JR土合駅の裏山を登る「赤沢山」    登山日2002年3月9日


赤沢山(あかさわやま)標高1328m 群馬県利根郡



 谷川岳付近の地図を見ると、いつも気になる山がある。それはJR土合駅の裏にある「赤沢山」だ。標高は1328mなので、高さはけっして低いわけではない。独立峰のような姿なので、展望に優れているのではないかとも考えられる。しかし、ガイドブックにも紹介がなされていないし、東黒沢からの道の表記が見られるが、山頂には達していない。藪山の雰囲気もあるので、積雪期に登ってしまうのが良いのではないかと考えていた。

3月9日(土)

 土合山の家の駐車場は、車が3台エンジンをかけたまま止まっていた。ほとんど登山者の様で、それぞれに支度をしていた。私も準備をしていると、ほどなく一人の登山者が「山の家」の裏に向かって歩き出した。興味を持って目で追いかけると、なんと赤沢山に向かって歩いて行く。まあ世の中には、マイナーな山を目指す同業者がいるものだと思った。しかし、ルートは私が考えていたものとは異なっており、「山の家」の裏から赤沢山の北西に派生する尾根に、いきなり登りあげようとしていた。


 久しぶりの山なので、あたりを引っかきまわして荷物をパッキングして歩き出した。「山の家」の裏には、堰堤工事に伴って作られた立派な車道があるが、ガードレールの上まで雪に埋もれていた。早速スノーシューを履いて歩き出した。

 歩き始めてすぐに先ほどの登山者がが付けたトレースが斜面に残されていた。見ればかなりの急斜面で、もがきながら登った苦闘の痕が残っていた。私はここを通り過ごして、そのまま車道を進むことにした。

 車道はすぐに終わり、堰堤に突き当たった。沢は雪が無くなっているところもあり、水が流れており、緊張しながら慎重に沢に降りて渡渉した。しかし、これからがとんでもない急斜面での雪との苦闘のはじまりとなった。今回のルートは、この沢の左岸に渡りそのまま尾根に登りあげて、尾根を辿ってそのまま赤沢山を目指そうと言うものだ。地形図の表記を見れば、尾根の途中の標高900m付近で、傾斜が緩やかになっているのがひとつのポイントでもあった。迷いやすそうだが、GPSがあればそれも何とかなるはずだ。

 沢から尾根に登りあげるのだが、深雪と急傾斜に阻まれてなかなか進めない。どうやら雪がある程度締まったところに最近雪が降ったようだ。そのために表面の柔らかい雪がどうしても体重を支えられずに、ズルッと崩れてしまう。いくらもがいても、そこから進まずに雪を崩しているだけになってしまうのだ。両手のストックをなんとか使って支えながら進んだ。

 スノーシューも使用するのが今回で2回目、まして本格的な使用は初めてだ。スノーシューはこんな2層構造(?)の雪は苦手なようで、トラバースしようとすると、表面の雪とともに滑り落ちてしまう。そこでどうしても直登するのだが、これがなかなか苦しい。キックステップで、スノーシューのつま先のクランポンを斜面に突き立てて登ることになる。しかし、それも油断するとやはり滑り落ちる事になる。意外だったのは、雪を踏み抜いて腰のあたりまで潜っても、足を引き出すのが簡単なことだ。それに購入時は体重がひとつの目安となっているが、実際は取り回しのしやすさと携帯性を考えると、山登りの時は当てはまらないような気がする。平地のトレッキングなら、それは体重を考えるのがベストだろう。

 ともかく、登らないことには始まらない。スノーシューの扱いにもだいぶ慣れてきたので、スピードは遅いものの徐々に高度を上げていった。雪を踏み抜くと足の下には幼木があるところを見ると、夏はコメツガの藪なのかも知れない。
傾斜が緩やかになった
 沢から約1時間かかって尾根に辿り着いた。標高は860m地点、地形図を見ればもう少しで傾斜が緩やかになるはずである。コメツガ林の尾根を外さないように周りを確認しながら歩く。やがて標高900m付近になると勾配も緩やかになり、歩きやすくなった。尾根筋がわかりにくくなると思われたが、実際はそれほどの心配も要らないほどだった。ここで目を引くのはコメツガの大木で、様々な姿で雪の中に佇んでいる。見上げればその枝は様々な方向に伸びて、青空の中に張った蜘蛛の巣のようであった。

