迷いまくった「吾嬬山・薬師岳」
登山日1994年10月16日


吾嬬山(かづまやま)標高1182m 群馬県吾妻郡/薬師岳(やくしだけ)標高974m 群馬県吾妻郡
薬師岳登山道から吾嬬山
 群馬吾妻郡中之条町付近の低山に登り残した山が数多くある。そんな中から吾嬬山(かづまやま)と薬師岳に登ってきた。ガイドブックを見ると、南面から登るようになっている。しかし、北面から林道が延びてきており、それを利用すればかなり楽そうだ。但し、林道入り口にはゲートがあるとも書いてある。それならばミニバイクの活躍する場所だ。道路地図を見ても、勿論そんな道は記載されていない。ともかく現地に行ってみなければ解らない。

10月16日(日)

 中之条町の市街地から四万温泉に向かって走る。途中、発電所の事務所を過ぎてすぐに右側に特徴のある橋が現れる。それは一見”吊り橋”のようなワイヤーが掛けられた大きな橋だ。名前を見ると「かみつまはし」と記されている。渡りきったところには「蝦蟆(がま)渓谷」入り口の看板があった。ミニバイクを降りて覗いてみると、確かに観光地として面白そうな、風景が眼下の四万川に広がっていた。道はこのまま進むと、すぐに広い県道に突き当たる。この県道を横断して吾嬬神社の横を抜け、道は山に向かって登っていく。細い道だが舗装されており、車のすれ違いも何とか可能なようだ。「大竹橋」と言う小さな沢にかかる橋を渡り、なおも進むと道はふたつに分かれた。

 この分岐には大きな看板が設置されていた。「吾嬬山登山口・唐沢牧場←→沢渡方面・中之条園芸」と記されており、吾嬬山に進む道は一般車通行禁止の一文も書いてあった。ともかく吾嬬山を目指して進む事にする。道は舗装されており快適だ。酪農農家の脇を抜けて道なりに登ると、ありましたゲートが。しかし、ゲートは開けられたままだ。近寄って見ると閉じられた事のないゲートのようだ。相変わらず舗装路は続いている。

 右の山側から落ちる小さな滝を過ぎると舗装路が終わり、道が分かれる。右に行く道は林道吾嬬山線と書いてあるので、行ってみたがすぐに行き止まりとなった。戻って今度は左に行く道にはいる。道はほぼ水平に続き、やがて登りにかかると、目指す峠と薬師岳が見えるようになった。路面は決して悪くなく、むしろ標準より上だと思った。

 峠は北と南の展望が良く、ここに居て展望を眺めるだけでもすがすがしい、気持ちに成れそうだ。(実際その方が良かったかも知れない)峠には広い駐車場があり、既に一台の軽ワゴン車が駐車していた

(簡単に書いたが、この道を見つけるまで5本ほど林道の袋小路に、迷い込んでいる)


*吾嬬山へ*

 いよいよ登りにかかろうと標識を見たが、それらしき物は見あたらない。唯一「11西群馬幹線」の東電の鉄塔巡視の為の、黄色い標識があるだけだった。ともかく、この道以外には登山路はないので、登り始めた。道は南に面しており、日溜まりの暖かさの残る道だ。巡視路だけあって広くまた整備も良くなされている。時折、今年の異常気象の名残りだろうか、ツツジが花を付けていた。季節からして、サザンカと見間違えるような、鮮やかなピンクだった。

 やがて送電線の鉄塔の下にに着いた。道は鉄塔の下を通り続いているので、構わずそのまま進んだ。しかし、道は一向に山に上がる気配がない。それどころか下っているようで、ついに沢に出会した。これは明らかに迷ったと思い、戻る事にした。戻りながら登る道を探しながら歩いたが、ついに通り過ぎた鉄塔の下についた。道はここしかない。鉄塔に通じる道を登ると、尾根に突き当たった。あまり明瞭ではないが、上部に続いているように見える。上に続くルートはこれしかないので、このまま登る事にした。

 紅葉はまだ始まったばかりで、わずかに色づいているだけだ。しかし山栗の実が道に敷き詰められて、明らかに秋の山道を歩いている感じを受ける。更にイノシシだろうか、いたるところに、土を掘り返した跡が残っている。まさか熊ではないだろうと思いながらも不安は残っている。

 少し、傾斜が緩くなり再び傾斜が強くなった所で、北面からの道と出会った。どうもこの北面からの道の方が明瞭であるところを見ると、こちらの方が正規のルートとなっているらしい。道が明瞭となったので気持ちは楽になった。そしてわずかな時間で吾嬬山山頂に到着した。

