の上部

三叉峰から横岳方面

赤岳展望荘



赤岳への道は花に気が取られてなかなかスピードが出なかった。これが花の最盛期だったらさらに歩を進めるのは困難に違いない。コルにつくとこれから登る斜面途中の赤岳展望荘の林立する風力発電のポールが確認できた。さらにその上部に赤岳頂上小屋に建物もハッキリと確認が出来た。斜面はかなり急傾斜だが、意外と登りやすく高度がどんどん上がっていくのがむしろ心地よく感じられる。振り返ると横岳、硫黄岳、そして稜線は北八ヶ岳の峰につながっているのが見える。さらに北アルプスが頂上部分だけ雲海の上に頭を出していた。途中の地蔵の頭は、地蔵尾根の分岐でピークという感じではない。標識の下には地蔵が鎮座し賽銭箱が置かれていた。ひっそりとした赤岳展望荘の横を抜け、休まずに頂上を目指すことにする。



オヤマノエンドウ


イワウメ

ハクサンイチゲ

チョウノスケソウ

イワヒゲ

コマクサ

ヨツバシオガマ



赤岳山頂に到着すると、既に登山者が二人記念撮影の真っ最中だった。順番がなかなか回ってこないのでイライラしながら展望を確認する。やはり目立つのは阿弥陀岳で、このピークがなかったら赤岳も引き立たないと思われる。更に目指す権現岳はキレットを挟んで見えているが、かなり近く感じられる。その先には甲斐駒ヶ岳そして富士山が見えていた。しばらく時間を過ごしたが、一向に二人連れは立ち退きそうにないので、その中に割って入って三角点を手前に記念撮影をした。それにしてもこの山頂は、石祠や石碑で墓地にいるようだ。


記念撮影を終了して、赤岳山頂小屋に戻り中に入った。室内はよく整理されて清潔感にあふれており、ストーブがついていて暖かい。愛想の良い小屋番にビールを頼む。Tさんは750CCで私は遠慮して350CCのスーパードライだ。Tさんはアルコールに飢えていたのか一気に飲み干してしまった。私は自宅で収穫したキュウリを妻が浅漬けしたものを肴にゆっくりと呑んだ。小屋番は我々の話し相手となって、いろいろと参考になることを聞かせてもらった。我々はこれからキレット小屋に向かうのだがどれくらいかと聞くと、通常で一時間程度だが我々はお客さんの忘れ物を届けるために20分で下降するというので、それは凄いと感心するばかりだ。そのうちに小屋の壁に飾ってあるバンダナと手ぬぐいが気になった。酔いが回ったのか、気前が良くなり両方を買い求めてしまった(1200円+600円)まあ自分のおみやげだから仕方ないと思った。



横岳を振り返る

赤岳の一等三角点

赤岳からの富士山

赤岳から阿弥陀岳を望む



妻に携帯でメールを送信してから小屋の外に出ると、相変わらず人影は疎らで貸し切り状態だった。さてここからキレット小屋に向かって下降の始まりだ。道は岩場に設置されているが、ハシゴやクサリが要所にあるのでこの時期ならばさほどの不安はない。山頂から10分ほどで真教寺尾根の分岐に到着した。かつてここを通過したのだが、まったく記憶が残っていない、10年前のその時はよっぽど疲れていて景色などは道でも良かったのかもしれない。さてガレ場の下降は延々と続き、うんざりするほどだ。そのうちに下方から登山者が登ってくるのが目についた。落石をしないように二人で注意しながら下降していく。その登山者に近づくと単独行の若い女性であった。聞けば、観音平から編み笠岳を経由してきているという。今朝の出発が4時半と言うことなので、ここまで6時間と言うことはかなりの健脚であることは間違いない。


そういえば三叉峰でも70歳過ぎと思われる女性がいたが、我々を追い越して見る間に離して去っていった。Tさんとつくづく体力の未熟さを思い知ることになった。女性と別れてしばらく歩くとほどなくルートも平坦となり、いままで歩いてきたルートを振り返ることが出来た。、見れば赤岳からの斜面は岩壁で、よくぞ降りてくることが出来たと自分自身に感心してしまった。それにしてもこの付近の展望は素晴らしく、阿弥陀岳と赤岳をバックにしばらく記念撮影を楽しんでしまった。道はさらに下降を続け、樹林帯に入りアップダウンを繰り返す。ここでTさんの動きが止まったので、聞けば足が攣ってしまったという。しばし屈伸をしてストレッチをすると回復して歩き出すことが出来たので、一安心と言ったところだ。やがて、ルートから離れてキレット小屋に向かう標識が表れた。とりあえずキレット小屋に向かうことにする。



