北西尾根ルートで難易度を下げて「男鹿岳」
登山日2018年4月20日



麓から滝沢山を見る(男鹿岳はその奥になる)

男鹿岳(おがだけ・おじかだけ)標高1777m 福島県南会津郡・栃木県日光市・那須塩原市

今年は雪解けが早いことと、翌々日は妻の母親の納骨が控えている。あまりリスクの多い山歩きはできそうに無い。それでもぎりぎりまで計画を練り装備も準備していたのだが、出発の前日になって予定を変更することにした。この残雪期間限定で登ることが出来る「男鹿岳」にした。男鹿岳は300名山の中でも藪が深いことで有名だ。なかでも延々と林道歩きを強いられることから、山に登るよりも林道を歩く方が長いといった妙な山でもある。

4月20日(金)
東北道矢板PAで車中泊してから、早朝に登山口に向かう。那須塩原の街を抜けて北上し、福島県会津田島に向かう。会津田島は国道121号と会津鉄道、阿賀川が並行している。阿賀川の土手沿いは桜が満開でついつい目を奪われてしまう。季節が1か月ほど逆戻りして、異国の地に入り込んだ気持ちになる。南会津町役場の付近から今度は水無川の上流に向けて南下する。集落の細い道を抜けてはずれに向かうと橋の手前に通行止めの看板がある。看板には通行止めの理由や期間については記入されていない。おそらく冬季の積雪に対応したものなのだろう。ゲートは土嚢が括り付けられたものなので簡単に移動が出来る。ゲートを抜けて進むと細い道はダートになり枯れ枝や細かい石が散乱してくる。時折跳ね上げた小石がボディー下部に当たりパチパチと音がするのであまり気持ちが良くない。調子に乗ってスピードを出すとろくなことにはならないだろう。道の脇の雪はすっかりとなくなり、ところどころに水たまりがある程度だった。

釜沢橋の手前で道は二分する。そのまま直進し橋を渡るとガードレールが設置され通行止めの表示がされている。その手前には車が数台止められる余地がある。車を停めて準備を始めると、軽1BOXがやってきて看板の前に駐車した。中から男性が降りてきて「昨夜は大雨だったんですが止んでよかった」と言った。車は足立ナンバーだったが出身は群馬という事で親しみがわいた。この男性は私よりも先に出発して行った。

支度を整えて先行者から30分ほど遅れて出発となった。今日はおそらくこの二人が山に入るだけとなるだろう。先行者はワカンを持って行ったが、私は踏み抜きは少ないだろうと、アイゼンを持つことにした。念のためにピッケルをザックにくくりつけておいた。(結果的にはアイゼンもピッケルも不要だった)

ゲートの看板は「栃木県が設置した・・」と書いてあったが、ここは福島県と考えると妙な言い回しではある。林道はすぐに分岐するが、直進するのが正解で、左に行く道は作業道らしい。その林道も次第に荒れてきて土砂で道が塞がれた部分や、崩落個所が多くなってくる。しかし、車道ではなく登山道と考えれば、これほどありがたいルートはない。それにしてもこの林道があるだけで男鹿岳という名山はその価値が下がってしまっていることは確かだ。


釜沢橋の先で通行止め

荒れた林道

北西尾根入り口

1276m標高点

北西尾根雪が増えてくる


林道を歩き始めて1時間半、右手の斜面に赤テープのマーキングがある。よく見るとその斜面に踏み跡がつけられているのがわかる。標識は無いが、ここが男鹿岳北西尾根の入り口だ。このまま林道を辿り大川峠まで進み、そこから尾根を伝って登頂するのが一般的なのだが、最近はこのルートを辿る人が多いらしい。この踏み跡程度しか痕跡の無い道に入ると、ヒノキの植林地であったことがわかる。雪は無く、時折現れる笹に行く手を阻まれるが、それほど困難な藪ではない。そのなかにスリップ痕やビブラム足跡を見つけるとほっとする。1276mの標高点ピークは顕著なものではなく、尾根の傾斜が緩んだような場所だった。そこには黄色いペットボトルカバーが立木の枝につりさげられていた。こんな藪山ではゴミとしか思えないものでも、人の入った痕跡があるという事はうれしいものだ。この付近から残雪が目立つようになり、藪を避けてこの残雪を伝いながら登るようになってくる。こうなると雪上にはっきりとした踏み跡が見られるようになり、ルートが確定してくる。振り返ると「七ヶ岳」が屏風を立てたように見えている。山頂稜線付近が急峻で雪が付かないのだろう、山腹の谷の襞に雪が筋状に見えていた。それにしても今日は天気が悪くないのに見通しが効かない。春霞なのか黄砂なのか、いずれにしても遠望が出来ないのは残念だ。



