登高3時間のあとでヤブ漕ぎを1時間41分
             「切明温泉から笠法師山」       
                                                      登山日2010年11月6日


登山道から南の鞍部に直登し、山頂に向かった。「標高差120m」たったこれだけで1時間41分も掛かってしまった。


笠法師山(かさほうしやま)標高1919m 長野県下高井郡




笠法師山は長野県山之内町の秋山郷にある。どうもこの地域は長野県と新潟県が入り交じった複雑な場所だ。切明地区は長野県だが、アプローチは新潟県津南町から行くのが現実的だ。2007年に岩菅山経由で烏帽子岳をピストンしたことがある。この時に烏帽子岳から見る笠法師岳に魅力を感じた。その正三角形の山容は勿論だが、なによりも笠法師岳と言う名前に魅力を感じた。その話を2008年の秋に妙高での旅人さんに話したら、その翌々週にはいとも簡単に登ってしまった


その2008年の暮れに会合があり、旅人さんは自慢げに山頂に赤テープを付けてきたという。彼とは技術も年齢も大きな開きがあるので、自信はなかったが、彼の記録を見ると7時間ちょっとでピストンしている。私も10時間くらいかければ何とかなるのではないかと、その時期を待っていた。


11月6日(土)

登山口の切明温泉からの出発を夜明けの朝6時と決めて車を走らせる。秋山郷を通る道は狭いので、対向車が来ると緊張するが、夜間は対向車のライトが目印となりわかりやすい。しかし、気になる標識が目に付くようになった。「本日夜間作業のため通行止・夜10:30から朝5:00まで・土日は通行可」今日は土曜日だが、夜間作業を考えれば、今の時間は金曜日だ。

案の定、途中で交通誘導員がライトをかざしてお出迎えとなり、5時まで通行できないという。時刻は4時半なのでもう少し待てば良い。疲れもあるので、このまま横になって休むことにした。すると交通誘導員が「この辺は熊がいるので休むときは車の中でお願いします」「外に出るときはライトで周囲を確認してから出てください」そして近くのプレハブの事務所を指して「事務所の裏は熊にやられて滅茶苦茶になっています」などと脅しを掛けてきた。ともかく今年は熊のニュースが多くなっているから用心にこしたことはない。


4時50分、交通誘導員に車の窓硝子を叩かれ、規制が解除されたことが知らされた。シュラフから抜け出してそろそろと運転席に座った。既に一台の車が先行してゲートを通過していった。そのあとを追うように追従していったが、ナビの案内がどうもおかしい。元に戻ってナビに従ったが、どうもおかしい。結局は鳥甲山の下を通過する道を通り、とんでもない遠回りをして切明温泉遊川閣にたどり着いた。時刻は5時45分、支度を整えながらストーブでお湯を沸かしてカップラーメンの朝食を作った。6時を過ぎると、どんどん明るくなり周囲の紅葉が徐々に輝きを増してくる。


結局、歩き始めたのは6時半となってしまった。一旦中津川に掛かる橋を渡り、東京電力切明発電所に向かう。発電所の脇を抜けて整備された立派な道を登っていくことになる。この道はおそらく発電所に向かって上部から一直線に延びている導水管の点検の為に使われているのだろう、所々に赤白のパイプゲートが設置されている。この導水管は意外と静かで無音に近い。この水は遠くは群馬県の野反湖を源にするわけだから、群馬県人には何となく親しみが持てる。道はジグザグに登っており、歩きやすい道である。それにしても夜明けが進むにつれて、紅葉の色が素晴らしく映えてく。何度も何度も足を止めてその景色に見入ってしまった。これほどの紅葉はなかなか出会えるものではない。何度か経験した紅葉の中でももっとも素晴らしいもののひとつだと感じた。



遊川閣の朝の佇まい

野天風呂の湯気が河原から立ち上る

切明発電所

水路の道管



導水管の上部の施設は、階段を上って辿り着くことが出来る。旅人さんはここで直進して迷ったと書いていたが、その後に設置されたのだろう。「岩菅山→」の標識があり、この施設の中を抜けるように導かれていた。施設は柵があり施錠されていたが、登山路は通り抜けられるようになっている。この施設は貯水槽になっているらしく、施設内を通過する際の足元には水が渦巻いていた。また落ち葉などを濾別するのだろうスクリーンがあり、ここに引っかかった落ち葉はコンベアーで斜面に捨てられるようなシステムのようだ。しかし、この落ち葉の堆積場所は無造作に斜面にあり、崩れることはないのだろうか?ちょっと怖い感じがした。


