標高三千米の青い瞳「木曾御嶽山」
                                        登山日2014年6月16日





御嶽山/王滝頂上(おうたきちょうじょう)標高2936m 長野県木曾郡/剣ヶ峰(けんがみね)標高3067m長野県木曾郡/摩利支天山(まりしてんやま)標高2959m長野県木曾郡・岐阜県下呂市/飛騨頂上(ひだちょうじょう)標高2800m長野県木曾郡・岐阜県下呂市/継子岳(ままこだけ)標高2859m長野県木曾郡・岐阜県高山市/継子二峰(ままこにほう)標高2830m長野県木曾郡



3週間前に体調不良で救急車にて搬送され入院したこともあり、簡単な山を目指すことにした。そんなわけで今回は登山道もしっかりしている、木曽御嶽山ノンビリと登ることにした。とはいえ、御嶽山は日本で14番目に高く、標高は最高点で3067m(三角点は3064m)だ。
簡単に考えていたが、アプローチが長く、伊那ICを降りてから登山口である田の原駐車場まで76キロ。自宅からは5時間も掛かるのだ。日帰りでは強行過ぎるので、日曜日に現地に向かい車中泊し、月曜日に登ることにした。

6月16日(月)
午前3時半、目覚まし時計のアラームで起き出す。空には星が明るく輝いている。平日と言うこともあり、広い駐車場は6台ほどしか見えない。まして、山開き前なので営業小屋が開いていないのが原因かも知れない。車外に出ると寒さを感じるので、ダウンのジャケットを着込んだ。カップラーメンを食べるが、いつものようにおいしく感じない。この場所は標高2200mなので、高山病になっているのかと不安になる。なんとかスープまで腹に押し込んで出発の準備を整える。

大きな鳥居を潜って広い車道を御嶽山に向けて歩き出す。山頂部分は朝陽が当たりはじめているので、山頂の残雪がほんのり赤く染まっている。どうやら本日の行動は一番始めらしく、周囲は静寂そのものだ。

標高差もない広い道を歩いていくと、あまりにも宗教施設が多いのに驚く。鳥居と賽銭箱がありその都度お参りをしていたのでは、前に進めなくなるほどだ。なるほど、ここは霊峰御嶽山なのだとあらためて感じる。

大江大権現までくると、傾斜もわずかながら強くなり登山道らしくなってくる。それでも整備された道は自然の中を歩いているのではなく、歩かされているといったほうが適切かも知れない。「あかっぱげ」と呼ばれる場所は、赤土が露出して、裸地となっている。それにしてもこの名称は何とかならないものか。そう思いながら自分の頭をなで回した。



御嶽山に朝日が射し込む

アカッパゲと呼ばれる崩落地

八合目は森林限界


山頂に近くなると残雪が豊富


金剛童子のあたりは森林限界で、振り返ると田の原駐車場が緑の森の中に、人工的な空間を作り出していた。山に向かうと王滝頂上にある大きな山荘が見えている。今日は梅雨の晴れ間でこれだけの展望が得られるとは幸運としか言いようがない。

標高約2600mの富士見石まで来ると、ハイマツの中からライチョウが姿を現した。逃げるどころかこちらに近づいてくる。ライチョウは、まだ冬の名残の白い羽毛を足元に纏っている。時折、ガマがエルのような鳴き声を発するが、これは威嚇なのだろうか?あまりきれいな声としては聞こえない。

程なく単独行の登山者が近づき、そのまま追い越していった。毎年御嶽山に登っているとのことで、この辺のペース配分も心得ているようだった。ここは名前の通りに富士山が見えるらしい。その単独行者に富士山の見える方向を聞いて、その方向を見たが、富士山は雲に隠れて見ることは出来なかった。道は石が多く、登りはともかく、下降時は苦労しそうだ。

9合目あたりで道は残雪に覆われることになる。先行した登山者は座って軽アイゼンを取り付けていた。みればそれほど滑りそうもないので、キックステップでその登山者を追い越して登ることにした。さほどの困難もなく残雪の上部にたどり着くことが出来た。



ライチョウが見張っている

ハイマツの中を縦横無尽に動く


下方から見えていた巨大な建物である「王滝頂上山荘」が次第に近づいてくる。それとともに火山性の二酸化硫黄の臭気を感じる様になってきた。朽ちてしまった木材の階段を上っていくと、山荘の横を通り、鳥居をくぐればそこが王滝口奥社だ。境内の社務所はまだ閉じられたままで、残雪に覆われていた。登山口から見るとこのピークが目立っていたが、この境内からは剣ヶ峰のピークが目立つようになる。

標高2936mのこのあたりからは、植物は一切見られず荒涼たる世界が広がっている。近くでは噴気口から火山ガスが音を立てて、断続的に吹き上がり、この山が活火山であることを示している。奥社から出ると道は平坦になり、「八丁ダルミ」と言われ、その先には螺旋状のオブジェがあるのが目立つ。「まごころの塔」と言うらしく台座になにか書いてあるがよく理解できなかった。また対峙するように御嶽大神像が6体鎮座している。ここは8月7日夜から翌朝にかけて火祭りが行われる「御嶽教大御神火祭場」とのことだ。

