残雪を踏みしめて「鹿俣山」から「獅子ヶ鼻山」 登山日2005年4月14日


獅子ヶ鼻山山頂から左が武尊山、右が剣ヶ峰山



鹿俣山(かのまたやま)標高1637m 群馬県沼田市・群馬県利根郡/獅子ヶ鼻山(ししがはなやま)標高1875m 群馬県沼田市・群馬県利根郡

今までに登れなかった山というのはいくつかある。その中でも獅子ヶ鼻山は特別だった。この山に登ろうと鹿俣山から先に進もうとしたことがあった。しかし、ひどい笹藪で全く進めない状況だった。次に狙ったときは、急に体調不良となり、その時はイレウスで手術。そんなわけで、どうしても気になる存在となった山となっていた。この山は薮が深いだけに、どうしても残雪期でのアタックが条件となってくる。そうなると天気の良い時期を狙って行くしかない。

 4月14日(木)
 朝6時の玉原高原は天気情報どおり快晴となっていた。それに風もなく絶好の条件が揃った。やはり平日に休みをとっただけのことはある。たんばらスキー場の駐車場は、まだ10台ほどの車があるのみで、賑やかさは見られない。駐車場の開門は5時30分、リフトの運転は8時30分からなので、まだ待ち時間はかなりありそうだ。

 駐車場で支度をするが、スノーシューにするか、ワカンを持つかで悩んでしまった。結局はスノーシューを持つことにした。それは装備には万全を期したかったからだ。したがってロープとツェルト、コンロまで持つことにした。もしもの時のビバークを考えてのことである。装備を詰め込んで駐車場から歩き出そうとして、案内板を見たがどうにも様子が飲み込めない。仕方なく近くにいたスキー場の関係者に尋ねた。すると「ゲレンデの中を歩いていくのがわかり易く一番早い」「ゲレンデの中に入っても良いんですか?」「別にかまわないよ」そんなわけでありがたくゲレンデの中を歩くことになった。おそらくリフトの運転までは時間がたっぷりとあるし、平日だから問題ないとのことだろうと思った。

たんばらスキー場ゲレンデ鹿俣山から玉原湖


 ゲレンデ内は圧雪車の跡が残っているだけで、スキーやスノーボードの滑走の痕跡は見られなかった。これは前日まで雨が降っていたことが影響しているのだろう。いくら歩いて良いと言われても、ゲレンデの真ん中を歩くわけにも行かないので、出来るだけ端を歩くことにした。ゲレンデ内は傾斜もそれほどでもなく歩きやすい。振り返るとスキー場のリゾートセンターがどんどん遠ざかって行くのがわかる。やがてレストハウスに到着し、再び振り返ると玉原湖が望めるようになっていた。だらだら歩いているようでも確実に高度は稼いでいるようだった。ここで、案内板をのぞき込むが、どこを登ったら良いのか悩んでしまう。どうも上級コースは傾斜がきつそう、初級コースは距離が長そうなので中級のDコースを登ることにした。

 人影の無いゲレンデを登るのは、意外と気持ちの良いもので、新雪の中に踏み込むような心地よさがある。それにも増して、今日は天候が良いことが幸いしているのかも知れない。先ほどの玉原湖はもとより周りの白い山々が、だんだんと見えてきた。まずは特徴ある双耳峰の谷川岳がハッキリわかると、あとはそこからの稜線の延長で山名が次々に分かって来る。本当にすばらしい山々の集まりは、見ているだけで愛おしい。

 快適な登りもゲレンデの最上部に到着すると、その先は人工的なものはなく、自然そのままの世界が広がった。その中に足を踏み入れると、意外なほど雪がしまっており、持ってきたスノーシューは使うことが無いと分かった。(まさか残置しておく事も出来ないので、結局はそのまま使わずに、ザックにくくりつけたままになった)稜線は踏み跡があるのか期待したが、それらしきものは全く見られなかった。ちょっとした急斜面を登ると、そこは平地のようになって拓けていた。おそらくここが鹿俣山山頂だろうと、GPSで確認する。その予想通りここが鹿俣山山頂で、山頂標識があるだろうと見渡したが見つからない。たぶんこの雪の下に埋もれていると考えられた。