この施設からは階段の道を登り、さらに小屋に辿り着く。この小屋は何のためにあるのだろうか?近づいてみると、窓硝子はほとんど壊れて、大きな固定式のウインチと機材が散乱していた。壁には「索道電源盤」の文字が書いてある箱が壁に設置されていた。どうやらこの小屋は導水管の資材運搬に使われたものらしい事が推測できる。ここからは遊川閣を見下ろすことが出来、自分の車が駐車場に一台だけあるのが確認できた。



「岩菅方面」の標識

発電施設水槽ここを中央突破する

貯水水槽施設から道管を俯瞰する

水槽から上部は立派な階段があった



この辺りの標高は1100m付近で、紅葉はこの高度が最終で木々の落ち葉は散って登山道に敷きつめられていた。手に持ったストックの先端には葉っぱが何枚も串刺し状態となり、ちょっとうっとうしい感じがする。今回、熊の出没を意識して、鈴を2個持ってきた。一つはザックに取り付け、もう一つはストックに取り付けた。こうすることで鈴の音は途切れることなく鳴り続ける事になる。この金属音はかなり大きな音がするので、自分自身にとっても耳障りだが熊のことを考えれば仕方ない。



索道小屋付近から遊川閣に停めた自分の車が見える

ロープがあった

こんな立派な道がある(旅人さんと同じアングルでパチリ)

1454m標点付近の倒木(とっても邪魔

笠法師山の三角形が見えてきた



登山道は粘土質で滑りやすく、上に落ち葉が積もっているから油断が出来ない。ダブルストックのありがたさを実感する事が出来る。高度を上げるに従って、後方には大岩山の白い岩壁が紅葉の中に映えているのがハッキリと見えてくる。あの山の向こうは苗場山だろうが、まだその姿を見ることは出来ない。途中でタイガーロープが流してあるところがあったが、下山の時には利用することになるだろう。そのまま進むと朽ちた鳥居が重なって立木に立てかけてあった。それは鳥居のようでもあり、荷揚げに使う櫓のようにも見える代物だった。この辺りで標高1200m付近、ブナの林の中に付けられた道が広くて立派だ。しかしそれもつかの間。笹藪を切り開いた道はとにかく急登で息つく暇もない。時折あらわれる標識はフェルトペンで書いたものらしく、文字はほとんどが消えてタダの白い板となっていた。


笹藪の中に切り払われた道は延々と続き、歩き始めて2時間で1545mn標高点に到着した。さしたる目印もなく、意外と平坦な場所だった。この辺りまで来るとブナの林も無くなり、笹原の斜面が広がってきた。ここからは苗場山の山頂付近の草モミジも遠望することが出来、近くの佐武流山は大きく見えるが、あまり特徴がない。そして、近くにあり目立つはずの鳥甲山は薮に阻まれて見ることが出来ない。この標高点近くには2本の倒木があり通過するのにちょっと苦労した。目指す三角形の笠法師山も間近になってきた。


さて、このあたりから展望もひらけ苗場山、佐武流山、白砂山、そして目指す笠法師山が間近になったと感じる。登山道は相変わらず整備が行き届いており、真新しい切り株もあとも見られた。しかし、大型動物の足跡が登山道に残っているのが気になる。まあ、鈴の音だけが頼りで、近づいて来ないことを願うばかりだ。日陰には今年はじめて見る雪が斑に残っていた。この付近は豪雪地帯なので、あと数週間で雪に閉ざされるのだろう。その意味で今日は暖かく最高の山歩きが出来る環境であることは間違いない。


傾斜も緩やかになり、ローマ字の「KIRIAKE← →IWASUGE」の標識を過ぎると、僅かな距離で「マムシ沢の頭」に到着した。旅人さんが2年前に確認した布で出来た標識は上部から剥がれて垂れ下がっていた。文字はもちろん消え去り確認することは不可能だ。ここを過ぎて僅かに下ると刈り払いの広場に出た。ここからは岩菅山から派生した稜線上の烏帽子岳が雪を被って大きく見えた。その左には間近に笠法師山が見えている。これは楽勝と思って旅人さんの記録を取りだして確認する。すると、とんでもない事が判明した。なんと旅人さんは南から登り、山頂まで76分を費やしているのだ。なんと一時間以上じゃないか!!!!これはとんでもないことだ。しかし、詳細を読むと南尾根よりも北尾根の方が良いと書いてある。これは先人の情報をいただいて北尾根から取り付くことにする。しかし、広場から見ると直登するよりも登山道の屈曲点から南に向かって登り、鞍部に登り上げてから東尾根を登った方が行きやすいように感じる。


