暴風雪時々晴れ「巣神山」「小法師岳」   登山日2007年12月24日



防火帯とカラマツの森


巣神山(すがみやま) 標高1226m 栃木県日光市/小法師岳(こぼうしだけ) 標高1593m 栃木県日光市




足尾の山に出かけたときに、どうしても気になっている山があった。それは、日光市足尾町にはいってすぐにある巣神山である。ネットで検索すると、達人たちの記録が次々に引っかかってくる。なかなか面白そうなので、巣神山からちょっと足を延ばして小法師岳まで行くことにした。

12月24日(振替休日)

自宅を4時半に出たら、庚申ダムには6時に着いてしまった。駐車は無用なトラブルを避けるために、登山口付近の路上駐車はやめて、庚申ダムの駐車場に停めることにした。日の出はもちろん、薄明までも時間があるので、10分ほど横になって時間を過ごした。やがて、山に囲まれた狭い空が次第に明るくなってくるのがわかった。こうなると、夜明けは一気にくるものだ。起き出して準備に取りかかる。手袋なしで靴ひもを結ぶことができるので、気温はそれほど低くないようだ。今日は低気圧が通過して、絶好の行楽日和になるはずだ。しかし、この足尾の天気はそれほど良くはないようだ。6時40分になると、周囲もだいぶ明るくなってきたので歩き出す。庚申ダム管理事務所の前を過ぎるときに、雪の固まりが転がっているのが見えた。ふと、自分がスパッツを装着していないことに気が付いた。これは拙いと、引き返してスパッツを装着、ついでにピッケルを持ち出して、ザックにくくりつけた。


しきり直しで、駐車場から管理事務所前を通り、水量豊かな滝沢に架けられた橋を渡り、右手にある墓地の入り口をやり過ごす。このあたりから小さな沢に沿って登っていくことにする。沢に沿って左側に付けられているのは植林のための作業道だろうか、かなりハッキリとした道形が続いている。(右岸・左岸の表記はわかりづらいので、進行方向の右・左で記した)植林地の中は、日の出前と言うこともあり、足下もハッキリしないような暗さだ。道は一直線に続き、気持ちが良いほど高度を上げていく。その道もやがて沢を渡り、今度は右側を登ることになる。この植林地は沢の左はヒノキ、沢の右はスギとハッキリと分かれている。そのスギ植林地の道は、沢を渡ってすぐに右に折れてから少し進んで、再び左に折り返す。道なりに歩くと、すぐに沢に沿って直進するものと、右の脇道に別れるところに出る。どちらに進むべきか考えたが、一気に上部に向かうと思われる直進する道を選択した。道は急傾斜だがハッキリとしていた。しかし、その道はやがて倒木が多くなり狭まってきた。これでは、進むのに苦労しそうだ。右側の植林地の斜面を見ると、倒木もなくこの方が歩きやすそうだ。この斜面を登れば、先ほど右に分岐した道に突き当たるような気がした。そこで、意を決してこの斜面を登ることにした。そして、わずかに登るとなんと明瞭な道がすぐ傍にあるのが確認できた。ふかふかの斜面に足を取られながらも、何とかその道に乗ることができた。


スギの植林地の中の道はハッキリしており、所々にゴミが落ちているのが見られる。スギの梢の隙間から見える空間には、雪が流れるように降っているのが見える。しかし、この植林地の中はその雪は落ちて来ない。それだけ枝が頭上に枝が密生していると言うことなのだろう。稲妻形に道をたどり登りあげると、再び沢を渡り、左の植林地の道に移動する。スギの植林地の道と違って、こちらは沢に沿って直線的に登っていく。この沢なのだが、小さい割に流れがあり、沢音がひっきりなしに聞こえてくる。スギの植林地にはそれほど保水力がないので、この雪の影響があるのかもしれない。しかし、この沢は、所々にイノシシやシカのぬた場があるので、飲料には適さないだろう。上部に近づくと道は沢を外れて左の斜面に続き、ふたたび沢の源頭で右に渡る。そのまま稲妻形に登っていくと、それまでの植林地の、暗がりから一気に明るい尾根に飛び出した。ところが、その尾根は風と降りしきる雪で埋め尽くされて、とてもくつろげるような雰囲気ではなかった。尾根は明るく刈り払われたようになっており、これがネットの記録で読んだ防火帯なのだろう。これを辿っていけば迷わずに小法師岳に行けるはずである。それにしてもこの防火帯は幅広く、手作業で切り開かれたのなら、膨大な工数が必要だったに違いない。雪で真っ白になったこの防火帯の道を辿って歩いていくことにする。この尾根の周りは落葉樹の森で、この時期は明るく気持ちがいいのだが風当たりが強い。体感温度が下がっているので、帽子は耳が被えるものに、手袋は毛糸のものに交換した。


