紅葉の岩稜を辿る「赤岩尾根」から「八丁尾根(両神山)」



八丁峠付近から見る赤岩尾根



赤岩岳(あかいわだけ) 標高1520m 群馬県多野郡・埼玉県秩父市/両神山(りょうかみさん)標高1723m 埼玉県秩父市





かねてから上武国境の赤岩尾根を歩いてみたいと思っていた。しかし、エアリアマップなどのガイドを見ると、熟達者向け、ザイルが必要と言う事が記載されている。まして、八丁峠には赤岩尾根方面は立ち入り禁止となっている。しかし、最近のネットの記録を見ると、踏み跡もハッキリとして比較的容易に歩くことが出来るとの記載が多くなっている。そこで、赤岩尾根だけでは物足りない気がするので、八丁峠からさらに八丁尾根を辿って両神山に登ろうと計画を立てた。今回も登山口と下山口が離れていることから、職場の同僚Tさんと車を分散して配置する事にした。Tさんとは昨年からこの付近を歩いており、今回の山行を達成できれば上武国境の核心部を繋いで歩いたことになる。それを実行する時期はかねてから紅葉の時期と約束していた。


10月31日(土)

八丁隧道を過ぎてしばらく過ぎた所にある落合橋の付近には、広い駐車余地がありここに私の軽トラックを駐車した。荷物をTさんの車に積み込んで、小倉沢集落を目指す。かつて大ナゲシに登ったことがあるので、登山口はすぐにわかると思っていたら、なんとそれがわからずに通過してしまった。道を戻って登山口を探す羽目になってしまった。なんだかんだと二人で探しながら戻ると、小倉沢集落の入り口を何とか発見することが出来た。かつての鉱山社宅集落は今は閉鎖されて、入り口には鎖が渡されて立ち入り禁止となっている。すでに活気が無くなった集落であり、これが入り口がわからなかった原因のひとつである。適当な駐車余地に車を止めて支度を整える。すると帽子を忘れていることに気がついた。Tさんは準備よろしくヘルメットを装着している。そんなわけで、さすがに何も被らないのはまずい。たしか軽トラックに帽子がある訳なので戻ってもらうことにする。
小倉沢集落入り口の手前に適当な駐車余地があり、あらためてここで支度を整える。


小倉沢集落は日窒鉱山の社宅を中心とした集落だが、いまでは廃集落となって人影は全くない。かつての賑わいを彷彿とさせる保育園や共同浴場そして鉱山事務所が当時のまま残っている。歴史的にも貴重な景観で保存しておきたい懐かしい風景だ。道なりに登っていくと「右 群馬縣上野村に至」「左 赤岩神社入口」と書かれた標柱と平成12年の遭難の事が書かれた表示板が設置してあった。ここから細い傍道を辿って上部に向かって行く。はじめは檜の植林地であったのが、やがて広葉樹の雑木林となった。振り返れば対峙する両神山の上部から朝日が昇り周囲はすっかりと明るくなった。


赤岩峠には歩き始めて約一時間で到着した。Tさんとは今年の5月に宗四郎山まで縦走するために登ってきている。その時は新緑が眩しかったが、いまは紅葉の時期も既に過ぎ去った感がある。ともかくザックを下ろして休憩することにする。石祠の神に飴を供えて山行の無事を祈念した。すると二人のパーティーが登ってきた。ロープを持ちヘルメットを被りいかにも岩登りをすると言った出で立ちである。ましてそのうちの一人は「攀」と書かれたTシャツを着ていた。どこまで行くのか聞いてみると、八丁峠までという答えが返ってきた。「それなら一緒だ。いつでも追い越してください」そう言い残して我々が最初に赤岩岳に向かって登り始めた。それと同時に単独行の男性が赤岩峠に着いたが挨拶のみで先に進んだ。



小倉沢集落

赤岩岳に朝日が当たる

赤岩峠にもうすぐ

赤岩峠



赤岩岳は直登は出来ないので、基部を一旦北に巻いてから岩稜を登りあげる。岩稜はそれほどの困難はなく進むことが出来る。その岩場から見降ろす大ナゲシに鋭峰は見ごたえがある。この岩場を抜ければ再び広葉樹の林となり普通のハイキングコースとなる。そしてひと登りすれば赤岩岳の山頂だ。遠くから見るととても登れないような岩に囲まれたピークでありながら意外と簡単に登れてしまう。山頂からの展望は西側に開けているがそれ以外は木々に遮られて見る事は出来ない。ここで後続者の到着を待っていると、二人組ではなくその後から来た単独行者が山頂に到着した。するとあの二人組は先に出発したのに、ここに居ないので不思議がっている。ほんとにどこを登っているのか興味がある。ひょっとすると正面壁を登っているのかなと思い耳を澄ませたが、それらしき音は聞こえてこなかった。単独行者は大ナゲシと赤岩岳を登って帰るという。それならば、大ナゲシを先に登って赤岩尾根を辿ったほうがいいと思った。


