万場町、神流川左岸の山「千軒山」 登山日1999年2月7日


千軒山(せんげんやま)標高772m 群馬県多野郡

千軒山のKUMO山頂標識
 2月7日(日)

 神流川周辺は、群馬でも秘境に数えられる地域で、そこには数多くの魅力的な山が広がっている。しかし神流川左岸は、御荷鉾山魂が際立っているためか、そこから少しでも離れると、一気に人の影が薄くなる。今回登ろうとした「千軒山」もその中のひとつだ。

 万場町の中心部のはずれから、塩沢ダムに向けて右折して北に向かう。実は私の地形図は昭和61年発行のものなので、この塩沢ダム(平成6年完成)は記載されていない。それにダムに通じる車道も、地図の感じととはかなり違って展望も良く、幅の広い快適なものだった。しかし、このことが目指す千軒山を特定する事を困難にさせられた。

 当初、塩沢ダムに車を止めて位置を確認したがどうも違う。そこで戻って塩沢川に下りて、ゲートボール場を兼ねた公園から位置を確認したが、ここからも登れそうにない。再び、塩沢ダム方向に向かい、GPSで位置を確認しながら進む。

 消防の半鐘の所を左折して、西塩沢集会所前を通過する。さらに数十メートル進んだところで民家が途切れた。ここで、農作業をしている地元の男性がいたので、千軒山について尋ねた。年齢は70才くらいだろうか、その人は作業の手を休めて答えてくれた。

「千軒山はそこから登るんだよ」

そう言って沢の中にある大きな岩を指した。その岩には高さ50センチ程度の岩が乗っていた。それは一目見て、何かの御神体であることがわかった。

「この山は、俺の土地なんだがもう荒れ放題で、道もねえからとても登れねえ」
「登るんだったら、戻って黒田の消防署から車で登った方がいい」
「前にそんな人が来たが、そちらから登った」
「登っても、何もねえから、つまらねえ」

そうは言われても、道がある山なんてあまり登ったことがないし、山頂でなにかあること自体、初めから期待していない。だからこの男性が言うことは少しも納得できない。それに時間はすでに11時近いので、再び道をさがすのは億劫だ。そこで、この男性の許可を得て路上の余地に車を駐車、ここから山頂を目指すことにした。
(地形図の位置から見ると、「塩沢川」の”塩”の文字のある所である)

 先ほどの御神体のある岩の先から、簡単に対岸に渡ることが出来た。さすがに忠告通りで、昔は畑であった所は薮に埋もれていた。畑の縁を右に向かい、シュロの木の下をくぐり尾根を目指す。

 明瞭な尾根は目の前にあるのだが、ここに向かう斜面はとてつもない急傾斜だ。ストックはとても持っていられない。灌木に捕まって登ろうとするのだが、その灌木があまり多くないので、かなりの困難を伴った。やっとのことで尾根に乗ったときは、すでに背中は汗でびっしょりとなっていた。

 尾根は灌木が疎らで、かなり明るい感じがする。先ほどの急傾斜で乱れた息を整えながらゆっくりと登っていく。するとなんと立派な道が現れ、良く踏まれたその道は上部に向かって延びていた。かつてはかなりの人の往来があったと見えて、道は窪んでおり明瞭だった。

 その道は、杉の植林の西側の縁を忠実に辿っていた。そしてその縁は、登っている尾根に忠実に沿っていた。振り返ると、オドケ山の特徴ある正三角形のシルエットが青空に浮かんでいる。右側の谷はかなりの傾斜で落ち込んでおり、つくづくここを選んで登らなくて良かったと感じた。

 やがて、左側にあった植林も無くなり、いつの間にかあれほどしっかりしていた道も消えてしまった。そのかわりに目の前には稜線近づき、目の前のちょっとした岩場が現れた。この岩場の左を巻いて、稜線の上に立った。

 稜線の南側は再び杉の植林地で、かなり薄暗く感じる。稜線左に折れて、一旦コルに下りて馬酔木の緑の薮を抜けると薄暗い千軒山の山頂に出た。

 山頂からは展望はなく、木々の間から南に父不見山、北に御荷鉾山を見るくらいだ。山頂には石積みの石があり、山頂の周囲には壕が掘られている。おそらくここは城か砦があったものと推測できる。かつては、ここで敵を迎え撃つために、人が常駐していたと思うと、感慨深いものがある。

 ここで、思いがけないものに出くわした。それは「KUMO」の標識である。かなりの年月を重ねているのだろう、幹の成長で板は半分に折れかかっている。この千軒山に関する怪人の記録を見たことが無かっただけに、思わず数枚の写真を撮影した。

 無線はいつもの通り、奥の手運用で自宅と連絡して終了にした。

 帰りは時間も早かったが、「千軒山」の登り口探しで疲れたので、一山のみで終了して自宅に向かった



「記録」
西塩沢集会所10:57--(.12)--11:09尾根--(.34)--11:43稜線--(.08)--11:51千軒山山頂12:50--(.28)--13:18西塩沢集会所



              群馬山岳移動通信 /1999/