道があるから迷う?武尊山周辺「牛首山」「西山」  登山日2005年5月15日


田代湿原から見る西山


牛首山(うしくびやま)標高1638m 群馬県利根郡/西山(にしやま)標高1898m 群馬県利根郡

約半月前の4月29日に「堂平山」に登ったときに、西山方面を見た。豊富な残雪が輝いて、登りやすそうな感触を受けた。今年の残雪は近年になく豊富で、薮山を少しでも潰しておく絶好の機会だ。そこで、上州武尊山の周辺で登り残している「牛首山」も含めて登ることにした。

 5月15日(日)
 武尊牧場スキー場の駐車場は雨が降り続いていた。当初の予定では東俣駐車場から登る予定だった。しかし、通じる林道が途中から残雪のために通行不能で、急遽スキー場から登るように変更したのだ。スキー場から登るとなると、計画していたルートも変更せざるを得ない。当初は田代湿原をベースに「牛首山」と「西山」ピストンでそれぞれ往復することを考えていた。しかしこの状況なので、周回コースに近いルートを考えることにした。
ゲレンデを登るゲレンデから見る上州武尊山

 駐車場は山菜採りの人が数人来たが、すぐに準備を整えて雨の中を出かけていった。こちらは、雨具を付けて準備をしていると、次第に雨が上がりついに雨具が必要なくなった。ロングスパッツのみ取り付けて、スキー場の斜面を歩き出した。スキー場は舗装された道があるが、これを歩くと時間がかかるので、ゲレンデを直登することにする。こうすることで、かなりの時間短縮になるが、疲れは倍増する事になる。それが証拠に、いきなり汗が吹き出して、見る間に着ているシャツがびしょ濡れになった。しかし、振り返ると高度とともに、足元に広がる緑の牧草地の面積が広がって行くのが疲れを癒してくれる。それに上州武尊山の大きい姿が見事で、残雪の雪形が美しい。

 ゲレンデの最上部は「三合平」と呼ばれている場所だ。ここからしばらくは舗装された遊歩道が続き、それが終わると上州武尊山に向かってなだらかなブナ林が続く。ブナ林に踏み込んだ途端に、残雪のためにルートが不明瞭になった。夏道はすっかり消えて、幹に書かれた赤ペンキのマークと、赤テープが頼りになった。しかし、それも途切れがちでなかなか見つからない。

 しかし、これほどの残雪がありながら、夏道にこだわるのか疑問になった。目的地(目標)さえしっかりしていれば、こだわる必要はないはずだ。そうなると夏道を探して目指している「武尊避難小屋」もこだわる必要はなく、直接「牛首山」を目指しても良いわけだ。しかし、夏道をトレースすることにこだわるのは、安全と言うイメージからなのだろう。もしも何かあったときは、発見される確率が高いからだ。もっとも薮山を歩いているものは関係ないのかも知れない。しかし、そのリスクは明らかに少なくなるのだろう。
田代湿原分岐(ここからはアプローチしなかった)武尊避難小屋

 ともかく、夏道をトレースしながら変化のないブナ林を歩き続けることにした。それにしても、残雪の上にトレースが全く見られないのは、それだけここから上州武尊山に向かう人が少ないとも言える。田代湿原に直接向かう分岐に到着した。田代湿原から牛首山に登ることを考えたが、この先の「武尊避難小屋」まで歩き、尾根伝いに牛首山まで歩いた方が良さそうだ。

 「武尊避難小屋」は赤い屋根の下まで雪に埋もれていた。入り口の上部のガラスの明かり取りは割られて開放状態になっていた。引き戸の扉は開けられる状態だったが、内部を伺う勇気はなかった。地形図を見ると、ここから北の尾根に沿って進めば牛首山に到達できる訳である。尾根自体は扁平で明瞭ではなかったが、それほど難しい感じはしない。

 尾根に踏み出すと相変わらずの残雪の豊富さで、薮の心配はなさそうだ。コメツガの樹林を過ぎると、明るいダケカンバの疎林へと変化した。ほとんど平坦に近い斜面を下るだけで、鼻歌気分である。しかし、不思議なのは牛首山に向かっているのに、ピークの存在がまったく見られないことだ。GPSを取り出して確認すると、どうやら方向がズレているのがわかった。1650m付近で北西にルートを変更して、なんとか進路を修正することが出来た。
牛首山に通じる尾根何にもない牛首山山頂

