*浅間山運用記*
登山日1985年3月3日


浅間山(あさまやま)標高2568m 群馬県吾妻郡・長野県北佐久郡
浅間山山頂付近
 浅間山(2542m)は、群馬・長野の県境にある活火山です。群馬にある山としては、奥白根山(2578m)に次ぐ第2の高峰です。登山口は、避暑地で有名な軽井沢から温泉で有名な草津へ通じる、国道146号線上にある”峰の茶屋”が登山口となっています。登山路は殆どが砂礫でおおわれた変化の少ない単調な道です。厳冬期は、風が強く山頂付近は雪が飛ばされてしまい、以外と積雪は多くありません。そのかわり風で表面が磨かれて大変滑りやすくなります。ですから、アイゼンとピッケルは絶対必要です。しかし、物好きな人にとっては山頂付近は格好の雪上訓練の場となるので訪れる人も少なくはない。是非皆さんも、浅間山の寒さを体験して頂きたい。尚、スキーは岩が多くその対象とはなりません。

 現在は、火山活動が活発なため,火口底は噴煙で見ることが難しくなりました。数年前までは、底にはお椀を伏せたようなような形の、半球上の黒いものが有り、その上部がマグマで赤くなっていました。それは神秘的であり、又何かセクシーでもありました。それにしても、山頂の噴煙は”亜硫酸ガスを含んでおり、風向きによっては息が出来ないくらいになる。注意するべきだと思う。

 秋は浅間ぶどうの実が色付く、これは口に含むと甘酸っぱい味が口の中に広がり、何か郷愁を誘う。この浅間ぶどうは軽井沢の町でジャムとして売られている。しかし、自分で実を集めてジャムをつくろうとしても、なかなか集まるものではない。取ったらその場で食べてしまうのが賢明だ。

 前置きが長くなりましたが、私の移動運用は430Mhz FMで行っています。
   無線機 :IC−03N
   アンテナ:12エレ八木 5DFB 5m
   電源  :単UNiCd10本パック
以上がいつものパターンとなっています。

 私は、浅間山には今までに四季を通じて登っています。そしてその度にドジを踏んでおります。これからお話するのは、そのなかの一つです。尚、私は無線の移動運用は全て単独行です。

 /1985年3月3日/

 家から車を飛ばして約1時間、”峰の茶屋”についた。しかし駐車場は積雪が1m程有り車を置くことはできない。しかたなくバスの停留所の一部が雪をかいてあったので、そこに図々しくも駐車してしまうことにした。付近の人に見つかり怒られてはまずいと思い急いで車を離れ歩き出した。ところが浅間山はあまり登る人がいない。そのためいきなり初めからラッセルとなってしまった。腰まである雪を膝で前に押し、次に足を前に出して進むのだが、日頃の運動不足がこたえる。汗が吹きだし、下着はすぐに汗で濡れてしまった。

 (余談だが、以前私の友人はこの浅間山で、木綿の下着を着ていて山頂付近で一息いれて休んだところ、数分の間に凍り付いてしまい困ったことがある)

 そんなわけで、1時間歩いても夏の15分歩いた距離にも満たない有り様。途中の吹き溜まりでは、胸のあたりまで潜り込んでしまうこともあった。山頂に近づけば積雪も少なくなると思い前へ進んだが、その兆しはなかなか見えてこない。

 疲れてくると注意力が散漫となりスリップが多くなってくる。二歩登っては一歩滑る、そんなことを何度も繰り返した。1700m地点より風が強くなってきた。ヤッケのフードは、頬のあたりでバタバタとうるさい。さらにその風は雪上の雪を舞い上げて顔にぶつかってくる。それは刺すようにいたい。

 5時間ほど歩いたが、まだ2000m地点である。時刻はもうすでに12時半。もうこれでは山頂をめざすのは無理だ。しかたなく山頂での運用をあきらめ、この2000m地点で運用することにした。先ず、斜面の雪ををピッケルのブレードでで削り取り、平らにする。意外とテントの面積を平らにするのは大変だ。ましてそこの場所を踏み固めるのは一人では、雪の上を何度も繰り返し歩かなくてはならないのだ。さらに大変なのはテントの設営だ。強風の中でテントを広げると、まるで凧のように風を受けてしまい自分自身もテントと一緒に斜面を滑り飛んでしまいそうだ。

 とりあえず、テントの周りをペグで固定してからポールを差し込み立ち上げた。次に風上に張り綱を張り何とか設営を終了した。それから、テントの中に潜り込みアンテナの組み立てに取り掛かった。寒いので手が思うように動かない。やっとのことで、組み立てたアンテナをテントの外に出し雪の上に立ててステーを張った。強風でかなり揺れが激しい。

 テントの中に入りラジュウスに火をつけるとやっと落ちつくことが出来た。なぜかこのラジュウスの燃焼する音は妙に安心感を与えてくれる。
 無線機のスイッチをいれると凄い、呼出周波数は蜂の巣をつっ突いたような騒ぎ。とても群馬の山の中のわが家からは考えられないものすごさ。CQを出してみるとたちまちパイルアップそれも全て RS59++ だ。

 そんなことをして遊んでいると、何かテントが動く!それも私を乗せたまま。    慌ててラジュウスの火を消す。途端に、テントの上から雪が降ってきた。どうやらテントの中の水蒸気が急に冷やされて凍って出来たものが降ったものらしい。        
 次に、テントが一瞬持ち上がった。強風でテントがあおられているのだ。もうQSOなんてそっちのけ。大慌てで撤収に取り掛かった。                  
 テントは中身の道具はそのままにして畳まずにザックに詰め込んだ。アンテナは凍り付いて分解できないのでそのままザックにくくりつけた。

 なんとも変な格好での敗退となった。ザックはもう出来の悪い布団のようにデコボコ。その上に弁慶の七つ道具のようなポール付きのアンテナ。それも時々棒の先が雪面をこする。

降りる途中、雪の中に足を取られ、そのままで上半身をバッサリ顔から突っ込んだり、風にあおられてよこに転がったりしながら下山した。なんとか安全な場所にたどりついて、ザックの中からバナナを取り出したら見事に凍り付いておりました。勿論、水筒の中身も固体になっていました。

                          群馬山岳移動通信/1985/