この防火帯は、尾根に沿って設置されているところはわかりやすいが、尾根が広くなっているとちょっとわかりにくいところがある。それにしても、雪と風が強くゴーゴーと響く音は恐怖心さえ抱かせる。ところが、時々その風が止んで青空が現れる時間がある。そんなときは、雪面が光を反射して春山のように感じる。これは定期的に断続的に切り替わるのだ。こんな時はすかさずカメラを取り出して、風景をメモする作業に追われる。この防火帯は所々直角に曲がることがある。どうも、帰路に迷うような気がすると考えながら歩いた。標高1200m地点で直角に曲がって鞍部に降りると、そこには茶色のブリキ板に「草刈スキー場跡」の文字が書いてあった。周囲を見たが、とてもスキー場の雰囲気は無かった。かつては賑わったこともあるのだろうが、どうやってここまで登ってきたのか疑問が残った。鞍部からの防火帯の登りは、幼木が育ち始めてちょっと歩きにくい。かなりの急斜面の雪を踏みしめて登った。再び明瞭な尾根に到着、ここからは、直角に曲がって尾根を上部に向かって辿る。ここも迷いやすいところだが、大きな岩がそのまま尾根を下ることを拒むごとくあった。それはまるで、人為的に置いたようにも見えた。再びだらだらと登り防火帯を辿ると待望の巣神山に到着した。

草刈スキー場
巣神山山頂巣神山三角点


巣神山の山頂は展望はなく、古びた三等三角点と3枚の山頂標識が下げられていた。その中の一枚は久しぶりに見る山部藪人さんのものだった。この標識を手に持ってまずは記念撮影をした。しかし、ここはゆっくりできるような場所ではなかった。とにかく寒く、汗をかいた身ではじっとしていると震えがくる。地図を見るとここから小法師岳まではまだまだ距離がありそうだ。しかし、高度差は360m程度なので、庚申ダムから巣神山までの半分程度だ。防火帯の道は、この巣神山からも延々と続いている続いているから問題はなさそうだ。
時折吹き付ける風雪と、その合間に現れる青空に一喜一憂をしながら前に進んだ。青空の見えたときは鼻歌が出るほどだ。そういえば今夜はクリスマスイブだなあ。サイモンとガーファンクルの「7時のニュース/きよしこの夜」、ジョンレノンの「HAPPY CHRISTMAS」なんて昔の歌が口から出てくる。これらの歌のメッセージに感動した、若い頃の自分を思い出していた。

ふかふかの雪笹原に雪が積もった


雪はだんだん深くなってくるような感じを受けるが、まだまだ30センチ程度なのでそれほど歩きにくくはない。カラマツの林は天然林なのだろうか?人工的なものであるとしたら、先人の苦労がしのばれる。防火帯やこのカラマツの下は背の低い笹で覆われている。その上に降り積もった雪はまだ新しくてフカフカに見える。何となく暖かさを感じてしまう。1425mのピークは登山道の通過点で、一本の錆びた鉄のL字アングルが一本立っていて、何かの標識があったことを感じさせる。ここを過ぎると道はいったん下りとなり、目指す小法師岳が前方右に見えてくる。しかし、そこに到達するには鞍部に下り、ピークに向かって登らなくてはならない。ざっと目測で1時間程度と考えた。考えてみると、ここまで、飲食をきちんとやってこなかったことに気が付いた。そこで、大福餅とポカリスエットでお腹を満たした。


