笹ヶ峰から火打山・焼山を周回する   登山日2013年10月4日


焼山−影火打−火打山の稜線

火打山(ひうちやま)標高2462m新潟県糸魚川市・妙高市/影火打(かげひうち)標高2384m新潟県糸魚川市・妙高市/焼山(やけやま)標高2400m新潟県糸魚川市・妙高市


杉野沢橋から焼山へ登ったときに、山頂から見た火打山までの急峻で美しい稜線、いつかはあのルートを歩いてみたいと思っていた。

10月4日(金)
午前3時15分、目覚まし時計の音に起こされた。しかし眠い、もう一度ウトウトしてから目を覚ますと、4時20分になっているのにまだ眠い。これはまずい、なにしろ出発予定時刻は4時だったのだ。大幅な予定時刻超過で、今日の計画自体が危ぶまれる事態となってしまった。なんとか気力を振り絞ってシュラフから抜け出す。この時刻では笹ヶ峰の駐車場はまだ真っ暗で、白いガスが暗闇に漂っている。ヘッドランプの灯りで支度を整えているうちになんとか目が覚めてきた。ほかの車に目立った動きは見られない。紅葉シーズンとはいえ、平日はこんなものなのだろう。

午前5時になんとか準備が整い、ヘッドランプの灯りで登山道を歩き始める。登山道は良く整備されて歩きやすい。また木道の工事が行われているらしく、所々にその資材がデポしてある。それにしても、暗闇の登山は不気味である。鈴の音を鳴らしながらひたすら無心で登っていく。

午前6時頃になると周囲が明るくなり、ヘッドランプも不要となった。いつの間にか白いガスは消え去り、頭上には青空も見えだしている。どうやら今日は好天に恵まれそうなので、会社を休んで来た甲斐があったというものだ。十二曲がりと言われるジグザグの坂を登り詰めると、ほどなく富士見平となる。ここは妙高山と火打山の分岐ともなっている。ここに来たのは21年ぶりであるが、その時の記憶はほとんど無くなっている。

休憩後、高谷池ヒュッテに向かって歩き始める。この付近から、見事に色づいた木々の葉が美しい。やがて視界が開けると、火打山から焼山までの稜線が青空の中に錦の衣を纏って浮かんでいた。今日はあの稜線を無事に歩けるようにとひたすら願った。




登山口のゲート

十二曲り標識

十二曲り最終地点

雲海の向こうに北アルプス

富士見平分岐

紅葉がはじまっている

ナナカマドとダケカンバがいいね

鹿島槍と五龍



高谷池ヒュッテは人影もなくひっそりとしていた。まずはここの水場でハイドレーションに1.5リットルを補給した。煮沸してから飲むようにと書いてあったが、そんなことは気にしても仕方ない。ヒュッテに戻り、山バッチを購入してから「焼山から杉野沢橋に下りたいのだが、情報はありますか」と尋ねた。「刈り払いはしてあります。それに橋の付近は堰堤工事が進み、以前は難所だった沢のへつり通過は無くなっている」とのことだった。これは有り難い、あのへつりの通過は嫌らしい場所だったからだ。

外に出るといつの間にか、火打山付近はガスが掛かり、紅葉の美しさは半減となってしまった。しかし、ヒュッテを発って、高谷池の草モミジを眺めながら歩くのは心地よい。高谷池から峠を越すと今度は天狗ノ庭と呼ばれる湿原となる。ここの紅葉も素晴らしく、何度も写真で見る風景だ。カメラマンが三脚をセットしてチャンスを窺っている。聞けば、今朝の2時に笹ヶ峰を出発したのだそうだ。このくらいの根性がなければいけないと、我が身の軟弱さを嘆いた。

ここからはいよいよ登山道らしくなり、ハイマツが多くなってきた。雷鳥が見られる場所なので、注意深く観察したが、出会うことはなかった。数組のパーティーとすれ違ったが、いずれも空身に近い格好だった。縦走するのでなければ、荷物はヒュッテに預ける方が得策であることは間違い無い。


