風強く、雪深き「二子山(みどり市)」 

                                        登山日2014年1月19日

二子山(ふたごやま)標高11556m 群馬県みどり市・栃木県日光市




二子山と言う名前の山は群馬県では埼玉県境の二子山が有名だ。今回登ろうとするのは群馬県みどり市と栃木県日光市足尾町の境にある山だ。袈裟丸山のメインの登山道から外れているので、なかなか登ることのない山となっている。本来ならツツジの咲く新緑の時期に登るのが良いのだろうが、厳冬期に登るのも悪くはないだろう。


1月19日(日)
朝5時に自宅の庭に出てみるとうっすらと雪で覆われている。今シーズン自宅で初めて見る積雪だ。空は星が見えているので、まあなんとかなると言う考えで、予定通り出発する。

草木湖を過ぎて目的地の沢入トンネルを過ぎて栃木県側に入る。すぐに廃業した生コン製造施設があり、その前が駐車余地になっている。珍しいことに登山者が準備体操をしている。車を降りて尋ねると、やはり二子山で相手もこんな山に登る人がいるのはビックリしているようだ。男性は私よりも10歳ほど若く、毎週山登りを楽しんでいるという。計画では二子山を登ってから、更に先に進み寝釈迦経由で戻ると言っている。一緒に途中までどうですかと聞かれたが、「これからカップラーメンを食べてから、支度を整えるのであと一時間はかかるので、お先にどうぞ」と答えた。とりあえず登り口がわからないので、ふたりでウロウロする。トンネルの上の崖にピンクリボンがあるので、そこを辿るのかな?とりあえず先行して出発する男性がその崖に取り付くので、それを見ながら出発の準備をする。かなり苦労しているようで、なかなか上部に進まないようだ。


コンクリート廃工場前の駐車余地

先行者が果敢に崖を登る

旧道の取り付き点

沢入トンネル(つららが下がっている)


さて準備も終わり、どこから取り付こうか考える。どうも先行者が進んだ崖は厳しそうなので、旧道に適当なところがないか探してみる。旧道の立木に黄色いテープが巻き付けてある場所がある。傾斜はきついが、先行者が登った崖よりはましなようだ。いきなり大岩に阻まれたが、太い蔓が垂れていたので、それに掴まって大岩の上に登る。ここから急斜面を登るが、枯れた立木が多く慎重に木を選んで登る。砂礫の斜面に落ち葉が積もり、足元は悪い。たぶんスリップしたらかなりのダメージを受けるだろう。ほどなく黒いケーブルが足元にあるのが見えた。登るためのロープかとも思ったが、どうやらなにかのケーブルらしいことがわかる。巨体が掴まったのでは切れるかもしれないと、触らずに登り続けた。上部に行くに従って傾斜は緩くなったが、あまりの緊張感と合わさって汗が滲み出てきた。さて、登り詰めた場所にはやや小振りの古びた鉄塔が立っていた。この鉄塔もどんな目的なのかわからない。しかし送電線の下は真新しい松の木などが刈り払われているところを見ると、現役であることは確かなようだ。下方から時折ゴーッ!という音が聞こえる。何事かと見ると、わたらせ渓谷鐵道の電車が通過するときの音だとわかった。マッチ箱のように見える渋茶色の2両編成の車両が何とも可愛い。この風景がいつまでも続くといいなあと思う。

徐々に道はなだらかになり、歩きやすくなってくる。灌木の隙間からは眼下にクリーンセンターなどが見えている。途中、立木に赤テープが巻いてあるところがあった。周囲を見ると、どうやらクリーンセンターに降りる安全なルートにも見える。帰路に使いたいところだが、様子がわからないので踏み込むことは出来そうにない。ケーブルが続くルートをしばらく進むと、ほどなくケーブルは下降していく。ここには立木にテープが巻かれて「大難峠(大名峠)」と言う場所らしい。



