熊の足跡、円座、爪跡「相ノ倉山」
1997年11月9日


相ノ倉山(あいのくらやま)標高1567m 群馬県吾妻郡
熊の足跡
 地図を眺めていると、この山は何となく眺望にすぐれているのではないかと、気になる山がある。四万温泉の西に位置する「相ノ倉山」もそんな山だ。ここから眺めれば、白砂山や草津白根山あたりの展望台として申し分のない位置にあるからだ。

 11月9日(日)

 紅葉真っ盛りの四万温泉から左に折れて、野反湖に通じる林道に入る。途中で「四万スポーツ林」と言う、なにか場違いの施設を通過する。ここを過ぎると、本格的な林道走行となる。道幅は狭く、対向車とのすれ違いは待避所を使わなければ不可能なほどだ。

 林道も最高地点の峠が近づくと、道の中央に深い溝が現れて走りにくい。溝にはまったら、タダでは済みそうにないので慎重にならざるを得ない。ゆっくりとゆっくりと走行して峠に着いた。峠には標柱があり「万沢(相倉山)林道自動車道終点」と記してある。そして、林道の脇の小高い場所は広場となっており、車を駐車するには適している。

 ここからは、うっすら雪を被った草津白根山が見えている。外に出てあたりを散策すると、なんと土の上に熊の足跡がクッキリと残っているではないか。思わず絶句してしまった。そして目をこれから登る山の稜線に移すと、なんと木の上に熊の円座が見えている。ここはどうやら熊のテリトリーの真ん中にいるようだ。

 すっかり怖じけずいてしまって、登山靴を履く気力がすっかり無くなってしまった。しばらく、そのまま足跡と円座を眺めて時間を過ごした。しかし、このまま時間を過ごしても仕方ないので、意を決して登ることにした。そこで、無線機のスイッチを入れてボリュームは最大、今日は場違いとも言えるがピッケルをもって武装、もちろんザックには鈴をくくりつけた。

 さあ、いよいよ歩き始める。道は全くないと思っていたが、意外や笹が刈り払われて道が出来ているではないか。どうやら、今年になって切り開いたと思われるような切り口だ。とにかくこれはありがたい、この刈り払いがなければ、腰ほどまである笹藪漕ぎを強いられるところだ。

 歩き始めてすぐに稜線に到達、ここにある熊の円座をじっくり観察した。円座は地方によっては「クマンタナ」と言われ、熊が木の上で餌を取るときに、折り取った木の枝を尻の下に敷いてできたものである。見ると確かに木の枝を折った跡もあり、木に登ったときの爪の跡もある。しかしこんな細い木の枝に、良く登れるものだと感心した。

 刈り払いの道は、相変わらず稜線に沿って忠実に辿っている。どうやらこのまま山頂まで行けそうだ。その稜線は一旦もったいないほど、下降して再び登りとなる。登りはじめはちょっとした岩場となっており、木の根が露出していた。その木の根を見て再びドキッ!としてしまった。その木の根には、クッキリと爪の跡が残っていたからだ。

 今度は鈴を手に持って、振って盛んに音を出して必死に登った。標高1500m付近からの登りはさらに傾斜を強めて来た。どうにかピッケルに支えられて、その登りを詰めるとおなじみのダンダラ棒が目に付いた。

 熊の恐怖に震えながら、なんとか相ノ倉山の山頂に立つことが出来た。刈り払いの道もここで途切れているところを見ると、どうやらこの道は三角点の測量のために作られたものらしいことが推測された。山頂にはGさんの山頂標識と、群大WV部の標識が立木に打ち付けられている。そこには「水が欲しい」「女が欲しい」と切実な欲求が書かれていた。肝心の展望であるが、期待していた白砂山方面は立木に阻まれて、思ったようには見られなかった。展望が開けているのは、南東方面の榛名山あたりだけだったので、ちょっと期待はずれだった。

 無線はFDI/村上さんをレピーターで呼び出してから、シンプレックスで交信した。これからは緊急連絡先は村上さんを指定しておいた方が、現実的かなとも感じた。

 下山は再び鈴を必死に鳴らしながら、ゆっくりと下った。



「記録」
 08:26峠--(.46)--09:12相ノ倉山09:43--(.27)--10:10峠


 帰りは時間が余ったので、四万スポーツ林の駐車場に車を止めて、小倉ノ滝に見学に出かけた。眩しいほどのモミジ、カラマツを眺めながら散策をした。小倉の滝ではカップルが手だけでなく、足も絡めて愛の交歓中。おもわず滝壺に落としてしまいたい衝動に駆られてしまった。(しかし羨ましい次第でした)

「記録」
11:12四万スポーツ林--(.23)--11:35小倉ノ滝11:43--(.17)--四万スポーツ林12:00


                    群馬山岳移動通信/1997/