「兜岩山」を断念して「経塚山」へ  登山日1994年4月3日


荒船山(あらふねやま)標高1423m 群馬県甘楽郡・長野県佐久市・長野県南佐久郡
経塚山山頂
 3月24日の「立岩」登山の帰りに、ミニバイクが思うように走らない。真っ直ぐ走れないのである。ブレーキをかけると、ディスクブレーキが妙な音を発して、あらぬ方向に向かってしまうのだ。しかたなく20km/hで2時間ほどかけて、やっとの思いで家にたどり着いた。修理に出したところ前輪の、ベアリングが破損、シャフトまで曲がってしまっていた。山道を私の巨体を乗せて走った事が、原因らしい。修理するなら、この中古のスクーターを安くしておくから買った方がいいと勧められ、購入してしまった。

 4月3日(日)

 今日はそのミニバイクで出かける事にした。走行距離は600km、前のミニバイクは積算距離計が一巡りして、10000kmを越えていたので、それからみれば新車同然である。今日の目的地は西上州「兜岩山」である。天候は快晴ながら、風が強い。自宅からみると妙義山の麓あたりが、土埃でかすんでいる。実際にその場所を通って見ると、ものすごい強風で、ミニバイクが倒されそうなほどである。それに土埃が舞い上がり、一瞬視界がなくなると共に、息ができぬ程の土埃の量であった。今日はミニバイクで出た事を悔やんだ。しかし、国道254号に入り内山峠に向かうと、強風は変わらないが土埃がないだけは、幸せだった。内山トンネルを抜けて佐久に入り、ドライブインの反対側、左の脇道に入る。此処からは狭い林道を、荒船不動尊を目指して走る。狭いながらもコンクリート舗装なのはうれしい。

 荒船不動尊にミニバイクを止めて歩き出す。兜岩山へ登るには、ここから星尾峠経由で行くものと、稜線に直接登り上げる”近道”経由がある。ガイドブックからの計算によると、往路だけでも30分近い差が出る。これは当然、”近道”経由で登る事にする。星尾峠は下山の時にでも歩く事にすればいい。荒船不動尊から少し戻ったところのカーブに、「御岳山→」の標識があり、ここが登山口になる。

 この道は、からまつの林の中の道で、沢沿いに付いているが、かなり明瞭である。高度をどんどん上げていく。実に気持ち良い登りだ。ところが道の上部に近づくにつれて、雪の量が多くなってきた。そしてついに雪は、登山道を埋めつくしてしまった。更に悪い事に、雪は凍っており、表面がツルツルになっている。つくづくアイゼンを持って来なかった事が、悔やまれた。それでも何とか潅木につかまり、前に進む事にした。

 稜線に着くとそこは雪もなく、また雑木に囲まれているためか、風も少なく暖かい。目の前にはこの前登った、立岩のピークが間近に見えた。快適な尾根道をひとしきり登ると、御岳山との分岐に着いた。笹に覆われた場所で、目指す兜岩山のピークも間近に見える。御岳山に行ってみる事にする。一旦道はコルに降りて、それから登り返すとすぐに御岳山に着いた。臼田営林署の看板が設置され、御岳山の由来が書いてあり、そして銅像も設置してあった。ガイドブックによると、分岐から御岳山は往復20分と書いてあったが、実際は5分ほどだった。

分岐に戻り兜岩山を目指す。道はもったいないほど、下降してしまう。暖かい尾根道である。一気に高度を下げて、再び徐々に登り返していく。道の上州側は岩壁で恐ろしい程の、高度感がある。やがて登山道は、岩峰に行き当たる。ここからは岩峰が3つ並んでいる。それぞれ、孫ローソク、子ローソク、ローソク岩となっている。道は岩峰の右側(北側)に着いている。孫ローソクは何とか通過、子ローソクの下は雪が凍っていたが、何とか潅木につかまりながら通過した。しかしその後のローソク岩下の道は、一目見て愕然とした。なんと上部から下まで雪が凍り付いて、道を塞いでいる。滑落したらただで済むとは、到底思われない。まるで滝が凍り付いているかのように、表面は透明感さえある。それでも何とかならないかと、少し進んだがとても手(足)に負えそうにない。