 牛首山山頂は、まったくさえない場所だった。平坦な斜面の一角で、目標となるものは全く見られなかった。GPSがなければ、山頂と判断することは不可能に近いと思われる。三角点があるのだが、笹藪を考えるとそれも不可能だろう。むしろ北西に位置する1620mの等高線ピークの方が山頂らしい感じを受ける。

 牛首山からは田代湿原を目指すことにする。樹林帯でのGPSの精度を考えて、コンパスで位置をセットして、直線的に目指すことにする。ちょっと笹藪があらわれて嫌らしいと思ったが、ほとんど残雪の上を歩く事になった。小さな沢を踏み抜きを恐れながら2回ほど渡ったが、3回目の沢はちょっと切れ込みが深かった。そこで一旦沢の上部に遡上してから再び田代湿原を目指した。どうやら牛首山からは、1600mの等高線に沿って歩くのが望ましいように思える。

 ほどなく、真っ白な雪原に飛び出した。ここが田代湿原で、迷わずにここに辿り着いたことで安心した。湿原はすっかり雪に隠れて、遊歩道はもちろん踏み跡さえも見られない。雪原の向こうには、これから登らなくてはならない西山が見えていた。目測で2時間程度と判断した。さらに見渡すと、雪原の一角に人工物があるので近づいてみた。それは案内板で、近くには木製のベンチが雪に埋もれていた。

 さて、ここからはいよいよ核心部の西山に向かって歩く事にする。なだらかな雪原を下降気味にゆっくりと歩く。静かな時間が過ぎて、無心でただ歩き続ける。振り返ると自分の歩いてきたトレースが疎林の雪原に残っていた。湿原から15分程度で、いよいよ登り返しにかかる。思ったほどの傾斜はなく、むしろ歩くのが心地よい感じさえ受ける。しかし、展望が無いのがちょっと不満だ。それから、天候が悪化しているのがちょっと気になる。尾瀬の至仏山あたりから黒い雲が急速に押し寄せて来ているのがわかる。

 標高1700m付近で風が強くなり、半袖では辛くなった。そこで長袖のカッターシャツと雨具のジャケットを着込んだ。それに軍手では危険なので、毛糸の手袋に切り替えた。この切り替えでもまだ寒いと感じたので、タイミングを失わなかったことで、危険は回避できた。標高1750m付近で笹藪となり、これは困ったと感じた。しかし、実際は10m程度の薮漕ぎをすると、薮はそこで終わって目の前には真っ白な雪原があらわれた。薮漕ぎをしないで済む嬉しさで、歩みが早まった。
田代湿原西山への登り

西山山頂稜線から見る上州武尊山
西山山頂

 ここから山頂稜線までは雪庇の上を歩く快適な登りとなった。尾瀬岩鞍のゲレンデが近くまで延びてきている。おそらく、あのゲレンデを登ればかなり時間短縮が出来たろう。しかし、田代湿原から登る自分の様な物好きもいることは確かだ。ここから見る上州武尊山は山頂部分が雲に隠れて、ちょっと機嫌が悪そうにも思える。

 山頂稜線から山頂までは左側がコメツガの樹林帯で、右側はスパッと切れ落ちているので緊張した。また意外にアップダウンがあり思うように距離が進まない。そして高みを目指して歩くと、ついに念願の西山の山頂に飛び出した。コメツガの幹にはGさんの標識があり、ビスがゆるいのか風に揺れていた。山頂からの展望は尾瀬方面がひらけていたが、雲がかかり全てを見ることは出来なかった。ただ雪解けの進んだ戸倉スキー場のゲレンデが、半月前とは違って見えた。

 山頂では、寒さのために用意してきたビールを呑む気力もなく。スポーツドリンクとパンをかじった。そのうちにパラパラと音を立てて、あたりが騒々しくなり、頭の上にも何かが当たる。みれば細かいアラレが一面に降り始めていた。呆気にとられていると、今度はミゾレ混じりの雨に変わった。慌てて荷物をまとめて下山に取りかかった。

