快晴の中で楽しい?ラッセル「天狗山(南佐久郡)」   登山日2008年3月8日




男山の向こうに八ヶ岳


天狗山(てんぐやま) 標高1882m 長野県南佐久郡/垣越山 標高1797m 長野県南佐久郡



南相木村・川上村にまたがる天狗山は目立つ山だ。
広大な農地が多いこのあたりの風景の中に、屹立している様は周囲の2000mを越える山に囲まれながらも、堂々として風格さえ感じる。いつか登ってみたいと思いながら、なかなかその機会がなかった。

3月8日(土)

天狗山の登山口は馬越峠で、この峠から無雪期なら1時間ちょっとで山頂に立てるらしい。そこで、南相木ダム周辺の山で通い慣れた、南相木村立原地区から向かうことにした。それにここからならば、お気に入りの「滝見の湯」があるから、帰路に立ち寄って汗を流そうなんて考えた。今年は雪が多いのだろうか、小海大橋を過ぎると、路肩の雪が多くなり、立原地区にはいると、雪の壁が見えるようになった。そのまま進んで、立原高原キャンプ場に着くと、なんと馬越峠に通じる道は「冬季全面通行止め」で、全く通れる状態になかった。困った!!!そばにはイラストでこのキャンプ場の案内板があった。あてになるようなものではないが、このキャンプ場から天狗山に向かう道があるようだ。地形図を確認するが、そのような道はないので不安になる。キャンプ場の中に続く道を見ると、除雪がされており延々と続いているようである。それではと、この道を行けるところまで行ってみることにした。

除雪はされているものの、凍結しているものだから、慎重に道を走行していくと鎖が張られ施錠されたゲートがあった。道はその先に続き除雪も進んでいるようだった。しかし、この中に入ることは出来ないので、手前に駐車しようかと思ったがその余地がない。しかたなくキャンプ場の入口まで戻ることにした。キャンプ場の入口には大きな駐車場があるが、除雪がされていないので、イラスト看板のところに駐車して出かけることにする。

車の中を引っかき回して道具をザックに詰め込み、出発したのは7時を回ってしまった。凍結した道をトボトボとキャンプ場の中を歩いていく。雪が積もっているのでよく解らないが、遊具やコテージが整備されて立派な施設であることがわかる。ほどなく、先程確認しておいた鎖のゲートに到着した。天狗山へ通じるような標識はないが、このまま行けば天狗山に近づくことが出来るので、何とかなるだろうと思ってゲートを潜って中に入った。


4月11日まで全面通行止めイラストの案内板
キャンプ場の駐車場鎖のゲート



道は南に向かって進んでいく、このまま行けば通行止めの、あの県道に通じるのかとも思った。頭の中にはあのキャンプ場のイラストマップが入っているものだから、まことにたちが悪い。そのうちに、道は北に向かう道との分岐点となった。ここには除雪用のホイールローダーがあり、まさに除雪工事中のようだ。どちらに行こうか考えたが、どうみても天狗山に向かうのは北に向かう道のようだ。ところが、除雪区間はすぐに終わってしまった。仕方なく引き返して、今度は南に向かう道に入った。この道は、ちょっと下がってから、すぐに九十九折りになって天狗山に連なる稜線に向かって進んだ。これなら何とかなりそうだと思って、ちょっとだけ安心した。しかし、この道は地形図に表現されていないのである。これだけ広い道なので、記載されていても不思議はないのだが、最近作られたものなのかも知れない。

快適に除雪された道の歩行を楽しんだが、標高1500m地点でその除雪は終了してしまった。仕方なく持参してきたカンジキ(SK−U)を装着することにした。ストックを突き刺して見ると、積雪は腰のあたりまでで、おおむね100センチ程度だ。カンジキ使用での沈み込みはくるぶしあたりなのでわずかなものだ。もっとも、これは雪の密度に関係するが、携帯性と取り回しを考えると充分満足できる。それでも沈み込みが少ないといっても、歩くのはそれなりに大変で、あっという間に汗が噴き出てくる。今日は快晴なので、気温もかなり上昇していると思われる。

この林道は、九十九折なので距離的に長くなる。まして、道は頭上の見えるところにあるのだ。そこで、ショートカットで斜面を直登してみた。ところが、これがとんでもないアルバイトで、雪は一転して密度が低くなり、膝くらいまで潜ってしまう。それに、ストックでは踏ん張れず、手掛かりがないものだから、なんどか滑ってずり落ちてしまった。ピッケルを取り出してなんとか、それを支点にしてなんとか身体を持ち上げた。これではショートカットなどしなければ良かったと後悔した。林道脇には放置された車があったが、何となく不気味なものである。興味本位でちょっとだけ覗き込んでみたが、何も異変は無いようなので安心した。