このあたりから登山道はハッキリしなくなる。それは広い斜面を登るからで、階段が設置してあるのだが、土砂が崩れて障害物のようになっている。そのため、障害物を避けるように歩くものだから、ルートが無数に出来てしまうのだ。



王滝頂上山荘が見えてきた


王滝頂上の王滝口頂上奥社

巨大なオブジェの向こうに剣ヶ峰

王滝頂上を振り返る

荒涼たる風景


噴煙が立ちののぼり、御嶽山は生きている



剣ヶ峰直下の障害物はさらにひどくなり、撤去してもらいたいほどになってくる。なんとか登山道を避けながら?道を選んで登っていく。剣ヶ峰直下の山荘は、まだ開業していないためひっそりとしている。そこを過ぎると、いよいよ剣ヶ峰の御岳神社奥社に通じる83段の石段階段となる。狛犬の睨みに圧倒されながら鳥居をくぐると、そこは御嶽神社の広い境内だった。



剣ヶ峰直下の障害物

剣ヶ峰直下は山荘が軒を並べる

剣ヶ峰に続く階段

剣ヶ峰の御嶽神社奥社


境内は誰もいない、風も無くなってしまい、静寂そのものだった。奥社の社は一段高いところにあり、後白河像が睨みを利かせていた。後白河像の睨みは左右どちらに逃げても追いかけてくるので、恐ろしい感じを受ける。山頂には標高3063mの一等三角点がある。しかし最高点は標高3067mの社務所の裏あたりだ。ともかく御嶽山は独立峰なので展望は素晴らしい。また眼下に広がる景色は時間を忘れてしまう。

日本最高所の火口湖である二ノ池は、ほとんどが雪に覆われているが雪解けとともに輪郭が現れている。目を引く高峰は白山と乗鞍岳で残雪の山は青空にとてもよく似合っている。ほどなく、追い越した単独行者と四日市から来たご夫婦が山頂に到着。ちょっとおしゃべりをしてから次の目的地に向けて歩き出した。

剣ヶ峰から二ノ池までは快適な下りだ、砂礫の道は残雪の道になりどんどん下降していく。わずか16分で二ノ池本館と呼ばれる大きな山小屋に到着した。小屋は営業開始に向けてその準備に忙しそうだ。ヘリで荷揚げしたと思われる機材が所狭しと置かれていた。



奥社前の広場

剣ヶ峰からの展望

日本最高所の湖(二ノ池)

二ノ池から見る剣ヶ峰(右下は二ノ池本館)

二ノ池からも下りの道は続き、サイノ河原と呼ばれる湿地を横切る。ここは石積みが多く、名前の通りあまり気持ちのよいところとは言えない。霧でも巻いていたら足早に通過したいところである。サイノ河原を過ぎると今度は斜面の登りとなる。振り返ると剣ヶ峰の大きな姿が見られ、この山を歩いているのは自分も含めて数人だけなのだろう。何という贅沢な時間を過ごすことが出来ているのだろうか。

扉の壊れたサイノ河原避難小屋を過ぎると、道は三ノ池への道と摩利支天乗越への道に分岐する。当然、摩利支天山への道を選ぶ。道は石だらけでその中を縫うようにして登り上げると、ちょっとしたピークのような摩利支天乗越に到着。すぐ傍には展望台と呼ばれるピークがある。剣ヶ峰で話した人は摩利支天山はすぐそこと言っていたが、おそらくこの展望台のことを言ったのだろう。

さて、摩利支天山に向けて一歩を踏み出す。はじめは夏道が見えていたのだが、次第に残雪の斜面となり、スリップすれば一気に滑落する。軽アイゼンを着けようか、悩むところだが、雪はこの時間になると柔らかくなっている。そこでステップを切りながらゆっくりと進むことにする。

どうやら、この時期は摩利支天山に行く人はいないようで、トレースのたぐいは全く無かった。ここで滑落したら、剣ヶ峰からはよく見えるだろうな、そんなことを思いながら前に進む。やがて岩場の上部にペンキマークが現れ、岩のホールドを選びながら慎重に登ると三等三角点のある摩利支天山山頂にたどり着いた。

山頂は狭いが展望は抜群で、剣ヶ峰よりもよいのではないかとも思われる。乗鞍あたりから北アルプスの展望が特に素晴らしい。剣ヶ峰は人が動いているのがカメラのズームで確認できた。絶好の天気で見る展望を独占することが出来た。しかしいつまでもここにいるわけにはいかない。時間との勝負が気になってきたからだ。