 標高980m付近でその緩斜面はなくなり、再び急斜面の登りが始まった。この斜面は灌木などの手がかりも少なく、スノーシューでのキックステップが頼りだ。それでも傾斜がきつすぎると直登が難しくなり、脇に逸れようとして弱気になる。そうすると、ズルッと滑って横倒しになって雪まみれになる。なかなか上手く行かないものである。

 なんとかここを登りきって樹林を抜けると、陽光が満ちあふれる明るい場所に飛び出した。ここは標高1150mで南東部分が開けて子持山付近が遠望できる。土合山の家を出発してから2時間45分になるので、腰を下ろして休むことにした。これから進む方角を見れば尾根の左側はコメツガ、右側は広葉樹の林と分かれている。広葉樹林は明るく雪が輝いて見えている。

 標高1250m付近になると広葉樹の疎林となり、雪原がなだらかに続いていた。その中を幾筋かの足跡が横切っていたが、その正体はすぐに判明した。目の前をカモシカが横切って行くのが確認できたからだ。そしてその先にはなだらかな丸みを持った部分が見えている。そこに向けてゆっくりを歩を進めた。
山頂部分の雪のドーム
 やがてその丸みを帯びた場所にたどり着くと、それはまさしく赤沢山の山頂部分だった。その山頂部分はあまりにも綺麗だったので、ついにその中に足を踏み入れることが出来ずに、山頂部分をそのままにして周りを歩き回った。その山頂部分の脇に回ってその風景を見た途端、思わずその展望に息を呑んだ。真っ青な空の中に、尾瀬の山を始め、上州武尊山、赤城山が連なって浮かんでいた。しばしそのまま立ちすくんでしまった。このままずっとこの風景の中に居たいと思ってしまう程だった。

 その山頂の一角に座り込んでウイスキーを開けて呑み始めた。何と贅沢な時間だろう。そう感じてつい「エーデルワイスのうた」の口笛が吹いてしまった。
”雪は消えねど春はきざしぬ、風は・・・・・・・”
するとそこに一人の男性登山者が現れた。
「いやあ!早いですね。私とは違う尾根を登ったようで」
そう言って近づいてきた。土合山の家から先行して登った人に違いなかった。その差は40分ほどになっていた。それにしても、こんなマイナーな山に登ってくる変わり者は、どんな人間なのか興味がある。山頂標識

 そのうちに、この人は全く知らない人ではないことがわかった。それは無線で過去に自宅から交信した事があり、さらに刈り払いがされていなかった「土鍋山」「御飯岳」で偶然会っていたのだ。こうなるとこのMさんとは旧知の仲ということで山談義に話が弾んだ。聞けば明日は土樽で「タカマタギ」に登るという。「タカマタギ」は私にとっても狙っている山のひとつなので羨ましく思った。

 山頂で1時間近く話し込んでMさんは先に下山していった。静寂の戻った山頂で再びウイスキーを呑みながら、大展望を存分に堪能した。下山は再び同じ道を戻るのは癪なので、Mさんが登ってきた道を辿ってみることにした。赤沢山から北西に派生する尾根は、初めのうちはほとんど平坦で歩きやすそうに感じる。ともかく身支度を山頂をあとにした。
マチガ沢・一の倉沢を見る
 道は平坦で歩きやすく、何よりも谷川岳方面の展望が素晴らしい。マチガ沢と一ノ倉沢の荒々しい岸壁は見ているだけでも感激に値する。今いる場所は、これらの山の展望台として最高の場所に位置している。それにこのルートは、赤テープが頻繁に見えるところを見ると、こちらが正規のルートなのかも知れない。しかし、標識のたぐいは全く見られないことから、それなりの装備は必要になるだろう。

 はじめは平坦だった道もやがて傾斜が強くなり、スノーシューでの下りは不可能となった。そこでスノーシューを外して下ることにした。するとなんと膝上まで潜ってしまうので、雪まみれになりながら下山。山の家に着く頃には、ズボンは雪でずぶ濡れになっていた。



「記録」

土合山の家06:42--(.20)--07:02渡渉--(.51)--07:53尾根--(2.15)--10:08山頂11:48--(1.58)--13:46土合山の家

赤沢山山頂から尾瀬・武尊方面の展望



群馬山岳移動通信/2002/