その林道も標高1600m地点で終わってしまった。終わったのは仕方ないが、天狗山に通じる標識のたぐいがないのである。GPSと地形図をみても登山道はもちろん、林道も記載がないのである。どうしようかと、林道を戻って周囲を確認したが、それらしきものは見あたらなかった。

再び地形図を確認すると、林道終点から尾根に向かって登り上げて、尾根を辿って天狗山に至る方法が良さそうだ。そこで、林道終点から尾根に向かって歩き出した。灌木が多く、なかなか手強い斜面だ大きな松の木を避けて左から回り込んでいくと、ちょっとだけ傾斜が緩くなった。ここで、大型の動物が歩いたあとのような足跡を発見した。いや、良く見るとこれは、人間が歩いた足跡に間違いない。このトレースは、下の方から続いてきているので、おそらくあのキャンプ場から来ているのだろう。このトレースは、しっかりした意志を持って上部に続いていた。試しにこの道を歩いてみると、ナント歩きやすいことか。今までのツボ足から見ると沈み込みも少なく、まるで山中の舗装路を歩いているようだ。


除雪林道(放置車両がわかるだろうか)
林道終点トレースを見つけた



今歩いてきた林道が木々の隙間を通して見えている。その方向からホイールローダーの音がけたたましく聞こえてきた。道の分岐に置いてあったホイールローダーによる除雪作業が始まったのだろう。この快適なトレースの先には目指す天狗山の岩峰が人を拒むように、姿で覆い被さるように迫っていた。その姿は、雪がへばりつき氷に被われていることから、恐怖心を呼び起こすものだった。トレースはトラバース気味に徐々に高度を上げていく。やがて男山と天狗山を繋ぐ稜線に到着した。トレースを辿り始めてから短時間でこの稜線に到達したことはラッキーだった。稜線では若干の風が吹き抜けていたが、息を切らして登ってきた身体では寒さを感じるどころか爽やかな感じさえする。この稜線からはトレースが消えてしまっていた。おそらくこれは、風で運ばれた雪がトレースを消したためだろう。そのためにちょっとだけツボ足になったが、それほど支障になるほどではなかった。ちょっとした岩場を巻いて稜線を離れて再び稜線に戻ると、そこには標識が乱立していた。なかでも興味深いのは「天狗山は岩場が多く非常に危険です。父兄や引率者のいない小学生の登山をご遠慮ください」と言うものだった。これは誰に対して言っているものなのか?小学生には理解できない文字や言葉があるように思える。ともかくここからは危険な岩場が多いと言うことだけは確かなようだ。そう思ってみれば、見える岸壁は滝が凍り付き、その様は透き通った氷の彫刻のようでもある。このあたりから恐怖心がピークになるのだが、それが早く登りたいと言う気持ちに変わって来るから不思議なものだ。


稜線から天狗山警告
岩壁が見える



岩壁の基部に着くとそこにはロープが下げられていた。ここでカンジキを外して12本爪のアイゼンを装着することにした。ストックはザックにしまい込んで、その代わりとしてピッケルに持ち替えた。どんな岩場が待っているのか興味津々で、眼前のロープをたぐり寄せて僅か2メートルほどの岩場を登りあげた。岩場を登りあげると、そこは灌木帯となっていた。どうやら、道は岩稜の背を登るのではなく、この灌木帯を登るようになっているらしい。ここにもトレースの痕跡があり、それを辿ることで迷うことなく、安全に山頂まで行けそうだ。このトレースを残した登山者はこの山域に精通したものであることは確かで、これがなかったら自分自身でルートを見つけるのは自信がない。灌木帯を登ることで、恐怖心はあまり感じない。灌木が途切れたところで振り返ると、男山の向こうに見える八ヶ岳の白い稜線が筋を引くように青空に描いていた。遠く浅間山は霞んで見えており、春山のような感じを受ける。眼下には北相木村のゴルフ場のコースが雪に覆われ真っ白となっており、その光の反射は眩しさを感じる。高度を上げていくと、はじめは楽勝に思えた岩稜は狭まって馬の背のようになってきた。さらに雪が無くなって、露岩となっている場所は慎重に歩いた。


