魔子にいじめられる「魔子」「五里山」   登山日2012年9月15日



魔子(まこ)標高1700m 山梨県北杜市/五里山(ごりやま)標高1673m 山梨県北杜市



9月15日(土)

大日岩を登ってもまだ時間が残っている。そこで次の山に向かう。

瑞牆山荘前の林道を金山方面に向かうと、右に「魔子の山登山口」がある。付近には他県ナンバーの車が駐車してあったが、どうやらキノコ狩りと思われる。それにしても、魔子とは凄い山名だ。緊張感を持って登ることにした。登山口からしばらくは良く整備された木製の階段が設置されていた。しかし、歩き始めるとなんと膝が痛み出した。塩分と水分補給を行ってから、屈伸運動をしたが改善はされない。我慢して歩き出すと、何とか痛みもやわらいだような感じがする。しかし、右足は引きずるようにして、ストックを頼りに登るしかなかった。何ともないような整備された登山道を、ヨタヨタしながら登るのは情けないものがある。以前から膝の痛みはあったが、これも年齢によるものなのだろう。まして、運動不足は間違いない。


付近の展望はなくコメツガの林の中をひたすら歩くのみである。小さな岩場を越えると登山道の左に小さなコブがある。よく見るとなんと達筆標識があるではないか。しかし、ここは山頂ではないように思える。すぐ上には一段高くなった場所があり、山頂はそこに違いない。しかしわざわざその山頂を外したことは、なにか理由があるのかもしれない。そして足を引きずりながら山頂に立った。山頂からは北方面にある瑞牆山がわずかな樹林の隙間から見えている。想像していたおどろおどろしい雰囲気は感じられなかったが、なんとなく居心地が悪い。山頂には別の標識もあり興味をそそった。そこには「怪山 131座」とあり、いろんなこだわりを持つ人が居るものだと思った。おそらく、妙な名前の山を巡り歩いているのだろうが、いったいどれくらいあるのか想像も出来ない。
魔子を辞して、痛みが引かない足を引きずってゆっくりと歩いた。



登山口

なかなかのものだ

立派な登山道

よく整備されている

達筆標識

山頂から瑞牆山



さて、これからどうしようか。時刻は14時を回っている。膝も痛いし、暑いこともあり何となく気力が失せてしまっている。車の助手席に置いてあるポリタンクに入っている水を飲んで一息ついた。とりあえず行ってみよう。金山山荘を過ぎてわずかに行くと、林道が鋭角に分岐している場所があり、見れば五里山登山口の標識がある。駐車余地も充分あり、とりあえずいけるところまで行こうと決める。準備を始めようとして愕然となった。なんと助手席に床に置いたポリタンクが倒れて床に水が溜まっているではないか。おそらく魔子から降りたときにポリタンクの水を飲んで蓋をしっかり閉めなかったのだろう。おまけに曲がりくねった林道を走ったことで倒れたのだ。とりあえずシェラカップで床の水を汲み出す作業に、思わず魔子の呪いじゃないのかと思った。水はおよそ3リットルほどだったが、思わぬ被害となった。中敷きのマットは外に出して干しておいた。ポリタンクは外に出しっぱなしにして、出かけることにした。


はたして、五里山はどのくらいかかるのだろうか?事前情報を調べないで、ここに来たことを後悔した。林道を10mほど歩くと川にヒューム管を置き土塁を積んだような道が出来ていたが、崩壊が進んで乗用車では到底通過することは出来ない。そのまま時刻は14時半を回ったばかりなのに薄暗くなった林道を歩いていく。やがて林道の先に堰堤が現れ、なにやらここを根城にして、作業している人が居るのだろうか。なにやら生活臭がするのが気持ち悪い。堰堤の横を道は続いており、ここから道は極端に荒れてきた。ところで、どこからとりついたら良いものだろうか。GPSで確認するとごうやら、先ほどの堰堤あたりからとりつくのが良さそうだ。戻って堰堤の付近をウロウロしてみると何となく踏み跡らしきものがある。標識は見られないが、このあたりからとりつくのが良さそうだ。


それにしても踏み跡の薄い山である。全くの藪ではないが、人が入った形跡が見られない。しばらくは沢に沿って登ると、砂防堰堤が見えてきた。これを越えると何となく林道があったような形跡が見られる場所に出た。しかし、不明瞭で自分がどこにいるのかさえも解らなくなるような、どこを向いても同じような倒木のある樹林の中に自分が居た。しかし、沢を詰めるのはあまり好きではないので進路を左にとり、尾根を辿ることにした。