赤岩岳から先は私にとってもはじめて歩くだけに不安と期待でワクワクする。慎重にルートを確認してからTさんを先頭にして歩き始める踏み跡はしっかりしており、テープの目印もある事から落ち着いて歩けばルートを外れる事はなさそうだ。しばらくは稜線沿いに歩き岩場を超えて行く顕著なピークで直進する場所と下降する道に分かれる。慎重に直進して見るとどうも踏み跡が薄い。こんどは下降する道を偵察するとテープの目印がそこにあった。やはり迷ったら慎重にルートを探さなくてはならないと痛感する。さて道は明瞭にどんどんと続いている。さらに顕著なピークをふたつ越えると最大の難所1583mのピークが姿を見せた。見るからに厳しそうにその岩壁は太陽の光を照り返している。しかし、その岩壁は鉛色のような色に見える事から冷たくも感じる。はたしてあの岩壁を登ることが出来るのだろうか。Tさんはそんな事は気にもかけないようにどんどんと進んで行き、その基部に取り憑かれたように進んで行った。



赤岩峠から赤岩岳

赤岩岳への登り

赤岩岳から小倉沢集落

赤岩岳山頂



この1583m峰は南側に回りこんでから登って行く事になる。ところが、その基部に取りつくにはいやらしい壁をトラバースしなくてはならない。トラバースした先には明瞭な踏み跡がある事から、どうしてもそこまで行くしかない。ここだけはロープが欲しいと痛感した。Tさんは立ち木に飛びついて難なくそこを通過してしまった。わたしはそんなに簡単に通過することが出来ないで躊躇してしまった。おかしいぞ、Tさんよりも岩場には強いわけなのにどうしたことだ。自問自答しながらTさんが飛びついた立ち木に同じように飛びついた。やっとの思いで立ち木に身体を預けて、その勢いで先に飛び移った。しかし、こんなにバランスが悪くなったのだろうか。、納得行かない体力の衰えがとても情けなかった。


さてこの先はほぼ直線的に上部に登って行くことになる。ここでにはィックスしたトラロープが下がっている。Tさんが登りきるのを待って、自分もトラロープを掴んで見る。なんとも頼りない感じがするが、これに命を預けなければとても登れそうに無い。引っ張って見ると私の体重でロープが伸びるので、なんとも心もとない。それでも思い切り掴んで身体を持ち上げようとすると、今度は自分の腕力のひ弱さに情けなくなるばかりだ。なんと身体を持ち上げられないのだ。つい一ヶ月ほど前に20キロ超のザックを背負い、荒沢岳の鎖場を登った自身が消えそうになった。このロープの下がった場所を登りきると、次のロープは数メートル横に設置してある。そのロープに掴まるには岩場をトラバースしなくてはならない。その岩場でTさんが貼りついている。身動き出来ないので、ちょっとヤバイ感じがする。それでも少しずつ進んで行きなんとかロープに掴まる事が出来た。私はそのロープの末端を投げてもらって、それに掴まり難なくTさんが苦しんだ場所を登ることが出来た。ここはほんとに苦しい場所であることは確かだった。

苦労してたどり着いた1583m峰は展望も無く感慨にふける場所ではなかった。ちょっと立ち止まっただけで、すぐに先に進む事にする。たいした困難も無くどんどんと進んで行く。P4とP3は意識することなく通過してしまったようだ。途中にあった小キレットが印象に残る程度であった。途中で若い単独後者に出会った。テンガロンハットとゴム長靴が印象的なスタイルで、ここで初めて人に出会ったと言う。それにしても特徴あるスタイルなので、Tさんとこの先のルートはそれほどでは無いと、妙な確信を持った。さて次はP2であるがその基部にはチムニーがありやはりトラロープが下がっている。これに掴まり狭いチムニーを登るとそこは大展望が広がっていた。進む方向にはP1と両神山、振り返れば辿ってきた岩稜の赤岩岳方面が秋の日差しの中に連なって見えた。P2にはこの赤岩尾根で唯一標識が立ち木に付けられていた。ここでちょっとした食事を取り休憩とした。