北相木村のゴルフ場岩稜



辿ってきた林道を見るとホイールローダーによる除雪はかなり進んでおり、今日中に終了してしまうほどのスピードで進んでいた。面白いのは自分が林道に残したツボ足のトレースがハッキリと確認できることだ。ちっぽけな人間の足跡もしっかりと残っていることは感動でもある。「思えば遠くにきたもんだ」こんな歌が口から出てきた。狭い岩稜を登り詰めると天狗山山頂に飛び出すことが出来た。


天狗山山頂はほぼ360度の展望がひらけていた。やはり目立つのは男山とその先に浮かぶ八ヶ岳である。振り返るとそこには眼前まで大きく迫ってくる御座山が印象的だ。それに思い入れがある南相木ダムを取り囲む山々が懐かしい。山頂は平坦で中心には素朴な標識が置かれてあった。おそらくこの下に三角点があるのだろうが、掘り起こす元気はなかった。さらに歩き回ると、Gさんのプレートが山頂のはずれの木に取り付けられていた。いままで頼りにしてきたトレースはここで終了しており、これを残した登山者は山頂到達後に引き返したことが想像された。眼下に見える馬越峠の先には御陵山はいずれは登ってみたい課題の山だ。登るのだったら、車道が通行止めとなるこの時期が静かでいいなあと思った。時刻は11時を過ぎているので、これからどうしようか考えた。馬越峠に下降してから車道を辿って戻るか、あるいは男山に向かって来た道を引き返すかである。男山は時間的に無理だが、ここまで案内されたトレースの起点が知りたいと思った。そこで、男山に向かって天狗山を下降することにした。


御座山御陵山



天狗山を辞して、岩場を慎重に下降して基部に到着。今度はアイゼンを外してから、カンジキを装着。ピッケルからストックに切り替えて、歩き出した。はじめは自分のトレースと辿ったが、その先はトレースが無くなっているので、ツボ足のラッセルが待ちかまえている。稜線の積雪はやはり1メートル程度であるが、密度が低いためか踏み込みはかなりなものだ。焦っても仕方ないので一歩ずつ慎重に登ることにする。下のキャンプ場の方からは正午を告げるチャイムが聞こえてきた。それはかなり長く聞こえており10秒くらいはあったように思える。時間は過ぎるのだが、距離は遅々として進まない。もうこれで男山は諦めるよりほかないようだ。とりあえず、1797メートルのピークだけは行こうと思った。


なんとか、1797メートルのピークには13時前に到着した。ここは点号のない場所で、立木には「垣越山」と書かれた小さな標識が取り付けられていた。ここでザックを放りだして昼食にすることにした。定番のインスタントラーメンであるが、暖かいものは気分的にもホッとする。静かな静かな山頂でのひとときは幸せだった。昼食後、もう少しだけ先に進んでみる。しかし、すぐに岩場があり、尾根が途切れていた。カンジキを外すのも面倒なのでこれが潮時と引き返すことにした。ここからは金峰山の五丈岩、瑞牆山 の横には真っ白な富士山が頭を出しているのが見えた。


垣越山金峰山、瑞牆山の横に富士山

左の表示板が起点



帰りは、垣越山から一気に東の斜面を下降することにした。結果的にはこの選択は良かったのか悪かったのかよくわからない。それはなにしろフカフカの深雪なので、吹きだまりでは腰のあたりまで埋もれての下降となった。これでもしカンジキがなかったら悲惨な目に遭っていたことは間違いない。それにスノーシューだったら、下降できずに後ろ向きでの下降になったに違いない。ともかく往路のトレースにたどり着いたときはホッとした。


その後はトレースを辿りながらどんどん下降していった。このトレースの起点はなんと鎖のゲートがあった場所であった。標識があるのかと探してみたが、それらしきものは発見できなかった。結局、今回のコースは地形図にない林道と登山道を辿ったことになる。


帰りはお気に入りの「滝見の湯」でゆっくりとした。このあたりはまだまだ登っていない山がある。このお気に入りの温泉がまだまだ楽しめそうだ。



キャンプ場入り口07:05----07:14鎖ゲート----07:19分岐----08:57林道終点----09:17登山道----09:39稜線----10:10岩場基部10:15----11:06天狗山山頂11:17----11:45岩場基部11:48----12:44垣越山13:23----13:45引き返す----14:05登山道----14:56キャンプ場



群馬山岳移動通信/2008

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)
トラックデータ

赤線は 往路
青線は 帰路