トートバッグ背負って上信国境を歩く   登山日2008年6月14日



ダン沢の頭から見る草津白根山と横手山


一ツ石(ひとついし)標高1825m 群馬県吾妻郡/小高山(こだかやま)標高1937m群馬県吾妻郡・長野県下高井郡/オツタテの峰(おつたてのみね)標高1930m群馬県吾妻郡・長野県下高井郡/ダン沢ノ頭(だんさわのかしら)標高2040m群馬県吾妻郡・長野県下高井郡/湯ノ沢ノ頭(ゆのさわのかしら)標高2010m群馬県吾妻郡・長野県下高井郡/赤石山(あかいしやま)標高2109m群馬県吾妻郡・長野県下高井郡





上信国境の志賀と野反湖の稜線は、登山道が整備されて歩きやすくなっているとの情報が、ネット上に見られるので梅雨の晴れ間を狙って出かけることにした。


6月14日(土)
群馬の山を長年歩いているが、これほど辺鄙なところも珍しいとびっくりした。それくらい離れたところにある「白根改善学校」を過ぎ、併設するグランドを通過して未舗装の林道に入る。すぐにゲートに突き当たり、このゲートを通過して未舗装ながら整備された林道を2.3キロ進むと、立派な標柱と案内板がある「赤石山・野反湖」登山口に到着する。ここは馬止メと呼ばれるところで、林道が分岐している。もっとも、右に分岐した林道は草に覆われてほとんど廃道となっている。

支度を始めてハッ!!とした。「無い、無い、無いザックが無い!!」今日は軽トラックで来ているので、前日まで用意してあったザックを1BOX車から移すのを忘れてしまったのだ。ここまで来て帰るのも癪なので、代替え品を探す。すると、登山用品店でおまけで貰ったトートバックが見つかった。何でもいいや、ともかく荷物を入れて背負えるものならば、贅沢は言っていられない。置いてきたザックには「ツェルト」「コンロ」「シルバコンパス」が入っていたが、それほど必要はなさそうだ。とりあえず、トートバックに入るものを厳選して詰め込んだ。背負ってみると紐が細いために肩に食い込んでちょっと痛い。肩に当たるところにタオルを巻いて、なんとか凌ぐことにした。

格好は悪いが、トートバッグを背負って、ともかく登山道を歩き始める。カラマツ林の中を切り開いた道は、広く良く整備がされていた。しかし、あまり歩かれていないのであろうか、路面の感覚ははフカフカの状態だった。このあたりは熊の出没も多いと言うことで、腰の左右には鈴をぶら下げた。そんなものだから、なんとも賑やかでチンドン屋が山を登っているようである。道は急登であるが、それほど苦痛とも感じない素晴らしいルートである。


馬止メ登山口
馬止め登山口
快適な登山道
快適な登山道



カラマツ林を過ぎると、ダケカンバの混じったコナラの林に入り傾斜も緩んでくる。そのままグングン高度を上げていくのが苦しいと言うよりも楽しい感覚だ。標高1600m付近になると展望が開けるようになった。振り返ると、緑の森の中に、いかにも人工的な草津の町並みが見える、その上には赤茶けた草津白根山、アンテナの林立する横手山が大きく見えていた。天候は、まさに五月晴れで、新緑と青空が眩しい。足元にはイワカガミが咲き、アカヤシオが花を開いて実に清々しい山行となった。これだけの空間を独り占めするのは何という贅沢だろうか。


マイヅルソウの群落
マイヅルソウの群落
イワカガミの群落
イワカガミの群落
ムラサキヤシオの咲く道
ムラサキヤシオの咲く道
一ツ石のピーク
一ツ石のピーク



一ッ石は展望に優れたピークで、草津白根山から浅間山・榛名山と続く山並みが見事だ。しばし、展望を楽しんでから先に進んだ。道はなだらかになり、シラビソの林に変わってきた。このあたりまで来ると展望も少なくなり、暗く鬱蒼とした感じで深山に入った感じがする。笹藪の中の切り開かれた快適な道を進むと標識や標柱が乱立する分岐に到着した。ここはオツタテ峠(小倉口三叉路)と呼ばれる場所で、上信国境の稜線上にある重要な場所である。ふと見ると二人の登山者が支度を整えていた。見ればヘルメットを被り幕営道具が入ったザックが傍らに置いてある。どうもどこかで見たような顔なので近づいてみる。すると、なんだ私の所属する職場山岳部のメンバーYさんとOさんだった。いままで山歩きをしていたが、職場山岳部のメンバーと遭遇したのは初めてであった。彼らは魚野川支流の「小ゼン沢」に入渓するという。これからの予定などを聞きしばらく雑談、お互いの無事を祈って別れた。ともかく我が職場山岳部も細々ながら活動していることがうれしかった。