 山頂は前橋のクラブが取り付けた山頂標識があるだけだった。更に山頂は穴が掘られており、焚火の跡が見られる。そして良くみると、アルマイトの鍋とバーベキュー用の網が放置され、果ては空き缶が散乱していた。下草がなくなったら、見るも無惨なゴミの山が現れるに違いない。ともかくここで430Mhzで4局QSO(その内1局は久しぶりのYL局だったのでうれしかった)して下山した。

 峠に着いてから、東電の黄色い標識にフェルトペンで「←吾嬬山」の文字を書き込んで置いた。


*薬師岳へ*

 薬師岳へは、峠から吾嬬山と反対の東の方角に向かって、道が続いている。初めは北の斜面の木が伐採されており、気持ちの良い道である。しかしそこを過ぎると、道の様相は一変して、薮漕ぎとなった。かろうじて踏み跡が解る程度で、所々で道を失いそうになる。なんとか尾根を忠実に辿る事で、山頂を目指しているに過ぎない。やはりこの辺の低山は、葉が落ちた季節が向いているようだ。こちらの道にも、季節外れの数株のツツジが、花を付けている。手で木の枝を押し広げながら、時折眼鏡を外されながらの前進だ。ピークを三つ程越えた所で、「峠道あと」と呼ばれる道に出くわした。確かに道らしいが、今の季節に歩くには、下草が多すぎてちょっと困難な廃道だ。

 やがて、道の南の斜面が松の木の林に変わってきた。これは秋の味覚の茸があるかと、下を見ながら歩いたのだが、所詮はキノコ音痴の悲しさ。大きな茸を見ても、みんな毒茸に見えてしまう。(まあ、みんな食用に見えるよりは良いが)この辺りから土を掘り返した跡が無数に現れた。中には獣の足跡がはっきり分かる物もあった。おそらくイノシシだろうと自分に言い聞かせた。

 道の左側の立木には、赤いペンキの印が付いている。何の意味なのか分からぬが、これが道のルートの印として信用して良さそうだ。たぶん中之条町と吾妻町の境を意味している物だとおもう。傾斜が緩くなり薮漕ぎも楽になった所で、石祠と灯篭が目の前に見えた。たどり着くとそこが薬師岳山頂だった。

 展望は潅木に阻まれて、360度何も見えない。薮漕ぎの苦労の割になんとも、期待を裏切られた山頂だった。430MhzでJCAユーザーのJG1WCR/阿部さんとQSOさせていただいた。QSLも確保出来たので1局でQRTとなった。

 さしたる面白味もないので、山頂を後にする。登りが36分だから、帰りは20分ぐらいだろうと、計算をしていた。無意識に山を下っている内に、なんだか様子が変なのを感じ始めた。薮が登った時よりも、さらにひどく感じられるのだ。それに赤いペンキの印がいつの間にか見えなくなっている。それでも更に下ったところ、石祠とジュースの空き瓶が転がっている場所に着いた。来るときは、こんな所は通らなかった。迷ったのだ・・・・・。落ち着いて潅木の薮の間からまわりを見るが、良く見えない。それでもなんとか隙間から林道が見えた。その位置から推測すると、とんでもない枝尾根に入っている事が想像出来た。

 ともかく戻るしかない。落ち込んでいる気持ちに鞭打つように、今度は薮漕ぎの登りだ。こんな時になんともタイミング良く、冷たい風が谷から吹き抜けて身体を撫でて行った。それに秋の短い陽は明らかに長い影を作り始めていた。気持ちは焦るばかり、その内に明瞭な道が山の斜面をトラバースして続いている場所に着いた。あまりに明瞭なのでその道に入る事にした。ところが道はすぐに今度はバラのトゲの薮に変わった。それでも我慢して少し歩いたが、ついに断念せざるを得ない状況になってしまった。手の甲はトゲで傷だらけ、汗が滲みて痛い。バラ薮の中を戻る気力もなくなったので、ここから直接稜線に登る事にした。とんでもない事になったと、今日の不運を呪った。

 やっとの事で急斜面を潅木につかまって登り、尾根に出た。今度はどんな道が出てこようと、この尾根道を外さないように歩こうと決めた。そしてやっとの思いで、赤いペンキの印の尾根に着く事が出来た。ここからは忠実にこの道を辿って山を降りた。しかしわずか16分間の薮の中の彷徨だったのだが、それは長い時間に感じられた。久しぶりのパニックであった。


「記録」

峠11:00--(.09)--11:09鉄塔--(.06)--11:15戻る--(.05)--11:20鉄塔--(.27)--11:47吾嬬山山頂12:24--(.17)--12:41峠12:46--(.36)--13:22薬師岳山頂14:09--(.21)--14:30戻る--(.16)--14:46稜線14:51--(.19)--15:10峠


                      群馬山岳移動通信/1994/