「南相木ダム」から登る西上州「会所」「石仏」  登山日2006年11月25日





会所 標高1700m 群馬県多野郡・長野県南佐久郡/石仏 標高1916m 群馬県多野郡・長野県南佐久郡



 西上州の信州との国境稜線は地形図を眺めると、実に魅力的である。標高は2000メートル近くありながら、ほとんど紹介されたことがないピークがほとんどだ。それは、地形図に山名が記されていないことと、アプローチの悪さによるものだ。ところが、最近になって日航機の事故現場に通じる昇魂之碑に向かう道も年々整備されている。さらに、群馬県上野村に建設された神流川発電所の上部調整池である、長野県の南相木ダム(奥三川湖)に通じる道も開放され、アプローチが格段に向上した。しかし、小心者の私はどうしても上野村の昇魂之碑から登る事は出来なかった。今回は登山靴を新調したこともあり、足慣らしの意味で信州側から登ることにした。


新調した靴



11月25日(土)

 朝4時に自宅を出発して、南相木ダムに向かう。カーナビの音声ガイドに従ってなにも考えないで運転をする。すると、なにやら様子がおかしい。なんと川上村から天狗山の登山口である馬越峠を越えるルートが設定されていた。あらためて地図を見ると、とんでもない遠回りである。どうしようかと考えるが、時間は過ぎるのみである。結局馬越峠を越えて現地に向かうことにする。安物のカーナビでは限界があるのかなとがっかりした。まだ地図に反映されていない南相木ダムを適当にセットして再び車を走らせた。

 三川地区にはいると、南相木ダムの標識もあらわれるようになり、それに向かって進む。途中から「天空の石広場」と「下流広場」に道が分かれるが、上部に行きたいので「天空の石広場」にむかうことにする。すばらしいアクセス道路で気持ちが良い。途中で山際に「御巣鷹山トンネル」の表示を付けたトンネルがあり、「すぐに大黒沢第2橋」を渡る。更に進むと展望が開けて真新しいダムサイトに到着した。駐車場には一台の車もなくひっそりとしていた。ダムの堰堤から三川の下流を見ると、その先には上部に雪をいただいた八ヶ岳が朝の青空に映し出されていた。しかし、今日はこのダムが目的ではない。このダム湖は記載されていないが、地形図を取り出して石仏に通じるルートを検討する。どうやら、先ほどの「御巣鷹山トンネル」のあたりから大黒沢に沿って登るのが良さそうだと思われる。そこで先ほどのトンネルまで戻ることにした。


御巣鷹山トンネル林道入口
林道終点の橋飯場の跡かな?



 トンネルの手前の空地に軽トラックを駐車して支度にとりかかる。御巣鷹山トンネル入口なゲートによって封鎖されていた。しかし、手の届くところには「トンネル照明ボタン歩行者、二輪車で通行の際押してください」との表示とスイッチが設置してあった。そのうちにこのトンネルは一般に開放されることがあるのかも知れない。トンネルの前を通過して、大黒沢第2橋を渡る手前に沢に沿って登る林道がある。この林道入口にもチェーンで通行止がなされていた。「専用林道のため一般車通行を禁止」となっている。あまり利用されたことがないのだろう、枯れた下草も残っており、のり面が崩れているところもある。出来るならば、この道が上部まで続いていることを祈りたいが、そうも行かないだろう。案の定10分程度歩くと、この道は大黒沢を渡る木製の橋を渡ったところで行き止まりとなった。
さてここから、どのルートを取るべきか考えた。踏み跡を探してみると、どうやら沢沿いに踏み跡があるのが確認できた。獣道なのかどうかは不明だが、明らかに道となっているようだ。沢の右側に沿って登るが、これは明らかに人が歩いた道である。それが証拠にちょっとした広場状のところで、朽ち果てたドラム缶が転がっていた。その傍には索道ワイヤーが残置されているところを見ると、ここは林道関係の飯場があったのかも知れない。このあたりから踏みあとが細くなってきたが、細くなった流れの沢に沿って忠実に登っていく。

 さしたる危険なところもなく登ると、沢が二分する。どちらが本流なのか解らぬほど二つの沢は同じ沢床を共有していた。上部を透かしてみると、どうやら左の沢の方が稜線に近そうだ。そこで左の沢をだ取ることにするが、倒木が多くなり、ちょっと歩きにくい。そして沢の流れがなくなったところは広場状になっていた。どうやら大黒沢の源頭はこのあたりのようだ。ここから先は深い笹藪が立ちはだかっていた。この広場上の場所からは左の獣道を辿ることにした。


笹藪の中のケモノ道会所から見る



 獣道は不思議な道で、途中まで明瞭な道と思って安心すると、突然道は途絶えて消えてしまうのである。そこでその周辺の獣道を再び探すと言ったことを繰り返すのである。笹は身長180センチの私を越えるもので、目の前の視界を遮る程だ。はじめはストックを持ってきたのだが、邪魔なのでザックに入れた。しかし、ザックからはみ出たストックは倒木や枝に引っかかって、実に煩わしいものとなった。それにクマ対策で持ってきたピッケルも邪魔になったしまった。

