いきなり迷った「鳴神山」   登山日1994年2月19日


鳴神山(なるかみやま)標高980m 群馬県桐生市
鳴神山山頂
 東毛の山は、どうも交通の便の関係から足が遠のいてしまう。なにしろ高崎、前橋、桐生の市街地のラッシュを考えると、うんざりしてしまうのだ。しかし、今回はその桐生の鳴神山に行ってきた。


 2月19日(土)

 鳴神山については梅田地区の木品から登るのが一般的であるが、今回はその反対側の川内地区から登る事にした。大間々から桐生に入り登山口のある、川内地区駒形を目指す。道路は舗装されていて快適だ。道幅が狭くなり民家が途切れたところで道が分岐する。ここに鳴神山のハイキングコースの大きな看板が置いてある。道は真っ直ぐ小橋を渡って、コンクリート舗装の道を進む。舗装が終わりダートの道を少し行くと大きな広場の様な所に着く。車はここに駐車する事にした。これだけの広さがあれば、かなりの数の駐車が可能であり、道の途中にも駐車スペースがあったから、車で来た場合でも心配は要らない。

 車を降りて歩き出す。ここには立派な「鳴神山・吾妻山方面」の標識がある。しかしガイドブックによると、(登山道入り口の広場で左に分かれているのは、赤柴コースである)と書いてあるので、この標識を無視して右に続いている林道を行く事にした。林道は沢の右岸沿いにあり、雪が道を覆っていて先行者の足跡が残っている。空は快晴で真っ青だ、一点の雲も見あたらない、それに風も吹いていない、今日は快適な山行になりそうだ。

 しかし、どうも様子が変だ。林道を歩いているのはいいのだが、登山道としての雰囲気がない。登山口にあった「鳴神山」の標識が気になる。道が間違っていると直感した。この前は、高戸谷山で猪の足跡のだまされたが、今回は人間の足跡とガイドブックの記述にだまされたようだ。そうと決まれば決断した事は急いで実行だ、小走りに来た道を戻った。登山口に戻った時には既に額に汗が滲んでいた。

 あらためて登山の開始だ。登山口には「熊出没注意」の立て札があるので、どうも気持ちが悪い。良くみると確かに熊が出そうな雰囲気がある。道は沢の右岸を歩く、杉の植林の中の道だ。ときどき「川内北小6年」作の黄色い看板があり目立つ。暫くは平凡で単調な登山道を歩く。今日は天候が良く、暖かいので、沢のせせらぎの音も実に心地よく聞こえる。

 15分程度歩いたところで、道は沢の中にはいる。このルートは降雨の時は苦戦させられそうだ。今日は沢の中には雪が積もっているので、慎重に沢の水の中に足をとられぬ様にルートを選びながら歩いた。ここの所、西上州の山を中心に歩いていた為か、石灰岩質の無い沢は妙に違和感がある。それにここは初夏には藤の花が咲くのだろうか、藤の実の鞘がおびただしい程、落ちていた。道は再び右岸の植林の中の道にはいる。

 やがて植林された杉の林を抜けると、露岩に挟まれた間を通るところがある。ここには山頂まで30分の標識があり、そして水場になっているらしくその標識に書き込みがあった。しかし今の季節には水場の痕跡さえ見つける事は出来ない。ここのあたりから積雪が多くなってきた。約30cm程度だ。スパッツを装着しようかと迷ったが、このまま歩く事にした。ストレッチパンツはかなり長めにしてあるので、ある程度の雪の進入は防ぐ事が出来るからだ。積雪が多くなったのと、傾斜が急になってきたのでかなり歩行は苦しくなってきた。キックステップで登る事になったが、かなり疲れる。つくづく登山口で迷った事が疲労の原因だと思うと、悔やまれた。

 稜線に着くと梅田地区側からの道と合流した。梅田側はある程度南側の面しているためか雪の量は少ないように見受けられた。ここには立派な建物があり、宿泊も出来そうだ。何の目的のためにあるのか、周りを見たが解らなかった。これから上部は鳥居が2つありどちらも道が付いている。双耳峰である鳴神山の桐生岳と仁田山岳に分かれて続くいるものだろうか?とりあえず右の道の方に、雪上にトレースがあったのでそちらに向かう。

 山頂に着いた途端にその360度の展望に目を奪われた。たかだか標高979.7mの山でこの大展望は素晴らしい。特に今日は最高の天気で遠くまで見渡せる事が出来た。山頂にはそれぞれの山の方向を示す案内板がとりつけられており、それを見ながら山座同定をした。山頂には既に一人の登山者がいて暫く話し込んでしまった。その中で気になったのは梅田地区から登って来たのだが、熊の足跡があったと手で大きさを示して話した。それは恐いと、二人でもし熊に遭遇したらどうしようと対策を練ったが、結局どうしようもないと言う事で結論に達した。

 その登山者と分かれて双耳峰のもう一つのピークである、仁田山岳に向かった。ここは木々に覆われて展望はきかない。昔神社があったと言う名残で石垣が残っていた。ここで食事と無線をする事にした。

 帰りは登ってきたルートをそのまま下山したが、熊が恐いので持参しているホイッスルを口にくわえて、音を出しながらびくびくしながら歩いた。

 登山口の所まで来るとこの地区の担当の駐在さんの警らの途中に出くわした。初老のその駐在さんは話し好きなのかいろいろと話しをした。熊の事が話題になったが、今年はまだ出没した形跡は無いと言う事だった。熊よけには爆竹がいちばんと言っていたが、まさか持ち歩く訳にもいかない。できれば腰に提げている短銃がいいな、と言いたかったが止めておいた。

「記録」

登山口10:45--(.13)--10:58引き返す--(.04)--11:02登山口--(.32)--11:34水場--(.28)--12:02稜線(鳥居)--(.07)--12:10山頂13:32--(.30)--14:02登山口


                         群馬山岳移動通信 /1994/