オツタテ峠
オツタテ峠
職場山岳部の仲間
職場山岳部の仲間



小高山までの道は笹原の中の快適な道だった。斜面を登ると左前方には岩菅山が残雪を白い斑点にして見えている。振り返ると緑の笹原と樹林が延々と広がって下方につながっていた。ちょっとした残雪のコブを左に巻いてなおも進むと、小高山の山頂に到着した。山頂は樹林に覆われて、南方面に僅かに展望があった。さてこれからは五三郎小屋の分岐まで一気に下って高度を下げる。分岐には立派な標識があり十字路になっていたが、天狗池に向かう道は完全に笹で覆われて、僅かに踏み跡の痕跡が見えるだけだった。ここまで来て天狗池を見ていかないのはもったいない。そこで、天狗池に向かって笹原の中を下降することにした。

背丈を越すほどの笹原の中の踏み跡はいつの間にか見失ってしまい、あとは適当に下降するしかない。一旦笹が短くなった平坦な「白草ノ原」に到達したが、池に行くにはさらに先に進まなくてはならない。再び背丈を越す笹藪に入り、倒木を乗り越えて進むと何とか天狗池の湖面が見えてきた。しかしそこに行くにはまだまだ遠い。笹原を下降して溝のような場所を越えてから、再び登りあげて下降するとやっと平坦な笹原に到着した。この平坦な場所は笹丈も短く、すぐに天狗池に到達することが出来た。天狗池は雪解け水の量に左右されるのだろうか、池の縁は青々とした笹が水没していた。池の周囲を半周して確認するが、生き物の姿は見られなかった。手を入れてみるとそれほどの冷たさは感じなかった。ここで、落ち着いてあんパンとゼリー飲料でエネルギー補給、ノンビリしたいところだが、この先の長丁場を考えて、すぐにこの場を出発した。地形図を見ると、昔の道はこの天狗池のあたりを通っている。その痕跡を探すことが出来れば、笹藪の急登は避けることが出来るかもしれない。そこで、天狗池から東に向かってその痕跡を探す。目を懲らすと何となくその道跡かなと思われるものが見られる。それは明らかに道跡なのだろうが、今の状態は笹に覆われて道とは言えぬものだった。ともかく、その道跡らしきものを辿ってみるが、それはすぐに消え去りわからなくなってしまった。強靱なネマガリタケの藪は斜面の下方に向かっているので、それをかき分けるのは大変な作業だ。試しに持参した刃渡り24センチの剣鉈で切り開こうとしたが、この強靱な笹の前ではあまりにも無力だった。木が生い茂っている場所は笹も少なく、道があらわれるが、それも僅かで笹藪の斜面を我慢して登るしかなかった。

なんとか20分以上もかけて分岐に到着。休む間も惜しんで、五三郎小屋の偵察に出かける。良く踏まれた道をどんどん下ると、ブロックの外壁と屋根を赤サビた波板で葺いた小屋が見えた。外観はしっかりとしているのだが、中を覗いてみるとそこはジメジメとして、土間は凸凹だらけで寝られるものではない。それにベットのようになっていたのだろうか、木の柱と板張りは朽ち果てて折れ曲がっていた。屋根を見上げると穴だらけで雨が降ったらどうしようもないだろう。まさにお化け屋敷に近いものだった。そばにある水場は流れがあり、きれいなものだった。一口飲んでみると、クセもなく飲みやすい水だった。あまり長居をしたくないのですぐに歩き始めて分岐に戻った。



