錦秋の林道を辿って登る寂峰「丸山(利根村)」  登山日2004年11月5日




丸山(まるやま)標高1344m 群馬県利根郡

今年の冬「水行寺山」に登ったときに、眼下に流れる泙川(たにがわ)の上流にある丸山の存在が気になった。それは泙川に沿って走る、なんとも頼りがいのない林道だった。それを利用しなくては、どうしてもたどり着けない丸山はどんなところなのだろう。

11月5日(金)

 今日は長い林道走行を予想して、軽トラックでの移動となった。私の軽トラックは家族の希望もあり、オートマチックだ。しかし、これが3速なので高速道路に入ると何ともすごい騒音で不安になってしまう。そんなわけで、せいぜい80キロ程度の走行で、ゆっくりといくことにしている。(まあ、利用料金が安いので我慢しなくては)

 国道120号をのんびりと走行していると、老神温泉付近の紅葉が気になり、ちょっと寄り道。そうなると近くの吹割れの滝が気になって、こちらでも寄り道をしてしまった。

老神温泉付近吹割れの滝


 吹き割れ滝から国道120号を、わずかばかり進んでから右に折れて国道から離れる。平川小学校の前を抜けて泙川(たにがわ)に沿って上流を目指す。平川集落の中の細い道を慎重に進むが、集落はすぐになくなり林道走行となった。林道とは言っても舗装されており、今日は平日であるので対向車も少ないだろうから、快適な走行となった。しかし、ガードレールなどないから気を許すことはできない。

 林道に沿って流れる泙川は深い峡谷で紅葉が実に鮮やかで、時々停車しては見とれてしまった。そんな林道も舗装が終わり、なにやら怪しげは雰囲気になってきた。まだ先は長そうなので、このまま目的地まで行けるのだろうか。舗装が途切れて500mほど進むと右に「古瀧庵不動尊」の看板が現れた。興味あるが、このまま先に進むことにある。

 やがて林道が分岐、地図を見るとここは奈良地区らしい。山に向かっているのは峰山に通じているものだが、全面通行止めの標識がたっていた。右に向かい泙川沿いに進むが、一軒家や別荘と思われる建物がぽつんと建っている。また刈った茅が立っていたりと、人の定期的な出入りがある雰囲気が感じられる。

 林道は所々荒れており、落石やら泥濘やらが現れて、鼻歌まじりとはいかない。やがて、林道ゲートに突き当たった。ゲートはご丁寧に二つあったが、二つとも開いたままだった。傍らには「許可なく入ったものは事故等の責任は負いません」と言った趣旨の標識があった。

 ともかく引き下がる訳にもいかないので、先に進むことにする。落石が大変多く、それを避けて走るのに神経を使う。ゲートからしばらく走ったところで、隧道をくぐった。隧道は「平川隧道」と上部に書いてあった。そこを過ぎると道は大きく右に曲がり、そこには大きな落石防止の石組みがあった。そろそろ丸山に近づいたものと思い、車を停車してGPSで位置を確認する。カーナビのGPSではこの林道さえも表示しないので仕方ない。軽トラックの荷台で地図を広げて測位を始めた。するとワンボックス車が一台やってきた。
「キノコ採りかね?」
車には二人の男が乗っており、運転手は話し好きのようだった。
「丸山に登りにきたんですが、わからなくなったので位置を調べてます」
「丸山?どこかで聞いたな」
運転していた男は車から降りて、私の地形図をのぞき込んだ。
「ここが丸山です」指で指すと、「ああ、三重泉橋の先だ。まだまだ遠いなあ!」
そのうちにGPSでの測位が出来たので、地形図上で見ると本当に先は長そうだ。
「キノコ採りですか?熊はいますかね」
「熊はいるけれども、里に近いところに行っているようだ」
あまり当てにならない返事だった。

男たちと別れてさらに先に進むと、路面はさらに悪化してきた。落石がさらに多くなり、軽トラックの車幅がやっとだけの場所もあった。やがて開けた場所に出て、橋を渡る事になった。ここが三重泉橋で標高点923mの表示のある場所だ。三重泉沢は錫ヶ岳と宿堂坊山の稜線に源を発する。この橋を渡ると、道は三重林道と名前を変える。とたんにぬかるんだ部分があり、四駆に切り替えて慎重に通過する。