通常は尾根に向かえば何らかの踏み跡があるものだが、それが全くないのである。なんとも不思議な山で、あまり経験したことのないことでもあり不安になってくる。それに何という傾斜なのであろうか。ストックで身体を支えなければ歩けないし、アキレス腱が伸びたまま登るような傾斜だった。それにも増して両側が切れ落ちてナイフリッジのようになっている。特に尾根の右側は切れ落ちており、樹林越しではあるが深い谷になっていることが想像できた。したがって、尾根上にある倒木を越えることが出来ない場合、いったん尾根を離れ斜面から巻くことになる。とてつもない緊張感を味わうことになるが、これが繰り返されるものだから、疲労は強くなるばかりだ。まして、右膝の痛みは相変わらずで、敗退という言葉が頭の中に駆け巡った。



五里山登山口

この川は車ではわたれない

堰堤

尾根に乗っても道はない

倒木が邪魔をする

これも倒木

崩落場所

山頂三角点


こんな時はいつもそうだが、なんの目的で登るのかと自問自答しながら登ることになる。その答えが出るわけではないが、あきらめることは最後の答えであることは確かで、自分の体力と気力が重なった時のことだ。幸いにして気力はまだ残っているし、日没までの時間にはまだ余裕がある。


しかし、それもついに決断を迫られるような場所に着いてしまった。それは目の前に立ちはだかる壁である。登るにしても、登ったとしてもその後の、下降をどうするかが問題である。壁の基部を見ると、右にケモノミチのようなものがある。それを辿ってみるが、その先は崩落しており進むことが出来ない。いや進むにしても崩落場所の下方は深い谷になっている。あの嫌らしい草付きの崩落場所を進むことはリスクが大きすぎる。


再び戻って壁の基部に立って、観察して見る。この壁を登れば間違いなく山頂であることは確かだ。難しそうな壁もよく見れば、立木に掴まればなんとか登れそうだ。よし、行くしかない、下降のことは登りながら考えよう。それに登るときによく観察して下降の場所を巻紙でマーキングしていこう。ストックを畳んでザックにしまい込み、壁にとりついた。もう戻ることは出来ない、登るしかないのだ。


木は枯れていないか、葉の有る無しで判断して生きている幹の下をつかむ。木の幹が無理な場合は、根っこを掘り出してつかんだ。岩はほとんどが浮いているので掴まなかった。まして下降ルートを考えるとザイルなしで岩を掴んで下るのは危険すぎる。現に岩が剥がれて谷底に向かって恐ろしい勢いで落ちていくのだ。ケモノも登らないのだろうか、蹄の跡さえも見られない。それでも少しずつ高度を上げることによって、標高差20mほどの壁であったが登り切ることが出来た。稜線に出てから右に向かいしばらく進むと三角点があった。ここが地形図の五里山であると考えると、感慨につかりたいところだ。標識はあったが文字は全く読み取れなかった。時刻は16時を過ぎているので余裕はない。日没になってからあのルートを下降するのは不可能だ。ペットボトルの水を思いっきり飲んで、すぐに下山に取りかかった。


巻紙のルートを辿りながら登ってきたときの木の幹、根っこを思い出しながら下った。久しぶりに命の危険を感じる緊張感に酔いしれるような感覚は何なのだろう。怖いことよりも嬉しささえ感じることが不思議でならない。おそらく、山頂に到達できたことの達成感がそうさせているのかもしれない。


満足しながら林道を車に向かった。そして最後の川を渡るところで、メガネを外して岩の上に置き顔を洗った。そのときにふと身体がよろめいた。とっさに踏みとどまったが、なんと登山靴の下にはメガネがぐちゃぐちゃになって踏まれていた。とっさにこれはポリタンクと同じように魔子の呪いかと感じた。幸い、予備のメガネを持っていたので事なきを得たが、痛い出費となってしまった。


魔子の山登山口13:22--(.31)--13:53魔子山頂13:59--(.16)--14:15登山口


五里山登山口14:35--(.07)--14:42堰堤--(.11)--14:53砂防ダム--(.09)--15:02尾根に乗る--(.41)--15:43岩壁手前15:49--(.13)--16:02五里山山頂16:07--(.09)--16:16岩壁基部--(.28)--16:44林道16:47--(.07)--16:54登山口


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)