 アイゼン、ピッケル、そしてできればザイルが欲しい。あとわずか20分程度で、目指す兜岩山に着く事ができるのにくやしい。下の方から吹き上げて来る、風が妙に冷たく感じた。・・・・・・・断念して、戻る事にした。

 戻りの道を歩きながらも、なんとかならないかとの思いは、常に頭から消えなかった。しかし、兜岩山が遠くなるにつれて、「これで良かったのだ、もう一度装備を揃えて、いつか挑戦しよう」と考えて、自分を納得させた。戻る道で3つのパーティーに出会った。最初は中年の夫婦連れと思われる男女、そして初老の単独行の男性、次に小学生の子どもを連れた男性である。それぞれ2分間隔程度で相次いで出会った。

会う人は皆「早いですね!」と口々に挨拶をした。

こちらの答は「いや途中、雪で断念しました。アイゼンは持っていますか?」

「ええ、持っていますよ」と、皆同じ答をした。

これでは、自分がいかに準備不足であったかを、人に知らせているようなものである。別れたそれぞれの人々は自信に満ちた姿で、私とは反対方向に歩いて行った。再び御岳山の分岐で休む。星尾峠の方角を見ると荒船山の経塚山が、青空の中にそびえている。それを見ていると、何となくあのピークでもいいから、踏んで置きたい気分になってきた。

「よし!経塚山に行こう」

 早速、支度をして歩き出す。尾根道はたいへん歩き易いし、それに目標が決まったことで、足どりも軽い。アップダウンも少なく快適な歩行で、一気に星尾峠に着いた。ここの峠から経塚山へは、素晴らしく整備された広い道が続いている。一汗かく程度の登りで道は艫岩からの道と出会って、右に向かう。ここからはやはり雪が登山道に、敷き詰められていたが、さほど凍っていないので、キックステップで比較的簡単に登る事ができた。

 経塚山(1422.5m)に着いた。周りは潅木に遮られて、あまり展望は良くない。もう20年程前に、ここに立ったときは、もう少し見晴らしが良かった気がするのだが、木の成長を思えば仕方あるまい。このピークは良く分からない点がある。ここは荒船山の一部であるのか?が先ず分からない。もし一部であるならば、荒船山の最高峰になるわけだ。そして呼び方(書き方)が分からない。「経塚山」「京塚山」「行塚山」とあり、不思議なところだ。ともかく潅木越しに八ヶ岳方面まで、見渡す事ができた。

山頂では久しぶりにモービル移動のJS1JDSとQSOができた。

 山頂を後に下山を開始する、再び艫岩からの道を分けて少し降りたところで、登って来る登山者に会った。あの兜岩山の道で出会った、初老の単独行の男性だ。

「どうでしたか、兜岩山は」

「いや、行けませんでした。アイゼンがあってもとても歩ける状態ではありません」

「ほかの方はどうでしたか」

「みんな断念して、戻りましたよ」

 その言葉を聞いて内心、喜んでしまった。装備があっても行けなかったんだ。止めて良かったと思ったからだ。下山は、多少気分良く山をかけ降りた。


今回は悔しい思いをしての敗退となってしまったが、今度は兜の緒をしめて、いつか再挑戦したい。



「記録」

  荒船不動尊10:43--(.31)--11:14稜線--(.08)--11:22御岳山分岐--(.03)--11:25御岳山11:27--(.02)--11:29御岳山分岐--(.26)--11:55戻る--(.18)--12:13御岳山分岐12:27--(.22)--12:49星尾峠--(.09)--12:58艫岩分岐--(.08)--13:06荒船山(行塚山)13:29--(.13)--13:42峠--(.16)--13:58荒船不動尊


                         群馬山岳移動通信 /1994/