ケーブルがある斜面

鉄塔

大難峠

松ぼっくり



ここから道はかつての人の往来がある道だったのか?あるいは防火帯だったのだろうか?広い窪みに沿って登ることになる。しかし、この窪みは倒木や落ち葉が堆積していてまことに歩きにくい。そこでその窪みの縁に沿って登っていく。次第に雪が見えるようになり、その雪も凍結した場所もある。案の定、油断をしていたら派手に転倒して、右肘をしたたか打ち付けてしまった。幸い大事には至らなかったが、危ないところだった。県境稜線を忠実に辿るようにルートを選ぶのだが、稜線は明瞭で登る分には迷うことはなさそうだ。群馬県側はヒノキの植林地となっており、地形図を見るとその下は林道が通じているようだ。おそらくこの植林地の中には作業道があり、林道に通じているに違いない。しかし、そのリスクを犯してまで帰りに入り込むことは出来ないだろう。

標高1159mのピークは三角点があるはずだが、雪に埋もれて見ることは出来ない。まして三角点があるはずなのだが、あまりピークらしくない地形図を見ると林道から登ってきた道がここで合流することになってる。しかし標識などは見あたらす、エアリアマップには記載がないので、これも入り込むのは躊躇する。こんな事を考えるのは、どうしても登山口のあの崖を下降するのが不安でしょうがないからである。標高1159mを過ぎると、袈裟丸山方面からの風が強まってきた。見ればその方向は雪雲に覆われ、くすんだ鉛色になって視界を遮っている。

先行者なのか、ケモノなのかわからぬ踏み跡が何本も入り交じって雪の上に残っている。適当なものを見つけてそれをたどるのだが、それも消えてしまうことがある。そんなときはしかたなく新雪に足を踏み入れるのだが、膝当たりまで踏み込んでしまいまことに歩合が悪い。今日はアイゼンは用意したが、ワカンの類は用意しなかったことが悔やまれる。いろいろな形の石を見て、なにかに似ていると想像力を逞しくするのだが、○・△・□くらいにしか見えない。




ケモノのトレースがいっぱい

四角柱

四角

三角


食パン



それにしても寒い。ホームセンターで購入した毛糸の帽子は耳が痛くなり、フリースで出来た目出帽に切り替えた。下着とカッターシャツで歩いてきたのだが、たまらずユニクロで購入したナイロン地のパーカーを着込んだ。いざとなれば緊急用のダウンジャケットとさらにジャンパー、雨具もある、それにツェルトもあるから、何とかなるだろう。寒いはずなのにをかくという体質は本当に困る。首に巻いたタオルはすでに末端が凍り付いて柔軟性を失っている。先ほどまで被っていた帽子は、脱いだ途端に凍り付いてヘルメットのようになっている。

標高1358mの標高点のある場所は平原になっている。ここからは二子山の双耳峰がふたつ並んで乳房のように見えている。その平原の手前には大きな岩があり、そこで先行者が休んでいた。天候が悪く、ここで登頂は断念して引き返すという。たしかに次第に雪と風が激しくなったような気がする。心配はやはりあの取り付き点の崖のことだ。なんでもあそこで10mほど滑落したとのことだ。標高差200mなのだから1時間程度で行けるのだから、「一緒に行きましょう」と誘うことも考えたが、登山はあくまでも自己の判断が優先するのでやめておいた。この平原から見ると1400mの二子山からの尾根の末端はひとつのピークのように見える。膝まで潜る新雪のツボ足ラッセルで進んでいく。息も絶え絶え、10歩も連続して登れず、数歩進んでは休むという状態になった。雪は次第に強くなり、せっかくラッセルしたのにたちまち雪に覆われていく。ラッセルした穴の中は青色をしているところを見ると、気温はかなり低くなっていると思われる。なんとか尾根の末端の1410mのピークに立ったときは、大きく息をついていた。この場所には理由はわからぬが、標石が2本並んで設置してあった。ザックを降ろすと汗で濡れた下着がすぐに体温を奪う。あめ玉ひとつを口に放り込んで、最後の斜面の登りに取りかかった。

