吾妻山から大形山(桐生)「火が欲しい」
登山日1996年9月28日


吾妻山(あずまやま)標高481m 群馬県桐生市/大形山(おおがたやま)標高682m 群馬県桐生市
山頂から桐生市街地を望む
 9月28日(土)

 前日、子供に明日は山に行くかと聞いたら、なんと首を縦に振った。そうなると普段の薮山通いは不可能である。さてどこに行くかと考えてみた結果、桐生の山に出かける事になった。そんな中で吾妻山は桐生の代表的な山であり、たくさんの人が登っていると聞く。しかし、そこから派生する稜線上の山はなかなか歩く人がいないらしい。

 吾妻公園の広い駐車場に車を止めた。近くの小学校の運動会のアナウンスがしきりに聞こえてくる。車から離れて歩き出すとすぐに道が幾筋にも分かれる。案内板を見るがあまり要領を得ない。ともかく上に登ればいいと、茶室の脇を抜けて左の斜面を登りだした。ところが手ごわい急な階段が上まで続いている。いきなり汗をかきながら息をきらせて登る事になった。

 斜面の上部に行くに従って目の前にガードレールが見えてきた。それもそのはずで着いてみると、そこには車道があるではないか。そして駐車場もあって車が数台駐車してある。そして表示板には「水道山公園」と書いてあった。「おとうさん、もっとしっかり調べてこなければダメじゃないか」と子供に言われてしまった。

 車道をすこし下ると、すぐに吾妻山登山口の表示板がある場所に着いた。ここでカメラを忘れたことに気がついた。もう再びここに来る事もないだろうから、カメラが無い事はいかにも惜しい気がする。そこで子供をこの場所に待たせてカメラを取りに戻る事にした。この登山口からは素晴らしい道が下に延びており、これを下れば駐車場に行けそうである。結果はその通りで、なんと登り始めた所の茶室の横に着いた。のぼり始めたときに、茶室を過ぎたらすぐに右のわき道に入れば良かったのであった。

 カメラを手に子供の待つ登山口に着いた。ここで汗を拭こうとタオルを探したが、なんと忘れているではないか。再び車に戻るのも情けないので、このまま出発する事にした。登山道はまことに素晴らしい道で、登山者、ジョギングをする人、多くの人とすれ違った。中には上半身裸で登って行く人もいた。それだけ今日は天気が良く、暑い日となっている。道の傍らにはハギやコスモスの花が賑やかだ。

 公園内と思われる場所を過ぎると広い車道に出た。この車道の上部に橋が架けられており、登山者はここを渡る事になる。ここで子供が忘れ物に気付いた。汗拭きのバンダナとズボンのベルトである。再び戻ることも出来ないので、このまま先に行く事にした。今日は親子で忘れ物だらけとなってしまった。(あとからもっと重大な忘れ物に気付く事になるのだが)

 道はやがて「男道」「女道」に分かれる。男道は急で岩がゴロゴロしているので、迷わず左の女道を選んだ。そして再び男道と合流して少し登ると「トンビ岩」に到着、視界がひらけた。トンビ岩からは桐生市内の町並みが見事に見えていた。しかし、思ったほど広い場所ではないので、数組のパーティーが集まれば身動きが出来なくなってしまう。あまり長居も出来ないので、記念撮影をして早々に出発した。

 再び道は「男道」と「女道」に分かれて、今回も迷わず右の女道を登る事にした。タイガーロープを渡した岩場を、トラバース気味に進むと再び男道と合流した。ここから雑木林の道を進むと吾妻山山頂にわずかな距離で到着した。山頂には数組のパーティーが休んでいたが、広い山頂はさほど休む場所に気は使わないで済む。展望はトンビ岩から見たのと同じで、その時よりもはるかに素晴らしく桐生市街地の様子が見えていた。山頂には何に使うのか不思議なものがある。クーラーボックスがあり、中を開けると発泡スチロール板が入っていた。おそらく尻の下に敷くために使うのかな?と解釈した。

 さしたる印象も残らないままに山頂を出発、いよいよ縦走の開始である。標識には「鳴神山」の文字がその方向を示していた。ここはどうやら「関東ふれあいの道」になっているらしく、悪名高い階段が設置してある。階段を降りて再び登り上げると、そこには訳の分からないものが設置されていた。骨組みだけで桐生市街地に向かって大きな板が張り付けてある。近くには説明板があり、どうやら東京電力の無線通信の反射板であると書いてある。アマチュア無線家として詳しい事は分からないのが情けない。

