奥利根藤原湖を見おろす「幕掛山」  登山日2003年3月29日



標高1160m地点から藤原湖を見る。中央の下の稜線を左から右に辿って登ってきた。



幕掛山(まくかけやま)標高1410m 群馬県利根郡


3月29日(土)

 この残雪期に登っておきたい山がある。藤原湖の東に位置する幕掛山もそのひとつだ。なにしろこの付近の山と言ったら、藪がひどくてとても夏の時期に登る気にはならない山である。藤原湖の堤体の上部に付けられた道路を渡り湖の東側に入る。あらかじめ地形図を確認したところでは、宝台樹スキー場手前の青木沢地区から登ろうと考えていた。ところが道路脇の雪がだんだん増えてきて、ついに青木沢集落の外れで除雪が終了してしまった。その地点は駐車スペースもあったが、いかにも生活のためのスペースと感じられた。ここに停めるわけにもいかない。あらためて地形図を眺めると、藤原湖に一番近い平出地区から登るのが良かろうと判断した。

 平出地区の駐車スペースを探すと、平出船着場のバス停の除雪が行き届いて広くなっているのが目に付いた。それにここには公衆トイレ、さらには消防団の詰所もあり、ここに車は駐車することにした。

 久しぶりの山歩き、いつもの事ながら車の中を引っかき回して、装備をザックの中に詰め込んだ。天気は曇り空であまり良くないが雨の心配はないだろう。駐車した場所から、いきなり杉林の中を急登となった。おまけに雪が予想外に深く、膝あたりまで潜ってしまう。歩き始めたとたんに、スノーシューを履く羽目になってしまった。

 それにしてもこの斜面は急傾斜で、一歩を踏み出しても体重をかけるとズルッと滑り落ちるほどだ。70センチのピッケルと突き立てると、すべて埋まってしまうほどだ。それというのもここは北斜面で、さらに山ヒダの窪んだ部分になるために、雪の吹きだまりになっているからなのかもしれない。雪の斜面には無数の足跡があったが、熊の特徴ある足跡もしっかりと確認できた。こんな集落の近くまで降りてくるのかとちょっと意外な感じがした。
大滝が見える
 何とか急斜面を登り切ると手前で、ゴウゴウと音が聞こえてきた。これは風が強いのかなと思い、斜面を登り枝尾根に登り上げるとその理由がわかった。それは眼下に水量豊富な滝が遠望出来たからである。地形図で見るとそれは大滝と言う名称がついていた。それにしても、ここからの標高差は80mほどあるにもかかわらず、大きな音がここまで響いて来るのは凄いと思う。ふと目の前を黒い小さな物が横切った。それは枝に止まったので目を凝らすと、それはコバルト色の身体を持つカワセミだとわかった。こんな時期にカワセミがいるのかと思ったが、冬眠する鳥は聞いたことがないから不思議ではないと思った。

 今いるこの枝尾根は幕掛山から派生している物ではなく、幕掛山を取り囲む様に延びている。もっとも幕掛山自体が独立峰ではなく、鹿俣山と獅子ヶ鼻山の稜線からの枝尾根に当たっている。さていよいよ、ここからこの枝尾根を北東に向かって登り上げる事にする。尾根上は雪庇の名残の雪が残っているが、藪もかなりうるさい。スノーシューを付けるべきか悩ましいが、とりあえず外して歩くことにした。しかし、雪庇の名残の雪は乗ると膝まで潜ってしまうのだ。しかし、藪のことを考えると今さら付けるわけにもいかず、苦難の登りとなってしまった。こんな雪の中でも春は訪れており、黄色いマンサクの花が枯れ枝の宝石のように咲いていた。また雪が無くなっているところでは、イワウチワの葉が春を感じて目を覚ましているように見えた。

 標高950m付近で、前方50m先を黒く動く物が横切った。熊かもしれない!!緊張が身体を走った。黒い物は一瞬見えただけで、すぐに消えてしまった。恐怖心と好奇心が今見えた場所に足を急がせた。そしてそこにある雪の上の足跡を確認した。真新しいその足跡は熊のそれではなく、偶蹄目のものであった。ここまでに鹿の声を聞かなかったからカモシカではないかと推測した。

 標高1000mのピークまで来ると、幕掛山がはっきりと見えるようになった。幕掛山はここから見ると、なかなか立派に見える。その途中には熊棚らしきものが無数に見えている。まあここまで来れば引き返す事も出来ないので、休まずにこのまま先に進むことにした。

