足の痛みに耐えられず登頂断念「荒沢岳」
登山日2000年8月26日


荒沢岳(あらさわだけ)標高1969m 新潟県北魚沼郡/前山(まえやま)標高1091m 新潟県北魚沼郡

前ーから荒沢岳にのびる稜線
8月26日(土)

 実に3ヶ月ぶりに、山の支度をして登山口に立っていた。目標は奥只見湖を囲む峰々のひとつ荒沢岳である。標高760メートルの登山口でも今年の猛暑は関係なく、この時期の早朝でも蒸し暑さを感じる。

 荒沢岳登山口は車5台ほどの駐車スペースがあり、傍らには登山届け提出用のポストが設置されていた。中を開けてみると、所定のピンクの色の用紙に書き込んだものばかりだった。その中に自宅から用意してきた計画書を挟んだが、白色のそのものはちょっと目立つものだった。

 よく踏まれた登山道を歩き始めると、すぐに樹林帯に入った。平次郎小屋の飲料水となっている沢の横をすぎると、傾斜が強くなりどんどん高度を上げることが出来た。あたりにはすでに蝉の声もうるさいほど耳に入ってきた。久しぶりの山歩きなのか、どうも足元が不安定で、リズムに乗った歩き方が出来ない。それに、自分が今この場所を歩いていることが、なにか不思議な気がしてならない。それだけ、この3ヶ月のブランクは精神的、体力的に大きなものを失ったような気がした。

 さしたる展望のない樹林の中の急登を汗をかきながら登ると、ほどなく丸山の山頂に到着した。山頂からは枝折峠と、そこから延びる越後駒ヶ岳の大きな姿が迫っていた。きっと今頃はあの稜線は登山者で溢れているに違いないと思った。山頂には三等三角点があり、念のためにGPSで位置を確認しておいた。

 今回は今までのGPS受信機の応答性が悪く、携帯性に劣っていたので新しいものを購入、初めての山での使用である。その結果は、多少の樹林帯はもちろん、両側が切り立った谷間でもほとんど気にならない応答性がある。まさに技術の進歩は著しいものがあると感じた。今後はこのGPS受信機が活躍していくことだろう。

 前山を過ぎて、少し歩くと別のルートから登ってきた道と合流した。道は相変わらず樹林帯で展望が無く、蒸し暑いので汗が噴き出してくる。そうでなくとも汗っかきな体質なので、この時期の山はつらいものがある。首にかけたタオルを時折はずしてから絞ると、汗がほとばしり落ちた。従ってそれを補うためのスポーツドリンクを飲むのだが、500CC程度はすぐに無くなってしまう。今日も水は2リットル準備している。

 登山道脇の、見慣れないキノコを立ち止まっては眺め、その不思議な姿を観察した。キノコはどうもその区別がよくわからないので、採取することも出来ないのが現状だ。それにしても目の前に見え隠れする、前ーの屹立した岩峰は恐怖心を覚えずにいられない。果たして登ることが出来るのか、不安は迫るにつれて大きくなった。
岩場に設置された梯子

 傾斜が強まったところに「これより岩場注意」の標識が現れた。いよいよこれから鎖場の連続、気合いを入れて行かねばならない。そこでひとまずここで休憩することにした。心地よい風が吹き抜けるこの場所は、まさに休憩するのにふさわしい場所だった。汗ばんだ身体が急速に冷えていくのが解るほどだ。

 休憩後いよいよ岩場の登りに取りかかった。きつい岩場ではあったが、しっかりとした鎖と足場パイプで作った梯子があり不安はそれほど感じられない。やがて前ーの中間地点に到着、眼前に大きな岩場が立ちはだかった。はたしてどこから取り付くのか途方に暮れるほどだ。ルートはこのままダイレクトに岩場を登るのかと思われたが、踏み跡は岩場を巻くように、むしろ下降するようになっている。

 不安に駆られたが、ともかく踏み跡の通りに辿ってみることにした。もったいないほど下降すると露岩の壁に鎖が垂れ下がっていた。どうやらこの鎖に頼りながら、前ーの山頂に一気に登るようだ。



 ルートは浮き石も多く、注意深く登らなくてはならない。眼下にはまだ残雪が沢に豊富にあり、そこから流れ出る水が気持ちよさそうに見える。帰りは絶対にあの沢の水で水浴をしようと思った。何しろ岩場の登りは暑いことこの上なく、汗が目の中に入って痛いので、頻繁に首から掛けたタオルで顔を拭った。

 あと少しで前ー山頂と言うところで、太股の内側の筋肉に激しい痛みを感じた。もう立っていることさえままならない。四つん這いになり、痛みが去るのをじっと待つことにした。ところが痛みはなかなか去ってくれない。仕方なく四つん這いのまま、苦痛に顔を歪めながら山頂に向かってはい上がった。

 山頂ではもう立っていることも出来ず、倒れ込んでそのままじっとしていた。しかし山頂は日差しが強く、今度は熱中症になってしまう可能性が出てきた再び苦痛に耐えながら、前ーから荒沢岳に向かうルートに少し入り、木陰を見つけて再び倒れ込んだ。

 マッサージを施したり、水分補給をしたりして、痛みが去るのをじっと待つことにした。しかし痛みはなかなか去ってくれない。そうしている間に、初老の単独行男性と中年の夫婦に追い越された。「帰りですか?」そう言って皆歩いていったが、どうも足が動かなくてじっとしているとは答えられなかった。

 そのまま、1時間以上じっとしていると、何とか痛みはあるもののゆっくりなら歩くことが出来るようになった。もう荒沢岳を目指すという気力は失せてしまっていた。それどころか無事に下山できるのかさえ危ない状況になってきた。

 予想通り下山は、足の痛みに耐えながらの我慢くらべとなった。また丸山で腰を下ろして休憩したところ、10分ほど意識を失った時間があった。

 今回は、完璧な寝不足と、運動不足の二つが重なった大失敗となった。

 荒沢岳は宿題の山となってしまった。


「記録」

登山口05:39--(.43)--06:22丸山06:29--(1.12)--7:41岩場取り付き07:48--(.16)--08:04岩場中間点--(.33)--08:37前ー09:54--(.47)--10:41岩場取り付き10:56--(.52)--11:48前山12:10--(.29)--12:39登山口


群馬山岳移動通信/2000/
前ーの岩壁
前ー山頂