雪の頂上台地を歩く「上州三峰山」
登山日1997年12月6日


三峰山(みつみねやま)標高1123m 群馬県利根郡
三峰山山頂
 関越自動車道を沼田ICを過ぎて、月夜野IC付近にさしかかると、右の方向に特徴ある三角形の尖った山と、台形の山が見えてくる。尖った方は「戸神山」、台形の山は「三峰山」である。三峰山と言う名前は各地にあるので、区別するために「上州三峰山」と呼ばれる事もある。この三峰山には「追母峰」「吹返峰」「後閑峰」の三つの峰があると言うが、実際はどれがそれにあたるのか判らない。

 12月6日(土)

 関越道沼田ICで降りて、関越道の側道を玉原高原の方向に向かう。玉原高原への道を右折せずに、なおも側道をそのまま進む。やがて「河内神社、三峰山登山道」の小さな標識が左の路肩に見える。標識から100mほど進んで、交差点を右折、関越道の下をくぐり、集落を通過して林道に入る。林道は舗装されていないものの、道幅も広く走行しやすい。ただ数日前に降った雪が一面に残っており、ノーマルタイヤでは不安があったが、そこは4WDの威力はさすがで、こんな場合でも問題なく林道を走ることが出来た。

 やがて大きな駐車場に到着、車はここに駐車する事にした。車道はなおも続いているが、入り口に鎖があるので、無理に入り込んでトラブルでも起こしてもつまらない。駐車場にはトイレと水道が完備されていて、登山口としては申し分ない。

 駐車場からはコンクリート舗装の車道を歩く。やがて、広い場所が現れ「車の転回場所につき駐車禁止」の看板があり、その先に社が2棟建っていた。ここが車道終点で、これからいよいよ登山道の始まりとなる。社の裏には荷物運搬用のモノレールが設置してあった。(これはパラグライダーの荷物運搬用だと後でわかった)

 幅の広い登山道は河内神社の参道で、道の脇には「金五百円」などと書かれた石柱が所々に立っていた。その登山道はやがて石段に突き当たり、登りあげて鳥居をくぐるとそこが河内神社の境内だった。神社は実に立派な建物で、こんな山の中にあることが不思議なくらいだ。境内は雪が一面に残っており、社の屋根からは雪解けの水が音を立てている。そしてここからの展望は素晴らしく、日光白根山、赤城山魂、そして間近に見える子持山が実に立派だ。そして雪で縁取りされた沼田盆地は、眼下にもやに包まれて見えていた。しばらくはその光景に見とれて時間を過ごした。

 神社から少し歩くと、パラグライダーの離陸場があり、ここは立木が伐採されて神社の境内よりもさらに子持山の見晴らしが良い。さていよいよ三峰山山頂に向けて登山道を歩き始める。とは言っても、三峰山の山頂部分はほぼ水平なので、平地の散歩道を歩く感じだ。離陸場から100mほど進むと「FM−OZE(尾瀬)」の送信アンテナが工事中で、機材が残置されていた。これからはこの周囲での、情報収集はこの地域密着型の放送局が重要になるかも知れない。

 登山道の積雪は10センチほどだろうか、スパッツをつけた方が歩きやすい。ピッケルは手に持ってみたが、道が平坦なので必要はなさそうだ。 神社から20分ほど歩いた所で分岐の標識に出会った。標識には「三峰沼0.3KM、月夜野師3.5KM・三峰山頂3.75KM、石神峠5.3KM、佐山町8KM」と書いてあった。三峰沼への踏み跡は雪の上に残されていなかった。

 分岐から10分ほど歩くと、再び分岐の標識があり「三峰沼0.8KM」と書いてあった。どうやらここからでは沼までは遠くなったようだ。道の周囲は赤松が中心の林で、いつも歩いている雑木林とは様子が違うので、なにか感覚が鈍くなるようだ。先ほどの分岐からさらに10分ほど歩いたところで、再び「後閑林道1.9KM」と書いてある標識に出会った。後閑林道とは、どうやら三峰山の北を走っている林道のようである。おそらく良く探せば、この山は林道が山頂近くまで来ているのではないかと思われる。

