長い車道歩きが待っていた
          中禅寺湖からの「三俣山」 登山日2004年7月18日


黒檜岳(くろびだけ)標高1976m 栃木県上都賀郡・栃木県日光市/シゲト山(しげとやま)標高1835m 栃木県上都賀郡・栃木県日光市/三俣山(みつまたやま)標高1980m標高1976m 群馬県利根郡・栃木県上都賀郡・栃木県日光市

三俣山途中で足尾の山を見る



三俣山は群馬栃木県境にまたがる奥日光の秘峰である。ここに到達するにはかなりの経験と体力が必要になってくる。かつて松木沢経由で大平山そして黒檜岳まで歩いたときに、三俣山はどうしても気になる存在だった。ホームページを見ると山部薮人」さん「烏が森の住人」さんの記録が目にとまった。どうやら中禅寺湖の千手ヶ浜からならば日帰りが可能らしいとわかった。「烏が森の住人」さんの記録を印刷して出発した。

7月18日(日)
 5時30分、赤沼茶屋駐車場を始発とする低公害バスに乗り込んだ。乗客は15人ほどで座席に空席が出来るほどガラガラ状態だった。弓張峠に差し掛かる頃より雨が降り出し、これからの事を考えると不安になってきた。予報では北関東は晴れで雨の心配は無いとのことだったが、山の天気はわからないと思った。バスは30分で定刻通り千手ヶ浜バス停に到着した。バスを降りたが、雨脚は強まるばかりで、時折横殴りに吹き付けてきた。バスを降りた7人ほどは行き場を失って、バス停の東屋で停滞してしまった。10分ほど待ったが雨は止みそうにない。仕方なく雨具を身につけて出発することにした。
黒檜岳登山口
 湖畔に出ると男体山が大きく見えて、その上空は雲が途切れて見えている。どうやらこの雨は長続きしないと感じた。湖畔の道を歩き千手観音堂跡のあたりまで来ると、雨が止んでしまった。これは雨具を汚しただけの意地の悪い雨だったようだ。雨具を脱ぐと、半袖の上半身は寒さを感じて鳥肌が立つようだった。千手観音堂跡でこれからの無事を祈って手を合わせた。

 千手観音堂跡から2分ほど歩くと黒桧岳へ導く標識が現れた。標識の先には踏み跡のしっかりした登山道が山に向かって延びていた。小さな沢に沿って登って行くと、やがてその小沢を越えることになる。道は展望のない樹林帯をひたすら登るだけだ。雨は止んだとはいえ、上空は曇っており展望は利かない。またこの時期は目立った花が無いためなのか、植生が貧しいのか足下も寂しいものだった。

 やがて枝尾根に突き当たった。ここには標識があり、黒桧岳の方向を示していた。ちょっと一休みをしてから標識にしたがって、左の方向に進む。相変わらす展望はなく、傾斜の強い尾根に沿ってつけられた道をひたすら登るだけだ。振り返っても樹林帯のために眼下にあるはずの中禅寺湖、目の前にある黒檜岳の全容を見ることは出来なかった。傾斜のきつい尾根はなかなか終わらず、うんざりする頃になってようやく主尾根に突き当たった。1802m標高点付近でザックを下ろして、パンをひとかじりした。立ち止まると寒いので長袖シャツを着込んだ。
社山への分岐点
 1802m標高点からは傾斜も緩くなり、歩行がだいぶ楽になってきた。地形図に表記されていないこの道はしっかりしており第一級の登山道だ。しかし、松木沢から大平山経由で黒檜岳に辿り着いたときは道に迷ったが、今回の中禅寺湖から来る道はまったく問題がない。アップダウンが少なくなり、やがて社山との分岐点にさしかかった。ここには分岐を示す標識と黒檜岳の山頂標識がいっぱいだ。しかし、ここを黒檜岳とするのは現時点ではどうも賛成できない。地形図を見ると厳密には1976mの標高点からもズレているし、黒檜岳の表示のあるピークはさらに西に400mほどのところになる。三角点あるいは標高点が山頂と言う思いこみが、そうさせているのだろう。

 分岐点からさらに西に向かって稜線を歩くと達筆標識が一枚ひっそりと立木に打ち付けられていた。ここが地形図の黒檜岳と記載されているピークである。このピークの先には雨量観測のための施設がある。ここは目指すシゲト山付近、そして今日は雲がかかった錫ヶ岳方面が見える。腰を下ろしてスポーツ飲料を飲むと、疲れが一気に抜けるようだった。

