かなり手強い「尾ノ内渓谷」から「両神山」と「天理岳」
                                        登山日2014年5月17日


両神山の前東岳から武甲山を見る


天理岳(てんりだけ)標高1150m 埼玉県秩父郡


天理岳は深田百名山のひとつである両神山の東に位置する山だ。わざわざこの山に登るような酔狂な登山者は希だ。天理岳は両神山に登るためのバリエーションルートである天武将(あまぶしょう)尾根の通過点だからだ。しかもこの天武将尾根は、整備されておらず距離も長い事から敬遠されている。

5月17日(土)

5ヶ月ぶりに会社の同僚のTさんと一緒に登ることにした。Tさんは天武将尾根を歩いた経験があるので、安心してあとを付いていくことにする。しかし、今回は天武将尾根を登るのではなく、別ルートで両神山に登り、下降時に使おうというものだ。

待ち合わせたのは尾ノ内渓谷駐車場だ。ここは冬期には人工で渓谷に水を吹き付けて氷柱を作る観光地として知られている。群馬県は神流町(旧中里村)と県境を分けている埼玉県小鹿野町にあるので、自宅から1時間半ほどで待ち合わせ場所に到着した。Tさんは昨夜から泊まり込みで待機、すでに出発準備を整えていた。

尾ノ内渓谷駐車場からの道は遊歩道が整備されており、クリンソウの栽培地、吊り橋が設置されて観光地そのものだ。新緑はすっかり色を濃くして、吹き渡る風も心地よい。尾ノ内沢に沿ってつけられた道は整備されており、頻繁にマーキングテープがつけられているので煩わしいほどだ。沢には所々残雪が見られ、なぎ倒された立木が道を塞いでいるような場所もある。今冬の大雪の影響は甚大な被害をもたらし、いまだに爪痕が深く残っている。

ルート上には炭焼き窯の跡なども見られ、人と関わりを持っている場所だと言うことが推測される。歩き始めて30分ほどで山ノ神に到着する。小さな祠と幣束の下がった縄が張られている。ここでちょっと立ち止まって休憩とする。

道は整備されているものの次第に傾斜が強くなって来るのが分かる。Tさんは、しきりに地図とコースタイムを見比べて書き込んでいる。どうやら絶好調!といった感じだ。こちらは、慢性化した左足首の痛みと、2週間前に痛めた右ふくらはぎの違和感を心配しながら登るので、なかなか調子が出ない。


遊歩道にはクリンソウ

整備された道を歩き始める

山ノ神


油滝

油滝は白い飛沫をあげているのだが、流れはゆったりとしている感じがする。油滝を高巻きして上部に出ると、沢を離れて斜面を登ることになる。大きな岩が道を塞ぎここも、岩の右側を巻きながら登っていく。この大きな岩は下部に隙間があり、地獄穴と呼ばれているらしい。

あれだけ、しっかりしていた道も、不明瞭になってきた。どうやら、油滝までは遊歩道の扱いなのだろう。ふと下を見ると、単独行の登山者が追いついてきている。追いつかれたら、先に行ってもらおうと考えていたのだが、いつまで経っても追いついてこない。まあ、どこかで我々が道を確認しながら登るのを見ているのだろう。

標高1260m付近で道はさらに不明瞭となった。あれほどあったマーキングテープや赤テープのたぐいは見られない。踏み跡もハッキリしない。偵察で左の尾根に登ったTさんから声が掛かった。どうやら赤テープを見つけたらしい。その声に続くが、あまりの急登に一気に体力が奪われていく。ヤセ尾根上のルートを木に掴まりながら登っていく。

いままで使っていたストックはついに邪魔になり、ザックの中にしまい込んだ。Tさんはヘルメットを被るが、私はヘルメットが苦手なのでザックに入れたままになっている。急登も一息ついて水平方向に道が続くところで一休み。ここからは両神山八丁尾根の一部が見えるが、垂直に覆い被さるように見える。

ルートはそのまま水平方向に進むのだが、岩場の嫌らしいトラバースが待っていた。鎖が設置してあるので不安感はないのだが、疲労している身体では慎重に進まないとやばい。岩場にはユキワリソウが咲いていたが、鑑賞する余裕はなかった。岩場のトラバースを過ぎると今度は急斜面の道になる。ほとんど直線的に登り、場所によっては針金が設置してあったが、針金は滑って掴みづらくあまり役には立たなかった。

この急斜面でついに爆弾が破裂してしまった。右足ふくらはぎが痛みだして、思うように歩く事が出来ない。Tさんとの距離は開いていくが、追いつくこともままならない。幸いなことに?急斜面なので木の根に掴まりながら歩くので、足に負担が掛かりにくい。ほとんど両手で登っていくといった感じだ。

そのうち、Tさんから声が掛かる。どうやら稜線に着いたようだ。
あえぎながらその声のする場所にやっとの事で登り詰めた。



地獄穴

岩場のトラバース
ユキワリソウ

斜面を登る

明るい日射しの降り注ぐ稜線には龍頭神社奥社の祠があり二人の女性登山者が休んでいた。すこしばかり休憩して稜線を進むことにする。ところが今度は左右の太ももが攣ってしまった。水分をとってストレッチをするとなんとか痛みは和らいだ。しかし、こうなると両足ともボロボロに近い状況になっってしまった。稜線からは赤岩尾根がよく見える。4年前にやはりTさんと赤岩尾根を縦走し、そのまま八丁尾根を歩いたことが懐かしい。あのときはそれほど困難は感じなかった。やはり、体力は低下しているのだろう。

