猿ヶ京周辺の山「境野山」「高畠山」「雨見山」
登山日1996年4月21日


境野山(さかいのやま)標高835m 群馬県利根郡/高畠山(たかはたやま)標高1143m 群馬県利根郡/雨見山(あまみやま)標高1347m 群馬県利根郡
雨見山から見る谷川連峰
4月21日(日)

 「こんな天気になるなんて!」

 利根郡新治村の赤谷湖から北に入ったところにある「川古温泉」の駐車場で、そう呟いてしまった。先に到着していた猫吉さんのデリカスターワゴンは屋根に雪を被っている。昨日の天気情報では降水確率0%だったはず、ところがどうだ、空からはみぞれが降っているのだ。本来なら今日は前から計画していた「小出俣山」にアタックするはずだ。しかし、この天候では登ることは無理だと思われる。まずは猫吉さんの目覚めを待って決行するかどうか相談することにした。

 6時少し過ぎに猫吉さんがデリカの中から起き出してきた。なんでも昨夜は2時にここに着いてから眠ったとのことで、疲れがたまっているように見える。みぞれの中で相談をするが、「小出俣山」はあっさり断念することで決まった。それでは何処に登ろうかと言うことになり、この付近のめぼしい山を地形図から探し出して、適当に登ることで話がまとまった。なんとも計画性の無い二人の登山者である。


「境野山(標高835m)」

 赤谷湖から「猿ヶ京小学校」を通過して、大きなカーブを曲がると右側に「赤谷湖畔相俣の郷」と言う看板が出ている。地形図から見るとこの施設内の道を通るのがいちばんアプローチに適していると思われる。しかし入り口には「これより私有地・立入禁止」の標識がある。幸いに入り口は半分しか閉鎖されていない。こうなれば強行突破がいちばんいいと考えて車2台は相次いで施設内に入った。施設内は企業の保養所や別荘があり、最奥にはバンガローなどのキャンプの施設が揃っていた。炊事場やトイレは良く整備がされており、清潔な感じを受けた。

 アスファルト舗装の終わったところに車を駐車した。猫吉さんはなんと危険物倉庫の前に駐車をしており、やることがなんとも大胆である。地形図を見ると簡単に登れそうなのでストックを手に持ち、ジャンパーのポケットにハンディー機を入れて出発準備は出来た。いつものことだが猫吉さんはどんな山でも必ずザックを背負い、それなりの準備をしていく。これは以前なにか辛い目に会ったことがあるのだろうか。

 道はおろか踏み跡もハッキリしないので、炊事場の裏にまわり適当に斜面に取り付く。するとすぐに明瞭な道が左下から登って上部に続いている。これは有り難い、こんな山にも道があると言うことで、早速この道を辿ることにした。雪がうっすら積もった道を若干トラバース気味に登ると稜線に着いた。さて右と左のピークどちらが三角点のピークなのかよくわからない、どちらも同じような高さに見える。二人で間違ったピークに登ってもしかたないので、お互いに無線で連絡を取りながら別れて登ることにした。

 猫吉さんは右(西)の方へ、私は左(東)のピークを目指した。緩やかに登っていくと右から尾根が交わりそのままピークに向かった。ピークに着いてみると、そこには三角点はなく、「山」と書いてある杭が立っているだけだった。猫吉さんを呼び出すと時を同じくして、ピークに着いたらしく嬉しそうに三角点と山頂標識があると答えてきた。どうやらこちらが負けたようだ。猫吉さんが待つ西のピークに向かった。

 猫吉さんはカメラと三脚をセットして待っていてくれたので、そのまま記念撮影となった。山頂には沼田市在住の新ハイのG氏の山頂標識があった。展望は悪くなく、赤谷湖周辺の山や、本日は断念した「小出俣山」が山頂だけ雲に覆われて遠望出来た。猫吉さんと奥の手QSOをして山頂を後にした。下山途中「タラの木」の大木を見つけた。まるで鬼が持つ刺が生えた棍棒のように見えた。

 禁を犯しているので、帰りは速やかにこの「相俣の郷」のゲートを通過した。この時間になったら、入ったときは無かった車が数台、入り口の管理事務所前に駐車してあった。


「高畠山(標高1143m)」

 今日は新ハイのG氏の書いたものをコピーして持ってきている。それによると国道17号線沿いの湯宿温泉から県道「湯宿・中之条線」に入り須川集落(たくみの里)を抜けて笠原集落の初越から登るとある。そこで何度も何度も地元の人と思われる人に道を聞きながら進んだ。しかしどうも要領を得ないどころか、ますます迷路に陥ってしまった。諦めかけて最後は農作業をしている男の人に尋ねたところ「高畠山はここから登るよりも、裏からまわれば車で登れる、なんだったら車で先導やる」と言う。しかし歩いて登るのが目的だと話すと、「ここから登るなら裏に車を置いて行け」と言う。しかし、「車で登れるんだからそちらの方が良い」とさらに念を押すように説得されてしまった。そこまで言われてはしかたない、猫吉さんと顔を見合わせてその車で登る道を教えてもらう事にした。