高谷池ヒュッテ

高谷池

天狗ノ庭

天狗ノ庭

火打山が見えてきた

ライチョウ平

日本海

火打山山頂から後立山、中央に焼山とバックは日本海




さしたる急坂もなく、だだっ広い火打山の山頂に到着。山頂には単独行の男性が二人だけで、静かな山頂である。南方面はガスで満ちており、北アルプスのスカイラインが時折確認できる程度だ。それに引き替え、北方面は日本海の水平線が空の色の青と同化したように見えている。目指す焼山はなんと大きいのだろう。山頂付近は水蒸気が絶え間なく吹き出しているのが見える。それにしても、遠いなあ、おまけにあそこに行くには手前に大きなキレットがある。標高差400m一気に下って、再び400mを這い上がると言うことなのだ。今日中に周回できるだろうか?まして寝過ごして予定よりも大幅に時間が遅れている。迷っては見たが、結論は進むことしか考えられない。

火打山から下降すると、もう、迷いは無かった。こうなれば縦走するしか道は残されていないのだ。時折、暖かな日射しの中で下降していると、このままここで休んでのんびりしたいと思うような気持ちになってくる。しかし、そんなことをしている余裕はない。もう引き返すことは出来ないのだ。火打山からわずかな時間で影火打に到着。目立ったピークはなく、なにか目印はないものかと探してウロウロしたりハイマツの薮に入ったりしたが、確認できなかった。まあ、影火打を踏んでいることは間違い無いのでよしとしよう。


焼山に向かう

雪が残ってた

焼山が近づく

焼山の噴煙口をズーム



影火打からの下降は、一気に下るというものだ。あまりスピードを出すと膝に負担が掛かり、あとから影響が出ることが心配なので、つとめてゆっくりと歩いた。眼下には深い谷底が、目の前には屹立した焼山が聳えている。これからあんなにも下ってから登るのかと不安が頭の中によぎっていく。道は良く整備されており、最近歩いた人がいるのか、ビブラム底の跡がくっきりと残っていた。焼山の山頂部からは、水蒸気を噴き上げる音はジェットエンジンのようで、鋭い音がひっきりなしに聞こえているのが不気味だ。

標高約2000mの鞍部に到着してから、わずかに登ると、おびただしいほどのナナカマドの赤い実に覆われた原に出た。ここが胴枝切戸と呼ばれるところだ。ここからは焼山までの急斜面が、妥協なく一気に続いている。そのルートも急斜面をジグザグに登るのではなく、一直線に登るといった感じだ。最初は灌木の中を登り、灌木が無くなると今度は草付きとなり、噴火によって作られたと思われる岩石が目立つようになってきた。振り返れば火打山が大きく見え、ここから見ると独立峰の様にも見える。あの高谷池付近から見るなだらかな姿とは別物だ。眼下にはナナカマドの実の赤色が帯状になって麓を彩っているのがわかる。初めの予定では11時半には山頂と思っていたのが、12時になっても山頂には着かない。時計の高度計と、GPSの高度表示を見比べて、ちっとも高度が増えないと思った。それもそうだろう、わずかに20歩程度しか歩いていないのだから。一面に繁茂しているシラタマノキの実を潰して、サリチル酸エステルのような香りを楽しみながら歩く。


最低鞍部から

胴枝切戸から焼山

胴枝切戸はナナカマドの実で埋め尽くされていた



高度計が2400mになると同時に、白い噴煙が吹き出す山頂に到着した。前回来たときは疲れ果てて、噴煙口を見なかったので、心残りだったのだが、今回はゆっくりと観察できる。吹き出しているのは水蒸気だろうか。r硫黄の臭いが鼻を突き、時折「ピシィ」「ピシィ」と音がするところが不気味だ。展望は北アルプス方面が相変わらずガスに覆われてハッキリしない。しかし、日本海の水平線はくっきりと確認できた。時刻は12時半を過ぎてしまっている、しかし、 ここまでほとんど休憩を取っていなかったので、わずかに休憩することにした。しかし、それも日没までに杉野沢橋に到着しなくてはならない制限付きだ。山から4時間はかかるとすれば13時にここを発っても、ギリギリの17時と言うことになる。まして笹ヶ峰までは林道を1時間近く歩かなくてはならない。


