「迦葉山」の和尚台は凍っていた   登山日2007年1月20日





弥勒寺

弥勒寺に通じる道から見る和尚台の岩峰




迦葉山(かしょうざん)標高1322m 群馬県沼田市



迦葉山は一度登ろうとしたことがあるが、登山口である弥勒寺からいきなり膝を越す積雪で断念したことがある。なにも冬に登らなくとも良いのだが、このあたりは熊の活動が活発な区域である。できれば遭いたくないもので、それを考えるとどうしてもこの時期になってしまう。

1月20日(土)

一昨日あたりから喉が痛いので、前日に医者で診察を受けると風邪とのこと。今年の風邪の特徴は喉が痛くなり、長引くらしい。そんなわけで山もどうかと思ったが、ここで行かないとしばらく行けそうにないので、無理を承知で出かけることにした。
関越道沼田ICで降りて、玉原方面に進む。この時期はスキー場に向かう車がほとんどで、数珠繋ぎになって道路を進んでいく。やがて、大きな迦葉山の看板を見て案内に従って左折する。すると、ここからは道が極端に狭くなり、凍結部分も増えてくる。この迦葉山弥勒寺に通じる道は一方通行で山麓を周回するようになっている。まあ、その意味では対向車が来ない安心感はある。この前に来たときは、弥勒寺の手前で屋根からの雪が大量に落雪して、道を塞いでしまった。仕方なく、この道を戻ったのだが、登ってくる車から罵声を浴びせられてしまった。まあ、こんな事もあるから一方通行であっても安心は出来ない。

弥勒寺の駐車場は広いのだが、この時期には訪れる人がいないこともあり、除雪も一部分だけだ。それにトイレも封鎖されており、訪れる人が少ないことを物語っていた。広い駐車場にポツンと一台駐車して、支度をはじめる。スノーシューは絶対に必要と思われる。それに和尚台の登攀も考えると12本のアイゼンも必要だろう。ザイルは必要ないが、ゼルブストは必要かも知れない。そこで、ゼルブストの代わりに工事用の安全帯を持って行くことにする。これは腰だけで支えるもので、滑落したら間違いなく頭部が下がってしまうものだ。しかし、無いよりはマシだろう。念のためにピッケルも持参することにしたが、出番は少ないと思われるから、ザックにくくりつけておいた。

弥勒寺の石段を登り、拝殿でお賽銭を投じて本日の登山の無事を祈願した。登山道に行くには、この拝殿の右にある中雀門から入っていく。前回来たときは、ここが雪で塞がれていたが、今日は雪が深いものの無理なく通り抜けることが出来た。門をくぐり抜けたところで、朱に塗られた太鼓橋があり、これを渡ると積雪が深くなった。手に持っていたスノーシューをここで装着することにした。積雪が深くなったとは言え、道の部分は窪んでいるためにそれなりに道形はわかるものだ。その道形に沿ってなだらかに登って行く。弥勒寺の水源であろうか、枡形のコンクリート製の構築物にはパイプが繋がっていた。それを左に見て進むと尾根状の部分に乗ることになる。そこには熊棚が無数にあり、熊の活動が活発なのだろうと推測できた。このあたりから道は直線的になり、傾斜も急になってきた。雪の下は岩場もあるのだろうか?ストックが堅いものを突き刺すような感覚がある。積雪は50センチほどではないかと思われる。

やがて、目の前に大きな岩がそびえ立ってきた。灌木の枝があり判りづらかったので、その出現は突然現れたという感じだった。これが有名な和尚台と呼ばれる岩峰で、高さは60m(本当かな?)で、真ん中に胎内くぐりと呼ばれる割れ目があった。和尚台の基部には朽ち果てそうな古びたお堂があった。ともかくここで和尚台に登るために体勢を整えることにする。ザックを下ろし、ペットボトルのお茶を飲んで落ち着くことにした。さて行くぞ、工事用の安全帯を腰に付けて、手袋は滑り止めのついた手袋を装着した。ザックは置いて、カメラだけを持って行くことにする。

