久しぶりに猫爺さん、旅人さんと集まることになった。いつの頃からか、これを亡国の集いと呼ぶようになっていた。集合場所は長野県下高井郡木島平村の「ユースホステルみゆきの杜」である。集合時間は16時なので、それまでの間は個人で好きなところに行動するのがいつものパターンだ。もっとも私以外の二人は、この辺の名だたる山は登りつくしているので、わざわざ私に付き合って再度登っていただくのも心苦しいことは確かだ。私は高社山に登ることにした。 10月31日(土) 自宅を朝5時に出発して現地に向かう。荒れ模様の天気を予想していたが、意外に好天となりもったいないほど良い天気に恵まれることになった。当初、地図を見て道が一番高くまであるところを目指す。カフェテリア21のあるリフトの駅まで行ったが、ゲレンデは草に覆われて登るのに苦労しそうだ。まして駐車場もなにか狭そうだ。とりあえず、少し戻って広い駐車場に止めてから登るしかないと考えて、その駐車場に車を止めた。すると草刈り機を積んだ軽トラックがやってきた。聞けばこれからこの駐車場の草刈りを始めるという。そこで登山口を尋ねると「ここじゃなくて、もう少し先に行ったところに、パラグライダーの練習場があるから、そこから登ったほうが良い」という事だった。そこで、場所を移動してそのパラグライダーの練習場に向かうことにする。 パラグライダーの練習場は広い駐車場があり、テニスコートが併設されている。パラグライダー練習場と言っても、スキーのゲレンデを夏の間だけ開放しているというものだ。その駐車場には車が一台止まっており、気難しそうな顔をした男性が洗車をしていた。 「高社山はここから行けますか?」そう尋ねると「そこの車道を行けば大丈夫」と面倒くさそうに答えた。あまり関わりたくないので、それっきり声をかけないで山登りの準備を始めた。そのうちに、その男性が「高社山はこの道を登って行くとリフトの駅があるから、そこから右に林道がるので、それを辿っていくと行き止まりになります。そこから上に向かう登山道があります」と声をかけてきた。おお、なかなか友好的な人じゃないかと思って、礼を言ったがそれ以上会話は進まなかった。 上部に続く道は舗装はされているものの、車で上れない傾斜ではない。しかし入口にはチェーンがかかっており、一般車は行けないようになっている。おそらくパラグライダーの送迎に使っているのだろう。その道をゆっくりと登っていくが、急傾斜の苦しさで立ち止まって振り返ると、眼下に広がる田園風景の中で点在する集落が朝の光を反射しているのが美しい。 道を登りあげると林道が右に向かって延びている。林道と言っても、リフトの駅をつなぐ連絡道路と言ったほうが適切なのかもしれない。この道は両側をススキの穂が白く縁取り、いかにも秋の風情を演出している。その林道を辿るとやがて終点となり、たしかに上部に向かって刈り払いがされた道が続いている。上部に向かって九十九折の道をひたすら辿っていく。 肘の痛みは医者を4回替えて、二ヶ月後にやっと病名が解った。それは「化膿性滑液包炎」と言うことだ。自然治癒でここまで持ちこたえたのは奇跡に近いと、褒められる始末。治療法として抗生物質を飲み始めて、ちょうど一週間で何となく快方に向かっているように感じる。 前日も診察をしてもらったばかりだ。 「先生、明日は山歩きに行くんですが、大丈夫ですかね?」 「腕の曲げ伸ばしは避けてください。これ以上ひどくなると切開ですよ」 「それじゃ、切開したほうが早く治るんですか?」 「いやいや、それはやらないほうが良いでしょう」 そんなわけでストックを使いたいところだが、サポーターを装着してなるべく肘が曲がらないようにしている。したがって、右腕はぶらぶらさせているか、ポケットに入れているか、どちらかであまり役立っていない。 上部の斜面で突然物音がした。 慌ててその方向を見るとカモシカがものすごい勢いで、斜面を駆け下っていくところだった。こんな時に考えるのはクマのことだ。あまり役には立たないが、ストックを持っているとなんとなく落ち着くような気がする。持っていないと丸腰なので、なんとなくびくびくしてしまう。
山頂に近づくとガスが出てきて様相が一変した。そういえば、今日は上越方面は大雨注意報が出てる。この辺りは上越に近いこともあり、いつ天気が悪くなっても不思議ではない。 道が水平になると、山頂まで15分の標識が現れる。その示す方向の反対側には「避難所」とかかれたリフトの駅がある。その中に入ってみると引き戸は鍵がかかっておらず、自由に入れるようだ。中に入るとスコップやら、衝突防止マットなどが所狭しと入っていた。夏山リフトが稼働していれば、ここまで何の苦労もなく登ってこられるのだ。 山頂までの道は階段が設置され、歩きやすい。そこを登りつめると道はなだらかとなり、ほどなく高社山の山頂に到着した。山頂には石祠があり、山頂方位盤が置いてある。さらに進むと木製の展望デッキがあり、そこに立つと周囲が見渡せる。先客は私よりも年上の単独行の女性だ。ラジオなのか「宇宙戦艦ヤマト」の音楽が、かなりの音量で響いている。聞けば地元の人らしく、よませスキー場から登ってきたらしい。私が、木島平から登ってきたというと、そちらからは登ったことが無いと興味深そうにルートを聞いてきた。その女性も立ち去り静かな山頂が戻った。ザックを下ろして展望を楽しむ。山頂は落葉が進み鮮やかさにかけるのが惜しい。