喧噪を逃れて袈裟丸山から法師岳    登山日2008年5月17日


小丸山(こまるやま)標高1676m 群馬県みどり市・栃木県日光市/前袈裟丸(まえけさまる)標高1878m 群馬県みどり市・栃木県日光市/後袈裟丸(うしろけさまる)標高1910m 群馬県みどり市・沼田市・栃木県日光市/中袈裟(なかけさ)標高1900m 群馬県沼田市・栃木県日光市/奥袈裟(おくけさ)標高1958m 群馬県沼田市・栃木県日光市/最高点 標高1961m 群馬県沼田市・栃木県日光市/法師岳(ほうしだけ)標高1940m 群馬県沼田市・栃木県日光市



奥袈裟をみる




袈裟丸山は14年前に登った事がある。前袈裟丸山に登ったときに、袈裟丸山の山頂が気になった。このとき初めて袈裟丸山はひとつの山ではなく、いくつかのピークが集まった総称であるとわかった。そして袈裟丸山の山頂については、いくつもの説があることもわかった。いずれにしても、全てのピークを登っておけば間違いないだろうと思っていた。そんなときに「あさぎまだらさん」の記録が目に入った。なんと八重樺尾根経由で奥袈裟を通過して法師岳までピストンをしている。その記録を参考にして、折場登山口から登ってアカヤシオが満開の小丸山経由で行ってみようと計画した。小丸山は、小袈裟と呼ばれているから「小袈裟」「前袈裟丸」「後袈裟丸」「中袈裟」「奥袈裟」「袈裟丸最高点」と袈裟と名の付く6つのピークを踏むことが出来るわけだ。


5月17日(土)
自宅を2時過ぎに出発、小中の信号を左折して山道に入る。暗く狭い林道は長く感じる。途中で道を間違えてとんでもないところに迷い込んで時間をロスしたが、なんとか折場登山口に到着した。4時20分の時点では駐車場に車は9台程度なのでまだまだ余裕がある。今日は、これから、団体登山者がアカヤシオを求めての混雑が予想される。車の中で支度を整えて、4時43分に歩き出した。丸太の階段が設置された急登の道を登るが、なんとも歩きにくい。今では単なるバリケードにすぎないものである。ミツバツツジが満開に近い状態で目に眩しい。併せてシロヤシオが爽やかで清々しい姿を見せている。やがて、目の前がひらけ展望が広がった。草付きの斜面が広がり、その中を登山道が斜面を切り裂くように幾筋も見えている。


折場登山口駐車場気持ちの良い斜面を登る
賽の河原カラマツの林



草付きの斜面を登り切ると、道はなだらかになり展望櫓を過ぎると賽の河原に到着した。14年前は霧がまいて何とも不気味な感じだったが、晴れていてもその感じは同じだ。ここまで誰にも会わないし静かだからよけいだ。このあたりから、アカヤシオが目立ちはじめてきた。立ち止まってその姿に見とれることも度々だ。小丸山に近づくにつれて、アカヤシオの密度も増えてきて、桃源郷の様相を見せてきた。その花につられて脇道に入ってしまい。小丸山を外す事になりそうになった。あわててもとに引き返して、小丸山の山頂を目指した。

小丸山の山頂からは、袈裟丸山を形成する峰々が屏風のように見えている。これからあの稜線を歩くのだと思うとわくわくすると同時に、不安が頭の中を駆けめぐった。小丸山を辞してちょっとしたこぶを越えると、おなじみのカマボコ形の避難小屋だ。中をのぞいてみると、なにやら生活臭のあるものがあるので、中に入る気にはならなかった。この避難小屋からの登りは笹藪がうるさくなってきた。笹丈はそれほどでもないが、昨夜の雨で濡れていて足元がびしょぬれになってしまった。ストックでこまめに払っているのだが、あまり効果がないので、そのまま歩くことにした。


小丸山から前袈裟丸を見る
ミツバツツジ
避難小屋



笹藪も少なくなると、針葉樹林の急斜面の登行が延々と続く。一部には雪が見られたが歩くのに支障は無かった。急登の樹林帯を抜けると気分的にも楽になり、なだらかに登ると裸地となってしまった前袈裟丸山頂に到着だ。閑散とした山頂には一等三角点と山頂標識が一本の杭に何枚も取り付けられていた。自己を主張する意味かもしれないが、眉をひそめたくなるのは私だけだろうか。腰を下ろしてゼリー飲料とあんパンを腹の中に入れた。


山頂には八反張が通行禁止との標識があるが、ここを通らなくては先に進むことが出来ない。良く踏まれた道を八反張まで下降する。八反張に着くと、確かに崩落が見られるが、さほど危険は感じない。山歩きを続けているものならば、もっと危険な場所を経験しているはずだ。何の困難もなく八反張を通過して、後袈裟丸の登行にとりかかる。この道は意外と笹が深く、踏み跡が見えなくなる場所もある。昨夜の雨に濡れた笹を煩わしく思いながら、山頂に到着した。山頂には立派な案内板が設置されて、なにか場違いな感じがした。標識も立派なものがあり、ここまでがハイキングルートであることを物語っていた。いつしか、太陽はすっかり高度を上げて、明るい日差しが降り注いでいた。さて、ここから自分としては未知の領域である、奥袈裟方面に向かって足を踏み出すことになる。はるか遠くに小法師岳とそれを延長した尾根が見えている。あの尾根がこの奥袈裟に向かう稜線と交わるところまで行かなくてはならない。ある意味で時間との競争とも言える。とりあえず、往路7時間と仮定するならば11時30分まで行動することが限界だ。


