賑やかな蝉の声と大量の虫「経ヶ岳(中央アルプス)」
登山日2018年6月9日



8合目の先から木曽駒ヶ岳を望む
経ヶ岳(きょうがたけ)標高2296m 長野県上伊那郡・伊那市

3日前に「関東甲信越が梅雨に入った模様」との発表があった。この時期は晴れの日を選べば静かな山歩きが楽しめる。しかしその日を選ぶのはなかなか難しい。それはいろんなシガラミを考えなくてはならないからだ。今回、自由になりそうな日を考えてみたが、どうも天気が芳しくない。それなら、展望の無い不人気な山を選んでおけば後悔もないだろう。

6月9日(土)
長野道の梓川SAで車中泊してから1時間かけて伊那ICで降りて10分ほどかけて登山口の「仲仙寺」に到着する。駐車場は広く閑散としていることから不人気であることがわかる。「経ヶ岳」は日本200名山のひとつに加わっているのに、人気が無いという珍しい山である。経ヶ岳の名前から想像できる通り「経文」が山名に深くかかわっていることらしい。

仲仙寺の石段を避けて車道となっている道を辿る。その脇には地蔵様や閻魔様などがあり、この寺の創建後1200年の格式の高さがうかがわれる。また杉の大木にアルミの梯子が固定してあったが、この垂直の梯子を昇る人は凄いと思う。本堂のところで道を右に進んで杉林の中に入って行く。途中には標識があり「ヘビがでる」と書いてある。周囲を見ると確かにそんな雰囲気があり足早に通り過ぎる。九十九折れの道を忠実に辿って高度を上げて行く。よく踏まれた道のようで道形は窪んで水路のようになっている。傾斜はそれなりにあり決して楽なものではない。前日に降った雨の影響で土は濡れていたが、登山靴の踏み跡はなく、どうやらこの日は最初の登山者のようだ。それにしても不思議なのは登山道が尾根を辿っておらず、尾根から下がったところをトラバースするようにわざわざ通しているところだ。アカマツが多いことから止山あるいは入会地なのかもしれない。それに境界の杭があるのは、ここが南箕輪飛地という特殊な場所という事なのかもしれない。


下段の駐車場

上段の駐車場

立派な山門

この梯子ほんとに昇るのか

右の道を行く

本殿


4合目は大泉所ダムからのコースとの合流点だ。4合目というのはダムから数えているらしい。ここには標識があり「準絶滅危惧種のササユリの採取禁止」と書いてある。この先にササユリがあるのかと注意深く見ながら歩いたが、まだ時期が早いためその姿は確認できなかった。最盛期を過ぎた名残のヤマツツジを見ながら登ると開けた場所があり、ここには5合目の標識がある。歩き始めてここまで2時間になるのでザックを降ろして休むことにした。すると単独行の男性がすぐにここに到着した。少し話をしてから先行して出発したが、すぐに追い越されてしまった。

5合目からの道はカラマツの林の中にあり展望は無い。そのなかでセミの声が何とも賑やかだ。むしろうるさいと言ってもいいだろう。その声の主を探してカラマツの梢を見るが、セミの姿は全く見えない。林の中にうまく溶け込んでいるという事なのだろう。6合目は登山道途中にあり目立たないが7合目は伊那谷の展望が少し得られる。ここにはやけに新しい感じのする「四等三角点」が設置されていた。辿ってきた道をそのまま直線的に歩き出す。踏み跡はあるのだがどうも様子が変だ。GPSで確認するとルートを間違えていることに気が付いた。再び7合目まで登り返して確認すると道はここで大きく右に曲がるのだった。踏みこんでみれば立派な登山道が続いている。「危ないところだった!!」道迷い遭難なんて容易に起こり得るという事だ。ここから見る経ヶ岳方面はかなりの高度感を持って覆いかぶさるように見えている。あそこまで歩くのかと思うと自信がなくなる。そうしているうちにトレランの男性に追い越された。最近は本当に追い越されるのが当たり前になっている。それにしても虫がまとわりついて離れない。それも身体の周囲に数十匹はいるだろうか。頭の周りは黒い雲が取り巻いているような感じだ。たまらず防虫ネットを取り出して被ることにした。効果はてきめんで虫の攻撃をかわすことができた。この時期は防虫ネットは必需品に違いない。


4合目

ヤマツツジ

5合目

ドウダンツツジ

ズミ


ゆるゆると登って8合目に到着すると、ここは今までの展望の無い樹林帯から一気に周囲が開けて展望が良い。ここには先ほど追い越されたトレランの男性が休んでいた。なんでも伊那谷から毎日この経ヶ岳を見上げているのだそうだ。伊那谷の向こうには霞んでいるが八ヶ岳、その横に大きく仙丈ケ岳、さらに目を移せば残雪が美しい木曽駒ヶ岳、尖っているのは宝剣岳、少し移動してみると木曽御嶽山。晴れていればさらに素晴らしい展望があるのだろう。トレランの男性はここで引き返すという事なので、私は別れて歩き出した。8合目の先も展望は良く再び樹林帯に入るまではこのルートのハイライトだったかもしれない。

9合目は石仏が並んでおり、風雨にさらされて文字は判読できないほど古いものだった。9合目からはいったん鞍部に向かって下降していく。すると緑色の糞が散乱している。サルでもいるのかと思いながら進んでいくとカモシカが1頭横たわっていた。緑色の糞はカモシカだったのだ。まだここで息絶えてから24時間は経っていないだろう。それにしても原因はなんなのだろう。まさかそのあたりに生えているコバイケイソウを食べるわけでもなし、老衰にしては個体が小さいように思えた。遠巻きにして通過すると5合目で会った単独行者とすれ違った。お互いにカモシカの不運を口にして別れた。


7合目の4等三角点

8合目から伊那谷方面

8合目から木曽駒ヶ岳

8合目から山頂方面

コバイケイソウ

オサバグサ

マイヅルソウ

ミヤマカタバミ


経ヶ岳山頂は展望もなく、石仏と標識があるだけだった。不快な虫は相変わらずうるさく飛び回りとても長居をするような場所ではなかった。標高2300mに近いこの場所での血中酸素はどうなんだろうか。今回は意識しながら呼吸をしていたことなのか酸素濃度の数値は95%と低くは無かった。とても山頂に留まる気は起らないので8合目まで戻ってから休憩することにした。

さらに8合目からはセミの大合唱に囲まれながら、成行きに任せてダラダラと下った。帰路に立ち寄った「大芝の湯」はゆったりとしており、快適な時間を過ごすことが出来た。



山頂

防虫ネットは効果的


群馬山岳移動通信/2018

仲仙寺05:29-(.58)-06:27四合目-(.53)-07:20五合目07:28-(.42)-08:10七合目08:13-(.45)-08:58八合目09:08-(.56)-10:04経ヶ岳10:15-(.33)-10:48八合目11:05-(.52)-11:57五合目-(.26)-12:23四合目12:35-(.43)-13:18仲仙寺



この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)