急峻な1583m峰

1583m峰に登る

小キレットを跨ぐ

P3の先から1583m峰と赤岩岳を振り返る



次はP1だが、事前の情報のとおり基部から南の明瞭な踏み跡を辿ると、そのままP1をスルーしてしまう。注意深く進んで行くと赤布とシュリンゲの結んである枝がある。その場所からP1は直登する事にする。遠望していたときは登れるだろうかと考えていたが、取りついて見ると難なくP1へは登ることが出来たので、ちょっと拍子抜けの感じがする。
P1の山頂もP2に勝るとも劣らないてんぼうが広がっていた。むしろP2よりも素晴らしいかもしれない。なぜなら、これから進んで行く両神山が対峙し、その美しさを楽しむだけでも価値がある。Tさんとはしゃぎながらハイテンションでその展望のすばらしさを言葉に出して褒め称えた。


P1からの下降は古い梯子があったり番線が引いてあったりそれなりの整備がされた居たようだ。なんなく下降してさらに進んで行くと山の神の小さな社があった。赤岩峠で供えたようにここでも飴玉を供えてここまでの無事を感謝した。さてここから、明瞭な道が下方に続いている。ここでわたしが概念図を見て、先を行くTさんを止めた。どうも下降するのではなくこのまま稜線を進むべきではないかと伝えた。たしかに踏み跡もあるようだし、間違いないと確信した。そこでピークをふたつほど越えて歩いて行くと、踏み跡が突然無くなってしまった。おかしい、初めてGPSを取り出して確認するとまったくちがうところに来ているようだ。やはりあの社のところを下降するべきだったのだ。しかたない、辿った道を引き返すのも悔しいので、八丁峠を目指して落ち葉の斜面をトラバースしながら歩いて行った。



P2手前のチムニー

P2山頂

P2から見るP1と両神山


P1から赤岩尾根を振り返る

P1から俯瞰

P1山頂


山の神

迷ったあと八丁峠へトラバース



八丁峠は十字路になっておりそれぞれ八丁隋道、上落合橋、両神山、そして赤岩尾根へ続いている。しかし、赤岩
尾根へのルートには「この先危険 立入禁止」の標識が設置されている。赤岩岳周辺にはそんな文字が無かったので妙な感じではある。ともかくルートミスした事もあり、近くの展望台にあるベンチで休む事にする。歩き始めて5時間なのに疲労感が激しい。やはり岩場を歩くというのは疲れるということなのだろう。Tさんとベンチに腰掛けてここまで無事に歩いてこられた事を称えあった。


さて、八丁峠で10分ほど休憩してから両神山に向かって歩き出す。するとすぐに下山してくる登山者に出会った。聞けば連れの男性(かなりの年齢)が妙義山に登るための練習で来たが、あまりにもきついので引き返してきたと言う。たしかに連れの男性は疲れた様子で喋るのも嫌だという様子だった。さていよいよ八丁峠の登りが始まる。重い鎖を持つと今までのトラロープと違ってしっかりしているので安心感がある。まあ、ここのルートの鎖場は鎖にほとんど掴まらなくとも登ることが出来る。鎖は下降のときに使う程度だ。それだけホールドがしっかりしているのとルートの選定がうまくいっているのだろう。この八丁尾根を登り始めたころからガスが次第に多くなり、歩いてきた赤岩尾根や両神山山頂は展望が無くなっている。残念だが、雨に降られるよりはいいだろう。さすがに八丁尾根で登山者にすれ違うことが多くなってきた。その中には途中で断念して引き返してくる人もあるようだった。行蔵峠は露土となり峠と言うよりもピークのような感じがするところだった。ここでザックを降ろして一休みで、疲れが出てきていることは間違いなさそうだ。