林道風景
林道風景
林道風景三重林道入り口
林道風景林道風景


 三重泉隧道そして平滝隧道をくぐり抜けると、丸山の登山口にもっとも近づいた事になる。しかし泙川を見ると、どこも川幅が広くとても渡渉出来そうにない。さらに上流に行ってみると、状況はさらに悪くなり、大きな滑滝になっていた。仕方ない、平滝隧道付近まで戻り、ここから渡渉する事に決めた。

 林道から泙川に下降し、渡渉し易そうな場所を探すが、なかなか見つからない。水深もかなりありそうだ。このまま川の中に入ろうかと思ったが、最初からずぶぬれではどうしようもない。せっかく履いた登山靴を脱いで裸足になった。おそるおそる素足で川の中に入ると、冷たいが何とかなりそうだ。ぐずぐずしているわけにはいかない。川の中程は水深が膝上まであり、まくり上げたズボンが濡れてしまった。なんとか渡りきって、寒さで足踏みをしながら、タオルで水を拭き取った。

 ザックの中に入れておいたソックスを取り出して、あわてて履こうとした。ところが、渡渉前にはあったソックスが無い!!普段からソックスは薄手のものを履いて、その上に厚手のものを履いている。その厚手のソックスが片方しか見つからない。対岸に置き忘れてきたのか、それとも渡渉の途中で落としたのか?どうしても見つからない。仕方ない、右足だけ薄手のソックスだけでしのぐことにした。しかし、歩いてみると靴の中で足が動くのでどうしても足下が不安定だ。

見事な滑滝泙川の渡渉地点


 足元は心細いが、なんとか出発、適当なところを見つけて登り出す。するとなにやら針金の残骸があり、よく見ると石積みの跡が見られる。炭焼きか、木材の切り出しに使われたものと考えられる。目の前にはスラブ状の沢が落ちているので右に避けて直登する事にした。かなりの急傾斜で息付く暇もないほどだ。灌木に捕まって登ろうとするのだが、その灌木も少なくよじ登ると言った感じだ。これは下山の時に苦労しそうだが、今はそんなことよりも登ることが先決だ。

GPSで位置を確認すると、どうやら岩場記号のある場所の、ど真ん中を登ってしまっているようだ。なにもこんな所を選んで登らなくとも良いものなのに、不思議なものだと感心してしまう。そんなことは言っても仕方ない、なんとかこの選んでしまったルートを辿るしかない。帰りのことを考えて巻紙で頻繁に目印を付けて置いた。

 振り返ると、三ヶ峰から笠ヶ岳に連なる稜線が見えている。思えばあの山行は苦労の連続だったと思い返した。岩場はさらに条件が悪くなり、木の根に掴まり、挙げ句の果てには笹に掴まったりして登る羽目になった。ますます、不安定な靴の状態での下降が思いやられた。

 単調で変化のないこのルートは、人が入った様子が全くなかった。それに獣の気配も感じられない人跡未踏に近いと思われる。傾斜が緩くなり、なんとか体勢が整ったのは歩き始めて1時間以上経ってからだった。それでも何かに掴まらなければ登れないほどの傾斜であった。

 なんとか1時間38分かかって山頂に飛び出した。山頂は今までの傾斜が嘘のように、平坦な場所だった。展望は木々に阻まれて思うように見ることは出来なかった。しかし、この地域の盟主である皇海山が大きく見えていた。山頂には何の標識もなく、寂しいものだった。訪れる人も少ない本当の寂峰とはこんなものなのだろう。

 あんパンをひとつ頬張ってから、下山に取りかかった。

 巻紙のマーキングを頼りに慎重に下山をした。思ったよりも下山は簡単に下降が出来た。それは巻紙を目標にして、簡単なルートを選ぶ事が出来たからだと思う。

 何とか下山して、渡渉のために再びソックスを脱いだら、くるぶしのあたりに靴擦れが出来ていた。それに無くしたと思っていた厚手のソックスの行方が分かった。それは厚手のソックスを左足に2枚履いていたのだ。どうやら寒いので慌てていて、厚手のソックスを無意識のうちに2枚履いていたからなのだろう。

丸山の登り山頂のモミジ
山頂から錫ヶ岳が見える山頂から三ヶ峰が美しい


「記録」

国道120号==4.6km==不動尊入り口==1.8km==林道分岐==1.8km==利根平川林道ゲート==1.2km==平川隧道==3.2km==三重線橋==0.5km==三重泉隧道==0.6km==平滝隧道

泙川渡渉09:16--(1.38)--10:54丸山山頂11:13--(.41)--11:54泙川  



群馬山岳移動通信/2004/