三角点を掘り起こした「霊仙峰」
登山日1996年3月2日

霊仙峰(れいせんほう)標高1269m 長野県南佐久郡
霊仙峰山頂

 名前に惹かれて登って見たくなる山がある。「霊仙峰」もそんな山のひとつであった。群馬県と長野県をつなぐ田口峠付近にあり、標高1296メートルのこの山は地形図で見ると簡単に登れそうな感触がある。


 3月2日(土)

 自宅付近の日溜まりには梅の花が咲き出して来た。しかし下仁田町を抜けて南牧村に入ると道は凍結しており、田口峠までは道が狭い事もあり緊張してしまう。試しに車から降りたら立って居られないほどの路面状態だった。地形図から見ると峠の随道付近から登るのがもっとも良さそうなので、どこか適当な駐車余地がないかと物色した。しかし、随道付近は路肩に雪が多く、とても駐車出来そうにない。しかたなく随道からさらに佐久側に進んだ所に、適当な廃林道の入り口がありそこに駐車する事に決めた。ここは小さな橋が沢に架かっており欄干には「雨川」「樽ヶ久保橋」の文字が書かれてあった。

 地形図を再び見ると、どうやらこの場所から南に見えるピークが「霊仙峰」であると思われる。車を止めた廃林道が、登山道の一部なのかもしれない、わりと簡単に山頂に到達する事が可能と思った。廃林道は数十メートルですぐに消えてしまい、沢に入ってしまった。両側の斜面は桧の幼木が密生しており入る事が出来ない、このまま沢を詰めるしかないようだ。しかし沢は吹き溜まりになっている為に、多い所は腰の辺りまで潜ってしまった。最初からなかなか苦戦を強いられる事になってしまった。雪面にはウサギの足跡が多く見られ、ほかのものはあまり見あたらない。沢はやがて分岐したので、比較的歩き易い左の沢に入った。

 さらに沢を詰めると、倒木が多くなり深雪との二重苦となってしまった。右岸の斜面を見ると桧の植林が終わり雑木の林となっていた。この雑木の林は比較的雪も少なく歩き易そうだったので、迷わずにそちらの斜面に這い上がる事にした。斜面を登りきると尾根に着いた。しかしここがどこの尾根に当たるのかハッキリしないので。とりあえずこの尾根を登って目の前にあるピークを目指す事にした。

 ピークに着くとそこには標柱が埋め込まれていて「一三四」の数字が記入してあった。また近くの立木には「境界見出標 長野営林署」の札が取り付けてあった。しかし不思議な事に、このピークからは全く踏み跡らしきものが見られなかった。こんな薮山に来るもの好きは「山ラン」のメンバーくらいなものだろう。ともかく地形図を引っ張り出して現在地を確認する事にした。目標となるのは特徴のある山容の兜岩山と、コンパスの示す方角だ。その結果、いま自分がいるところは「霊仙峰」から田口峠に向かって二つ前のピークである事が分かった。

 背丈よりも高い笹薮をかき分けて、いったんこのピークを下った。鞍部に着いてから次は標高差約60メートルを再び登る事になる。当初はピークとピークを結ぶ稜線を歩こうと思ったのだが、笹薮はまことに歩きにくいのでついに断念した。少し北斜面に逃げて笹薮だけはなんとか回避する事にした。しかし、傾斜の強い斜面をトラバースしながら行くのもまことに歩きにくい、アイゼンとピッケルが大活躍だ。踏み跡もないので雑木の枝の少ない所を選んで行く事になる。いま登っているピークは山頂部が二つに別れており、西側の方が若干高い。そのピークに立つと目指す「霊仙峰」がやっとその勇姿が現わした。独立したそのピークは、なかなか立派な姿をしていた。

 このピークから標高差30メートル下って、今度は80メートルを登らなければならない。ここが今回の最大の難所となった。それは笹薮と雪と強い傾斜の斜面の登りとなったからだ。笹薮は進もうと思っても身体が押し戻される程だ。強い傾斜の斜面の登りはきつく、何度も息を整えないと進めない。特に最後の登りは目の前にピークが見えているのになかなか足が前に出ないのがもどかしかった。

 たっぷりと汗をかいて何とか山頂に着いた。山頂には標識が2枚ありプラスチック板の「○峰山岳会1986.04.12」とアルミ板の「MISAYAMA A.C」と書かれたものがあった。アルミ板のものは既に木の幹に取り込まれてしまって、文字の不明な所があった。山頂部は笹が三坪程度の刈り払われており、三角点のある雰囲気がある。地形図にも三角点の記号が載っているのだが、肝心の三角点がない。これではこのピークが山頂とは認識できない不安がある。そこで見当をつけてピッケルで雪を掘り返す事にしたが、なかなか見つからない。そうなるとなんだか不安になってきた。ちょっぴり焦りを覚えながら懸命に掘り返して見ると、やっと赤いペンキで上部が塗色された三角点が現れた。ひとまずはこれで安心したので、掘り返した三角点を入れて記念撮影を行った。それにしても不思議なのは「霊仙峰」の名前とは全く異なり、宗教的なものは全く見あたらなかった事だ。名前の由来は全く不明で謎は深まるばかりだ。

 山頂からの展望は雑木の間から先週登った「立岩」そして「兜岩山」が間近に見えた。13時に学校から帰ってきた7N3VZTと交信して山頂を後にした。

 帰りは適当に斜面を下ったら登りの3分の1の時間で降りてしまった。

 「霊仙峰」は夏はおそらく登る事は不可能と思われる。それから降りてから確認したところ「107カーブ」の標識から登ったほうが良いのかもしれないと思った。


「記録」

 樽ヶ久保橋10:11--(.19)--10:30尾根--(0.09)--10:391180mピーク--(.21)--11:001210mピーク--(.26)--11:26霊仙峰山頂13:04--(.32)--13:36樽ヶ久保橋



                         群馬山岳移動通信 /1996/