達成感を味わう、日帰り周回「谷川岳馬蹄形縦走」  
                                                                     登山日2009年7月20日





武能岳の登りから蓬峠を振り返る



白毛門 標高1,720m /笠ヶ岳 標高1,852m/朝日岳 標高1,945m/七ッ小屋山 標高1,675m/武能岳 標高1,760m/茂倉岳 標高1,978m/一ノ倉岳 標高1,974m/オキノ耳 標高1,977m/トマノ耳 標高1963m




今年の海の日に絡んだ3連休はどうも天気が定まらない。1泊で計画していた新潟の山はどうも無理らしいと判断した。何とか最終日の一日だけは天候も落ち着くとの事なので計画を立て直した。ネットを見ると、「tomoの奥利根山歩き」のtomoさんが、6月28日に天神尾根から右回りで谷川馬蹄形縦走を成功したことが公開されていた。tomoさんは一昨年には白毛門から左回りで馬蹄形縦走を成功している。そこで前から気になっていた日帰りでの谷川岳馬蹄形縦走を、この連休最後の一日に決行することにした。右回りか、左回りか悩んだが縦走後半のエスケープルートや逃げ込める小屋の状況を考えて、左回りで縦走することにした。はたしてメタボにギリギリ体型の57歳の自分にこれが達成できるのか興味はそこにもあった。

7月20日(祝)
自宅を午前0時過ぎに出発して土合へ向かう。どうも身体が重い気がするが、前日までの二日間の農作業が堪えているのかもしれない。白毛門の広い登山口駐車場は閑散としていて車が10台ほどだった。駐車場の入り口付近に駐車して支度を整える。なんといっても今回の縦走は水分補給が成功の鍵を握っているに違いない。そこでゼリー飲料を含めて3.8キロの飲料を持ち上げることにした。今回の長丁場どんなアクシデントが起こるか分からないので、ツエルトと着替えをザックの底に入れておくのは忘れずに確認しておいた。

当初は午前3時半の出発を予定していたが、準備に手間取り午前4時の出発となってしまった。上空は明るくなったものの、ヘッドランプ無しでは行動できないような暗闇だ。ちょっと不気味なのでクマよけの鈴をザックにくくりつけて鳴らしながら歩いた。白毛門はかつて何度か登ったのだが、駐車場からの登山口が分からずちょっとウロウロしてしまった。それは東黒沢の登山口に車が駐車してあり、テントが張ってあったから登山口とは思わなかったのだ。昔の記憶を辿って沢に向かうと、谷川馬蹄形の大きな案内板があり、その先にはヘッドランプに照らされた橋が見えていた。橋をわたり対岸の湿った道に立つと、これから苦しい白毛門の登りが始まるわけだ。

標高900メートル付近になるとヘッドランプの灯りが無くとも周囲が分かるようになってきた。このころになると蒸し暑さで上半身着ているものは汗で濡れてしまった。これでは駄目だとTシャツに着替えると、涼しさで身体が軽くなったように感じた。そうこうしているうちに、二人の登山者に相次いで追い越されてしまった。それほどペースは遅くないと思うのだが、この山に登ろうとする人は健脚の人が多いのだろう。さしたる展望もない急登は本当に疲れ、木の根を跨いで登る単調な一本調子の道だ。標高1200メートルの標識があるところでザックを降ろして小休止だ。この辺でやっと周囲の展望が得られ眼下の白毛門沢の白い水の流れが確認できた。ゼリー飲料を飲み込んで僅かな休憩を取って、まだまだ続く白毛門の登りに挑戦だ。

