ドンドコ沢から中道を周回「鳳凰三山」
                                        登山日2014年7月12日





鳳凰三山/地蔵ヶ岳(じぞうがたけ)標高2764m 山梨県韮崎市・北杜市/赤抜沢ノ頭(あかぬけさわのあたま)標高2750m山梨県韮崎市・南アルプス市・北杜市/観音ヶ岳(かんのんだけ)標高2840m山梨県韮崎市・南アルプス市/薬師ヶ岳(やくしがたけ)標高2780m山梨県韮崎市・南アルプス市




台風の接近で躊躇していたが、鳳凰三山付近は影響もなく通過していった。念のために青木鉱泉に電話して確かめると、林道は全く問題ないし、雨も降らなかったとのこと。それではと、金曜日に会社を終わって、現地に向かうことにした。

韮崎市のあたりで、ルートがちょっとおかしいと感じたが、そのまま走行した。そのうち「夜叉神峠」の標識が現れる。その時に気が付いた。それは前日にルートをチェックしたときに、台風の影響で青木鉱泉に行けなかった場合は、夜叉神峠と考えてナビをセットしたままだったのだ。あわてて青木鉱泉にセットしてそちらに向かうこととなった。

恐ろしく狭い道を辿って青木鉱泉に向かっていく。現地に近くなったところで右折して河原に降りていく。しかし、これもおかしい?右折した場所に戻るとその先に右折する場所がある。橋を渡って進むと青木鉱泉の駐車場が左にあった。駐車場は区画がしてあり、2台が駐車してあるだけだった。自宅から3時間半の道のりだったので、疲れもありビールを呑んですぐに寝る準備に取りかかる。


7月12日(土)

当初は朝4時出発を考えていたが、惰眠をむさぼり過ぎて起きたのが3時半だった。車外に出てみてビックリ、なんと駐車場は満杯の状態だった。これだけの車が集結しているにもかかわらず、全く騒音に気が付かず爆睡していた事になる。

毎度おなじみのカップカレーヌードルを食べてから出発だ。時刻はなんと4時50分なので、起き出してから準備に1時間以上も掛かったことになる。駐車場から青木鉱泉に向かい、ここで登山届を提出する。青木鉱泉の庭にはシュラフにくるまってベンチで寝ているパーティーがいたが、まだ起き出す気配はなかった。

「ドンドコ沢」を示す標識に従って歩き出すが、朝の割には蒸し暑いと感じる。この付近は工事が盛んなようで、砂防堰堤工事が行われており、登山道もそれに伴って迂回を余儀なくされているようだ。登山者はそれほど多くはないようで、ほとんどが単独行者だ。トレランのスタイルで登る人も数多く見られる。



駐車場ほぼ満杯(下段はまだ余裕)

青木鉱泉

堰堤工事が進む

前日収穫したキュウリをほおばる

樹林帯の登りは変化もなく、蒸し暑さでへこたれそうになる。あっという間に上半身は汗でびっしょりになってしまった。それに伴って水の消費も多くなってくる。幸いなことに、このコースは沢沿いに辿っているので、沢音を聞くだけでも水の心配はないと、安心感が得られる。
このコースは滝を見るのがひとつの楽しみと言うこともあるらしい。あまり予備知識が無かったので滝のことは考えていなかった。先行する人が滝を見るために登山道を離れるようだが、こちらは早くもグロッキーでそんな余裕は無いに等しい。それほどペースは遅くはないと思うのだが、次々に後ろから来る人に追い越されていく。10人以上に追い越されると、もはや諦めモードになってくる。自分のペースを守って歩くのが一番だ。

「五色滝」入り口で休んでいると、先行者が戻ってきた。聞けば10分ほどで滝壺まで行けるとのこと。素晴らしい滝で、一見の価値があるという。そんな風に聞けば行きたくなる。沢に沿って10分ほど登ると見事な滝が目の前に現れた。水量は豊富だが、その高さのためか下方では飛沫になってしまっている。それにしても、「五色」とはどんな由来から来ているのだろうか。見たところではそれらしきものは見あたらなかった。この場所に留まってノンビリと時間を過ごしたい気持ちを抑えて、早々に引き返す。登山道に戻り、わずかに登ると広場があり、ここからも五色滝に降りることが出来るらしい。ここで腰を下ろしてちょっとだけ休憩して、キュウリと、自家製の梅干しを食べた。

道は相変わらす樹林帯の中を進むが、階段が現れると言うことは鳳凰小屋が近いのかなと思わせる。道は一転して下り坂になり、やがて沢沿いに進んでいく。この道は実に快適でジブリアニメの世界のようだった。森の中の沢床は白く、透明感のある水が流れ、その脇には花が咲き乱れていた。目の前は時折、ガスが遮り流れていくのである。疲れた身体ではこの風景を見ると、このままここでノンビリしてから下山しても良いと考えてしまう。ノンビリ歩いていると、またもや追い抜かれて、やっとの思いで鳳凰小屋にたどり着いた。




白糸の滝

五色の滝

アニメの世界のような道

鳳凰小屋

キバナアツモリソウの蕾

マイヅルソウ



鳳凰小屋は樹林の中で、それほど大きいとは感じない。小屋番の従業員だろうか、常連客と和やかに話している。水場は開放されて豊富に水を提供していた。思わずザックを降ろしてゆっくりとする。やはり、昨日収穫したキュウリにマヨネーズを付けて食べる。あとから数名の人がやってきた。どうやらここでテントを設営する人が多いらしい。「いまのところはガラガラなので好きなところに張ってください」などと言われていた。まあ、これから時間が経つに連れて、賑わってくるに違いない。

