雪の岩峰を辿る山歩き「小川山」   
                                        登山日2011年1月8日



小川山(おがわやま)標高2418m 長野県南佐久郡・山梨県北杜市






屋根岩のむこうに小川山




小川山はロッククライミングの場所として知られている。そんなわけで小川山は何となく山歩きをするところでは無いと考えてしまっていた。またあの廻り目平の駐車場の時間制限と料金体系の煩わしさはどうしても理解ができない。そこが遠のく原因の一番の理由だったのかもしれない。しかし、最近は佐久方面の山を登る機会が増えてきて、どうしても登ってみたいと思うようになった。そこで、2011年の最初に登る山として小川山を選ぶことにした。

1月8日(土)
巡り目平の駐車場に着いたのが午前6時半だった。駐車場のゲートは取り外されて、開閉機はブルーシートで覆われている。ここをくぐり抜けて、キャンプ場の駐車場に入ってみるが、閑散としており駐車してある車はなく、轍も見あたらない。金峰山荘に行ってみるが人の気配は感じられない。とりあえず雪の駐車場を一巡りしてからゲートに戻った。表示には午前7時から受け付け開始と書いてある。そこで、一旦ここを離れて支度を整えてから再度戻ることにした。適当な駐車余地に車を止めてカップラーメンの準備を始め、その間に身支度を整える。積雪はそれほどでもないが、カンジキと12本爪アイゼンをザックにくくりつけておいた。また、念のためにピッケルも持って行くことにした。車の外気温表示はマイナス16度と、とてつもなく寒いことがわかる。ここが標高1450m付近で雲がない状態だから単純に計算すると、小川山山頂は現在マイナス26度ということになる。着替えと防寒具はしっかりして行かなくてはならないと考えた。カップラーメンを食べ終わると時刻は7時半となった。



標高1450mでマイナス16℃

駐車場の案内板

金峰山荘を出発

小川山登山口(カモシカ登山道)



再び廻り目平の駐車場ゲートにやってきたが、何の変化もなく車も全く見あたらなかった。もう、こうなったらここに駐車して登るしかないとかく覚悟を決めて、エアリアマップを再び見直してみた。すると営業は4月中旬から11月下旬と書いてあるではないか。つまり今はオフシーズンでこの場所は出入り自由だったのだ。それなら、時間つぶしをしないで、もっと早く出発すれば良かったと後悔した。そんなわけで歩き始めたのは、午前8時となってしまい、自分としてはとてつもない遅い時間となってしまった。こうなると日没までの時間との競争となることは間違いない。

エアリアマップでは迷いやすいと書いてあったが、金峰山に向かう雪の積もった林道を歩いていくと、小川山の登山口はすぐに分かった。標識にはいろんな注意書きがあり、このコースが上級者向けと言う事らしい。林道から斜面を数メートル登るとすぐに広い道に出る。おそらくキャンプ場からの道と思われる。ここは、標識はないが左に折れて高度を上げていくことになる。所々に赤ペンキのマーキングもあり迷うこともなさそうだ。積雪は10センチほどでスパッツ無しでも何とかなる状態だ。それに先人のトレースがありこれだけでも安心感は大きなものとなった。道は樹林帯の中を進んでいく。展望はあまり望めないが、時折樹間から見える周囲の花崗岩の白い岩峰が美しい。いやそれよりも怖いといった感じがする。

標高1850m付近から岩場が多くなり、展望も良くなってきた。振り返ると国師ヶ岳と金峰山の稜線から朝日が昇り、それが雪を反射してまぶしく感じる。さらに登っていくと立派なアルミのハシゴが掛けられた岩場にさしかかった。そこには「ハシゴの使用は自己責任で」と書いてある。使用しての事故に神経質になっているようだ。それだけ今の時代はクレーマーが多いと言うことなのかもしれない。本来なら「ハシゴを使用しないで発生した事故は責任を持ちません」と書くべきなのかもしれない。ここを通過すると、屋根岩方面の展望が開け、気分的に気持ちがよい。なおも岩場が続きスリップに注意しながら慎重に登っていく。ひょうこう1940m付近で道が分岐し、これは「唐沢の滝」に行く道らしい。ここにも注意書きがあり、「・・・万一事故があっても責任は負いかねます 川上村」と書いてある。どうもこの山は、妙な違和感を強く感じるのは都会の山と言うことが原因なのかもしれない。



立派なハシゴが設置してある

使用は自己責任




分岐からわずかに登ると、ちょっとした岩場が待っていた。雪がなければなんと言うこともないのだろうが、ちょっと苦労することになった。雪を掻き落として岩に捕まってやっと登ったと思ったら、ストックがスルリと下に落ちてしまった。仕方ないそれを回収するためにもう一度戻って登り直す羽目になってしまった。ストックの紐が緩くなっていたことが原因なので、紐を短く修正しておいた。この岩場を過ぎると、かすれて消えかかった文字でかろうじて「展望台」と読める岩が立ちふさがった。たしかに展望に優れている岩峰が独立して空に向かって突き上げていた。これは登らねば後悔すると、登ってみることにした。ちょっとしたロッククライミングの気分で、比較的苦労もなく登ることができた。ここからの展望は確かに雄大で、目指す小川山は意外に優しい山容をしているが、振り返れば地獄の針の山のような屋根岩が無数の岩峰を見せている。眼下には唐沢の滝だろうかその水音がここまで聞こえている。いつまでも眺めていたいが、ここで休む気にはならない。まして、山頂までの時間を考えるとゆっくりしていられないのが事実だ。