 ふと獣の気配がするので前方を見ると、ニホンシカが2頭10mほど先を横切って林の中に消えて行った。よく見ると雪の上は様々な動物の足跡が残されている。やはり多いのはシカ、イノシシ、ウサギが中心で、ときおりネズミのような足跡も見られる。登山道は人の足跡が逆方向から来たものが残されている。靴型は登山靴とは違うようで、周りをイヌが歩いているところを見ると、狩猟のために山に入った人のものと思われた。その足跡は「三峰山2.2km」の標識の先で、右の斜面から登ってきたらしくその跡がしっかり残されていた。ここから先は、登山道に残されているのは獣の足跡だけで、それを観察しながら雪上歩行を楽しんだ。

 単調な歩行は、展望が無いだけに気分が滅入ってくる。「後閑林道1.6KM」の分岐を過ぎると道は右に曲がり再び左に向かって下る。何だ、これなら初めから直進してくれれば良いのにと思ったが、道はどうやら稜線を忠実に辿っているらしかった。

 「後閑林道2.5KM・三峰山頂1.4KM」の標識が現れると、道は右に大きく曲がり付近には大きな松の木が数本、その枝が頭上を覆っていた。この分岐の左側からは一本のトレースが交わり登山道を進んでいた。その時は、こちらからも登り口があるのかと、気にも留めなかった。そしてこのトレースを辿って三峰山に向かって歩いた。ところがどうもこのトレースは様子がおかしい。大きさは人間の足程度であるが、時折登山道を離れる。倒木の下も回り道せずに、そのまま隙間をくぐって進んでいる。(なにか嫌な予感!)ひざまずいて、よく観察するとそれは間違いなく「熊」のものだった。まだ肉球と爪跡がはっきりわかるので、熊が歩いてからまだそれほど時間は経っていないと思われる。

 今年はこれで熊の足跡は2回目、以前のようにあまりパニックには陥らなかったが、それでも気分が良いものではない。鈴を取り出し手に持ち、無線機はボリュームを最大にしてQSOをモニターした。熊の足跡は登山道から大きく離れることなく、ほぼ忠実に登山道を歩いている。熊としても藪を歩くよりも、歩きやすいに違いない。

 それにしても、この三峰山は三角点が河内神社から一番遠い、台地の最北端に位置する。もしも、河内神社の直ぐそばにあれば、こんな苦労もしないのにと思う。熊の足跡を辿って、小さいピークをいくつか越えて行くと、立木に赤テープが巻き付けてあった。それにはあと20分とか、5分とか書いてある。それから判断して、目の前のピークがおそらく山頂だと感じた。一旦コルに降りて最後の登りにかかる時になって、熊の足跡は山頂には向かわず右の斜面を降りていった。これでやっと熊から解放されたと思うと、気分が楽になった。熊の足跡を発見してから、約30分間それに付き合って来ただけに、離れると寂しい気持ちになるから不思議なものだ。

 山頂は標識がいくつもあり、その中ほどに雪に埋もれた三角点が隠れていた。そしてその上にはなんとモグラが凍死していた。展望は木々に阻まれてあまり望めない。それでも雪を被った上州武尊山、谷川岳が間近に見えていた。設置されたベンチに荷物を置いて、立ったままで簡単な食事を済ませた。無線の方は430MHZで2局、50MHZで1局とQSOしただけだった。

 山頂には約50分ほど滞在してから下山にかかった。

 帰りは河内神社の日溜まりのベンチで、暖かいラーメンを作って食べた。子持山をバックに、ゆっくりと漂う原色のパラグライダーを眺め今日の山行を振り返った。


「記録」

 駐車場09:00--(.08)--09:08林道終点--(.07)--09:15河内神社09:25--(1.38)--11:03三峰山山頂11:56--(1.15)--13:11河内神社13:38--(.10)--13:48駐車場


              群馬山岳移動通信 /1997/