 高低差を感じない尾根を行くと、やがてここで標高1050mのピークが立ちはだかった。地形図を見るとこのピークは登らずに、手前から東にトラバースして、幕掛山の主尾根に乗るのが良さそうだ。そこで慎重に方向を見定めてトラバースに移った。トラバースは意外と疲れるもので、木の枝に掴まり身体を安定させて慎重にそのピークを回り込んだ。
熊棚が不気味幕掛山の最後の登り

 標高1050mのピークを1/4周して南東の鞍部に移った。ここからは幕掛山に主尾根に向かって雪の斜面を登っていく事になる。しかし、このあたりはなんと熊棚が多いことだろうか。これを見ていると熊が木の上で悠然と、食事をしている姿が想像できる。今日は遭わずにすむことを祈るだけだ。さて、主尾根に登るのだが、はじめは右側にルートを取り、少しでも高度を上げようとした。しかし、傾斜がきつく雪も多く、いつの間にかルートは左になり、高度を上げるどころか下げる事になってしまった。いつの間にかスノーシューとピッケルが大活躍となっていた。

 主尾根は標高1110mの地点でやっと乗る事が出来た。するといくぶん歩きやすくなり、藪も減ったような感じがした。振り返ると先ほど巻いた1050mのピークには反射板が設置されているのが確認された。帰りは是非見学していこうと決めた。主尾根の標高
1160mの地点は藪も少なく、急に周囲が開けた。眼下に藤原湖、そして今まで歩いてきたコブの様な尾根がはっきりと見えていた。そしてこれから目指す幕掛山は、ここの地点とは対照的に黒い針葉樹に覆われて、暗い世界のように感じられる。今日は太陽が姿を見せずに厚い雲に覆われているからかもしれない。

藪が深い いよいよ幕掛山の最後の登りを踏み出した。しかし、なんという藪なのだろうか。とにかくスノーシューを履いていなければ雪に中に沈没。スノーシューを履いていれば藪に阻まれ、枝に引っかかって始末におえなくなる。傾斜がきつく雪がまだ固まっていないために、ピッケルが役に立たない。とにかくあまり良い状況ではない。しかし、ここで諦めるわけにはいかない。時間はまだまだたっぷりあるから、少しずつ高度を上げていけば、なんとかなる。そう思ってタダひたすら我慢して前に進んだ。

 とんでもない藪をなんとか切り抜けると、なんとかシラビソの疎林の中に入った。ここは藪が無いのだが、雪が柔らかくスノーシューを履いていても、時折腰のあたりまで潜ってしまうこともあった。こうなると慎重に一歩一歩静かに歩くしかない。

 そして、傾斜が急に緩くなったと思ったら、Gさんの幕掛山の山名板がそこに現れた。なんだかあっけない感じがして仕方ない。地形図を見れば、三角点があるわけだが、それは雪に埋もれて確認できない。さらに地形図を見ると山頂部分はまだ先に、ちょっとしたコブがある様になっている。試しにそちらに歩いてみるが、標識のある地点との標高差は無いように感じた。

 再び三角点の地点に戻って、周囲を確認する。展望は藪が多く、あまり良いとはいえなかった。上州武尊山の特徴あるピークが唯一の展望だ。藤原湖は眼下に藪を通して見えるだけだった。ここに来るまで休憩もしていなかったので、ラーメンを作り缶ビールを開けて久しぶりの山の感触を楽しんだ。山頂での休憩はあっという間に過ぎ去り、1時間が経過してしまった。
上州武尊山を振り返る
 下山は登ってきたルートのトレースを、大きく外さないように辿った。しかし、スノーシューでの下降は意外と疲れる。(経験した人だけがわかる)そして気になっていた反射板のあるピークに立ち寄ることにした。そのピークからは、先ほどまでその頂にいた幕掛山が、またその奥には特徴ある山容の上州武尊山が並んで見えていた。











「記録」

平出地区06:45--(.47)--07:32枝尾根--(.52)--08:26標高1000mピーク--(.11)--08:37標高1050mピーク手前鞍部--(.08)--08:45鞍部--(.31)--09:16主尾根標高1100m--(.37)--09:53主尾根標高1260m--(.37)--10:30幕掛山11:30--(1.00)--12:30標高1050mピーク(反射板のピーク)12:42--(.16)--12:58標高1000mピーク13:15--(.20)--13:35枝尾根から離れる--(.13)--13:48平出地区


群馬山岳移動通信/2003/