いままで、ストックの半分程度のものだったのに、この斜面の雪はストックが全て沈んでしまう。膝はおろか、腰のあたりまで雪に埋もれている。いままで数歩歩いていたのが、3歩くらいで息切れだ。GPSをのぞいては標高を見るが、たいして変わらないことで落胆する。こうなると、1月の山は3年連続で敗退するという事が現実的になってきたような気がする。なんとか正午までに山頂に着きたいと思っていたが、無理なことだとわかった。

深雪に苦労しているのに、このあたりは倒木があり、行く手を邪魔している。倒木をひとつ乗り越えるにも大変な労力が必要で涙が出そうになる。ともかく何とか山頂を目指して行くしかない。山頂部分の稜線にあとわずかと言うところで、もがいても全く進めなくなってしまった。もがくだけで足踏みをしているようなものだ。仕方なく水平移動して雪が堅くなった当たりで、四つん這いになって何とか稜線に着いた。

稜線に着いた途端に今度は強風に晒されることになった。ヤッケのフードを被り直して、風に耐えるために身体を斜めにして歩いていく。稜線の風下は雪庇が出来るようで、雪が深いので風上側を選んで前に進んだ。どうりで登るときは雪庇の下を潜っていたので苦労したわけだ。やがてこんもりした場所にたどり着いた。ここが山頂に違いないのだが、標識はどうしたのだろう。振り返ってみるとGさんのブリキ標識があった。しかし、茶色のすかいさんの標識が見あたらない。場所が違うのかと思ってGPSを見たが間違いなさそうだ。やっとたどり着いた山頂だが、寒くて仕方ない、ゼリー飲料と菓子パンを白湯で流し込んだ。出来れば二子山のもうひとつのピークも登ろうと考えたが、無理はしないで下山だ。



ヤセ尾根もある

1358mの平原から見る二子山

1410m付近の標柱ふたつ

膝までのラッセル

トレースを振り返る

ザックに積もった雪

山頂

山頂で記念撮影



問題の沢入トンネルの上部からの下降だ。鉄塔基部の右から下降したが、どうしても下降できなくなってしまった。無理をすれば何とかなりそうだが、落ち葉が積もっていて滑りやすくなっている。どうも登ってきた場所と違うぞ。鉄塔基部まで登り返すことにして、踏ん張ったらなんと右足が攣ってしまった。1分ほどストレッチをしていると痛みが和らいできた。何とか鉄塔の基部に着くと痛みは無くなっていた。今度は基部の左から下降する。
おお、見覚えがある風景だ。それになにかのケーブルが真っ直ぐ降りている。下降しながら先ほど降りた場所を見ると、その先は断崖絶壁だ。戻って正解だったと安堵した。しかし、いま下降している場所も油断できない。砂礫と落ち葉の斜面は滑ったらそれこそタダでは済まないだろう。ケーブルは斜面の左へ直角に曲がっているが、登ってきたのは右側だ。その方向に進むと見覚えある旧道が見えて、太い蔓も見えている。慎重に下降して旧道に降りたときは、本当に良かったと思った。しかし、なぜかいつものような充実感は味わえなかった。途中で引き返した先行者の車は既に無く、無事に下山したらしい。

今回は忠実に県境を辿って登ったが、帰ってからネットで調べると、登り口はいろいろあるようだ。唯一、すかいさんが下山時に鉄塔から同じ崖を降りている。この時はケーブルを辿ってトンネルの上に出て進退窮まって下降して滑落している。

サンレイク草木の風呂に300円(JAFカード提示)で入り、大間々の「青柳」で和菓子を購入して帰路についた。


群馬山岳移動通信/2014



和菓子「青柳」

和菓子がいっぱい


沢入トンネル07:48--(.22)--08:10鉄塔--(.08)--08:18大難峠--(1.28)--09:46 1160m三角点--(1.09)--10:551358m標高点(雪原)--(.28)--11:23 1410m付近--(.54)--12:17二子山山頂12:31--(2.23)--14:54鉄塔--(.18)--15:12沢入トンネル





GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)