さて、いよいよ1526mのピークに向かって登ることにする。防火帯の道は雪に覆われて、まるでスキー場の様にも見える。その中の急斜面を一歩ずつ登っていくが、かなりの体力消耗である。歩き始めて4時間ほど経過しているからそろそろ疲れが出てきているに違いない。途中で何度も立ち止まって息を整えて、やっとの思いで1526mのピークに到達した。このピークは刈り払いが良くなされていて、広場のようになっていた。しかし、ここは庚申山方面からの風が、とてつもない力で押し寄せている場所だった。顔がピリピリと引きつるような痛みを感じた。たまらず、目出帽をかぶってから、フリースの帽子をその上にかぶった。それでも薄くなった髪の毛の影響なのか、天井部分が寒く感じる。ジャンパーももちろん着込んでやっと落ち着くことができた。

防火帯を辿って小法師岳に

このピークからは目指す小法師岳の一角が見えている。この頂に向かって歩き出したが、雪は太もものあたりまで潜ってしまい、思いがけないラッセルとなってしまった。久しぶりのラッセルと暴風雪に、うれしいやら楽しいやらで、不思議なことにちょっと幸せな気分だ。まあ、命の危険が迫るほど急峻なルートでもないし、日頃のストレス解消にはちょうどいいかもしれない。


一旦鞍部の吹きだまりに降りると、腰のあたりまで踏み込む場所もあった。そこを脱出して登りにかかるとラッセルは一段と厳しくなってきた。ストックでは身体を支えるのがきつく、灌木に掴まって身体を持ち上げる様になってきた。山頂の一角にたどり着くとそこはカヤトの原になっていた。ここは不思議なことに積雪も少なく、風も少なかった。このカヤトの原を上り詰めると、再び積雪は太もものあたりまで達するようになった。さらに庚申山方面からの風がいっそう強くなってきた。この山頂稜線をラッセルしながら辿ると、懐かしい、達筆標識が手招きしていた。達筆標識の裏面の日付は96.12.8となっているので、10年の歳月が過ぎている。その割には朽ちた部分もなく、最近設置されたようにも見える。風の弱まるタイミングをねらって記念撮影を行った。山頂からの展望は雪で望むことはできなかった。雪に埋もれて確認できないが、ここは本三角点があり、この先に三等三角点があるという。たしかに、達筆標識の左の標識には書き込みがあり「この80m先に三角点あり、標識もあり」と書き込みがある。これも確認しておきたいので、さらにラッセルを続ける。すると、赤白のダンダラ棒が雪の上に出ている場所があった。雪を掘り返してみたが、三角点らしきものは見られない。それよりも、少なくとも2枚あるはずの山頂標識が見あたらない。念のために、GPSで確認すると、三角点の場所に寸分の狂いもないようだ。さらに奥に進んだが、それらしきものは確認できなかった。時刻は12時になろうとしているので、三角点の捜索をあきらめて戻ることにした。

小法師岳山頂小法師岳のダンダラ棒、標識はない


山頂はとても気の休まる場所ではないので、先ほどのカヤトの原にザックをおろして、「サッポロ一番みそラーメン」と日本酒をいただくことにした。しかし、紙パックの日本酒では暖まるどころではなく、寒さは相変わらずだった。慌ただしい昼食が頃になると、風は治まらないものの、雪は止んで青空が長く続くようになっていた。

*帰りは、危惧したとおり尾根をまっすぐ下ってしまい、思わぬロスをしてしまった。さらに、かじか荘で風呂に入ろうとしたら、工事で発破を間違えて、落石が道路に散乱して通行不能。そのおかげでサンレイク草木の風呂を独占状態で楽しむことができた。




06:42庚申ダム--(1.20)--08:02尾根--(.55)--08:57巣神山09:03--(2.13)--11:16小法師岳12:12--(1.17)--13:29巣神山--(1.13)--14:42庚申ダム


群馬山岳移動通信/2007

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)
トラックデータ