二度上峠から登る「鼻曲山」
登山日1994年12月24日


鼻曲山(はなまがりやま)標高1655m 群馬県吾妻郡・長野県北佐久郡/氷妻山(ひづまやま)標高1467m 群馬県吾妻郡

 鼻曲山は山登りを始めた頃、頻繁に通った山だった。軽井沢の長日向や熊野神社から登ったり、霧積温泉からも登ったりした。霧積温泉では仲間と宴会をして、酔った勢いで鍋の中のものを投げあったり、挙げ句の果てに外に出て、雪を持ち込んで投げたりした。当然、宿の主人には「もう二度と来ないでくれ」と言われた思い出がある。ただ鼻曲山へは二度上峠から登った事がないので、今回はそのコースを辿ってみた。


 12月24日(土)

 二度上峠の道の南にある高台の空地に車を止めた。まわりはうっすらと雪が積もっていたので、とりあえず雪道歩きの用意をして歩きだした。今月はこれで二回目の山歩き、年末は雑用に追われて、山に入る機会がなかなか作れない。そんなときに限って、ここのところ週末は結構天気に恵まれている。そんなものだから、まわりの山を平地から眺めてため息をついていた。

 登山道は笹原の道で、思ったよりも歩きやすい。それは笹が刈払われて、整備がされているからかもしれない。一部のガイドブックには、地図とコンパスの世界と書かれてあったが、全くそんな事は感じられない素晴らしい登山道だ。木の葉が落ちきった木々の間から見る浅間山は、澄み切った空気の中で堂々として、朝の陽を受けて輝いていた。

 10分程歩くと獅子岩の基部に着いた、ここには錆び付いた標識があり、「鼻曲山3.1km」と記されていた。獅子岩の上部にも道が伸びていたが、無理をしないでそのまま基部を回り込んで進んだ。

 今日は山登りに際して、シャツとトレッキングパンツを新調した。トレッキングパンツは自分で裾上げを行うという、こだわりでだいぶ裁縫の腕も上がった(?)。それにどうも視力が落ちたので、眼鏡も新調した。中身は新調出来ぬが、外見だけは何とか新しくなった。しかしいずれにしても山の道具は何と高いのだろう。

 更に小さなピークを二つ巻くと、さしたる勾配もなく氷妻山の山頂に着いた。山頂標識がなければ通り過ぎてしまう、道の通過点の趣だ。山頂には三等三角点とベンチがあり雑木は切り払われていた。K.A氏の手製の山頂標識は健在で、まだいたずらもされずに、綺麗なままだった。M大の青い標識を付けた木が倒れて、ベンチの脇に転がっていたところを見ると、記念撮影には必ずこの標識は写し込まれるだろう。K.A氏の標識には「氷妻山」と書かれており、2.5万の1の地形図には、たしかにそのようになっていると思う。しかし私の5万分の1の地形図では日妻山となっているので、なにか混乱してしまう。道路地図やガイドブックなどでも、日妻山となっている。書き込みを見るとK.A氏も悩んだようである。ともかくどちらが、正式な名前になるのか楽しみだ。

 氷妻山から見ると、鼻曲山はその名前のように巨人の顔と鼻のように見える。想像をたくましくすると、更に東に続く稜線は下半身にも見える。さしづめ角落山辺りは天狗の鼻山と言った方がいいかもしれぬ。この日妻山に続く稜線は、巨人の左腕となるに違いない。

 日妻山からは一旦、L字型に折れて西に向かい、急斜面を潅木につかまりながら、八十メートルほど下った。帰りの急登を考えると憂鬱になるほどの下りだ。鞍部に着くと、今度はなだらかな上りの道になり、雪が道を覆うようになってきた。それでも歩きにくいとは感じない程だ。目の前には終始、鼻曲山が見えており、その大きさが一歩進む毎に大きくなってくるのは、気分的に楽だ。カヤの原を何ヶ所か通過すると、道は傾斜を増してくる。ここで軽アイゼンを装着する事にした。スパッツは必要なさそうなので、今回はザックに入れたままで、ただの荷物となってしまった。

 傍らの雪原を見ると動物の足跡が無数に走っていた。この足跡は小型の動物らしいので、さほどの恐怖心は感じなかった。それを横目に睨みながら、鼻曲山の最後の登りにかかる。雑木林の道は傾斜が強く、かなりきついので、今回はピッケルを持ってこなかった事が悔やまれた。それでもアイゼンが効くのでかなり楽だ。

 喘ぎながら稜線に着くと右には何かのフェンスが設置されて、それに沿うように道がつけられており、この稜線で合流していた。道を東に辿り、鼻曲山の小天狗迄は、数十メートルの距離だった。ここは吹きっさらしのピークで、下からは長日向からの道が合流していた。隣の大天狗は風よけの潅木があるので、そちらで腰を落ち着ける事にした。

 落ち着いて見れば、今日は素晴らしい天候だ。遠く北アルプス、八ヶ岳、南アルプス、富士山と大パノラマが広がっていた。そんな景色を楽しみながらボケーッ!と過ごすのは至福の時だ。しかし一応の決まりで無線機をとりだした。430Mhzを開局してみたが空き周波数がない、そこで1200Mhzに切り替えた。こちらは快適で空き周波数だらけ、CQを出すと7M1HIG/林さんから声がかかった。実に妙高山で一緒に登っただけで、その後音信不通だったので心配だったが、どうやら無事のようで安心した。

 そんな山頂で2時間近く休憩したあと、大展望を惜しむように腰をあげて山頂をあとにした。帰りはしっかり氷妻山でもQSOをして帰った。


「記録」

 二度上峠09:05--(.10)--09:15獅子岩--(.26)--09:41氷妻山--(.32)--10:13アイゼンを装着10:18--(.26)--10:44鼻曲山(大天狗)12:38--(.48)--13:26日妻山14:07--(.27)--14:34二度上峠


                    群馬山岳移動通信/1994/



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