迂回路でとんでもない道迷い、大河原峠から北八ヶ岳
登山日2021年7月3日


双子池(雄池)
双子山(ふたごやま)標高2224m 長野県茅野市・佐久市・佐久穂市/大岳(おおだけ)標高2382m 長野県佐久穂市/北横岳北峰(きたよこだけほっぽう)標高2480m 長野県茅野市・佐久穂市/北横岳南峰(きたよこだけなんぽう)標高2472m 長野県茅野市・佐久穂市/三ツ岳(みつだけ)標高2360m 長野県茅野市・佐久穂市/雨池山(あめいけやま)標高2325m 長野県茅野市・佐久穂市

大河原峠は蓼科山に登るのに利用することが多い。しかし蓼科山周辺の山はあまり見向きもされないようである。北横岳に至ってはロープウエイで簡単に登れるとあって、登山の対象としての魅力は薄れてしまった。40年ほど前に麦草峠から茶臼山、縞枯山、そして雨池あたりを職場のバスハイクとして催行したことがあり、ともかく簡単な山域と考えていた。7月初旬は梅雨の真っただ中、天気予報はずっと傘マークが表示されている。雨でも歩けそうな山ということで、この山域を選んだのは必然だろう。

7月3日(土)
朝6時過ぎ、大河原峠の駐車場に到着する。単独行の男性が出発準備をしているが、疎らに駐車してあるほかの車に動きは見られない。雨の予報に反して駐車場からは北アルプスの爺ヶ岳から鹿島槍、白馬岳あたりまでの山稜が青空にくっきりと浮かび上がっている。ほどなくして軽トラックが到着して荷台から草刈り機を取り出した。聞けばボランティアで登山道の刈り払いをしているという。確かに登山道は笹が覆いかぶさっている。この男性の言うことには昨日の雨で足元が濡れるから、下だけでも雨具を着けたほうがいいということだ。その忠告に従って雨具の下を穿くことにした。しかし、その雨具は10分ほど歩いてから煩わしくなり脱いでしまった。笹原を中につけられた道をひたすら辿ると、蓼科山の山容が大きく見えるようになる。山頂直下の小屋が朝の光に照らされてくっきりと見えていた。蓼科山の左に見えるのは中央アルプスあたりの山並みだろう。

双子山の山頂は広々とした草原状となっている。点在する石は日本庭園を彷彿させるもので、ここでゆっくりしたいとも思う。この時点で忘れ物をしていることに気が付いた。まず地図を忘れてしまっている。登山計画書を作成したが、それをもってきていない。食料だがカップラーメンを忘れている。ここまでくるとすでに遭難してしまっているということなのかもしれない。とりあえず地図はスマホに保存してある地図を使い、計画書は計画を立てた時点で無理をしていないはずなので大丈夫、食料は山小屋で調達することにしよう。


朝の大河原峠

大河原峠から浅間山(右端)

大河原峠から北アルプス北部(爺が岳、鹿島槍、五竜、唐松、白馬、小蓮華)

双子山山頂から北横岳(左)、蓼科山(右)

双子山山頂


双子山の山頂を辞して樹林帯の道を下降する。ここも登山道に笹が掛り煩わしい。標高を下げて開けた場所に出ると双子池ヒュッテの大きな建物に到着。双子池ヒュッテは窓が解放されており営業中であることがわかる。その先には双子池(雄池)が波もなく周りの景色を湖面に映し出していた。駐車場で準備をしていた単独行の男性とここですれ違った。おそらく雌池のほうに行ったのだろう。

双子池からいよいよ本格的な登山道となる。大きな石が累々と並んでいる場所が登山道となっている。ともかく歩きにくく石の隙間を抜けたり、石の上に登ったり降りたり苦労の割にはちっとも進まない。そのうえ濡れた石は滑りやすく上に乗ると妙に滑るので慎重にならざるを得ない。それにあまり歩かれていないのだろう踏み跡がはっきりとしないので、とんでもない方向に誘導されるのもしばしばだ。

天狗の庭に到着すると目指す大岳の山頂が見えてくる。天狗が点在する石の上を飛び回っているという伝説から名付けられた場所のようだ。自分もそんな風にできたらなんて素晴らしいものだと思う。ここで双子池ですれ違った単独行者に追い越された。実を言うとこの付近でへとへとになり、もう引き返そうかと思っていたところだった。ともかくいくつかの石の上を通過するだけで、息も絶え絶えになってその場で立ち止まることの繰り返しだった。いままで青空が広がっていたのがいつの間にか雲が立ち込めるような状態になっていた。