 なんとか、薮をかき分けると念願の国境稜線に到着した。登ってきた方向を振り返れば、ルートは密薮に隠れて何も解らない。下山のことを考えて、ここには巻紙のマーキングを念入りに取り付けておいた。しかし、稜線の上州側もひどい薮で展望を得ることは出来なかった。ここから石仏に向かって国境を辿ることにする。国境稜線はひどい密薮で忠実に稜線を辿ることは難しい。ハッキリとした獣道をつないで歩いていくだけだ。笹藪をかき分けて顕著なピークに辿り着いた。ここは笹がなくなり、大きなツガの樹が数本立っていた。標高1700mでエアリアマップによれば、ここが会所の山頂である。読み方もわからないが、素直に「カイショ」と読んで良いのだろう。林業関係者の落ち合う場所と考えれば、会所と言う地名も納得できる。この山頂からは、石仏は見えないが、その手前のピークがやけに立派に見える。

 会所で菓子パンをひとつ頬張ってから出発だ。ところが、いきなりもの凄い密薮になった。背丈を越える笹は獣道を利用しなくてはとても歩けない。会所から一旦鞍部に行けば地形図には破線の道があるはずだ。しかし、その期待は見事に裏切られた。道どころか獣道も見あたらないのである。しかたなく、この密薮の中を今度は登ることにした。今日は出来れば石仏と舟留の両方のピークを登ろうとしたのだが、2時間近く出遅れたことと、この笹藪の状態ではこの計画は果たせそうにない。ともかくひたすら上部を目指すが、この稜線は帰りに迷いやすそうなので、煩雑にマーキングをしておいた。



石仏山頂を見る


 標高1800m付近になると傾斜もゆるみシャクナゲが現れるようになった。しかし、それもわずかで、笹藪も少なく歩きやすくなった。そのままダラダラと歩くと1850mの肩に出た。ここは刈り払いがされて、展望が一部に開けていた。目指す石仏もわずかな距離を隔てて見えており、一気にそこまで登ることにした。なんとここからは刈り払いのあとがあり、快適に進むことが出来た。何という快適さであろうか、これは高速道路のようにも感じる。所々にマーキングもあり、歩かれていることが容易に想像できた。標高1850mの肩から20分ほどで刈り払いの進んだ石仏の山頂に到着することが出来た。

 そこからの展望は素晴らしいものがあった。両神山から国師ヶ岳、金峰山にいたる峰々が青空に眩しい。目を転ずれば煙たなびく浅間山、その奥に白くなった白根山を見ることも出来た。山名の石仏は見られなかったが、三等三角点が鎮座していた。今日の目的のひとつであるので、この山頂で手を合わせて思うことを祈った。



石仏山頂から見る浅間山方面
国師ヶ岳、金峰山の山並み



食事を済ませて、なんだかんだと1時間近くも滞在してしまった。この頃にはすっかり舟留のピークは諦めていた。ともかく時間も正午に近いので下山を開始することにした。ところが、1850mのピークを過ぎて、1800mの地点から下降するところを間違って詩まった。どうも様子がおかしいのでGPSで確認すると、明らかに登ったときのルートを200mほど右にずれていたのだ。ここで軌道修正をしたのだが、思わぬ発見となった。それは軌道修正したのだが、そこがちょうど凹状になっており、そこは唐松の植林地となっており、笹が全くないのである。難なく会所の下の鞍部に到達してしまった。これを知っていれば簡単に登れたのに残念である。そんなわけで思わぬ発見で早い時間に国境稜線の下降地点に着いたので、ちょっとだけ舟留方面に向かって偵察をしておくことにした。

 ところが、ここからも実にいやらしい密薮となった。帰りのことを考えて、巻紙を煩雑に付けておくことにした。そうしないと迷うことは必至と思われた。安易に踏み込まない方が良いことは確かである。この山域の難しさを思った。やがて顕著なピークに到達、地形図上の1790mの等高線に囲まれた場所だ。そこは展望が開けて八ヶ岳の方角が見えていた。白く輝く赤岳、横岳、硫黄岳が見事だ。そしてさらに先には舟留、大蛇倉山が連なって見えていた。また、群馬県側を覗いてみると、すぐそこまで林道が延びてきていた。開発はすぐそこまで来ているようだ。ここが秘境でなくなる日はそう遠くはあるまい。時間は13時30分ここで下山することにした。


1790mの岩峰舟留方面を見る





**南相木ダム散策**

 下山したが、時間も早いので南相木ダム(奥三川湖)の周囲を散策することにする。ここをベースにすれば、いろんな山に登れそうだからだ。周囲は5.5kmで、車はもちろん自転車も通行止めである。東屋、トイレ、ベンチも設置されており、充分に楽しめる場所であった。完成して1年であり、知られていないためか汚れもなく綺麗だった。このままの姿が維持されるように祈りたい。



案内板
堤体から見る八ヶ岳
堤体下のオブジェ
散策路中の大蛇倉トンネル
環の広場は大きなタイヤがシンボル
奥三川湖から舟留方面
大蛇倉山方面




この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)



御巣鷹山トンネル08:06----08:16林道終点----08:36沢分岐----08:45水源点----08:56国境稜線----09:11会所09:19----10:53石仏11:44----12:30会所----13:141790m峰13:33----13:52下降点----14:20御巣鷹山トンネル


天空の石広場14:32----14:35大蛇倉トンネル----14:49北の広場----14:59ダム湖最上部----15:39環の広場----15:48天空の石広場