胎内くぐりの中は天窓のように頭上の一部が開けているので意外と明るい。足元には積雪もなく設置された鎖に伝って順調に登ることが出来た。そして胎内くぐりを抜けて反対側に出ようとして、足が止まってしまった。そこは頭上から氷柱が下がり、足を掛けようとする足場は磨かれたガラスのように氷がへばりついていた。胎内くぐりの入口から見ると、岩壁には雪も氷も見えなかったが、反対側の様相は全く違うものになっていた。試しに足場の氷に触れてみると、ツルツルと良く滑った。これでは進むことは出来ない。あっさりと引き返してしまった。
もちろん帰る気など毛頭無く、12本爪アイゼンを装着することにした。装着後、再度胎内くぐりに入った。アイゼンが岩に当たる乾燥した音が響き渡った。そして、氷柱が垂れ下がる凍結した場所にたどり着いた。アイゼンを利かせて一気に胎内くぐりの外に出た。そこから見上げる上部の岩場は、氷柱と雪と岩の世界だった。美しいと思うと同時に、緊張感で身が引き締まった。どこからこの岩場に取り付くのだろうかと思って見渡すと、鎖の一部が雪の中から顔を出していた。それをもって引っ張ると、雪の中から鎖が一直線に雪の中から出てきた。

「よし、行くぞ!!」

気合いとともに鎖に掴まって上部に向かった。意外に灌木の根も張っているので、それに掴まって登った。一旦テラスに出るとそこからは、右に向かってトラバースするらしい。ところがいくら探しても鎖がないのだ。足元は雪が乗ったナイフリッジ状の嫌らしい岩場が1mほどある。雪を慎重に除いたが、すべてを取ることは出来なかった。ともかくこの岩場に足を掛けて、一気に向こう側に跨ぐような格好で渡った。再び、鎖を探して岩場の雪を掘り返すとトラバース用の鎖が現れた。これに伝わって横に移動すると、今度は一枚岩のような壁が立ちふさがった。やはり鎖があり、引っ張っても鎖が雪の上に出てこない。どうやら岩に凍り付いているらしい。力任せに何度か引っ張ってやっとの思いで、鎖を岩から引き剥がした。高度感もあり、かなりのスリルが味わえそうだ。こんな岩場は、一気に登らなければ気が萎えてしまう。そこで、気合いとともに一気に登りだした、上部は鎖が剥がれていなかったので、その場で持ち上げて引き剥がしながら登った。登り上げると、そこもテラス状になっていて一息付ける場所だった。この上部にも鎖があり、登りはじめは腰あたりまで段差があった。足を延ばしてアイゼンを引っかけて、鎖に掴まり一気に身体を引き上げた。そのまま鎖に掴まって登ると、和尚台の頂上に達することが出来た。頂上部は意外に広く恐怖感はさほど感じない。頂上部には大きな岩が置かれたようになっており、この上が実際の頂上かも知れない。しかし、ここは神聖な場所にも思われたので乗ることはしなかった。展望はほぼ半周に渡って開けており、すばらしい眺めであった。背後は迦葉山の本峰が屏風のように立っている。あまりの心地よさと達成感で、30分ほど過ごしてしまった。

慎重に頂上部から岩場を下りて再び基部に戻った。アイゼンを取り外して、菓子パンを頬張っていると、下の方から話し声がする。見れば登山者が登ってくるようだ。近づいてくると、それは夫婦連れで私と同年代のような印象を受けた。しばらく話した後に、私は先にここからスノーシューを再び装着して出発した。






和尚台奥の院

胎内くぐりを抜けると別世界

ちょといやらしいトラバースを振り返る

岩壁はツララでいっぱい

鎖の末端が見えている

雪に埋もれた鎖を取り出した

最後の鎖場(頂上の岩が見える)

和尚台の頂上から迦葉山を見る

和尚台の頂上からの展望(赤城・戸神山・高王山・子持山・上州三峰山)





ここからはひたすら、雑木の中の斜面を登るだけだ。スノーシューが利いているためか、さほど苦労はせずに登ることが出来た。やがて和尚台の頂上部を見下ろすようになると、御嶽大明神の碑に出会う。ここからは道は平坦になったが、積雪は深くなってしまった。スノーシューがなければ、かなりの壺足ラッセルになりそうである。緩やかに登り稜線を右に向かうと、ちょっと小高いところに標識があり、ここが迦葉山山頂であることを示していた。それにしても、この山頂は展望もなくひっそりとしていた。和尚台があまりにも強烈な印象があったので、対照的なこの山頂はおとなしすぎた。2007年最初の登山を祝して、ラーメンと発泡酒でささやかな昼食とした。




迦葉山の山頂

豪華な昼食?




帰りは山頂から尼ヶ禿山に向かったが、思いのほかの深雪であっさり断念。悔しいので御嶽大明神から1310m標高点までスノーハイクを楽しんだ。しかし、1310m標高点は展望もなく徒労に終わってしまった。




「記録」

弥勒寺08:16--(.44)--09:00和尚台10:36--(.35)--11:11御嶽大明神--(.13)--11:24迦葉山12:50--(.11)--13:01御嶽大明神--(.42)--13:431310m峰--(.26)--14:09御嶽大明神--(.39)--14:48弥勒寺




GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)