摩利支天乗越からこの場所に続く岩稜は踏み跡があるように見えるが、落石などを考えると、利用しない方が良いだろう。素直に往路を辿って戻ることにした。残雪の斜面を辿っていると、前方から単独行者がやってきた。しかし、残雪の斜面手前で立ち止まっている。近づくと「アイゼン無しで大丈夫ですか?」と聞いてきた。「私はアイゼン無しですよ」と答える。まだ30代だろうか、下呂から来たという男性は「それではもう少し進んでみます」と答えたが、振り返っても前に進んで行った気配はなかった。

摩利支天乗越に戻り、今度は継子岳に行くことにする。ここからの展望は何しろ三ノ池の水の色が素晴らしい。これは高山湖の中で水深が13mと、もっとも深いと言う。火山性のためなのか、コバルトブルーのその色は、宝石か瞳のように見える。展望はよいのだが、下降の道はかなり傾斜が強い。これを再び登り上げるのは大変なことだと、はやくも帰りの事が気になってきた。



サイノ河原避難小屋から剣ヶ峰と摩利支天山

摩利支天山へのルート

摩利支天山からルートを振り返る

摩利支天山からの展望

摩利支天乗越からの展望

摩利支天乗越から見る五の池小屋、継子岳、乗鞍岳

三ノ池は標高3000メートルの青い瞳だ


摩利支天乗越から下ったところにある、五の池小屋は気持ちのよい山小屋だった。このシーズンで唯一営業している小屋だ。中に入ると小屋番は不在で、ストーブの上にはお湯が沸いていた。料金を払って自由に飲めると書いてある。オーストリア産Edelweissのビールが1000円なので食指が動くが、今日はノンアルコールで過ごそうと決めている。外に出てチップ料金100円の清潔なトイレを利用する。賽銭箱には一切お金を入れなかったが、小屋を維持するための料金は惜しまないことにしているので、ちょっとだけ余分に入れる。

小屋の裏には「飛騨頂上」がある。あまりピークらしくないので、なんとなく通過してしまった。さて道はなだらかに継子岳に向かって登っていく。心地よい風に吹かれながら展望を楽しんで登ることが出来る。途中で「針の山」と呼ばれる板状の石をおそらく人工的に立てた場所がある。ここからの乗鞍岳と穂高連峰の眺めが素晴らしい。青空に浮かんだ白い峰は雲のようにも見える。そして、なだらかな山頂部分を持つ継子岳山頂にたどり着いた。

さて、ここから近くにある「継子二峰」まで足を延ばしておく。

コマクサの群生地と言うことでロープが張ってあり立ち入り禁止となっている。探してみると、小さな蕾をもったコマクサが無数に見られた。おそらく霊峰御嶽山のコマクサは薬草として珍重され乱獲されたのだろう。継子二峰は岩があるだけの寂しい山頂だった。継子(ままこ)とは悲しい響きがあり、この山名由来の伝説も悲しい。先ほどの継子岳が弟なら、この継子二峰は姉なのかも知れない。

継子二峰から四ノ池に下ると登り返しが大変そうなので、来た道を引き返した。



五の池小屋

この時期、唯一の営業小屋。名物はピザだそうだ。

継子岳手前の針の山

継子岳山頂

継子岳から見る乗鞍岳、後方に槍ヶ岳、奥穂高岳、

継子二峰への道はコマクサの群生地

継子二峰から見る剣ヶ峰


五の池小屋まで戻り、中に入ると小屋番がいたので、山バッチを購入し帰路の道の様子を聞いた。小屋番は気持ちよくルートの相談に乗ってくれた。この小屋は、いつかゆっくりと泊まってみたいと思わせる雰囲気がある。そんな日が来るだろうか。

摩利支天乗越で、つがいのライチョウを眺めながら息を整えてゆっくりと登った。

問題は黒沢十字路から剣ヶ峰を通らずに八丁ダルミに行く道だ。簡単に通過できると思ったが、とんでもない。クレパスが口を開け、斜面も急傾斜で滑落したら、かなり下まで行ってしまいそうだ。緊張のあまり写真も満足に撮れない状態でこのルートを辿った。おそらく早朝は凍結しており、アイゼンが必携だろう。

駐車場に着いたのは15時半、これから5時間のドライブを考えて温泉はパスして洗面所で身体を拭いて帰路についた。



田の原駐車場04:43--(2.30)--07:13王滝頂上07:20--(.24)--07:44剣ヶ峰08:22--(.16)--08:38二ノ池--(.42)--09:20摩利支天乗越--(.25)--09:45摩利支天山09:54--(.24)--10:18摩利支天乗越--(.15)--10:33五の池小屋(飛騨頂上)10:47--(.30)--11:17継子岳11:21--(.06)--11:27継子二峰11:30--(.15)--11:45継子岳--(.21)--12:06五の池小屋12:12--(.27)--12:39摩利支天乗越--(.40)--13:19二ノ池--(.16)--13:35黒沢十字路13:41--(.23)--14:04王滝頂上--(1.30)--15:34田の原駐車場


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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