大展望の「雨乞岳」と白い砂礫の「水晶ナギ」
登山日2018年11月23日

水晶ナギからのパノラマ(日向山、大岩山、鳳凰三山)
雨乞岳(あまごいだけ)標高2037m 山梨県北杜市/水晶ナギ(すしょうなぎ)標高1780m 山梨県北杜市


日向山から見る水晶ナギ(2018/5/20)


今年の5月に山梨県北杜市の日向山に登った。日向山山頂の白砂の斜面から目の前に見えていた水晶ナギは新緑の中にポツンと白い雲が漂うように見えていた。そこは日向山の白砂の斜面よりも広く見えた。いつかはあの天上の白い砂浜に行ってみたいと思うようになった。

11月23日(祝)
そろそろ路面凍結の心配があったが、ノーマルタイヤで出かける。上信道に入ると長野県北部はチェーン規制の表示が出ていた。野辺山あたりではマイナス5度になっていたが、路面の凍結もなく、空には星が見えている。清里から北杜市に入りサントリー白州工場を過ぎてから左折して集落を抜けて石尊神社に向かう。地図を見ればもうすこし楽に行ける道がありそうだが、カーナビの案内の通りに進んだため、くねくねと曲がりくねった道に導かれることになった。石尊神社前の駐車場はひっそりとしていた。準備を整えながらラーメンを作って食べる。ザックを背負うところで車が1台到着して男性2名が準備を始めた。

石尊神社はサントリーが寄進したと書かれていた。サントリー白洲工場をつくる際に整備されたものなのだろう。たしかにブランド名の「南アルプス天然水」を取水するためには広大な土地を確保しておかねばならないから大変だ。なぜなら廃棄物処分場、ゴルフ場、などが建設されたらそれこそ工場閉鎖も考えなければならないだろう。石尊神社の前には簡易水道の貯水タンクがあり、それを囲むステンレスの外装は朝日が当たって橙色に輝いていた。この地区の人たちは「南アルプス天然水」を日常生活に使っていると思うとなんともうらやましい。林道を数分歩くと「雨乞岳」登山口に到着する、ここにも数台の駐車スペースがあり、男性が出発準備をしていた。

登山道に入ると道がよく整備されているのに驚く。これもサントリーが整備したのだろうか。ほとんど散ってしまったモミジの紅葉が朝日を通過させてより鮮やかに見えている。足元には朴ノ木の大きな葉が道いっぱいに敷き詰められている。朴の葉は大きいので風で飛ばされにくく、木の下に落ちるのだろう。しばらくはサントリー白洲工場のモーター音が聞こえていたが、道を進むにしたがって次第にその音は遠のいて行った。登山口から歩き始めて30分ほどで男性2人組に追いつかれて、あっという間に追い越されてしまった。私の歩みはカメのごとくゆっくりと歩いているのだからしかたない。それでも背中は早くも汗で濡れてしまっていた。

高度を上げるにしたがって広葉樹の葉はすっかり無くなり見通しが良くなり、見上げると青空が見えるようになっていた。道は相変わらずしっかりとしており、公園の中を歩いているようでもある。歩き始めて2時間ほどで休憩することにした。水分を補給しピーナッツを口に含んだ。塩分が体中に染み渡り生き返る感じがする。ほどなくすると単独行の男性がTシャツ一枚で目の前を通過して行った。これで今日は3人に追い越されてしまった。もうこれ以上追い越されることは無いだろうから、あとはマイペースで登って行けばいいだろう。深い溝に囲まれた中に道があり、落ち葉が敷き詰められているから、土中生物も豊富なのかもしれない。イノシシの土耕の痕が延々と続いている。そんなところは足を取られながら進んでいく。そんな時に目の前に黒い影が突然横切った。思わずクマかと身構えたが、シカが斜面を駆け下っていくのを確認してホッとした。


石尊神社

駐車スペース

登山口

朴ノ木の落ち葉

踏みしめる

いつしか広葉樹林から針葉樹林へと植生が変わり、傾斜がなだらかになったところにプレハブ小屋があった。設置者はサントリーとなっており、県知事の許可期間は過ぎてしまっているが、そのまま放置されてしまっているらしい。この辺りがホクギノ平と呼ばれるところだ。登山道から離れ小屋の裏に回ってみると三等三角点があり雨量計がポツンと放置されていた。この雨量計は使用されていないようだが、これもおそらくサントリーが設置したものだろう。三角点なのだが地形図上には表記されていない。まさか忘れ去られた三角点という事もないだろうが興味深い。

ホクギノ平を過ぎるとカラマツ林となり、目指す雨乞岳や水晶ナギの白砂の斜面が見え隠れする。この付近は風が強く、ウインドブレーカーを着ようかとも思ったが、そのまま歩き続けた。笹原の中に続く道を進みトラバース気味にピークを巻くと水晶ナギと雨乞岳の分岐となる。水晶ナギへは往復30分と書いてあるので、時間を見計らって帰りに寄ってみることにする。