 わずかな休憩後、この雨量観測所を発ってシゲト山に向かう事にする。そのまま進もうとしたが、シャクナゲの薮に阻まれたために、一旦戻ってから踏み跡をたどった。樹林の中の踏み跡はしっかりとしており、迷うことは無さそうだ。それに稜線も狭いから外すことも無さそうだ。そんなわけで用意してきたGPSも地形図もコンパスもすっかり確認するのを怠ってしまった。

 どうもこの辺は熊の出現が多いと言うことで、ザックとストックに鈴を取り付けた。それにザックの雨蓋にはラジオを入れて、スイッチを付けっぱなしにして置いた。そのためにかなり騒々しい登山者となってしまった。まあ、熊に出会うことがないようにするためには仕方ないだろう。稜線の道は時折樹林が途切れて、明るいミヤコザサの開けた場所に出ることがある。こんな時はなにか砂漠のオアシスに辿り着いたときのような安堵感に包まれる。しかし、この稜線はおおむね深い樹林に覆われ、薄暗い中を歩くようだった。
黒檜岳山頂雨量観測局のアンテナ

 1919mピークの手前は稜線が広がって、ちょっとわかりにくい。大きく左に曲がるところには、立木にビニルテープがぐるぐる巻きになっていた。しかし、わかりにくいので巻紙のマーキングを施して置いた。ここからわずかな距離で展望のない1919mピークに到着した。立ち止まる必要もないので、石杭の写真を撮してそのまま先に進んだ。

 やはり樹林帯の急斜面をどんどん下降した。はじめは見られた赤テープがだんだん見えなくなってきた。「おかしいな!」そう思いながらもさらに下った。15分近く下ってから立ち止まって地形図とGPSで確認する。どうやらピークから南に向かうところを、西に向かって下降してしまっている。このまま進んでもシゲト山に向かうことが出来そうだが、安全を考えて1919mピークまで戻ることにした。

 なんとなく戻るのも悔しいので、1919mピークから南に下降したところの鞍部に向かった。そうすれば少しは時間が取り戻せると思ったからだ。苦しい登りに耐えながら高度を稼いでから南にトラバースして、ミヤコザサで覆われた鞍部に辿り着いた。ここからは再び稜線歩きとなり、踏み跡がしっかりと残っていた。鞍部から少しばかり歩いたところで、あっ!と息を呑む景色に見とれてしまった。それは突然展望が開けて、松木沢渓谷を挟んで足尾の荒々しい山々が現れたからだ。中倉山から庚申山に続く稜線とその荒涼とした山容が悲しくも美しい。しばらくはその景色を眺めながら歩くのがゆっくりとなった。平坦な道となりひとしきり歩くと、シゲト山の標識が突然現れた。山頂らしくない、ただの登山道の通過点と言った方が良いかもしれない。
シゲト山の山部さんの標識裏
 展望は南方面が開け、足尾の山がわずかに見えているが、ほかは全く展望は得られなかった。山頂標識は4種類ほどあったが、やはり山部薮人さんの標識が立派でとても目立っていた。スポーツドリンクとパンをひとつ腹に放り込んで一息つくことが出来た。

 山頂からは踏み跡に従って一旦鞍部に降りてから、少し登ってから再び尾根を辿って下降していく。道はしっかりしているので歩きやすい。しかし変だぞ?下降する一方で高度がどんどん下がっていく。立ち止まってGPSで位置を確認すると、なんと松木沢の支流の三沢に向かっていた。これは参った!!再びシゲト山に戻ることにした。地形図を見ながら戻ると、シゲト山からの鞍部に出た。ここが屈曲点で、本来は北に向かうべきところを反対の南に向かっていたのだ。いいかげんな山歩きがここで露呈した格好になってしまった。

 本日のロスは、「出発の時の雨で15分」「1919mで34分」「シゲト山で17分」合計で66分となってしまった。烏が森の住人さんの記録を取りだしてみると、この地点では10時でなくてはならない。ところが現在時刻は10時37分。これで三俣山まで行った場合は、千手ヶ浜の最終バスに乗れなくなるのが決定的となった。しかし、このシゲト山で敗退するのもシャクである。もうこうなったら、三俣山までどうやっても行ってやろう。車道歩きもいいじゃないかと気楽に考えた。しかし、そうは言っても時間があまり無い、日没までにはなんとか帰らなくては(^^;)