 道は広く時折左に展望が開けて川内地区の村落が見える。道の傍らには時折キノコが姿を見せるのだが、全くキノコには知識が無いために、みんな毒キノコに見えてくる。もっともこの方が都合が言いと思う。道は左右に度々分岐しており、この山域は人がさまざまな方向から登って来ているものと推測できた。

 そろそろお腹が空いてきたので、昼食にする事にした。適当なところに「関東ふれあいの道」の標石があったので、ここで休憩とした。標石には「自然観察の森2.0←→吾妻山1.5」と記入してあった。さて「カップ焼きそば」を取り出して、コンロを出して火をつけようとしたら、マッチがない!どこを探してもないのである。おもえば三週間程前にタバコを止めてから、ライターを持つ習慣が無くなっていたのだ。

 困った!子供は適当な枯れ枝を拾ってきてこすり合わせた。所詮そんな事で火がつくような甘いものではない。私はシルバコンパスのレンズで太陽光を集めて、枯れ葉に火をつけようとしたがうまく行かない。煙は出るのだがその後が続かないのだ。しからば乾電池にリード線をつないでショートさせて火花を発生、ガスに火をつけようとしてみた。乾電池はハンディー機の6本を使用する事にした。しかしいくらやっても火は着かない、それどころか火花もやがて出なくなってしまった。万策つきて目の前には、乾燥した「カップ焼きそば」が転がっていた。

 ところがその時初老の男性が現れた。思わず「ライター持っていますか?」と声をかけた。するとウエストバックからライターを取りだして渡してくれた。そのライターでコンロに火をつけると一発で火はついた。なんと文明の利器は素晴らしいことだ。(あとで子供はこの時感激したと話した)男性はついでにタバコを取り出して一服つけて、山のよもやま話をして山頂から去って行った。このあとこの縦走路では、いっさい登山者に会わなかったからまさに好運が味方してくれたと言うほかはない。

 希望通りカップ焼きそばを腹に納めて歩きだした。ここからの道は右は桧の植林、左は松林となっていた。やがて道は大きく分岐して、「自然観察の森」と「鳴神山」に分かれた。そしてここでやっと「関東ふれあいの道」から分かれたので、道がとたんに歩き易くなった。俄づくりの広い道よりも、昔から良く踏まれた道の方が気分的にも気持ちが良いものだ。何度も似たようなピークの基部を巻くようにして道は続いている。

 岡平の標識があったが、桐生市街地に行く道は標識がない。道もなにやら怪しいので、子供連れの事も考えて下山は違うコースを考える事にした。

 そろそろ歩くのが嫌になった頃に、道の真ん中に「二等三角点」が現れた。おそらくここが「大形山」に間違いないのだが、標識が全く無いのである。いままで、うるさいほど標識があったので、ちょっと拍子抜けである。展望もなくあまり山頂らしい雰囲気はない。梨の皮を剥き子供とわけあって食べた。三角点を入れて記念撮影をして山頂をあとにした。

 大形山からはとんでもない急な下り坂の道となった。子供は立木につかまったら、それが折れてびっくりしたと騒いでいる。またここは距離が長いのでなかなか疲れる。そして急坂を降りたところのコルは峠となっており、十字路になっていた。ここは「金沢峠」と呼ばれるところで、標識に従って「金沢」に向かって下山する事にした。

 峠から少し下ったところでなんとコンクリート舗装された林道に出てしまった。道幅は狭く、傾斜も急なので4WD軽トラックの世界かとも思う。なにしろ歩くだけでつま先が痛くなる程なので、後ろ向きに歩こうかなどとも考えたほどだ。この道は延々と続いているように感じた。ツリフネソウが多くなり、民家が見える頃になってやっと傾斜は緩やかになった。

 あとはのんびりと点在する民家の中の道を、子供と道いっぱいに広がって歩いた。なにしろ車は全く通行しないのだから。田圃の畦にはヒガンバナの赤い花が見事に咲き誇っている。大通りに出るとそこは「観音橋」と言われる橋があるところだった。その近くにコンビニがあり、そこの公衆電話でタクシーを呼んで吾妻公園駐車場に戻った。


 秋の日の山歩きはこんなのんびりとしたものが最高かなとおもった。



「記録」

 吾妻公園駐車場10:11--(.09)--10:20水道山--(.02)--10:22登山口--(.03)--10:25駐車場--(.03)--10:29登山口--(.22)--10:51トンビ岩10:56--(.20)--11:16吾妻山山頂11:46--(.23)--12:09休憩13:18--(.09)--13:27自然観察の森分岐--(.13)--13:40岡平--(.25)--14:05大形山14:23--(.11)--14:34金沢峠--(.24)--14:58金沢集落--(.18)--15:16観音橋15:30====15:43吾妻公園駐車場


群馬山岳移動通信 /1996/