大岳は登山道から少し離れている。この分岐で休んでいると2名のパーティーがやってきた。二人は迷わずに大岳に向かっていった。そのあとに続いて私も歩き始め、10分ほどで大岳の山頂に到着した。山頂は一本の棒が刺し込んであり大岳と山名が書き込んであった。すでに追い越された単独行者と先程の2名が寛いでいた。山頂からの展望はガスが巻いてよく確認できなかった。さてここで引き返すか考える。このまま戻るのはどうしても悔しい、同じ時間をかけるなら予定通り雨池山経由がいいかもしれない。


双子池ヒュッテ

ミヤマハナゴケ

ウラジロヨウラク

イワカガミ

天狗の露地

天狗の露地から大岳

シャクナゲの新葉は花のようだ

大岳

大岳から三ツ岳を見る


大岳から北横岳は地形図では平坦で歩きやすそうに見えるが、実際は大きな石がゴロゴロとしており実に歩きにくい。それに石が濡れていて滑ることで、どうしても余分な力が必要になる。この時点でも引き返すか否かまだ悩んでいた。北横岳の最後の登りに差し掛かると、大きな石は無くなり歩きやすくなった。大きな岩壁につけられた鎖場を過ぎると北横岳(北峰)の山頂だ。広々とした山頂は3パーティーが休んでおり、それぞれに寛いでいた。さらに数分のところにある南峰に向かう。南峰は大人数で来たのか山頂標識に群がって大騒ぎだ。こんな場所は嫌なのですぐに山頂を辞した。

北横岳ヒュッテは閑散としていた。どうやら場所を独占しても構わないようだ。食料としてアンパン、ミネラルウオーター、八ヶ岳開山祭のバッジを購入してちょうど千円、おつりはいらない。ベンチに寛いでアンパンをミネラルウオーターで流し込んだ。このまま休み続けたい気持ちだが、ここまで来てしまったからには先に進むしかない。

雨池山に向かう分岐を探しながら登山道を下っていく。途中に標識があり三ツ岳の方向を示しているがどうも要領を得ない。すると男女の二人組がどこからともなく現れた。聞けば麦草峠から雨池山そして三ツ岳を経由してきたという。ここからどちらに行ったら良いのか解らないというと、そこですと指さした。その方向には標識があり「軽装の方は入らないで」と書いてある。聞けば登ってくるのはかなり苦労したとのこと。このルートを下りに使う気にはならないとも言った。これは大変なところに行くことになったらしいと身構えた。


イワヒゲ

ツガザクラ

北横岳に向かう

盛りを過ぎたオサバグサ

七ツ池

北横岳(北峰)

北横岳(南峰)

北横岳ヒュッテ

あんぱん200円、水300円、バッジ500円

ミツバオウレン(花弁が4枚)


三ツ岳へのルートは大きな石の間を抜けたり登ったりと、老体にはかなりハードだ。目の前に岩場が現れると「冗談だろ」と言いたくなるような難路だ。岩場のマーキングも消えかかっているところもあり、整備が追いついていかないものと思われる。今回の山行は簡単なものと考えていただけに、まさか三点確保が必要なルートとは思いもよらなかった。たどり着いた岩峰は「三ツ岳 V峰」で先にはまだそれなりのピークが見えている。心地よい風が先程通過した大岳方面から吹いてくる。前方にはU峰があるが、大きな岩が積み重なったような場所である。岩の上で足を滑らせたらかなりのダメージを受けるだろう。岩の隙間は大きな空洞になっており、そこに入り込んだら出られそうにない。どうしても慎重にならざるを得ない。途中で男女のパーティーとすれ違ったが、この人たちはヘルメットを装着していた。U峰も大きな岩の塊の上にある。岩は適度に濡れており安易に岩の上に乗るのが不安な状態だ。U峰からの下降は慎重にゆっくりと進むことにした。下降したところにあるT峰は比較的安心できる場所だった。霧が巻いているがそれが途切れると前方には大きな山容の縞枯山、下方には雨池が濁ったような色の湖面を見せていた。T峰からの下りも慎重にゆっくりと進んだ。単独行の場合は事故があった場合、どうしようもないから安全に下るのは鉄則だ。

鞍部に着くと今までの巨石は無くなり快適な登山道になった。ふかふかの登山道をゆっくりと登り上げると雨池山の山頂となった。山頂と言っても登山道の通過点に過ぎないような場所だ。展望もないから通り過ぎるだけだ。道は緩やかに下降し、雨池山展望台に到着。ここからは谷沿いに向かった先に北横岳ロープウエイの山頂駅が見えている。さらに下降すると雨池峠に到着した。雨池峠は十字路になっており、それぞれロープウエイ山頂駅、縞枯山、雨池、雨池山に分岐している。ここまでくれば一安心なので腰を下ろして休憩することにした。


