先駆けの春を感じる「大笹山」「三国山」   
                                                登山日2013年3月9日






大笹山(おおささやま)標高1545m 群馬県みなかみ町/三国山(みくにやま)標高1636m 群馬県みなかみ町


大笹山は1月19日に登ろうと思ったのだが、当日は大雪に見舞われ、現地に着いたものの車外に出ることも出来なかった。その後も週末は天候が悪く、なかなか行く機会がなかった。

3月9日(土)
国道17号三国峠の駐車余地に到着すると、2ヶ月前と変わって雪はなく様子は一変していた。しかし、それは除雪が行われた場所であり山の斜面には雪が残っていた。装備を何にしようか悩んだが、結局はアイゼン、カンジキ、ピッケルの三点は持って行くことにした。車から降りてカレーヌードルを食べてから出発する。保温用の水筒には熱湯をたっぷりと詰め込んだ。

車の行き交う国道を100mほど歩き、コンクリート壁の隙間から山の斜面に踏み込む。ところがここで思わぬ事態に直面する。なんと雪が深くてとてもではないが歩くことが出来ないのだ。場所によっては腰のあたりまで埋もれてしまう。そこで最初からカンジキを履くことにする。ところが、カンジキを履くときに違和感を覚えた。みればカンジキにヒビが入って割れているのだ。この前の山行の時に破損したのだろうが、このまま使用可能なのか不安を抱えたままでの出発となった。

カンジキを履いたとはいえ、膝のあたりまで潜る雪との格闘となってしまった。ストックを斜面に突き立てるとグリップ付近まで潜ってしまう。おまけに斜度があるものだから、ズルズルと落ちてしまう。それにしても誰か歩いていても良さそうなのに、人気のない山と言うものは、こんなものなのだろう。それでもブナの周りの根開きは進んでおり、春が確実に進んでいることを感じさせる。木々の間から見える空は朝の雲も取れて青空に変化していた。

標高1200m付近までくると、あれほど悩まされていた雪も締まってきて、それほど潜らずに歩くことが出来た。こうなるとスピードも上がり、早春の残雪歩きの感覚を味わうようになってきた。標高1280m付近で標識を見つけた。これは旧三国街道で今では散策路になっている。広葉樹の明るい林の斜面を登ることはなんと楽しいのだろう。風もなく、日射しは暖かく頭上には青空がある。その青空にダケカンバが白い枝をいっぱいに広げているのはとても清々しい。広葉樹の林も疎なところがあり、広場のようになっている。きっと雪が消えれば笹藪になり、立ち入るのは大変なところになるのだろう。しかし、雪のある今の時期は日射しがスポットライトの様に降り注ぐ舞台のようだ。


国号17号コンクリート壁の切れたところから入る

標高1280mで登山道を横切る

作業用のゴム手袋(インナーは軍手)

この付近からカンジキが沈まない

標高1546mのピークは目立った展望もない場所だった。ここから見ると目指す大笹山は思いのほか下方に見える。標高差は約90mなのでたいしたことはないのだが、せっかく登り上げたピークを下るのはちょっと残念だ。このピークから間近に見える場所は三国山の東端で雪が白く輝いていた。この1546mのピークから大笹山に向けて思いっきり下降していく。しかし、思いっきり下降するにはもったいない景色が眼前に広がっていた。荒々しい小出俣山の岩壁が迫っており、それに続く谷川連峰の白く嶺を連ねている。武尊山は孤高の修行者のごとく離れた場所に鎮座していた。目を転じれば上信国境の浅間山が見えるが、その方面は霞んで見えていた。何度も何度もそれらの山々を確認しながら下降を続けた。下降したコルにはダケカンバの巨木が無数にあり、それぞれの枝は厳しい気象条件に耐えたらしく、曲がりくねって伸びていた。

小ピークを越えてなだらかな斜面を進んでいくと、平らなピークに到着した。ここが大笹山で周囲は樹林に囲まれていたが、春の陽光は存分に降り注いでおり風もなく、ここでノンビリと過ごしたい気分になってくる。しかし、1546mのピークへの登り返し、そして連なる三国山まで行きたい気持ちがこの場所に留まる事を望まなかった。大福餅を食べてこの山頂を辞して戻ることにする。



1546mピーク

1546mピークより小出俣山

1546mピークより大笹山

大笹山山頂


歩き始めると、くっきりと見えていた浅間山の輪郭がぼやけている。考えたくはないが、黄砂やスギ花粉の影響なのかもしれない。また三国山山頂付近には人影があり、カメラを構えて山頂部分を撮影している様子が見えた。下るときは快適だった斜面も登るとなるとひと苦労だ。キックステップでリズムを崩さないように登っていく。

1546mnピークをわずかに過ぎると、2人分のスノーシューの足跡が三国山に向かって延びていた。このトレースを辿るようにダケカンバが中心の樹林の中を登っていく。斜度はあまり無く快適に高度を稼げる気持ちの良い登りだ。この先のピークに達したらゆっくり休もうと考えていた。樹林が疎らになったところで、山頂から男女二人の登山者が下降してきた。聞けば同じルートを登ってきたようだ。
そのうちに女性が「たしか、なんて言いましたっけ、あそこでお会いしましたよね」
こちらもたしかに見覚えがある。「そうだ、武能岳ですよね」と言うと、
「そうです、ホームページもよく見ています」と切り替えされた。
三国山へは回らずに、このまま往路を戻ると言うことだ。経験の深い彼らがなぜ周回せずに戻るのか、その答えはこれから嫌と言うほど思い知ることになる。