真教寺尾根への分岐点

キレットの下降路

キレットのコル付近から赤岳

キレットのコル付近から権現岳

キレット小屋

権現岳の登りから見る赤岳



キレット小屋は最近建て替えられたのだろうか、きれいな外観で外観からも清潔な感じを受けた。近づくと小屋の傍にはコマクサが群生し、数株は花が咲き始めていた。小屋の前では若い小屋番が登山靴の手入れをしていた。山頂小屋では1時間程度と言われたが、我々の軟弱な足では大幅に超過してしまったようだ。ここの小屋番も愛想が良くしばらく話をさせて貰った。ここで標識を見ると権現岳まで1時間30分とある。時刻は10時なのでこれからの予定を考えても余裕があるので、小屋の前のベンチに腰掛けて休むことにした。


キレット小屋で10分ほど休憩して、気持ちよくザックを背負って歩き出す。ヤマザクラの花を眺めながらコースに復帰する。しばらくは樹林帯の中を歩き徐々に高度を上げていく。振り返ると阿弥陀岳の南陵が見え、特に特徴ある青ナギが印象的である。標高2600m付近から森林限界となってハイマツ帯となってくる。この森林限界を越えると気持ちが明るくなるから不思議なものだ。やがて旭岳のピークを巻いて登っていくと権現岳の山頂が見えてきた。山頂には人影があり性別までもハッキリとわかるほどだった。しかし、その前に大きな関門が待っていることが見て取れた。それは長大なハシゴが垂直に近い岩壁に設置されていたからだ。ドキドキしながらそのハシゴの基部に到着した。二人がこのハシゴに乗るのはまずいので、Tさんが最初に登ることになった。高所恐怖症が嘘のようにすんなりと登ってしまい今度は実際に私の番だ。両手を使って這うようにして登っていくのだが、上部に行くと疲れてきて両手両足がチグハグになってバラバラになってきた。なにかうまく順序よく動かせない自分の姿を想像すると、思わず笑いがこみ上げて来るようだ。高度計で標高差を測定すると15mあった。先人の記録を見ると61段あったと言うが、残念ながら確認することは出来なかった。ここまでくれば権現岳山頂はわずかな距離だった。



阿弥陀岳南稜の青ナギが見える

旭岳を通過すると権現岳山頂へもう少し

権現岳のハシゴ

権現岳山頂

権現岳から編笠山

三ツ頭から権現岳と赤岳



権現岳山頂の岩峰でおそるおそる記念撮影してから、昼食の休憩を時間を掛けて取った。なにしろ、ここまで来ればあとは下降だけが残っているから余裕と考えたからだ。眼前の編笠岳を眼下に見ながらここまで持って来た100ccの日本酒パックを飲み干した。じつに気持ちの良い場所で時間の経過を楽しむことが出来た。それとギボシのピークがすぐ傍にあるのだが、これは編笠岳から権現岳に登ってみたいという気持ちがあるからあえて残しておくことにした。充分な休憩を取ったので、眼下に広がる斜面を下方を目指して歩くことにした。ところが、三ツ頭付近からTさん歩きに異変が見られた。とにかく下降が嫌いで、見れば歩くときに踵が微妙に震えていた。


天女山に近づく頃にはかなり半べそ状態であったようだ。



「記録」

03:26海ノ口登山口--(.26)--03:52徒渉--(.06)--03:56貯水池04:01--(1.04)--05:05 2262m標高点--(1.05)--06:10森林限界(2630m)06:18--(.37)--06:55三叉峰07:08--(.43)--07:51赤岳展望荘--(.31)--08:22赤岳(赤岳頂上小屋)09:05--(.13)--09:18分岐--(1.01)--10:19キレット小屋10:29--(1.34)--12:03権現岳12:08--(1.13)--13:21三ツ頭--(.32)--13:53前三ツ頭--(.53)--15:46天女山



天女山駐車場




群馬山岳移動通信/2009




この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)