 雨に追われる様に田代湿原まで、逃げ帰るように急いだ。



江戸沢の上部支流を渡渉すると林道までわずか
 田代湿原に到着すると、すっかり気温が低下して指先が凍える程度になっていた。さて、ここからどこを通って帰ろうか?花咲湿原経由で帰るのが順当だろうが、地形図にはその記載がないし、登山道の記載さえもない。ともかく林道の記載のある場所にコンパスをセットして、湿原の対岸に歩いた。すると、何とそこには埋もれた標識があり、ハイキングコース花咲湿原の文字があった。しかし、ルートは雪に埋もれて全く確認できない。ともかく、標識の方角に従って一旦東に向かった。ところが、この道は沢に向かっている。あまりいい感じではないので、下りながら沢の右側を歩いた。そして対岸を見ると、なんと木道がわずかに見える。これでここが花咲湿原だと確信し、沢に向かって下降した。今度は沢の左側をどんどん沢に沿って下降した。やがて明らかに登山道と思われる露土の道に出会った。

 やがて大きな沢を渡渉して土手を上り上げると、そこには林道が待ち受けていた。そこには立派な案内板もあり、ほっと一息ついた。もう快適な林道を沢の流れとともに、鼻歌を口ずさみながら歩いていった。途中の残雪上には、まだ新しい靴跡も残っていた事ですっかり安心しきっていた。高度が下がるとともに雨に濡れた新緑の色彩が深くなり、景色を眺めながら歩いた。

 やがて林道の分岐にさしかかった。沢の対岸にはスキー場のゲレンデと、立派な建物が見えている。やっと武尊牧場スキー場に到着したと、迷わずに分岐を左に辿りそのゲレンデに向かった。
林道から見る尾瀬岩鞍スキーリゾート東俣駐車場

 分岐から下降して大きな沢にかかった橋を渡り、20分ほどかけてゲレンデに到着した。そしてそこにある案内板と標識を見て愕然とした。そこには「尾瀬岩鞍スキーリゾート」と書かれてあった。頭の中はすっかり混乱してしまった。あらためて地形図を見ると、なんと方向感覚をすっかりと失い、ゲレンデを登り西山に再び登ろうとしていたのだ。先ほど渡った沢は「江戸沢」だったのだ。パニックに陥りながら、必死で現在の状況と武尊牧場の方角を整理した。「ともかく分岐まで戻ろう」

 分岐まで戻り、あらためて地形図を眺めるが、混乱した頭ではどうにも理解できない。地形図の林道の表記がどうしても理解できないのだ。ともかく沢の流れに沿って、右側の林道を下ることにした。林道はやがて舗装された林道に辿り着いた。おそらくこれが東俣沢の林道だろうと思った。このまま下れば、おそらく武尊牧場駐車場に近い場所に行けるに違いない。しかし、どうしても「東俣駐車場」を確認して置きたかった。それは混乱した頭を整理するために必要だった。林道を下ったが、それらしきものはあらわれない。そこで今度は林道を登ることにした。先ほどの分岐を過ぎて15分ほど歩くと待望の「東俣駐車場」に着いた。当然の事ながら、広い駐車場は閑散として、まったく人影は見られない。ともかくこれでなんとか頭の中が整理できたような気がした。

 冷たい雨がとめどなく降る中を、武尊牧場キャンプ場に向けて広い道を登った。そしてキャンプ場のバンガローの軒下で腰を下ろして、今日の山行を振りかえった。そしてゲレンデを下り、駐車場に着いたときになってやっと雨があがった。


 地形図の表記にある登山道、林道にどうしてもこだわってしまったことが敗因なのかも知れない。地形図の表記に無いものは以下の通り。

1.花咲湿原の表記無し。
2.田代湿原から花咲湿原を経由して林道に出る道の記載がない。
3.上記の先から東俣駐車場への登山道の記載がない。
4.東俣駐車場の記載がない。
5.東俣駐車場から武尊牧場キャンプ場へ通じる道の記載がない。
6.尾瀬岩鞍に通じる林道の表記がない。



「記録」
07:35駐車場--(.45)--08:20三合平--(.47)--09:07田代湿原分岐--(.27)--09:34武尊避難小屋--(.38)--10:12牛首山10:20--(.32)--10:52田代湿原--(1.28)--12:20西山12:40--(.40)--13:20田代湿原--(.51)--14:11林道--(.15)--14:26林道分岐--(.17)--14:43尾瀬岩鞍スキーリゾート--(.22)--15:05林道分岐--(.17)--15:22舗装林道分岐--(.17)--15:39東俣駐車場--(.21)--16:00武尊キャンプ場16:12--(.33)--16:45駐車場


   群馬山岳移動通信/2005


 

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)