前袈裟丸山頂後袈裟丸山頂



後袈裟丸山からは、ルートが一変したように感じる。もったいないほど高度を一気に下降させなくてはならない。木の根に掴まり、足元を確認しながら慎重に下っていく。右を見ると小丸山が見えており、アカヤシオが咲いているのがわかる。そろそろ、混雑が始まったに違いない。それに引き替え、この静けさはどうだろうか。何となく、自分は普通の観光ではないんだ、目指している場所が違うんだと自己満足の世界に浸った。鞍部からは、笹藪をかき分けて斜面を登るのだが、踏み跡は笹に覆われてわかりにくいところがある。なんとか稜線を外さないように登ると、展望がひらけたピークに到達した。


木製のプレートが枯れた立木にかけられており、中袈裟と文字が読み取れた。振り返れば後袈裟丸は意外に遠くに感じる。またこれから進む奥袈裟はさらに遠くに見える。まして、その間にはいくつものこぶが見え、これからのルートの困難さを象徴しているようだった。総じて栃木県側は岩場となって切れ落ちている。また主たるピークは屹立し、独立峰の様でもあった。ここで大福餅とスポーツドリンクでお腹を満たした。


中袈裟中袈裟山頂
最高点最高点から奥袈裟を振り返る



中袈裟のピークから下ると、残雪が時折見られるようになってきた。しかし、それほど気になるものではない。それよりも厳しいのは倒木だった。殆どの倒木は跨ぐことが難しく、巻くか潜り抜けなくてはならない。潜り抜けようとしても、巨漢の私には大変な苦痛だ。まして、背中のザックが邪魔をして思うようにいかない。場所によっては膝をついて進まなくてはならなかった。もっとやっかいなのは、笹に隠れた倒木で何度も臑を打ち付けてしまった。帰宅してからみると臑は青くなり血が滲んでいた。うんざりするほど稜線の瘤を越えて進んでいく。時折現れる石柱はいったい何であろうか。国境を区分けする石柱なのかもしれない。それにしても稜線を忠実に辿れば良いのだが、ルートは不明瞭だ。今は色あせてしまった赤色の荷造り紐が頼りなのだが、肝心なところでは無くなってしまうのが残念だ。この目印は帰路では結構わかりやすかったので、六林班峠からの歩きを想定したのかもしれない。


とにかく前に進もうとがむしゃらに歩いていたら、いつの間にかピークを大きく下る場所に着いた。ふと見回すとシャクナゲの藪の中に道筋がある。そちらに進むと、栃木県側の展望が開けた場所に飛び出した。裸地となった山頂部分の隅っこには、二つに割れた標識があった。袈裟丸山 1961mとあるので、おかしいと思ってGPSと地形図を確認した。なんといつの間にか奥袈裟を通り過ぎてしまっていたのだ。GPSの軌跡を見ると確かに通過しているのだがそれらしきものは全くわからなかった。ともかく、この最高点のピークを踏んだことで、袈裟丸山のピークを全て踏んだことになるなるので、ひとまず目標は達成できた。時刻は10時10分なので、引き返さなければならない時刻まではまだ時間がある。あんパンを口に放り込んでザックを背負った。


最高点のピークからは雪が豊富に残っていた。雪はそれほど締まっていないので、時折踏み抜いてしまう。慎重に歩を進めるが、どうしても雪の中にはまってしまう。特徴のないシラビソの中を進んでいくと、どんどん稜線から離れていってしまう。どうやら左の群馬県側に寄りすぎてしまったようだ。ルートを右に修正して笹原の鞍部に到着した。ここには立木に打ち付けられた標識があり小法師尾根への方向を示していた。


最高点ピークを振り返る最高点から雪の斜面を下降する
小法師尾根分岐
小法師岳山頂



小法師尾根分岐からはなだらかな斜面をダラダラと登るようになった。そして、何の変哲もない登山道の様なところに石柱と法師岳を示すプレートが転がっていた。ついに法師岳まで到達できたのだが、この山頂の様子は展望もなくいかにも寂しい。まして、感慨にふけるわけにも行かない。なぜなら、帰路も時間との競争が待っているからだ。簡単にゼリー飲料を飲み込んで山頂を辞することにした。


帰路に奥袈裟の三角点を確認しようとしたが、ついに発見することが出来なかった。ともかくGPSの記録では通過しているのでよしとしよう。帰路はルートもわかりやすく、思ったよりも時間がかからなかった。時間に余裕が出来たこともあり、前袈裟丸山頂では温存していた缶ビールの口を開けて、静かな山頂で乾杯をした。

結局、後袈裟から法師岳の間では誰にも会うことはなかった。アカヤシオ見物の喧噪に巻き込まれることなく、静かな山行を味わえたことは幸せだった。それにしても14年前のコースタイムからは遅れている。まあ、仕方ないなあ。




折場登山口04:43--(.47)--05:30賽の河原--(.44)--06:14小丸山06:18--(.07)--06:25避難小屋--(.47)--07:12前袈裟丸07:22--(.14)--07:36八反張--(.16)--07:52後袈裟丸08:04--(.29)--08:33中袈裟08:48--(1.04)--09:52奥袈裟--(.16)--10:08最高点10:16--(.36)--10:52法師尾根分岐--(.12)--11:04法師岳11:09--(.44)--11:53最高点--(.14)--12:07奥袈裟--(1.04)--13:11中袈裟--(.37)--13:48後袈裟丸13:56--(.27)--14:23前袈裟丸15:08--(.48)--15:56賽の河原--(.28)--16:24折場登山口



群馬山岳移動通信/2008



この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)
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