中野市方面の街並みは素晴らしく、夜景を見ることが出来ればさぞかし美しいに違いない。 ほどなく、単独行の男性が到着した。やはり地元の人だというので、三ッ子山の情報を貰うことにした。ところが知らないというので地形図を見せると「ああ、犬首山のことか、犬が寝そべって首を持ち上げた格好に似ているから、そういっているんです」と答えた。しかし、詳細は知らないようだ。 そうしているうちに隣のピークが気になってきた。時間が早いのでそのピークをピストンすることにした。 隣のピークは30mほど標高が低く、名前は付いていないらしい。しかし、高社山の石祠よりも立派な石祠が設置されていた。しかし、見るべきものは無く、山頂に戻ることにした。 ところが山頂に戻ると、そこは一気に賑やかな場所に変貌していた。総勢36人の団体が押し寄せてきていたのだ。団体は展望デッキを占領し、私のザックも踏まれてしまいそうだ。ましてこのような団体の中には必ずと言っていいほど、山頂からの展望を説明する人がいる。この団体も例外ではなく、大声を張り上げていた。とてもこんなところにはいられない。先ほど会った単独行の男性は、土埃の中でおにぎりをほおばりながら困惑していた。
山頂から逃げるようにして、次は三ッ子山に向かうことにする。地形図を見ると木島平村と山ノ内町の町村界に沿って行くのがわかり易そうだ。慎重にその分岐点を見つけながら行くと、ピンクテープが目についた。そこから藪の中を見ると踏み跡があり、ピンクテープがそれこそ10m間隔で木の枝に取り付けられているので、町村界はこれに間違いなさそうだ。落葉は進み下草も枯れているので踏み跡を辿るのは難しくは無い。まして、おびただしいほどのピンクテープがあっては、ルートを外すほうが難しい。それにしてもとてつもない急斜面て、帰ってからカシミールで確認すると、斜度は最大で60度、平均でも40度となっている。恐ろしいほどの斜面で転がったらそれこそ止まらないのではないだろうか。もうだめだと思った時に、なんとトラロープが延々と設置してあるのだ。何のために設置したのか分からぬが、ありがたく利用させてもらうことにする。しかし、右肘をかばいながらなので、思うようにロープに掴まれないのが情けない。やがて右下にリフトの駅が見えるようになると、斜度は緩やかになり、法面を下ると廃林道に近い切り開きに降りることが出来た。 40分の下降で疲れが一気に出たので、ここで大休止することにする。なんとすぐそばまでゴルフ場のグリーンが迫っている。その向こうには竜王山が青く見えていた。菓子パンとスポーツ飲料で簡単に昼食をとる。 ここからは、ゴルフ場の縁に沿ってさらに下降していく。そこには電気柵が設置してあり、イノシシなどに手を焼いていることが伺われる。ゴルフ場を過ぎ、ちょっとした藪を漕ぐと林道に出る。地形図には表されていないので、どこまで続くのか不明だが、ここから直接三ッ子山に登るよりも、林道を辿って途中から取りついたほうがよさそうだ。まして三ッ子山なので三つのピークを踏まなければ登ったことにならないような気がしたこともある。
林道を辿ると、案の定三ッ子山の南面を巻くように続いている。そのまま辿ると三角点ピークの東峰の到着、ここにはリフト駅があり、展望は抜群で飯盛山の三角錐のピークが目立つ。このままここでゆっくりしたい気分だ。さて、次は中間峰なので林道を戻り、適当なところで斜面に取り付く。その山頂は藪で何の展望もなく、人跡未踏に近いところだった。さあ、三ツ子山最高点のある西峰にはいったん鞍部まで下降してから登り返す。その三ッ子山の山頂はやはり展望は無く、さみしいところだった。ただ10月25日にここに立ったS・Kさんの赤テープにサインが施されアカマツの幹に巻かれていた。 さあ、あとはひたすら下降するだけだ。山頂から胸ほどもある藪をかき分けて再び林道に出る。この後は、スキー場をリフトの架線に沿って行くのだ。幸いススキの刈り払いもされているので心配はなさそうだ。ザックを下ろしてゆっくりと菓子パンを食べてくつろいだ。 再び歩き出すと、眼下にシーズンオフで休業中のシューネスベルクが見えてくると、わずかな時間でその場所に到着した。そこからは幅広く刈り払いがされたゲレンデを辿ると駐車地点に到着した。テニスコートでは若者が賑やかにテニスを楽しんでおり、その歓声を聞きながら山支度を解いた。 時間も早いので、パラマウント木島平の風呂に入り、くつろいでから集合場所に向かった。
「記録」 駐車場08:32--(.17)--08:49リフト駅第八スカイフォーリフト--(.13)--09:02林道終点--(1.17)--10:19リフト駅第三山頂ペアリフト--(.14)--10:33高社山10:52--(.06)--10:58隣のピーク--(.03)--11:06高社山--(.40)--11:46林道11:58--(.17)--12:15東峰--(.11)--12:26中間峰--(.13)--12:39三ッ子山(西峰)--(..09)--12:48リフト駅池ノ平第一クワッドペアリフト--(.05)--12:53休憩13:11--(.12)--13:23シューネスベルク(ホテル)--(.13)--13:36駐車場
群馬山岳移動通信/2015 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。 (承認番号 平16総使、第652号) |