標高1500m付近で雪の上を歩ける

七ヶ岳

ダケカンバの林

もうすぐ山頂

ダケカンバの林

山頂手前の快適な斜面


上部に行くにしたがって周囲は雪の斜面となり、ダケカンバの幹が雪上から出ている。日射しが強く、これでは顔が真っ赤になりそうだ。左から山頂に向かって延びる稜線は大川峠からの道なのだろう。藪が無ければきっと快適なルートなのだろう。山頂部分のもう少しというところで、先行した男性の姿を確認したので、手を叩いて合図をした。先方も分かったらしくこちらに向かってきた。聞けば山頂に着いて10分くらいだという。かなりハイペースなのか?いや、こちらが遅いのは間違いないだろう。私が登ってきた北西尾根に興味があるらしく、帰りは予定を変更して、この北西尾根を下るという。そこで、くれぐれも尾根の部分を外さないようにとアドバイスをしておいた。その時に「私はここを下りますが、あなたは私の登ってきたルートを下ったらどうですか?」と言われてしまった。予定を変更して未知のルートを辿るのは危険な行為だが、途中に「栗石山」というピークがあることが気になる。とりあえず先行していた登山者と別れ、男鹿岳山頂に立った。山頂は南北に弧を描くように広くなっている。南に向かうと大佐飛山が大きく見え、懐かしさを感じる。近くにあるはずの那須連山は霞んでいて姿がはっきりしない。山頂標識の前でザックをおろし菓子パンをほおばり麦茶で流し込んだ。手袋を外しても寒くなくゆっくりと休むことが出来た。


山頂

大佐飛山が間近に見える


男鹿岳山頂からの展望


さて、帰路はどうしようかと考える。時刻はまだ早いので、意を決して大川峠に向かうことにした。先行者の踏み跡を辿れば問題ないだろうと、北に向かって下降を始めた。しかし、どうも様子がおかしい踏み跡が無いのだ。GPSで確認すると県境稜線は北に向かう尾根から離れているのだ。方向を修正しながら西にトラバースする。しかし今度は西に修正しすぎて県境から離れてしまった。ふたたび円を描くように戻り方向を修正してから下降を始めると、先行者のトレースが見つかった。危うく間違った方向に下降してしまうところだった。これが笹薮の中だったら、方向の修正もままならず危ないところだった。

雪の斜面を何も考えずに先行者のトレースを辿って行くと栗石山のピークに到着。山頂標識が立木にかけられていなければ見落とすような場所だ。標識を確認しただけで、立ち止まらずにそのまま通過し、雪の斜面をさらに下降する。快適な雪の斜面は標高1500m付近まで続いた。その後は笹薮と残雪が交互にある道となった。笹薮の道はよく見るとトレースがあるのがわかる。しかし、日本300名山のひとつとしてはさみしい感じがする。ひどく長い時間をかけて大川峠に到着した感じがしたが、山頂からは1時間弱を経過しただけだった。大川峠は広い場所があり、朽ち果てた白い乗用車が笹に埋もれていた。ここからは何も考えずに林道を辿るだけだ。

もしも北西尾根から登り、北西尾根を下降したならば、行動所要時間は6時間程度、もはやハイキングコースの範疇ということかもしれない。



栗石山

標高1400m付近で笹藪に突入

大川峠


阿賀川の桜


群馬山岳移動通信/2018

06:03釜沢橋--(1.25)--07:28北西尾根取り付き点--(2.49)--10:17男鹿岳山頂10:49--(.35)--11:14栗石山--(.36)--11:50林道--(1.57)--13:47釜沢橋


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)