 シゲト山の西の鞍部から北に向かって平坦な道を歩く。やがて道はゆっくりと西にカーブするするようになる。ここから見る三俣山は標高差もあり、立派な山容に見える。足元は笹の原で、ダケカンバが彩りを添えている様は、なかなか爽やかな感じがしていい。眼を転じると松木沢を挟んだ足尾の山が、素晴らしい展望を見せている。
1928m手前でシゲト山を見る1928m手前で三俣山を見る

 1928m標高点は大きなコメツガにあり、そこにはペンキのスプレー缶が打ち付けられていた。このからは3本の大きな尾根が延びている。こんどは間違う訳にはいかないので、慎重に地形図とコンパスで確認して西の尾根に入った。踏み跡は比較的しっかりしており、赤テープが煩わしいほどだ。しかし霧にでも巻かれたら、尾根が広いものだからちょっと迷うことがあるかも知れない。変化のないコメツガの樹林を何にも考えずにただ歩くだけである。
1928m山頂
 等高線で囲まれた1970mのピークは、地形図上ではあまりたいした感じではない。しかし、ここは北方面が開けていて、宿堂坊山が見えるピークである。やはりコメツガの木には「黒桧岳へ←→三俣山へ」の標識が打ち付けられていた。なかなかシンプルで、こんな薮山ではほっと一安心する標識だった。地形図を見るとまだまだ先があるように見える。時刻は11時40分、なんとか12時までには三俣山と思っていたが、どうやらそれは無理なようだ。こうなれば休憩時間を削るしか無さそうだ。

 幸いアップダウン少ない樹林帯を、わずかな踏み跡を頼りに歩く。時折あらわれる倒木がちょっと煩わしいが、おおむね歩きやすい。しかし、突然に踏み跡が乱れ、シャクナゲの薮が行く手を塞いだ。見ればテープが右下にかなりつけられており、踏み跡もそちらがしっかりしていた。そこで道を左に辿り、灌木に掴まりながら前に進んだ。そして先ほどのシャクナゲの薮を振り返ってみると、そのシャクナゲは大きな岩の上にあった。あのままシャクナゲの薮に突入しても、この大岩の上に出るだけで、行き詰まっていたことだろう。やがて稜線は広くなり、笹原のようになってきた。それとともにルートは南に向かうことになる。この地点も霧に巻かれたら迷いやすい所かも知れない。そんな笹原の一角の立木に宿堂坊山への分岐のプレートが打ち付けられていた。そして、笹原の中にダケカンバが増え、そこを一気に突破すると、待望の三俣山山頂がそこで待っていた。
山頂直下、宿堂坊山への分岐三俣山の山頂標識

 三俣山山頂は、樹林に囲まれて展望は良くない。ただ北西方面の展望が開けていて、やはり苦労した日光笠ヶ岳が見えていた。山頂には三角点があったが、大部分が土に埋もれて頂部の部分しか見ることは出来なかった。プレートは4枚ほどあったが、群馬大学WVの標識が歴史を感じさせることからやはり目立っていた。山頂ではゆっくりしたいところだが、12時30分までにここを発たないと、日没までに駐車場まで到着できない。ゼリー飲料を飲み込んでエネルギー補給として、慌ただしく山頂とあとにした。



千手ヶ浜からの最終バスには当然の事ながら間に合わず。
疲れた身体にむち打って赤沼茶屋駐車場にたどり着いたのは、日没から30分経った19時30分だった。もうすっかりあたりは暗くなり、帰り支度をゴソゴソやるのはちょっと気が引ける時間帯であった。

千手ヶ浜に辿り着いた気の遠くなるような車道小田代ヶ原は夕闇が迫っていた

「記録」

赤沼茶屋駐車場05:30==(BUS 30min)==06:00千手ヶ浜バス停06:15--(.17)--06:32千手堂跡--(.02)--06:34登山口--(1.14)--07:481802m標高点07:52--(.32)--08:24社山分岐08:26--(.18)--08:34黒檜岳08:44--(.37)--09:211919m標高点--(.19)--09:40ルートミスで戻る--(.15)--09:55尾根に乗る--(.17)--10:12シゲト山10:20--(.05)--10:25ルートミスで戻る--(.12)--10:37尾根に乗る--(.34)--11:111928m標高点--(.28)--11:391970m峰--(.31)--12:10三俣山12:28--(1.47)--14:15シゲト山--(1.18)--15:33黒檜山15:40--(1.21)--17:01登山口--(.19)--17:20バス停17:43--(.51)--18:34弓張峠--(.56)--19:30赤沼茶屋駐車場


群馬山岳移動通信/2004/