 再び県道に戻り、中之条方面に向かう。目標となる「橋場商店」を探しながら行くが、なかなか現れない。道を歩いているご婦人に聞いてみると、まだ先だとその方角を指さした。気を取り直して更に進むと道の左に「橋場商店」があり、その手前に未舗装の道がある。そして「工事中通行止め」の看板も・・・。しかしまだまだ行けそうなので、そのまま行けるところまで行くことにした。

 看板に偽り無く、ついに工事中で行き止まり。これで断念かと思ったら、近くの民家でで種籾の消毒作業をしている夫婦が見えた。ここで道を聞くしかない。近くに行き「高畠山」の道を聞くと、なんと親切に地図まで書いてもらい道を教えてもらった。その地図を頼りに、再び道を戻り小橋を渡りすぐに左のコンクリート舗装の小道に入った。教えられた通りに分岐はその度に左に左に曲がって登っていく。やがて道は未舗装になり、そして広い道に出た。この分岐は見落とし易いのでガードレールに青い紐を結んで置いた。(結局これはなんの役にも立たなかった)さらにこの道を登っていくと右の斜面に高畠育成牧場が広がっていた。そしてこの道の最高地点では、またもや工事中である。ここもダメかと思ったら、道路を塞いで駐車していた車が端にどいてくれたので、そのまま通過する事が出来た。

 この道は舗装されており決して走り難くい道ではなく、一旦下って再び登りとなった。そしてさらに上り詰めるとついに牧場の中程で、施錠された柵に突き当たり道は行き止まりとなった。車はここに駐車する事にした。

 柵を乗り越えてさらに続く広い道を猫吉さんと歩き始めた。この道は実に展望の良い牧場の中の道で、振り返ると手前の破風山の先に榛名山、横には妙義山魂さらに奥には白銀の山並が浮かんでいた。道なりに行くと再び柵があり、これも乗り越えて先に進む。やがて牧場の柵と雑木林の境を歩くようになっていた。この境の最高地点から柵を乗り越えて雑木林に入った。ここは何やらピークのような場所だったので、山頂かと思ったが良くみるとさらに先があるらしい。

 しかたなくさらに薮をかき分けながら先に登っていくと、なにやら山頂らしい雰囲気があり、ついに三角点のある山頂に飛び出した。山頂標識はG氏のものと、なんと「KUMO」がその上に取り付けてあった。怪人としては異例の高い部分に取り付けてある。その「KUMO」に二人で柏手を打ってその後で撫で回した。「KUMO」教の信者が二人集まったのだから仕方あるまい。それから記念撮影、無線運用をして赤谷湖を見おろすのどかな雰囲気のする山頂を後にした。

 下山は最短距離で下ったら、18分で車に着いた。どうやら登るときはわざわざ遠回りをしていたようだった。最短距離で駐車した地点から直登すればかなり時間は短縮された筈である。これは地形図が「猿ヶ京」だけで「四万」を持っていなかったことが判断を誤らせた結果となった訳だ。


「雨見山(標高1347m)

 次は「高畠山」の西にある「雨見山」に登りたくなったのだが、地形図を持っていない。あるのはG氏の書いた新ハイの概念図だけだ。ともかく何とかなるだろうと、安易な考えで次は「雨見山」と決めた。

 高畠山から下山したら丁度時間は正午となったので、駐車した車の中で昼食とした。猫吉さんは豪華な特大の幕の内弁当である。さらにお茶を沸かしてラジオを聞きながら、まことに愛車デリカスターワゴンが山での生活の拠点となっている様子が見られた。ここから見る「雨見山」は山腹に林道が走っている。新ハイの概念図によるとこれは「雨見山林道」で、林道にはゲートがあり車は通行出来ないと書いてある。どうもここから眺めてもそこに通じる林道も良くわからない。ともかくあの林道を途中まで使うのが、もっとも現実的なアプローチの手段だ。

 高畠牧場から車で戻りながら道を探したがそれらしき道は見つからない。その内に猫吉さんが途中に脇道を見つけた。この辺の動物的な勘は、さすがに山ランのトップを独走する猫吉さんだと感心した。しかしこの道は未舗装で、対向車が来たらすれ違いは難しいと思われる幅員だ。途中まで進んだが、どうも先がどうなっているかわからない不安がある道である。そこで駐車するのに適した空き地があったので、ここで猫吉さんに先に行ってもらい偵察をしてもらうことにした。何しろデリカスターワゴンとエスティマでは悪路の走破能力は格段に違っているからだ。

 その内に無線機から猫吉さんの声が聞こえた。雪が積もっていてどうもデリカでも先に進むのは難しいと言う。その内に後ろから乗用車ブルーバードが近づいて来て止まった。乗っているのは女性ばかりの家族連れで「高校生くらいのYLが2人」「若いお母さん」「おばあさん」の4人であった。美人の家系なのだろうか、いずれ劣らぬ美形の持ち主であった。
「地元の人ですか?」と声をかけた。
「そうだが」おばあさんが答えた。
「この道は上に見える道まで続いていますか?」
「ああ、ここから少し下って上ると三叉路になっている」
「今仲間がこの先まで行って様子を見ているんですが、どうも雪でダメみたいです」
そう言って無線機で猫吉さんとその情報をさらに再確認した。するとその家族連れもここに車を駐車して、山菜取りに向かう事になった。
「あんたらも山菜取りかい?」
「いいえ、雨見山に登ります」
「雨見山? あそこは道はないし、今から登るのは止めたほうがいい」そう忠告をされたが、猫吉さんが待つ場所に向かった。