広場を立って笠法師山に通じる道を辿ることにする。道は笹原を切り開いたもので、トラバース気味の斜面では刈り残してある笹の上に乗ると滑りやすいので何度かバランスを崩してしまったので、慎重にストックを使って歩いていく。針葉樹が多くなるあたりで、左(南)に大きく曲がる明瞭な屈曲点があった。そこには消えそうな文字で水場5分の文字がある、そのほかにも3枚ほどプレートが立木に打ち付けられていた。旅人さんの記録によれば、このあたりの窪んだ溝を辿るのが良いと書いてある。みれば幾つかの溝がある。そのうちの深そうな溝を選んで笹藪の中に突入することにした。しかし、その前にストック、GPS、カメラは紛失することを考えて、全てザックの中に仕舞い込んだ。ただし、熊が怖いので、鈴だけは腰にぶら下げたままにしておいた。さていよいよ笹の中に突入だ。



水場5分の標識(ここから登山道を離れ笹藪に突入した)

地獄の笹藪

うんざりする笹藪

上部に近づくとシラビソ幼木の薮になった

もう少しで山頂(大きな岩が見える)

ザックはゴミだらけ



初めは溝を辿ると笹もなく、なんでもないのでちょっと期待はずれ。ところが数メートル進んだところで、とんでもない笹藪に行き詰まってしまった。笹の根元の太さは2センチ以上で、高さは身の丈を越すから3m以上はある。それも雪の重みで全て下方に伸びており、さらに密生しているからどこにも逃げようがない。意を決してその笹藪の中に分け入ることにした、しかしそこはとんでもない藪だと言うことがすぐに分かった。身体を入り込ませる隙間がないから笹を両手でかき分けるのだが、無造作に笹を掴んだのでは笹が交差して身体が入らない。笹を揃えるようにして分けてから身体を入り込ませる。そして足で笹を踏みつけるのだが滑ってうまく進めない。おまけに下は雪が付いて濡れている。さらにザックは想定通り笹に引っかかり、身動きが出来ない状態に何度もなった・ザックに入れてしまったGPSを確認することも出来ず、背伸びしても笹丈を超えることは出来ない。笹藪を泳ぐのではなく笹薮の中を潜行する気分だ。旅人さんが75分かかった意味がわかった。現在の状況は分速1mのも及ばないからだ。


ともかく、ひたすら登るしかない。ここで断念したら旅人さんに何か言われそうなので悔しい。それにしてもこの薮は何という手強さだろうか。何度も下山することを考えた。気持ちが萎えてしまうようになるのを何度も奮い立たせてひたすら前に進んだ。ここで諦めたらそれこそ先人に申し訳ない。ところが、30分経っても一向に前に進んだ気がしない。登り始めたときに目印になった立ち木はまだ直ぐそばに見えているのだ。それに引き替え、見ればスパッツは上部をビニルテープで固定していたにも関わらず、足首までずり落ちてしまっている。それに笹の黒い汚れが図ゴンにも上着にもこびりついてしまっている。足が地に付かない状態で身体をずりあげて行く感じだ。時折、踏みつけた笹が跳ね返って、顔に当たりメガネを弾き飛ばされそうになる。それに股間を直撃する事もあるので気が許せない。


いままで経験した手強い笹薮はいくつかあるが、その中でも最強の笹薮のひとつであることは間違いない。実は今までに一回だけ笹薮を登れずに敗退した事がある。それは北信五岳のひとつの黒姫山に寄生する小黒姫山だ。このときはどうしようもなかった。そのときと比べると同じようなものだが、先人が到達していると言うことが大きな励みだった。小黒姫山も先人の無雪期の記録があったならちがっていたかもしれない。