小高山
小高山
五三郎小屋分岐
五三郎小屋分岐
天狗池
天狗池
天狗池から笹藪を登り返す
天狗池から笹藪を登り返す
五三郎小屋
五三郎小屋



分岐からは大高山が立派に見えているので登りたい気持ちもあるが、すでに登っているのでふたたびオツタテ峠に向かうことにする。

オツタテ峠にはすでに職場山岳部の二人の姿はなく、静寂そのものだった。さてここからは上信国境の稜線に沿って西に向かって歩く事になる。笹藪の中に切り開かれた道を辿って進む。立ち枯れてしまった針葉樹の枝が青空に美しい造形を見せている道は、足取りも軽くどんどんと進むことが出来る。今までの山歩きでは同じ山に再訪することは考えなかったが、ここは再訪してみたいと思わせるルートだ。やがて、登山道の途中にひょっこりと標柱があらわれた。オツタテ峰と文字が読み取れた。おそらく標柱の上には表示板が取り付けたあったのだろうが、それは粉々になって下に落ちている。見れば標柱はひっかき傷だらけで、それは熊の痕跡のように見える。どうも熊はこの標識に好意を持っていないらしい。

オツタテ峰から先は、ちょっとした岩場をトラバースしながら下るが、それほど苦労するほどの場所ではない。すぐに立派な登山道があらわれて、ここからは実に気持ちよい道が延々と続いているのである。この道を整備された方々の苦労を思うと感謝しなくてはならない。それと共にこのルートが俗化されないで欲しい、再び藪に埋もれないで欲しいと勝手な事を望んでしまう。目の前には横手山と白根山が常時見えている。緑に覆われた左の谷はガラン沢だろう、穏やかで静かに見えるが、私が入れるような場所ではないことは明らかだ。白根改善学校の赤い屋根の集合が遠くに見ることが出来る。そこからここまでは結構遠いなあ!と感じた。

景色に目をとられながら、進んでいくとやがて展望の良い山頂に到着した。ここがダン沢の頭で、群馬県側の展望が遮るものもなく一気に開けていた。また三角形の特徴ある笠ヶ岳が樹林の間から望めた。ここの山頂標識も熊にやられたのだろうか一部が破壊されている。傍らには文字がしっかり読めるほど原型を残した三等三角点が設置されていた。また、GさんとMHCの山頂標識も立木の枝に残っていた。ここでふたたびあんパンとゼリー飲料でエネルギーを補給して展望を楽しんだ。



山仕事用の剣鉈
山仕事用の剣鉈
これがトートバック(お気に入りのタオルも持参)
これがトートバック(お気に入りのタオルも持参)
ダン沢の頭の三等三角点
ダン沢の頭の三等三角点
立派な登山道(素晴らしい)
立派な登山道(素晴らしい)



ダン沢の頭からは、コバイケイソウを踏まないように一気に斜面を下って行く。これは帰りは登るのが大変だぞ。道は今度は樹林の中を歩くことが多くなった。しかし、道は相変わらずしっかりしており迷うところはない。このルートは国境を忠実にトレースするものではないらしい。ちょっとしたピークを群馬県側に巻いて進む場所もある。そんなときに「仙人池←湯ノ沢の頭→ダン沢の頭」の表示があらわれた。ここは山頂ではないぞ。それにダン沢の頭からまだ41分しか歩いていない。エアリアマップで見れば湯ノ沢の頭までは1時間以上かかる訳だ。すると目の前にあるあのピークが湯ノ沢の頭に違いない。するとこの表示は間違っていると推測して先に進んだ。

それにしても12時近くになるとお腹が空いてくる。ときおり、熊の叫び声じゃないだろうかと思うほど、お腹から「グーッ!」と叫び声が聞こえてくる。目標としていたピークは目の前なので、ともかく休むことはしたくなかった。
ミネザクラの咲く登りをゆっくりと登っていくと、途中でまだ倒れたばかりのシラビソが道を塞いでいる。乗り越えることも出来ないので、谷側に回り込んで迂回したが、足を踏み外したら谷底なのでちょっぴり緊張した。急斜面をあえぎながら登ると、目指すピークの山頂部分にたどりついた。山頂部分は細長く、やがて現れるであろう「湯ノ沢の頭」の標識が出てくることを期待していた。しかし、いつになっても標識が現れない。それどころか道は下降してしまい、さらに前方を見るとさらにピークがある。さらに進むと表示があり「仙人池」と書いてある。??????????頭が混乱してしまっている。そして傍らには間違いなく数株の水芭蕉が咲く仙人池があるのである。すると湯ノ沢の頭はいつ通過したのだろうか?残雪が池の周りを縁取るように取り巻いている仙人池で地形図を取り出して考えてみる。あの「湯ノ沢の頭」の表示があった場所の上部がピークだったのだ。地形図をその場で確認しなかったのが間違いの基だった。でも、まだ混乱している頭を整理するためにこの先にある赤石山を確認することにした。