唐沢の滝への分岐

ここにも自己責任の注意書き

展望台の文字がかすかに読み取れる


展望台から小川山方面



展望台から降りると道は岩の間をすり抜けて、再びハシゴが掛けられた岩場をもったいないほど下降することになった。その後は寒い日陰の斜面を登っていくことになる。期待していた2008mの標高点は気がつかないうちに通過してしまった。そろそろ歩き始めて2時間なので適当な日だまりで休むことにした。岩峰の基部にザックを置いて、ハイドレーションから水分補給しようとしたら、なんとチューブの中が凍結してしまっている。いくら吸い込んでも出てこない。仕方なくお腹のあたりにチューブを入れて溶かすことで何とか水分補給ができるようになった。あらためて地形図を見ると、小川山まではなんと多いことなのだろうか。行程の半分ほどではないか。どうやら山頂は正午を過ぎることは間違いなさそうだ。帰りのことを考えると遅くとも13時には山頂を去らないと日没前の帰着も怪しくなってくる。菓子パンとチョコレートで栄養補給して早々に山頂を目指すことにする。
高度を稼ぐこともなく岩峰とシャクナゲの藪を延々と乗り越えていく感じがする。ザックにくくりつけたカンジキとピッケルが薮の中ではかなりの負担となった。そこでピッケルだけは背中に刺しておくことにする。準備してきたカンジキ、アイゼン、ピッケルはこの積雪状態ではどうやら必要なさそうだ。この付近は日本海側と違って、積雪はこんなものなのだろう。それにしても標高2000mを越えると寒さは強烈で顔がヒリヒリしてくる。今日は幸いにも風が弱いから良いが、風によってはかなり危険な状況になることは間違いない。変化のない樹林帯をダラダラと歩いているのは疲れる。当初は正午に山頂を目論んでいたが、とてもそれはかなわないことを感じた。エアリアマップのコースタイムは積雪期ということを考えても、かなり健脚向けに記載してあると感じる。エアリアマップのコースタイムはその執筆者の考え方が表現されている。私としては健脚者を対象として記載するのは好ましくないと考える。



氷の結晶

樹林の間から金峰山




標高2250m付近からはひたすら登るだけだ。腕時計の高度計を睨めながらなかなか高度が上がらないことにいらだちさえ感じる。まして、積雪も徐々に増えてきた感じがする先人のトレースも消えかけている。それとともに寒さも一段と増してきて、手指の感覚が徐々に無くなってくるのがわかる。今日は安物の毛手袋を装着しているので、そのしっぺ返しがきていることは明らかだ。すでに手袋は何度も雪を取り除いたり、スリップしたときに手をついたことで、雪まみれになっているのだ。通常はこのようになっても毛手袋なら大丈夫なはずだが、この標高では効果がないのかもしれない。

疲れもかなり意識するようになったころ、目の前に標識が見えた。ここで道が分岐しており、下降するのは八丁平に向かうものだろう。標高は2400mでトレースは山頂に向かっている。あと20mほど登れば山頂だ。気合いを入れてその方向に向かった。樹林のなかの道を詰めていくと8畳くらいの広さの広場に出た。その端には山梨百名山の標柱が建っていた。周囲はシャクナゲの藪に囲まれて展望は全くない。苦労してここまで来たのだが、あまりにも素っ気ない山頂の様子にかなり落ち込んでしまった。これではこの山を目指すのはよほどの物好きといえるかもしれない。廻り目平から登るならば、やはり金峰山や瑞牆山に登るのが順当だろう。三角点があるはずなので周囲をストックで探すと、標柱の右脇に見つけることができた。あまりゆっくりしていられないので、素早くあんパンと大福餅を口の中に押し込んだ。それにしても、手指の感覚が無くなっていく。かなり危険な状態であることは確かだ。予備に持ってきた厳冬期用の革手袋に替えたが、一度冷えてしまった指先は元に戻らない。首に掛けておいたタオルは汗が凍り付いて板のようになっている。その胸元から手を脇の下に入れて温めるとなんとか、指先がジンジンと痛みが走ってくる感触が出てきた。すかさず革手袋に手を入れたが、再び指の感覚がおかしくなってきた。ともかく、ここで無駄に時間を過ごすことは危険だ。手袋をパンツのポケットに入れてストックは手首に掛けて引きずるようにして下山を急ぐことにした。山頂滞在は15分ほどで、カメラのシャッターを押すのも困難で数枚の撮影をするのがやっとだった。



樹林帯を登る

八丁平への分岐

小川山山頂(掘り出した三角点は右にある)

小川山山頂から瑞牆山、茅が岳、南アルプス方面



ポケットに手を入れっぱなしにしたものだから、雪道で何度もスリップして尻餅をついてしまった。標高2200m付近まで来ると、なんとか指先も感覚を取り戻し我に返ることができた。

ともかく、久しぶりに寒い山を歩いた。それに厳冬期の2000mを越える山は安易には登ってはいけないと痛感した。

駐車場に戻ると、相変わらず車は私のものだけでひっそりとしていた。もちろん今日は誰にも会わない山行となった。帰りは相変わらず「灯明の湯」に寄って湯船を独り占めして、暖かさを味わった。



廻り目平駐車場07:56--(.08)--8:04登山道入り口--(1.22)--09:26唐沢の滝分岐--(.08)--09:34展望台09:38--(.47)--10:05休憩10:25--(.56)--12:21八丁平分岐--(.07)--12:28小川山山頂12:45--(1.46)--14:31唐沢の滝分岐--(.54)--廻り目平駐車場15:25



群馬山岳移動通信/2011



この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)
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