西岳手前の鎖場では賑やかな女性登山者、単独行の男性など数名とすれ違った。この時は鎖場の順番待ちで休む事が出来たので良かった。そして西岳でも休憩する事になり疲労もピークに近づいてきた。ゼリー飲料とアンパンでエネルギー補給してから八丁尾根最大の難所東岳の登りに向かう事にする。一旦鞍部に下降してから斜度のある岩場を登り返す。かなりきついので息が荒くなるのがわかる。すると上部でかわいい声がする。追いついて見ると、小学生の女の子が、鎖に掴まって登っているところだ。下で心配そうに見ているお母さんをよそに、とてもよいバランスで岩場を登って行く。お母さんがにっこりして「すみませんね」と言う。われわれは良い口実が出来たと内心喜んでその下で待つことにする。なんでも両神山は子供のリクエストで来ていると言う。こりゃ末恐ろしい子供たちだと思った。子供とお母さんはすぐに登りきりわれわれオジサン組はヨレヨレで岩場に取りついた。追いかけるように進んで行くとすぐに東岳山頂に辿りついた。あの親子はすでに山頂で腰を降ろしていた。みればおじいちゃん、小学生のお姉さん、弟、ご両親の4人パーティーで、京都から来たおじいさんはザイルを纏めていた。その姿は実に釈然としており、こりゃただものではないと直感できた。山頂にはベンチがあり数人の登山者が休んでいたがみな下山して行く人たちだった。

Tさんはこの八丁尾根は3回、私は1回登っているが、いずれもこれから先は楽勝と印象がある。たしかに細かなアップダウンはあるが歩き始めて見ると過去の記憶と違って長い感じがする。あるいても、あるいても山頂に着かないと思った。落葉してしまった道を疲れたオジサンたちはトボトボト歩いて行った。山頂の手前で左に下降してから登り返す。この印象も二人には無かった。鎖の付いた斜面を登り返すとそこが山頂だった。東岳から40分もかかってしまった。深田百名山の両神山はさすがに賑わっている。狭い山頂は座る場所も限られているが、なんとか場所を確保して二人で崩れるように座り込んだ。さて、ここで大休止、持参して来たりんごの皮をむき頬張る。Tさんはラフランスとグレープフルーツだ。そのグレープフルーツを貰って食べると、その酸っぱさに思わず震えてしまった。どうやらアンパンなどの甘い物を食べていたから余計に酸っぱさが際立ったに違いない。そのうちにあの小学生一家が山頂に着いた。板チョコを食べる仕草がなんともかわいい。それにしても凄い人たちだと感心する。このあとは清滝小屋に泊まるという。子供は山のバッチを買うのを楽しみにしていると言う。



行蔵峠から見る赤岩尾根

行蔵峠からの下り

東岳から見る岩峰

両神山山頂



山頂滞在の30分はあっという間に過ぎてしまった。さて下山に取り掛かろう。時刻は14時半になろうとしている。この時間になると登山者は居なくなり静かになる。男女二人のパーティーを残して山頂を発った。山頂から西に少し進み、通せんぼされたロープをくぐって明瞭な道を下降する。するとすぐに標識が現れる。直進は「大峠」「中双里」とあり左に下降する道は「作業道」と書いてある。その先はさらにロープが張られ、「この先危険なため通行止」の標識がある。これが落合橋に通じる道である。かつて滑落事故が頻発し閉鎖されたと言う道である。しかし、通行が多いらしく踏み跡は明瞭だった。もともと道なんて当てにしていないから問題ない、躊躇する事も無くこの踏み跡に入り込んだ。


踏み跡は途切れることなく続いて行くので、これなら八丁尾根を下降するよりも楽だと思った。

ところが小さな沢を何度も越すところがある。足がかりも無く、滑落したらそれこそ下までノンストップだ。
こんなところは慎重に進むが、降雨時、凍結時に渡る事は不可能ではないかと思う。
いやこのルートは通行するべきではないと思う。
たしかに通行止めの標識は伊達ではないようだ。




ロープを潜る

作業道の標識

再びロープを潜る

小さなナメ滝をいくつも渡る

一部ロープが渡してある

落合橋に駐車した車



山頂から約一時間半かかって落合橋にたどり着いたときは疲労感にあふれていた。しかし、充実した山行を振り返りTさんと握手して称えあった。

帰りは上野村の「ヴィラせせらぎ」に立ち寄って汗を流した。


06:20小倉沢集落--(1.04)--07:24赤岩峠07:36--(.20)--07:56赤岩岳08:05--(.50)--08:55 1583m--(1.25)--10:20 P210:33--(.14)--10:47 P1 10:52--(.18)--11:10山の神--(.10)--11:20戻る--(.10)--11:30八丁峠11:40--(.47)--12:27西岳12:35--(.41)--13:16東岳13:20--(.40)--13:56両神山14:25--(1.24)--15:49落合橋




GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)