八丁尾根のアップダウンの道は攣ってしまった足にはかなりの負担となってしまった。東岳を過ぎる頃にはすでに限界に近かった。思わずTさんに「休みましょう」と声を掛けた。

そこで、時刻は10時半だが昼食を兼ねて、金山沢ノ頭で休憩することにした。Tさんは500cc、私は350ccのビールで乾杯だ。この後の岩場の下降が気になるが、足が攣ってしまったからには、水分補給と休養が必要だ。(ビールは水分補給にはならないが)たっぷり30分の休憩をとったおかげで、なんとか太ももは回復してきた。こうなればゆっくりとはしていられない。



龍頭神社奥社

八丁尾根を進む

八丁尾根

天武将尾根入り口

八丁尾根から赤岩尾根を見る

天武将尾根の下降起点は「前東岳」にある。Tさんは以前来たことがあるので、難なくルートに案内してくれたが、「前東岳」のピークはルートから数メートル離れているので分かりにくい。注意していなければ通過してしまうだろう。そこには「この先天理岳方面遭難事故多発登山道未整備のため通行は自己責任で!」と書いてある。つまり通行禁止ではないようだ。トラロープの脇を通過して一歩を踏み出す。

わずかに進むと、目の前に展望が広がった。なんと言っても近くに屹立して聳える「大キギ」の岩峰が目に付く。いつかは登りたいと思うが、それまで年齢が待っていてくれるかが問題だ。その下の「小キギ」はとても登れる雰囲気はない。削り取られた山肌が目立つ武甲山はすぐに分かるが、他の山は知識がないのでよく分からない。秩父市の町並みも山間にまとまって裸地のように見えている。

さて、これからはとんでもない下降の連続となる。踏み跡はそれなりなのだが、赤テープも疎らで鎖などはもちろん無い。起点から30分ほど下降した標高1530m付近は体勢を反転して後ろ向きに降りた。これだけでかなりの疲労を感じた。そこからわずかに進んだ、標高1510mのピークは展望もよく一休み。ここで3人のパーテーとすれ違う。この地域はかなり詳しいらしく、遠望する浅間山で話が盛り上がった。どうやら我々とは逆コースを辿るというが、かなりの体力揃いと見えた。

天武将尾根は展望もなくひたすらピークを越えて行くだけで、変化がない。それだけ単調な道が続くので精神的には疲労が重なる。GPSを見てもなかなか進まないので余計にいらいらがつのってしまう。

標高1145mの「禿岩」手前で困難な岩場が現れた。
どうしようかと思案したが、ここも経験者のTさんの記憶でなんとか乗り切り先に進んだ。枯れたスズタケの薮を抜けて息も絶え絶えになりながら急登を登り切るとそこが天理岳の山頂だった。枯れ木に山頂標識があり、朽ち果てそうな祠が設置してあった。疲労困憊でここで大休止だ。展望はそれほどではなく。振り返ると両神山が、木々の間から二子山の特徴ある岩壁が見えるだけだ。

天理岳山頂の地形図の表記はなんとなく実際と違うようだ。1150mの等高線に囲まれた平坦な場所を想像するのだが、実際には両側が切れ落ちた地形に感じる。GPSの標高でも1170mを表示しているので、修正が必要ではないだろうか。
(しかし、とりあえず地形図に従って1150mの標高で記載した)

Tさんがグレープフルーツを振る舞ってくれたので、生き返った感じがした。それにしてもこの天武将尾根はなんと厳しいのだろう。幸い太もも、ふくらはぎはなんとか持ちこたえているので助かっている。



大キギと右下に小キギ


大キギ(小キギは鋭峰と感じない)

ヤセ尾根を歩く

天理岳山頂

天理岳山頂の祠


天理岳山頂から両神山を振り返る

天理岳山頂から二子山

たっぷり30分休憩して天理岳を離れることにする。
なんとなく踏み跡に沿って20mほど下降をはじめたが、なんとなく怪しい。GPSで確認すると方向がずれている。元に戻って事なきを得たが、ここは絶対に迷うと思う場所だった。

道は間違っていなかったが、こんどはとんでもない急下降がはじまった。疲れているのか何度もヤセ尾根で落石を発生してしまった。太陽が次第に傾いているのだろう。影が長くなっていくのが感じられる。時間が経っているのに標高がなかなか下がらないのは、それだけスピードが出せない下降なのだ。ほとんど半べそ状態で天理岳から下降すること1時間で植林地に到着。もうこれで心配はいらないので、休憩する。

やがて作業林道が現れ、適当にカーブを短縮してどんどん下降する。鉄塔を起点に、こんどは巡視路を辿って車道に飛び出した。

体調が完全ではなかったとはいえ、このルートは安易に踏み込むことは避けたい道だった。まして天候が悪い場合は迷わずに中止した方が良いだろう。今回は経験者のTさんに助けられた山行となった。


ヤセ尾根を下降する

ミツバツツジが満開

緊張する急下降から開放されて作業林道を歩く

車道脇にある鉄塔巡視路の入り口


尾ノ内渓谷駐車場06:01--(.34)--06:33山ノ神06:35--(1.16)--07:51油滝--(1.50)--09;41龍頭神社奥社--(.32)--10:13東岳--(.14)--10:27金山沢ノ頭11:04--(.05)--11:09前東岳--(1.09)--12:18スズノ頭--(1.06)--13:24天理岳14:02--(1.05)--15:07植林地15:21--(.13)--15:34鉄塔245号--(.13)--15:47車道--(.04)--15:51駐車場

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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