分岐から雨乞岳へは笹が若干うるさくなっているが、歩くには支障ない。ふと見ると登山道に赤いストックが横に置いてある。誰かの忘れものと思ってと近づいてみると、それはストックではなく索道に使用していたワイヤーであることがわかった。ワイヤーは登山道を横切るように3本あり、足を引っ掛けないように目立つように赤色ビニルテープが巻き付けてあったのだ。これをストックと見間違えたのだ。地面から30センチ程度の高さにあるワイヤーはこの赤テープが無ければおそらくわからなかっただろう。


まるで遊歩道

ホクギノ平(後方に小屋がある)
地図にない三角点

樹林の向こうに水晶ナギが見える

大岩山と鋸岳

分岐

ワイヤーロープ

急斜面

サルオガセの下がったカラマツ

山頂までもう少し

甲斐駒を振り返ってみる

雨乞岳への登りはかなりの急傾斜でストックを使って、ゆっくりとゆっくりと高度を上げて行く。汗が額から滴り落ちて出っ張ったお腹のあたりに落ちて汗ジミとなって広がっていく。 急傾斜の道はほぼ一直線に登っているので、高度が気持ちよく上昇していく。さルオガセの下がったカラマツ林を抜けると笹原の斜面となる。振り返ると素晴らしい展望が広がっている。疲れていることもあり、何度も立ち止まり振り返って景色を楽しんだ。分岐から約1時間弱で山頂に到着した。到着と同時に先行していた二人組が下山するところだった。山頂にはやはり私を追い越して行った単独行の男性が休んでいた。富山から来たという男性と記念撮影や山談義をしていると、5人ほどの団体と、ご夫婦が相次いで山頂に到着し、一気に賑やかになってきた。そんな山頂を少し外れたところでカップラーメンを食べて景色を楽しんだ。なんといっても富士山が目につく、そしてトゲトゲしい鳳凰三山、山頂部分が霧氷で白くなった甲斐駒ケ岳、そして名前の通りの鋸岳が連なって見える。それらの山々の前には白砂の斜面が谷まで延びている日向山と大岩山までの急峻な稜線が目を引く。いつまでもここにいて眺めていたい景色だ。ラーメンを肴に25度の焼酎を頂くと、何とも幸せな気分になる。今年の夏は体調不良ですっかり鈍ってしまった身体だが、こうやって山に来られたことがうれしい。


山頂標識

甲斐駒ヶ岳

富士山と鳳凰三山

山頂からのパノラマ

30分ほどの休憩後、賑やかな山頂をあとにして下山することにした。20分で分岐まで到着、水晶ナギに向かって進んでいく。途中に白砂の斜面があり、ここから雨乞岳を振り返って見るとなかなか立派なピークだと見とれてしまう。しかし風が強くここにとどまることが困難なので、早々に引き上げる。さらに進んでいくといよいよ水晶ナギに到着する。花崗岩が風化してできた白砂の斜面は自然の造形として不思議な景観だ。白砂の中に足を踏みこむとサラサラと砂が斜面を落ちていく。そのまま下に歩いていきたいところだが、蟻地獄のようになっているので斜面を戻れなくなったら困るので上から眺めるだけだ。目の前の日向山の白砂に比べると、水晶ナギはちょっと黄ばんでいる。花崗岩の石英の色の関係なのだろう。富士山は半分以上が日向山と鞍掛山の稜線に隠れて見えなくなっている。この水晶ナギの西にも行ってみることにする。いったん登山道に引き返し、小高いところから藪の中を進んでみる。こちらはあまり人が来ていないようだ。花崗岩の石柱が順序良く並んでおり、この石柱がなぜ斜面を転がり落ちないのか不思議だ。白砂の斜面に足跡を残してみたが、これは風が吹けば明日にでも消え去ってしまうだろう。去りがたい水晶ナギを目に焼き付けて下山することにした。


水晶ナギ手前の白砂斜面から雨乞岳を見る

水晶ナギから日向山を見る

色が茶色い

石柱(転がり落ちないのかな?)

秋の日は短く、時間ごとに長くなっていく自分の影を追いながら枯葉の道をカサコソと音を立てながら下山した。

下山後は「道の駅はくしゅう」で南アルプス天然水を10リットルのポリタンクに詰めてから帰った。

群馬山岳移動通信/2018

07:13石尊神社駐車場--(.03)--07:16登山口--(2.21)--09:37ホクギノ平--(.55)--10:32分岐--(.55)--11;27雨乞岳11:58--(.20)--12:18分岐--(.11)--12:29水晶ナギ12:51--(.10)--13:01分岐--(.31)--13:32ホクギノ平13:38--(1.28)--15:06駐車場


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)