なんとか鞍部に到着すると笹薮は薄くなり地面を歩けるようになった。こうなると距離は稼げるようになって来た。このまま山頂まで西に向かって尾根を辿って行けばいいわけだ。しかし、状況はそんなに甘くはなかった。直ぐに笹は再び密薮となり苦難の道が待っていた。もうどうにでもなれと、開き直って登るしかない。立ち止まると、静寂の世界が広がり、その中でガサゴソと音が聞こえてきた。ひょっとして・・彼かな?・・・・アドレナリンが分泌されるのがわかる。しばらくそのまま耳を澄ませて待ったが、それ以上、音は聞こえてこなかった。とりあえず鈴を手に持って何度も振って相手に存在を示しておいた


笹薮が突然途切れて今度は一転して苔むした岩と倒木帯となった。笹薮よりもはるかに歩きやすく快適だ。踏み跡は一切無く、獣道らしきものも見られなかった。慎重に道を選んで上部を目指して行く。しかしこれも長続きせず、今度は針葉樹の幼木の林となった。こんどは笹と違う困難が発生する。だそれは笹と違って容易に倒すことが出来ないからだ。なにしろ雪で鍛えられた強靭な幹はちょっとやそっとでは曲がらない。仕方なく強引に身体を入れてくぐるしかない。針葉樹のとがった葉が下着の中に入ってチクチクするので、笹よりも始末が悪いかもしれない。そんな針葉樹の幼木帯もわずかで終了し、その分岩が多くなり山頂部が近い事を感じさせる。振り返ると雪で白くなった山を遠く見る事が出来た。岩稜帯を抜けると目の前に旅人さんが残した赤テープが目に入った。そしてその下には三等三角点がある。おもわずガッツポーズ!!久しぶりに味わう充実感だ。残念ながら展望は三角点からちょっと離れたところに平らな岩が北東に張り出しており、ここから苗場山の草紅葉が見て取れた。そして眼前佐武流山が大きく見え白砂山だろうか?遠くかすんでいる山が見えた。針葉樹の間から南西方向を覗くと烏帽子岳が大きく見える。一部に雪が乗って紅葉と雪の対比がみごとだ。やっとたどり着いた山頂で祝杯と行きたいが、帰りの事を考えるととてもアルコールを口にする事は出来ない。アンパンをひとつ食べてから下山する事にする。



赤テープと山頂三角点

三等三角点

山頂から烏帽子岳

山頂から苗場山(中央左奥)

下山してやっと登山道に(立木に2枚のプレート)



下山はどこかにするか考えたが、登ってきた道を戻るのが最適と判断した。しかしあの鞍部には戻らずにそのまま直線的に下る事にした。そうすればいずれは登山道に辿りつける事は間違いないから不安材料は全くない。登ってきた岩稜帯を慎重に下ってから、笹薮に突入。それにしても下降はなんと楽なのだろう、薮の上をすべるように歩いて、登りに1時間半以上かかったのに、20分たらずで登山道に下山してしまった。到着したところは、水場の標識から10mほど離れた地点だった。そこには文字が消えてしまった白い2枚のプレートがあった。ここで薮の中を歩かなくとも済みそうなので緊張感から解き放されることが出来た。しかし、ここでは休まずにマムシ沢の頭にある広場まで戻り、祝杯を上げる事にした。アルコールを口にすると実に充実感に満ち山行が出来たことをあらためて感じた。



この間越しに鳥甲山

鳥甲山はあまり見えない

中津川に掛かる雄川閣手前の橋

遊川閣は営業中なのかと疑問に感じてしまう

紅葉に染まった道を帰路に



下山は傾きかけた太陽に照らされる紅葉を見ながらゆっくりと歩いた。雄川閣の駐車場でザックを降ろし、その風呂に浸かっているとあの薮漕ぎの一時間半が苦しいけれどもなんとすばらしい時間だったと思い出しながら温まる事が出来た。それにしても足は青あざだらけで、痛々しい状態となっていた。



切明温泉06:25--(.04)--06:29発電所--(.31)--07:00発電所水槽施設--(.09)--07:09索道小屋--(1.19)--08:20 1545m--(.44)--09:04マムシ沢の頭--(.01)--09:05広場09:17--(.16)--09:33水場標識--(1.41)--11:14笠法師山11:35--(.17)--11:52登山道--(.16)--12:08広場12:29--(.22)--12:51 1545m--(.33)--13:24索道小屋--(.06)--13:30水槽施設13:42--(.19)--14:01切明温泉


群馬山岳移動通信/2010

GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)
及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)