鹿俣山山頂は薮が出始めていた獅子ヶ鼻山への稜線、左の黒い部分が岩場部分


 鹿俣山山頂は、玉原湖方面が開けているが、反対側は雑木で展望はあまり良くない。玉原方面はなんと言ってもその奥に連なる谷川連峰が見事だ。朝の光の中で青空にくっきりと浮かび上がっている。また目を転じると目指す獅子ヶ鼻山が意外なほど大きく見えていた。そしてそこまでは見事で明瞭な稜線が延びていた。その稜線は雪庇が途切れることなく張り付いており、歩くには細心の注意が必要だ。ここまではストックで歩いてきたが、これはザックにしまい込んでピッケルを取り出した。足元は深雪も考えられないのでアイゼンを装着した。

 装備を点検後、獅子ヶ鼻山に向かって歩き出す。じつに快適な稜線で、展望は申し分なく、雪もしまっておりアイゼンが小気味よくきいた。ただし、雪庇には近寄らないようになるべく左側を歩いた。その雪庇は部分的に亀裂が入り、不気味なクレパスが口を開けていた。この中に落ちたら、外界との連絡は不可能に違いない。そうしたらどうしようなどと考えながら、割れ目を覗き込むのは危険だ。しかし、なぜか覗き込んでしまうのが好奇心というものだ。

 1685mのピークまで来ると、獅子ヶ鼻山はさらに大きくなり、その奥の武尊山、剣ヶ峰山の荒々しい岩肌がその凹凸が見て取れるようになった。それらを両脇に従えて、真ん中に位置する獅子ヶ鼻山は、あたかもこの付近の盟主であるがごとく振る舞っていた。ともかく憧れていた山がそこにあるので、休むこともなく再び歩き出した。

ダケカンバの雨氷山頂に向かって続く稜線


 稜線の右側は雪庇が乗っているが、左側は雑木林となっている。その雑木には雨氷がびっしりと付着して、枝が真っ白になっている。さながら平地での今を盛りの桜の花のようだ。それがまた青空に映えている様は、桜の花に勝るとも劣らない。この稜線の道はこの残雪期でなければ、登るのは不可能に違いない。この残雪期は鼻歌気分で歩けるのだからたまらない。

 そんな稜線も一カ所だけ岩場がある。まともに登るのはちょっと大変だが、左側の雑木林に入れば何のことはない。ちょっとだけ薮を漕げば、その岩場は楽にエスケープが出来るのだ。そのまま雪庇を避けながら急登を登ると、一気に前方の視界がひらけた。ついに念願の獅子ヶ鼻山に到達したのだ。確認のためにGPSを取り出してみるが間違いは無さそうだ。

獅子ヶ鼻山山頂からの武尊山

 獅子ヶ鼻山山頂は両側が切り立っており、狭く細長い場所だった。雪庇が厚く乗っているので、あまり動き回ることが出来ない。うっかり雪庇を踏み抜いたら、それこそ大変なことになってしまう。展望は360度遮るものが無く、大展望が広がっていた。まずは武尊山と剣ヶ峰山が大きい。目を転じると谷川岳連峰から巻機山を経て丹後山そして至仏山が白く輝いている。登った山、そして登りたい山が一望だ。心ゆくまでこの大展望を楽しみながら課題の山を登った感慨にふけった。






「記録」

駐車場06:29--(.52)--07:21第3リフト終点--(.14)--07:35鹿俣山08:00--(.23)--08:231685m08:26--(.47)--09:13獅子ヶ鼻山09:29--(.48)--10:171685m10:56--(.29)--11:25鹿俣山--(.52)--12:17駐車場





この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)





群馬山岳移動通信/2005


     藤原湖