残雪が豊富に残る道を進むと登山道が現れて、そこには赤石山の標識があった。さらに進むと岩場となり、3人の登山者が昼食中で山談義の最中だった。見覚えある岩場をさらに進んでみると、これも見覚えある青い大沼池を眼下に見下ろすことが出来た。これで納得、頭の中の混乱部分が整理できた。この赤石山で休憩も悪くないと思ったが、どうも休む気分にならないので、ルートを戻ることにした。

ミネザクラの咲く登山道脇で昼食にすることにした。いなり寿司と缶ビールは実に良い取り合わせで気分爽快だ。この登山道は終始携帯電話が通話可能なので、妻にザックを忘れたことをメールで送っておいた。
昼食後、問題の湯ノ沢の頭の事を考えながら、地形図と実際の景色を確認しながら進む。ハッ!と気がつくと背後からなにやら近づいてくる。殺気を感じて振り向くと見慣れない格好をした人が1m程度の至近距離に近づいていた。「びっくりしたぞ」そう言うと「スミマセン」と答えが返ってきた。聞けば山岳マラソンの下見で来たとのこと。6月28日に開催される「志賀野反トレイルレース」に参加するのだという。これから野反湖まで走るというので、再びびっくりである。これだけ素晴らしいルートなので山岳マラソンには何の問題もないだろう。しかし、距離にして45キロ、私には縁のない世界であることは間違いない。



紛らわしい表示
紛らわしい表示
仙人池
仙人池
仙人池のミズバショウ
仙人池のミズバショウ
赤石山から大沼池を俯瞰する
赤石山から大沼池を俯瞰する



しばらく歩き、湯ノ沢の頭に登る場所にたどり着いた。しかし、その先の笹藪の密度に躊躇してしまった。これは凄いぞ、人が入り込む隙間なんぞなさそうだ。それに踏み跡の痕跡も見られない。しかし、ここで怯んだら再び挑戦する機会は無いかもしれない。そこで、意を決して笹藪の中に踏み込んだ。たちまち笹藪に掴まって身動きが出来なくなってしまった。なんとか絡まりを解きながら前に進んだ。どちらに避けても笹の状態は同じだったが、かろうじて長野県側の方が藪が薄いように思えた。しかし、地形図ではこのあたりを道が通じていたのに、地形図の表記を疑いたくなる。僅かずつ高度を上げていくと、なんとか山頂に到着することが出来た。山頂は身の丈をはるかに越す笹で覆い尽くされて、身動きも出来ない。さらに山頂を示すものもなかった。山頂をちょっと越して先に進むと裏岩菅山の一部を見ることが出来た。それにしてもわざわざ登るピークではないようだ。湯ノ沢の頭からの下りは笹の上を滑るようにして、登りに較べれば僅かな時間で登山道に戻ることが出来た。



ミネザクラを見ながら昼食
ミネザクラを見ながら昼食
湯ノ沢の頭から見る裏岩菅山
湯ノ沢の頭から見る裏岩菅山



素晴らしい天気と素晴らしい登山道のおかげで、充実した山行が出来たことを感謝しながら山道を下った。
それにしてもトートバッグの細い紐は、肩に食い込んで最後まで悩みの種となった。


群馬山岳移動通信/2008


馬止メ05:54--(1.12)--07:06一ツ石--(.23)--07:29オッタテ峠07:38--(.13)--07:51小高山--(.11)--08:02分岐--(.23)--08:25天狗池08:36--(.27)--09:03分岐--(.03)--09:06五三郎小屋09:08--(.06)--09:14分岐--(.18)--09:32小高山--(.21)--09:53オッタテ峠--(.15)--10:08オッタテの峰--(.26)--10:34ダン沢の頭10:36--(.41)--11:17湯ノ沢の頭直下--(.36)--11:53仙人池11:59--(.13)--12:06赤石山12:07--(.14)--12:21昼食12:39--(.14)--12:53薮へ--(.16)--13:09湯ノ沢の頭13:13--(.06)--13:19登山道--(.41)--14:00ダン沢の頭14:09--(.30)--14:39オッタテ峠--(1.01)--15:40馬止メ





GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)