 猫吉さんは林道の脇に車を止めて準備万端で待っていた。ここで合流して二人で林道を登る事にした。デリカが登れなかったと言う雪の吹き溜まりは、たしかに深くエスティマでは到底無理な場所であった。このままさらに林道を登ると、今度は広い林道に出た。ここが「雨見山林道」である事は間違いない、このまま左に道を辿り林道を登る事にした。この林道も日陰には雪が残っており、まだまだ車での走行は不可能である。もしこの林道を車で登る事が出来たなら、雨見山はかなり楽な山となるだろう。猫吉さんと四方山話を楽しみながら林道を登る。これは単独行では味わえない楽しみである。

 歩きながらも目の前の「雨見山」の地形をみながら、どこから取り付こうかと考えた。G氏は林道の最高標高地点である南側の尾根から登っている。しかし我々はこのまま東側から北尾根に登り、そのまま山頂を目指す事に決めた。そこで適当なところから林道から離れて雑木林の薮の中に入った。あとから地形図で確認すると標高1030mのカーブの地点であったらしい。急斜面を登ると傾斜が緩み、快適に進む事が出来た。そして再び急斜面がせまった場所は、雪解け水が流れて水場となっていた。ここの雪の上の足跡を見てちょっと焦った。大きな足跡があったからで、なんと親指のあとが付いているではないか。親指、大型となればなんとなく嫌な事を考えてしまう。ともかくそんな恐怖心を抑えて北尾根への最後の急斜面を登った。あとから登ってきた猫吉さんはここで枯れ木を掴んでひどい目にあっている。この前の「コシキの頭」の時の私の転落劇の再現かと思ったが、幸いに大した事はなさそうだ。

 北尾根の標高約1150mに着いた途端にどっと疲れが出て、ザックを放り投げて腰を下ろしてしまった。ひとまず休憩だ!しかしここからみる雨見山の山頂へはかなりの苦闘が予感される。急傾斜と薮と雪の斜面が標高差約200m、山頂まで続いているのが見えているからだ。ワンピッチで登れるか難しい、そう思いながら歩かなくては山頂に行けないと腰を上げた。

 予想通りの薮漕ぎとなり、まわりはヤマザクラの木が多いと感じたのでその季節ともなれば、美しい風景が広がるに違いない。急斜面と所々膝まで潜る雪でペースダウンとなってしまった。あまりのゆっくりした速度に、後ろから付いて来ていた猫吉さんがついに業を煮やしてトップにたった。そして見る間に距離をどんどん広げて行ってしまった。こうなると年齢差の体力よりも、体重差がものを言う。そして猫吉さんに引きずられて予想だにしなかったのに、ワンピッチで山頂まで登りきってしまった。

 山頂には三等三角点が設置されていた。しかし期待したG氏の山頂標識がないことで、ここが山頂では無いのかなとも思った。この雨見山は西峰と東峰に分かれており、西峰が高いにもかかわらず三角点は東峰にある。この時点では地形図が無いので山頂がどちらなのかわからなかったが、帰ってから確認すると山頂は東峰であると記載されていたのでひとまず安心した。持参した缶ビールで三角点を中心にして乾杯して記念撮影をした。そのあとは無線運用に移ったが、今日登った山の中では最高にロケーションが良かった。

 下山途中に北方面を見ると今日は目的を果たせなかった「小出俣山」がとても立派に見えていた。いつかはあの山頂に立ちたいと、カメラのレンズを向けてシャッターを切った。帰りの林道はフキノトウがかなりあったので、それを摘みながら下山となった。


 帰りは「テルメ国境」で一浴して帰った。この次はあの山に行きたいと複数の山の候補が浮かんだ。今年は猫吉さんと登る機会が増えるかもしれない。それにしても「小出俣山」は最初に挑戦したい憧れの山である。今回は「KUMO」の山である「泉山」を登り損なっており、それがちょっぴり残念である。



「記録」

「境野山」
相俣の郷07:35--(.15)--07:50ニセピーク--(.06)--07:56境野山山頂08:22--(.11)--08:33相俣の郷


「高畠山」
牧場林道最終地点10:12--(.34)--10:46牧場の柵をくぐる--(.08)--10:54高畠山山頂11:40--(.18)--11:58牧場林道最終地点


「雨見山」
林道13:06--(.43)--13:49林道1030m地点--(.23)--14:12北尾根14:23--(.30)--14:53雨見山山頂15:49--(.31)--16:20林道1030m地点--(.26)--16:46林道



                  群馬山岳移動通信 /1996/



     四万     猿ヶ京