標高を上げるとともに周囲の展望がひらけ、湯桧曽川の対岸にこれから目指す谷川岳の双耳峰が見えている。その直下のマチガ沢は一直線に残雪で埋め尽くされている。鎖のついた岩場を越えて進むと、松ノ木沢の頭に到着。ここでは冷たい風が吹き抜けて、熱くなった身体には心地よかった。ここで休んでゆっくりしようとすると、突然1人の男性が現れた。見れば山ヤとは風体が違うのでこれはトレイルランの人だとすぐに分かった。CW−Xを穿いて、トレイルランシューズ、背中にはハイドレーションシステムのパックを背負っている。我々からするとこれで本当に安全が保てるのかと疑問に思う。しかし、体力こそが最大の装備なのでこの考え方は、もはや通用しないのだと思う。この男性はここに立ち止まることもなく、先に進んで行く。観察するとそれはみごとなペースで、あっという間に姿が見えなくなってしまった。さて、こちらは重い腰を上げてザックを背負って亀のように歩き始める。この辺からニッコウキスゲなどの花が目立つようになってきた。やはりこの時期の山は花を愛でながらの山歩きがいいが、今日はそんな余裕が無く、ともかく歩くことが目標となってしまっている。目の前に見えている白毛門のピークはチェックポイントのようだ。



登山口の案内板

白毛門山頂まであとわずか

白毛門山頂

白毛門から笠ヶ岳を見る



白毛門の山頂は誰の姿もなく静かな時間が流れていた。するとここで突然1人の男性が現れた。この人もトレイルランで、この人達の人口がずいぶん増えていると実感した。どこまで行くのかと聞くと、水が無くなるので朝日岳あたりでどうするか考えると言う。それなら朝日岳に良い水場があると教えると、どのあたりにあるのかと詳しく聞かれた。それっきりこの男性とは会わなかったから、そのまま縦走を続けたに違いない。目の前には乳房を連想させる格好の良い笠ヶ岳が、より高い標高をもって立ちはだかっていた。白毛門の山頂では展望もそこそこにザックを背負って出発だ。天候は回復傾向にあるのか、笠ヶ岳方面は青空が広がっていた。しかし、谷川岳方面は山頂部分にガスがかかりすっきりと見ることが出来ない。さらにその奥の苗場山は山頂の平らな部分だけを雲の上に出していた。まあ、そのうちにこのガスも消えていくだろう。

白毛門から一旦下って鞍部を目指す。今から35年ほど前にここで人事不省となり、九死に一生を得た場所を通過する。つくづくこのときの山仲間のありがたさを実感する反省と感謝の場所だ。しかし、今日は単独行なので、すべては自分で判断しなくてはならない。笠ヶ岳の登りは我慢で登るしかないのだが、それほどきついとは感じない。むしろ展望や花を眺めている内にどんどん高度が増していく感じで心地いい。振り返ると白毛門が次第に眼下に下がり、笠ヶ岳との標高差約130メートルが実感できる。笠ヶ岳山頂は展望の良い場所でここから続く朝日岳まではゴジラの背のようになっており、そこに付けられた道がハッキリと見えた。ここもチェックポイントでtomoさんの記録を見るとそれほどゆっくりとはしていられない。すぐに朝日岳に向かって歩き出すとすぐにカマボコ形の避難小屋に到着。残雪期に見ると頼りになりそうだったが、この時期は何か貧弱に思える。笠ヶ岳から下った鞍部はニッコウキスゲの群落地で、その一帯がキスゲ色で埋め尽くされていた。山上の花園の中を突き進んで道は付けられており、朝日岳への道は本当に楽しい花の道だった。ハクサンフウロ、ホソバヒナウスユキソウ、ウツボグサ、シモツケソウ、クルマユリなどで終始道は埋め尽くされているのだった。



笠ヶ岳の登りで一ノ倉沢方面を見る

笠ヶ岳の登りで一ノ倉沢方面を見る

ニッコウキスゲの群落(笠ヶ岳鞍部)

ニッコウキスゲの群落(笠ヶ岳鞍部)