焼山から火打山を振り返る

噴煙口を間近に見る

山頂標識

噴煙口は嫌な音がしている

山頂直下の火口湖

富士見峠付近


13時ちょっと前に焼山を発って、あわただしく下山した。しかし、疲れた身体では全くスピードが出ない。まあ、転がるよりも良いだろうと、ストックを使って慎重に下山する。それにしても富士見峠までは泊岩を経由しなくてはならないのが辛いところだ。一気に富士見峠に向かうことが出来るのなら負担もかなり軽減されるはずだ。ブツブツ文句を言いながら富士見峠に到着。ここまで来れば、後は長い下りに耐えるだけだ。ここで15分ほど大休憩、金山の紅葉を眺めながら、大福餅を頬張る。今回はビールを持ってこなかったが、もしも持ってきたとしても、疲れ果てて呑む気にはなれなかっただろう。

さて、下りに取りかかろう。

約1時間掛かって水場到着。さらに30分掛かったところで地獄谷の渡渉点となった、今までよりも水量が多く、渡るのは容易ではない。飛び石伝いに行くことは出来ない、ましてや水の中に入って行くのもやりたくない。結局、飛び石伝いに渡り、水没している石に足をかけて一気に渡ることにした。まあ、落ちても死ぬことはあるまいが、打ち所が悪ければダメージは大きいだろう。慎重に足場を固めて一気に対岸に飛び移った。やれやれとんだところで酷い目にあった。


富士見峠から金山方面

何という色彩なのだ

地獄谷の徒渉、結局真ん中の倒木を渡った

堰堤のタラップ

これはきつかった

ひたすら林道を歩く




更に沢を下っていくと、焦げ臭い臭いがする。見ればブルーシートで覆われた簡易テントで登山者が焚き火をしている。聞けば、明日焼山に登るらしいが、天候を考えると大変なことになったのではないだろうか。ここからは地形図ではなんと言うことはないと見えるのだが、実際はアップダウンもあり、かなりハードだ。前回は足が攣ってしまい、まともに歩くことも出来ず難儀した。今回は足が攣っていないまでもかなり厳しい道のりだ。

やがて、工事中の堰堤に突き当たった。はたしてどこを通ればいいのだろう。ウロウロしていると、「登山道」の標識を発見。そこにあるものは堰堤の堤体に付けられたタラップだった。こりゃなんだ、垂直に近い堰堤に真っ直ぐ付けられている。周囲を見てもこれ以外に選択余地はないようだ。気合いを入れてタラップに掴まり、やっとの事で上部にたどり着いた。今度は同じようにタラップを降りなくてはならない。ストックは邪魔なので投げ落として身軽にしておいて、慎重に下降していく。地上に降りたときは安堵感で力が抜けてしまった。

工事用の道を辿り、杉野沢橋に着いたのはピッタリ17時だった。次第に暗くなる景色に追われるように、笹ヶ峰までの4キロの道を急いだ。


笹ヶ峰05:02--(.54)--05:56黒沢橋--(1.15)--07:11富士見平07:18--(.34)--07:52高谷池ヒュッテ08:08--(.11)--08:19天狗ノ庭--(.40)--08:59ライチョウ平--(.36)--09:35火打山09:49--(.15)--10:04影火打--(1.11)--11:15胴枝切戸--(1.13)--12:29焼山12:48--(.39)--13:27泊岩--(.15)--13:42富士見峠13:55--(.52)--14:47水場14:53--(.27)--15:20地獄谷徒渉--(1.24)--16:44砂防堰堤--(.16)--17:00杉野沢橋--(.41)--17:41笹ヶ峰

沿面距離:25.6km





群馬山岳移動通信/2013


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号)