三ツ岳分岐(軽装の方は入らないでください

三ツ岳V峰

V峰

U峰

T峰

雨池が見えた

T峰を振り返る

縞枯山

雨池山


雨池峠からの登山道は、沢歩きと言ってもよいほどの水量が流れている道だった。途中まで来た時に標識が現れ、地形図上の道は通行不能なので新道を利用するように案内されている。新道はまだ新しいようで道は踏み固められておらずふかふかだった。また設置された階段も新しい感じだ。途中まで来た時に大岳で出会った2人のパーティーとすれ違った。大岳から双子池経由でここまで来たらしい。恐ろしいほどの健脚でうらやましい限りだ。新道を下降して林道にたどり着いた。本来なら林道を辿って双子池に向かうのだが、この林道は現在通行止めとなっており、登山者も例外ではない。(後日調べてみると、自己責任で問題なく通行できそうだ)標識に従って逆方向に林道を辿り、雨池経由で双子池に向かうことにする。

雨池は霧が立ち込めて視界は10メートルほどだ。時刻は14時なのに恐ろしく暗く感じる。霧の中の道をひたすら辿って先に向かう。道は水たまりがありグチャグチャになっている。はじめは水たまりを避けていたのだが、そのうちどうでもよくなり水たまりの中にジャバジャバと入って歩いた。静かな道で誰にも会わないと思っていたら、前方から男女2名がやってきてちょっと緊張した。この後は帰りまで誰にも会わなかった。迂回路の登山道を過ぎると再び林道に飛び出した。あとは林道を辿って帰るだけだ。


雨池峠

新道に誘導される

大河原林道は通行止め

林道は荒れ放題

林道から雨池へ

雨池に向かう

雨池は霧で視界が悪い

雨池から進む

この道はグチャグチャ

林道に降り立つ(標識を確認しなくては)


帰りは下山ということもあり、林道を下ればよいということで進んだ。途中でシカに出くわして追いかける余裕も出来てきた。しかし、この林道は標識もなく延々とジグザグに下降していく。どうも妙だと感じたのは歩き始めて20分ほどしてからだ。ザックからスマホを取り出して確認するととんでもない方向に進んでいることが分かった。このままいけば「うその口」集落に行ってしまう。20分も林道を下降したということは、引き返して登るとなると30分はかかるはずだ。しかし、戻るしかないので気持ちを引き締めて歩くしかない。標識のところにたどり着くと、双子池の方向はしっかりと示されていた。確認しないほうが悪いのは間違いない。それに分岐があれば早めにGPSで確認することを怠らないようにするべきと痛感した。


シカに誘導される

水場

双子池への分岐

双子池から大河原峠への林道

車道に出る

霧の大河原峠に到着


標識からの林道歩きは心細い状態になった。時刻は16時を過ぎ周囲は霧が立ち込め暗くなっている。林道の状態は真ん中が雨水で削られて溝が出来て石がゴロゴロとしている。30分ほど歩くと林道のT字路となり右に折れて数メートルで双子池への道が分岐していた。ここまでの道は双子池ヒュッテが利用しているのだろう、今までと違ってよく整備がなされていた。林道をひたすら歩き、車道に出てから大河原峠の駐車場に到着した時は歩き始めてから11時間になろうとしていた。

登山道の迂回で1時間のロス、そのための道迷いで1時間のロス、合計2時間を余分に歩いたことになる。ともかく老体でもなんとか明るいうちに周回できたことはラッキーだったかもしれない。


「記録」

06:22大河原峠--(.30)--06:52双子山--(.25)--07:17双子池--(1.13)--08:30天狗の露地--(.52)--09:22大岳分岐--(.18)--09:40大岳09:45--(1.07)--10:52北横岳(北峰)10:56--(.04)--11:00南峰--(.07)--11:07北横岳ヒュッテ11:19--(.08)--11:27三ツ岳分岐--(.57)--12:24三ツ岳(T峰)12:34--(.30)--13:04雨池山--(.20)--13:24雨池峠13:34--(.18)--13:52林道--(.12)--14:04雨池分岐--(.07)--14:11雨池--(.49)--15:00林道分岐--(.22)--15:22(引き返す)--(.28)--15:50林道分岐--(.41)--16:31双子池分岐林道--(.40)--17:11車道--(.13)--17:24大河原峠


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)