笠ヶ岳と谷川岳

苗場山が印象的だ



朝日岳山頂では白毛門で追い越された単独行の男性が休んでいた。残り少なくなった2リットルのペットボトルを恨めしそうに眺めていたので「すぐそこに水場があるので行きませんか?」と声を掛けると、うれしそうに私のあとにしたがった。水場は朝日岳山頂からさらに北に進んだ所にある。この水場はかつて秋に猫吉さんと宝川温泉から登ったときにも枯れることがなかったので、かなり信頼できる場所である。四国から来たというその男性は、帰りの飛行機の時間が気になるようだった。私は2本のペットボトルに水を満タンにして、そのほかにカップに汲んでヤキソバパンを食べた。そのうちに若い3人のパーティーがやってきて同じように水をペットボトルに詰めていった。この水場は本当にありがたい貴重な場所だった。また近くにはハクサンコザクラが群生していたが、湿原の中に入ることはこの場所の荒廃につながるのでやめておいた。充分な休憩のあと、この水場を発って先を急ぐことにした。

朝日岳は山頂部分が南北に長く、北方面に道は続いている。その山頂部分が終わるところ、ジャンクションピークで道は分岐している。清水峠に向かうものと巻機山に向かうものだ。見れば巻機山までの上越国境の山並みはアップダウンを繰り返しながら更に北に続いている。この国境稜線も残雪期に2泊3日で約30年前に歩いているが、その時の風景の印象はほとんど残っていない。この分岐から清水峠に向かって一気に下降することになる。清水峠にはJR監視小屋の赤い建物が良い目印となって終始見えている。ここから清水峠までの道は自分にとっても未知のルートだけに何かワクワクする部分がある。太陽は完全に高度を上げて日差しが強くなってきている。下降路は展望も良く清水峠から吹き上げてくる風が心地よい。清水峠の緑で埋め尽くされた笹原の斜面は、ここが日本なのかと思うほど疑念を抱くほど欧州的な雰囲気がしている。



朝日岳の池塘

ホソバヒナウスユキソウ

タテヤマリンドウ

キンコウカ





さすがは人気のコース?で下降しながらも6人に出会った。そのうちの二人連れは道に迷ったそうで、1時間ロスをしたとこぼしていた。それにトレイルランの人に会ったとも話しているところを見ると、どうやら馬蹄形トレイルランを楽しんでいることが分かった。清水峠手前には地塘があり水をたたえており、そこを通過してひと登りすると送電鉄塔にでる。鉄塔の下で展望を楽しんでから清水峠に向かって再び下降する。

清水峠には建物が2棟あり、赤い大きな建物がJR送電線監視小屋と小さな白崩避難小屋だ。この白崩避難小屋の階段に腰掛けて大休憩とすることにした。相変わらずゼリー飲料と焼きそばパン、自家製のキュウリの漬け物が実に旨い。休憩しながら地図を広げてみると、先はまだまだ長い。いっそのことここから経験のある湯桧曽川に沿ってのエスケープも選択肢だが、体調も悪くないのでこのまま縦走を続けることにした。ここで遅ればせながら日焼け止めクリームを顔面にたっぷりと塗っておいた。清水峠からの道は笹原の中の急登で遠くから見るよりも楽に登れる感じがする。この辺から馬蹄形縦走の方向転換で南に向かっていることが、谷川岳を正面に見て歩くことから実感できる。急登を登り切ると大源太山のピラミダルなピークがハッキリと確認できる。その大源太山への道を分けると程なく七ツ小屋山の山頂に到着。二人組のパーティーが登山靴を脱いでビールを呑んでいた。実に羨ましい。悔しいのでザックを降ろしてゼリー飲料を飲んでからすぐに山頂を辞した。