最後の斜面は、灌木もなくカンジキで気持ちよく雪面を捉えて歩いていくだけだった。三国山は東西に細長い山頂を持っている。三角点は西端にあり、今登り付いたのは東端と言うことになる。先行者のスノーシューの足跡もここで終わっている。しかし、ここからの展望のなんと素晴らしいことだ。一部に藪があるが、360度の展望が得られる最高のピークだった。上越国境、上信国境、

名だたる山々が見える。そして何よりも平標山から始まる谷川連峰の迫力ある山容が素晴らしい。眼下には赤谷湖、法師温泉の集落の建物が陽に照らされて微妙に光を反射させていた。よし、ここでゆっくりと大休止することにしよう。国道を走る車を眼下に眺めながらラーメンを作る。風もなく、暖かい日射しを受けながらのなんという至福の時間なのだろう。



三国山東端

三国山山頂

三国山東端から谷川連峰

三国峠東端からトマノ耳

三国山東端から上信越国境の山並み

たっぷり休憩して、三国山の西端である三角点峰に向かう。アップダウンもなくわずかな時間で到着した。標識はほとんど雪に埋もれてしまっていた。さてここからは踏み跡があるだろうと思っていたが、それは全く期待はずれだった。踏み跡どころか深雪に足を取られて進めない。腰まで潜ってしまい、カンジキを履いた足を引き抜こうとしてもあまりの深さに引き抜くことが出来ないのだ。下降だというのに簡単には前に進めないのだ。夏道には階段が設置してあるのでそちらに足を踏み込むと今度は階段の隙間に足を取られて、もっと歩くのが難しくなってしまった。仕方なく階段を離れてツボ足で下降することにした。しばらく進むと今度は雪が無くなっている階段が現れた。こうなると階段を使わない手はないので、カンジキを脱いで階段での下降に切り替えた。しかし、それもわずか深雪に阻まれるようになってきた。再びカンジキを履くという、無駄な作業をすることになってしまった。



三国山山頂


三国山の標識は雪の中


障害物と化した階段


滑り台と化した階段

深雪にあえぎながらやっとの事で旧三国峠に到着。時を同じくして新潟県側から男女のスキーヤーが到着した。軽く挨拶を交わしてからザックを下ろして休憩することにした。この旧三国峠にある「三国権現」の社は雪に埋もれおり、鳥居も半分までがやはり雪の下になっていた。この時期にこれだけ雪があることは珍しいのではないか。予定ではこの峠からさらに進んで長倉山に向かう事を考えていたが、あまりの困難さに、ここから先はやめることにした。それにカンジキがこれ以上持つかどうかも不安要因のひとつだった。

この先はもう安心と言うことで、大きなストライドで雪の中を下山した。踏み跡もないことからGPSを確認すると大きくコースから外れていた。これを修正しようと谷に向かって下降していった。ところがなんと言うことだろうか沢は雪崩跡が生々しく残っている。とてもここを通過する気持ちにはなれない。
こうなったら、戻ってこの雪崩跡を回避するしかない。そう考えて戻ることにしたが、3分ほど下っただけなのに登るのに20分ほど掛かってしまった。やっとの事で登り切って再び沢に向かって下降した。しかし、今度は沢に降りるところが崖になっていて降りることが出来ない。左右に逃げることも出来ずに進退窮まってしまった。仕方なく再び少しだけ戻って雪崩跡を辿って下降するしか無くなってしまった。こんな時は思考能力もなくなり、恐怖心も薄れているのだろう。なんの疑問も持たずにそのルートを選んだのだった。なんとか沢に降りたが、その場所で耳を澄ますとなにか音がする。今度は思わず血の気が引いた。それは足下の雪の下を雪解け水が流れているのだ。いつ崩れるかもしれない、雪の上にいるのだ。思わず山側に逃げるルートを選ぶことにした。どうやら登山道は沢の右岸にあるのだが、誤って左岸を歩きその挙げ句に沢に入ってしまったのだ。そう思っても傾斜が急で右岸に登ることも出来ない。このまま沢をいくしかないようなので、慎重にルートを選びながら下降する。

あいかわらすトレースはなく、自分が付けたトレースがあるのみだ。ひょっとして私のトレースを頼りにして踏み込む人が居たらどうしようかと考えたが、ともかくこのような状況ではしかたあるまい。

やっとの事で三国トンネル群馬県側に着いたときは、生還した喜びで両手をあげてガッツポーズをしてしまった。



三国権現の社と鳥居は雪の中


雪崩が上部から


雪崩が下方に


三国トンネル





登山口07:16--(1.05)--08:21標高1280m08:30--(.50)--09:20標高1546mピーク09:35--(.37)--10:12大笹山10:39--(.41)--11:20標高1546mピーク--(.21)--11:41三国山東端12:27--(.11)--12:38三国山--(1.02)--13:40三国峠13:53--(.03)--13:56迷う14:36--(.25)--15:01三国トンネル--(.07)--15:08駐車地点


群馬山岳移動通信/2013


GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)