宝川温泉を起点に大展望の山を登る「雨ヶ立山」「布引山」  
登山日2010年3月14日





雨ヶ立山からのパノラマ(谷川岳から巻機山)

雨ヶ立山(あまがたつやま) 標高1628m 群馬県利根郡/布引山(ぬのびきやま)標高1680m 群馬県利根郡




なにかと野暮用が多かったり、天候不順も重なって山から何となく遠ざかってしまった。行きたい山はいっぱいあるのだが、思うように出かけられないのがなんとも歯がゆい。そんな訳でどうせ出かけるのならば、快晴が約束された日を選んで登ろうと思った。


3月14日(日)
土曜日と日曜日を比較すると、日曜日の方が天気が良さそうだ。そこで土曜日はジャガイモの植え付けや除草などの畑仕事を済ませておいた。朝4時に起床し関越道の水上ICで降りて宝川温泉に向かう。道に雪はなくちょっと意外な感じがする。もっとも今日は軽トラックで来ているので、凍結路はなるべく避けたいところだ。6時頃に宝川温泉に到着したが、予想通りそこから先の林道は除雪してなく、林道入り口の除雪されたスペースに駐車することにした。このスペースは100台が駐車できる広いものらしいが、いまでは除雪された数台のスペースがあるだけだった。

頭上には雲が多く、予報のような好天とはなっていないが、これから何とかなるだろうとの期待を持って林道を歩き始めた。この林道を歩いていると、今から15年前に猫吉さんと二人でここから朝日岳に登り、白毛門経由で下山した時のことが鮮やかに蘇ってくる。あのときはこの林道を車で通行したから僅かな時間だった。しかし今日は歩きなのでかなりの時間を覚悟しなくてはならい。雪上はスキーとツボ足のトレースが付いており、それは比較的新しいものだと感じた。しかしツボ足のトレースは往路のみで復路がないから、縦走したものかなと思った。宝川に沿って延びる林道は谷間にあるためになかなか陽が差し込んでこない。そのためか雪は適度に固まっており特別な装備を付けなくとも歩くことが出来た。



宝川温泉の先に駐車

有名な?石

隧道入り口

隧道の中には氷柱が(裏面照射型CMOSはさすが)



歩き始めて20分ほどで広い場所にたどり着いた。その外れには窓や扉が板止めされた小屋があった。近づいてみると「大日如来山朝日小屋」と書いてある。小屋と言うにはかなり大きい建物だが、地形図にはそのような記載がないからちょっと不思議な感じがする。さらに道を詰めると谷は狭まってくるようになってきた。川の中で雪を被っている丸い石を見送ると突然入り口が半分ほど雪で埋もれたトンネルが現れた。15年前にここを車で辿った記憶が蘇った。ほとんど素堀に近いものでもちろん照明なんてついていない。かなり不気味だがここを通過しなければ先に行くことは出来ない。ともかく中に入ってみると短いこともあって意外と明るかった。中には氷柱がキラキラと輝いて暗闇の中の宝石に見える。早々にトンネルを通過して外に出ると、救われた気がした。

歩き始めて約1時間で林業試験地観測所跡に着いた。ここには雪に埋もれた小屋があり、また傍には堰堤がありなにかの観測をしているものと思われる。ここにはこの付近の周辺を表現した地図が設置してあった。興味深いのは「陸軍三角点」と「森林三角点」である。陸軍三角点はなんとなく想像できるが、森林三角点とは聞いたことがない。あとで調べてみるのも面白いだろう。ここでコロッケパンを食べて10分ほど休憩とした。またここからは本格的な登りになることを考えて、カンジキを装着することにした。



雪に埋もれた小屋

観測機器

詳細な案内板 「陸軍三角点」「森林三角点」の文字が気になる



群馬300山によればこの林道を先に進んでから板幽沢橋から登るようになっている。しかし、トレースはこの小屋から直接上部に向かっている。地形図を見れば林道を進むよりも効率が良さそうだ。そこでこのトレースを追いかけることにした。トレースを辿って上部に登るとそこには太陽電池パネルや観測機器を取り付けたポールが立っていた。その傍らには朽ち果てた小屋のようなものがあった。トレースはこのまま杉林の中に入っていくので、それにつられてあとを辿った。しかし、ツボ足のトレースはいつの間にかスキーのトレースを離れて下降している。見ればそのツボ足のトレースは下に見える林道を辿っているようだ。どうやら、林道を辿って板幽沢橋から登るルートを辿るものと思われる。しかし、地形図を見ればこのままこの杉林の中を進んで行く方が効率的に見える。そこで私はこのままスキーのトレースに沿って登ることにした。そして送電線の下をくぐると、おおよその位置が地形図上でわかった。このルートで間違いないことを確信することが出来た。

標高940m付近で予想通りツボ足のトレースが登ってきて、このスキーのトレースと合流した。ここからは北に向かってひたすら登っていくだけだ。やがて杉林から離れ、雑木林へと変わった。それと共に明るい日差しが周囲にあふれて気分的に楽になってきた。なにしろ喘ぎながら白い斜面を登るのはなんとも気持ちが良いものだ。標高1150m付近は傾斜も緩み、広い原のような場所になった。ここでちょっと一休みして地形図と周囲の状況を確認する。この付近は尾根が入り組んでいて、どうも迷いやすい地形をなしている。今日は晴れているから良いが、これが曇っていたらルートの選択はかなりきついものとなるに違いない。この原を抜けると傾斜がきつくなり、汗が噴き出るようになってきた。しかし、高度がどんどん上昇していくのを実感できるのは嬉しい。心配なのはガスが増してきていることだ。展望が無くなり風が強くなっている感じがする。