巻機山まで続く上越国境


清水峠手前の池ノ窪

清水峠



ここから蓬峠までの笹原は実に魅力的な風景だ。その笹原の中に切り開かれた道はハッキリとしている。しかし、実際に入ってみると数年は刈り払いがされておらず。足元が見えないほど笹で覆われていた。ともかく大きなアップダウンもなく快適に距離を稼ぐことが出来るのがうれしい。どんどん進んでいくと昼食中の集団が登山道を占拠して塞いでいる。登山道に卵焼きを並べておいている人もいる。近づいても無視される始末で、しかたなく笹原の中を迂回して進むことを余儀なくされた。中高年の仲良し登山者グループの無礼な態度は本当に困ったものである。黄色い外観の蓬ヒュッテでは、ベンチで単独行の登山者がカップ麺をうまそうに食べていた。七ツ小屋山のビールといい、目に毒なものばかりだ。実は楽しみのひとつとしてビールを持参してきている。ザックの中を探ると保冷パックの中でまだまだ充分に冷えた状態だ。これを呑むのはトマノ耳あたりかなと考えていた。ここは我慢してスポーツドリンクとタマゴサンドでお腹を満たした。tomoさんの記録を見ると、この辺がコースタイムの中間地点となっている。体調は悪くないが、エスケープルートはこの蓬峠を逃すとこれから先は無くなる。しかし、考えている余裕はない!!時間がかなりきつくなっていることは間違いない。



清水峠から笹原の道

七ツ小屋山に向かって登る

七ツ小屋山から蓬峠方向

蓬ヒュッテ



蓬峠からは迷わずに武能岳への道を選択した。かなりきつい急登で、なんとか身体をストックで持ち上げるようにして疲れた身体をかばいながら登った。そのうちに目指す武能岳はおろか、歩いてきた朝日岳方面はガスで見えなくなってきた。まあ、雷雨にはならないだろうから、それだけは不安材料が無くなっている。一番きついところで上方から単独行の男性が降りてきた。みればこの若い男性はトレイルランの格好をしている。かなり疲れたらしく「蓬ヒュッテは開いていますか?水が欲しいもので」と聞いてきた。「蓬ヒュッテよりも少し下降したところに水場があって思う存分補給できますよ」と答えると顔色が良くなって元気に下降していった。トレイルランの愛好者もいろいろな人がいるものだと思った。

武能岳山頂に到着すると時間はかなり遅れていることに若干の焦りが芽生えてきた。ましてこれから向かう茂倉岳は大きく目の前に立ちはだかり、簡単には登れないぞと威圧しているようだ。それもそのはずで武能岳から標高差160メートルを下り、そこから380メートルを登るのである。歩き始めて10時間になろうとしているのでこの登りに体力がついて行けるだろうか。不安材料ばかりが頭の中に入ってきた。しかしここまで来れば行くしかない。tomoさんのコースタイムが頼りで、今の時間ならば暗くなるギリギリの時間で戻れる計算なので、自分を信じて武能岳を発った。



茂倉岳の登りから武能岳を振り返る

茂倉岳から一ノ倉岳方面

ハクサンコザクラ

一ノ倉岳からトマノ耳方面



武能岳と茂倉岳の鞍部は笹平と呼ばれるが、平ではなく馬の背のような感じを受ける。ひざの負担も今のところは問題なくどんどん下降することが出来た。そして笹平に着くと男女2名のパーティーとすれ違った。髭を蓄えた初老の男性が「あれが武能岳ですか?あそこまで行けば蓬ヒュッテは近いですよね」と聞かれた。「そうですね。武能岳に行けばヒュッテが見えますから元気が出ますよ」と答えると、連れの女性もこの言葉ににっこりとした。かなり疲れている様子だったのでちょっと心配だった。それよりも自分のことを心配しなくてはいけない。それが証拠にその先のちょっとした岩場でスリップして尻餅をついてしまった。幸いザックがクッションとなり無傷ですんだが、明らかに疲れが出ていることは明白だった。さあ、これから380メートルの標高差を登らなくてはならない。もうこうなれば気力が大きなウエイトを占めていることはたしかだ。ここで腰を下ろして休んでしまえば、時間はすぐに10分単位で浪費してしまう。それに避難小屋に逃げ込んでしまおうなんて考えれば、それですべてが終結するが、これまでの苦労が無になってしまう。とにかく登るしかなく、とりあえずの目標は先ほど下降してきた武能岳よりも高く登ることだ。太陽がだいぶ傾いたのだろうか、武能岳にあたる光は斜め方向になっている。大きな岩を越えると一旦道はなだらかになったので、ここでちょっと休憩とする。冷たいキュウリの塩漬けを頬張るとそれだけで疲れが抜けるようだった。それにゼリー飲料を飲んで栄養補給を兼ねて水分を摂取しておいた。ここで水は1リットル程度まで減少してきたので、ちょっと節約モードに入った。

武能岳よりも高くなったことは間違いないが、まだまだ登りは続いていく。ともかく茂倉岳の山頂までは休まずに登ろうと決めてひたすら登った。そして、山頂が見えると同時に懐かしい茂倉避難小屋が見えたときは本当にうれしかった。とにかくあそこまで行けば帰りの目途もついてくる。そして、やっとの事でたどり着いた茂倉岳山頂は、あいにくガスが立ちこめて、時折ガスの切れ目から一ノ倉岳が見える程度だった。時間に余裕はないが、ともかくここで腰を下ろして休むことにした。スポーツドリンクの残りを飲み干して、これからのコースを見定める。遠望すると、意外にこの稜線が険しいことに気がついた。tomoさんはトマノ耳まで1時間で歩いているが、はたして自分はどうだろうか?どう考えても土合につく頃は暗くなっているだろう。

茂倉岳を発って一ノ倉岳に向かうと数名のパーティーとすれ違った。おそらく茂倉岳避難小屋に泊まるのだろう。この人達はかなり疲れた様子でそれが手に取るように分かった。はたして彼らには私はどう見えただろうか。おそらくヨレヨレのオヤジに見えたのに違いない。一ノ倉岳の鞍部にはハクサンコザクラの群生地があり、時間を取られることを忘れて、しばらく立ち止まって眺めてしまった。ガスのかかった一ノ倉岳で標識を何度も確認して方向を見定めて先に進んだ。ここの下降は意外と難関で足元を慎重に確認しながらの下降となった。ともかくトマノ耳が今の目標でひたすらガスの立ちこめた道を進んだ。時間はまだ午後4時というのに周囲は暗くなり、不安感が増してくる。果たしてこの縦走は成功するのだろうか?もうダメではないだろうかと、半分諦めに近い気持ちが襲ってきた。しかし茂倉岳から歩き続けてほぼ一時間で、見慣れたオキノ耳の標柱を見たときは感激してしまった。さあもう少しでトマノ耳だ!!。

たどり着いたトマノ耳は一面ガスに覆われて方向が定まらない。まして、人の姿もまったく見られずひっそりとしていた。ここから天神尾根を辿ってロープウェイで帰ったのでは意味がない。なんとしても西黒尾根経由で帰らなくてはならない。しかし、下降路が見つからないおなじみの大きなケルンの上にある標識は暗いのとガスで見えず、もちろん肩の小屋も見えるはずはない。だんだんと心細くなってくるとともに不安感が増して、肩の小屋に逃げ込もうかとも考える。tomoさんの記録を見ると遅れてはいるもののそれほどの差はない。よし、tomoさんの背中を追って頑張れば何とかなるんだ!!心強さが増してきた。ともかく下山口を探さなくては、GPSを取り出すこともなくウロウロしていると、それらしき踏み跡を発見。岩場をへつりながら降りると明白な標識を発見。それに立派な道を確認することが出来た。晴れていればまったく問題ないのだろうが、こんなところでウロウロして時間をの浪費することが情けない。