標高1380m付近で尾根に乗ることが出来た。風が強く寒さもちょっときつくなってきたが、立ち止まらなければさほどの影響はない。しかし、いままで曇って展望があまり良くなかったのだが、ここに来て次第に展望が得られるようになってきた。そうなると雪面の輝きが増して眩しくなってくる。あきらかに天候は回復傾向で素晴らしい山行が約束されたようなものだ。一旦地形が複雑になるが、斜面を一気に登ると標高1490mの尾根に到着した。ここからの大展望に思わず叫び声を上げてしまった。周囲に遮るものが無く、上州武尊山から尾瀬の山が一気に眼前に広がったからだ。目指す雨立山に続く尾根は一直線に頂上に向かって延びている。もうなんの不安もない。山頂まで漫遊気分で登って行けばいいのだ。



高度が上がってきた

標高1150m付近

標高1390m

こんな雪原を登っていく



途中にはちょっとした岩場があり、ここには雪の斜面の中に良いアクセントとなっている。ちょっと寄り道をしてカメラを構えて岩場に向かおうとしたときに、アクシデントが起こった。ちょっとしたことで足がもつれてそのまま倒れてしまった。その時にカンジキにストックが刺さったようになり、倒れた瞬間にストックが折れてしまったのだ。さらに構えていたカメラは雪まみれになってしまった。呆然とするまもなく、カメラの雪を乾いたタオルで拭き取って作動を確認すると、どうやら無事だったようだ。しかし、カーボン製の折れたストックはもうどうしようもない。2006年12月に購入したもので、3年使っているからまあ仕方ないと諦めるしかない。しかし、いままでダブルストックで歩きなれているものだから、片手だけでは何となくおかしい。

思わぬアクシデントでルンルン気分はちょっとだけしぼんでしまった。しかし、展望が良いだけに落ち込みは少ない。フト山頂付近を見て驚いた。なんと山頂には大人数のパーティーがいるのを確認できたからだ。そうするとあのツボ足のトレースは復路がなかったが、どうやらこのパーティーが山頂で泊まったのだと理解が出来た。誰もいない山頂を期待していたのだが、まあ仕方ない。ともかく白い雪面を紺碧の青空に向かって歩いていく。なんと幸せな時間なのだろう。



標高1450mへの登り

岩場が風景の良いアクセントとなっている

折れてしまったストック

雨ヶ立山からの展望



山頂に近づくと先ほどのパーティーは雪洞に入ったらしく、姿を見ることは出来なかった。そのまま山頂に立つと驚異の展望がまっていた。何しろ奥利根の山々が360度の大展望となって見えているのだ。知っている限りの山を確認するが、その山の知識の少なさの前にはとうてい太刀打ちできない。これだけの大展望を得られたことは本当に幸せだと何度も何度もかみしめた。さて、時間はまだあるので純白の朝日岳の手前にある布引山に向かうことにする。

斜面を一気に下降してから斜面に取り付く。トレースがあるが、これを辿ることも必要ない思いのままにルートを決めて、思いのままに歩いていく。一旦1626mの標高点のあるピークに到達したが、どうもその先のピークが明らかに高いのだ。もちろんそちらに向かうことにする。急斜面を喘ぐながら登ると南に派生する尾根の分岐点に到達する。尾根には霧氷で白く輝く木々が眩しい。この尾根を辿って下降することも考えられるが、今日はそんなリスクを抱えて歩く気にはなれない。そのまま斜面を登り上げるとこの辺で一番高い1680mの等高線に囲まれたピークに到着した。ここが布引山の山頂と考えていいのだろう。山頂からは眼前にある朝日岳が大きい。その朝日岳から視線を延ばせば、巻機山までの稜線が柔らかな絹の衣のような白さで青空をバックに延びている。何という幸せな風景なのだろう。思わず朝日岳に向かってバンザイをしてしまった。



雨ヶ立山から谷川岳東面

雨ヶ立山から朝日岳、手前は布引山

布引山から大烏帽子岳

布引山から雨ヶ立山を見る、遠景は平ヶ岳、燧ヶ岳、至仏山

布引山から派生する尾根。霧氷が輝いている



帰りは往路を忠実に辿って林道まで下降した。

ヤレヤレこれで終わりかと思ったが、それはとんでもない苦難の道が待っていた。なにしろ日中の暖かさで雪が腐って歩き難いことこの上ない。なんと、往路では約1時間だったのが復路では1時間半もかかって林道を歩くハメになってしまった。足の痛みも増して半べそ状態で宝川温泉まで戻った。

宝川温泉では閉館1時間前と言うことで1500円のところ、1000円で風呂にはいることが出来た(でも高いなあ!!)それにこの温泉は洗い場がない。ただ湯に浸かるだけの露天風呂なのだ。しかし混浴と言うこともあり、若い女性や外国人の女性も入っており、疲れた身体には元気が戻った感じがした。




宝川温泉06:31--(.58)--07:29観測所07:40--(2.15)--09:55尾根--(1.13)--11:08雨ヶ立山11:15--(.34)--11:49布引山11:58--(.28)--12:26雨ヶ立山12:59--(1.43)--14:42観測小屋14:57--(1.24)--16:21宝川温泉






GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)