オキノ耳

標識を発見

一瞬ガスが消えてラクダのコルが見えた

やっと登山口に辿り着く



西黒尾根は登るのは問題ないが、下降は困難を要する。なにしろ登山靴で磨かれた岩はツルツルになって滑りやすくなっている。気を抜くとそれこそスッテンコロリと転がってしまう。ここで骨折でもしたら自力で帰ることは困難だろう。それだけに慎重に下らなくてはならない。それにしても周囲は次第に暗くなり不安感で、だんだんと気力が落ち込んでいくのが分かる。これ以上暗くなったらどうしようか?この岩場でガスと暗闇が訪れたら危険は倍増するどころか、行動が困難となるに違いない。いまは岩に書かれた黄色いペンキのマーキングが頼りで、それを確認しながら下るしかない。はじめはストックを使いながら歩いていたのだが、あまりの急傾斜と滑る岩で使うことが困難となりザックにしまい込んだ。氷河跡の一枚岩などは岩の上を滑り台のように滑って下った。うんざりしながら下降を続けると一瞬ガスが消えて下降路が見渡せた。するとそこには厳剛新道の分岐を見ることが出来た。ガスが消えると、まだまだ明かりが残っているがわかり、厳剛新道分岐が見えたことでほっとした。

厳剛新道の分岐につくとそこには男女のパーティーが休んでいた。東尾根を登った帰りだという。彼らはこれから厳剛新道を下るという。私はこのまま西黒尾根を下るというと「そっちはたしか鎖場が2箇所あったようですよ」女性が言い出した。ともかく谷間に付けられた厳剛新道の道を歩くことは、この時間では暗さが増して来るに違いない。このパーティーと別れて先を急ぐことにした。するとすぐに岩場となり、クサリがかかっている。ともかく手を離さなければ問題ない。それにガスが少なくなったようで、山頂に居たときよりも明るい感じがする。しかし、暗闇は確実に迫っているのは間違いない。さらに鎖のある岩場を一箇所下降して、あとは樹林帯の中をひたすら歩くだけだ。「土合1時間」の標識を見たときはホッとしてそこにザックを降ろして休んでしまった。残った水と食料を腹に入れてから立ち上がった。

鉄塔に到着、ここで家族に無事に下山できそうだと連絡をしておいた。更に下ると水場がありここで顔と腕を洗ってさっぱりとした。更にダラダラと下って車道に到着。思わずガッツポーズでこの充実した行程を締めくくった。登山指導センター前の水場でしばし水分補給したが、ここに来てビールを呑むのを忘れていたこと気がついた。しかし、これを呑む余裕はまったく無かった事は事実だ。すっかり暗くなった車道をトボトボと歩いてたどり着いた駐車場は閑散としており車は私のものだけだった。

総行動時間約15時間、そのうちの歩行時間は約13時間、歩いた沿面距離約28キロメートル、この馬蹄形縦走は、体力、気力、天候が揃わなければ成功しない。しかしそれが揃って成功したときの充実感は何とも言えないものがある。それにしてもトレイルランの人たちはネットの記録を見ると、8時間間程度で完走しているのだが、それこそ信じられない。

*今回の縦走にあたってはtomoさんの記録がとても役に立ち、勇気づけられたことを記しておきます。



「記録」
駐車場04:02--(2.06)--06:08松ノ木沢の頭06:14--(.40)--06:54白毛門07:00--(.46)--07:46笠ヶ岳07:48--(1.01)--08:49朝日岳09:10--(1.27)--10:37清水峠10:48--(.57)--11:45七ツ小屋山11:52--(.44)--12:36蓬峠12:51--(.50)--13:41武能岳 13:50--(1.32)--15:22茂倉岳15:28--(.15)--15:43一ノ倉岳--(.47)--16:30オキノ耳--(.10)--16:40トマノ耳(肩の広場)16:51--(.41)--17:32厳剛新道分岐17:36--(1.21)--18:57西黒尾登山口--(.23)--19:20駐車場

群馬山岳移動通信/2009




GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)