鳳凰小屋からいよいよ地蔵ヶ岳岳に登りはじめる。依然として樹林帯を抜け出ることが出来ない。標高はすでに2500mを越えているのに森林限界に至らないのは、この付近の気象条件によるものだろう。それでも高度を上げるに従って樹林は疎らになってきた。ここで、トレラン姿の男性に追い抜かれる。なんでも3回目だということで、どんどん離れていってしまった。

そして、ついに鳳凰三山のシンボルである地蔵ヶ岳岳のオベリスクが見えてきた。足元は花崗岩が風化して出来た白い砂礫の斜面だ。歩きにくく踏み出した一歩が、ズズズッと踏み込んで前に進まないと言った状態である。ストックを使いなんとか踏みとどまって進むといった状態だ。それにしても白い砂の斜面とオベリスクは不思議な造形だ。オベリスクは古代エジプトの神殿の前に置かれた白い塔の意味だそうだ。その形は鳥の嘴に似ているので鳳凰山の名前の由来にもなっているとか、花の蕾にも似ていると称される。踏み出す一歩はゆっくりだが、近づくとその大きさに圧倒される。

樹林が疎らになってきた

砂礫の斜面

オベリスクにもうすこし

観音ヶ岳(左に富士山が見えれば良いのだが)


なんとか、オベリスクの基部まで到達。しかし、どうしたって登れるわけはないから、これ以上進むことは全く考えなかった。現に挑戦する人がいるが登らなかったらしい。ここから少し下ったところは広くなっており、そこからの展望に圧倒された。ピラミダルな形の甲斐駒ヶ岳が圧倒されるほど大きく眼前に迫っていたのだ。まだ未登の甲斐駒ヶ岳はこの姿を見ると、是非登ってみたいと思う様だった。ここで、地元山梨の単独行者と話しているうちに、つかず離れず歩いていくことになった。


甲斐駒ヶ岳が近い

賽の河原にあるお地蔵さん

地蔵ヶ岳岳を辞して(正確には地蔵ヶ岳岳の基部)鞍部に向かって下っていく。そこは賽の河原でおびただしいほどの地蔵仏が置かれていた。ふたたび斜面の登りとなり、登り上げたところが赤抜沢ノ頭で、振り返ると天空に突き上げるオベリスクが際だって見える。それに今度は日本第二の高峰である北岳が対峙して見えた。沢筋には葉脈のように雪が残り、荒々しい岩肌と緑濃き原生林のコントラストが見事だ。あの頂きに立ったのはもう35年も前のことだ。今の体力ではたして行けるかどうかは難しいところだ。この時に間ノ岳が見えていたが、その後は雲の中だった。それから、富士山が終日に渡って見えなかったのが何とも心残りだ。

赤抜沢ノ頭からはもったいないほどの下降となる。それにしても雲上の稜線漫歩とはこのことだ。白砂の斜面と絶妙に配置された巨石、そして風化したハイマツの巨木は日本庭園そのものだ。終始見えている北岳と遠ざかっていくオベリスクが何とも名残惜しい。このあたりはキバナノコマノツメとイワカガミが目に付く。時には群落となっており、足を止めて見入ってしまうこともしばしばだ。観音ヶ岳の登り途中にある岩壁は実に気持ちよかった。先行者が「ここからの眺めは最高です」と言い残して去っていった。ここには山梨の男性もすでに休んでおり、まったりとしていた。たしかにその場所は下が絶壁となっており、鳥の眼から見る風景が広がっていた。思わずここでゆっくりとして、これから向かう観音ヶ岳がまだまだ遠いと感じた。


オベリスク


北岳が見えてきた

オベリスクが遠くなってきた

キバナノコマノツメ(ピンボケ)

観音ヶ岳は遠い

観音ヶ岳直下

観音ヶ岳の二等三角点(認知されていない)

観音ヶ岳から甲斐駒方面


稜線はふたたび下降して鞍部に降りる。ここで鳳凰小屋からの道と合流する。そちら方面から男性二人が登ってきたが、この二人にも追い越されて、トボトボと今度は登りに取りかかる。この辺まで来ると、夜叉神峠からの縦走者とすれ違うようになる。ほとんどが疲労困憊といった感じで、おそらく自分もあんな感じなんだろうと、自分の姿を想像する。

鳳凰三山の最高峰である、観音ヶ岳山頂は岩の上だった。三角点があったが、これは「二等三角点成果異常」で正式には認知されていないらしい。 岩峰には山梨の男性が休んでおり、記念撮影をお願いして四方山話に花を咲かせた。

観音ヶ岳から薬師岳はアップダウンも少なく、距離の割には楽な道のりだった。なんといってもこの稜線の開放感はたまらない。これも台風一過の好天がもたらしてくれたご褒美だ。


白い斜面

盆栽のようなハイマツ

イワカガミ

薬師岳山頂(行けなかった)

薬師岳山頂標識

薬師岳の山頂標識は平坦な裸地の場所にあり、東に岩を積み上げた場所がある。そこが山頂なのだろうが、とてもそこまで行く元気がない。この鳳凰三山で登れなかったのは「地蔵ヶ岳(オベリスク)」とこの「薬師岳」ということになる。残念だが、この疲労度では無理はしたくないのが本音である。山梨の男性は「薬師岳小屋」に宿泊するというので、ここで別れて青木鉱泉への道に入った。

青木鉱泉への道である「中道」は、下るとすぐに樹林帯の中に入ってしまった。道はそれほど荒れていないので、それほどきつくはなかった。しかし、蒸し暑さと展望が無いことがきつい。

御座石まで下降しただけで、バテバテデで思わず休憩。すると後ろから舞うように降りてくる登山者。髪を染め、ピンクのシャツを着た小柄な女性だった。標識を見て「青木鉱泉まで2時間45分、17時のバスに間に合う」そう言い残して、背中を全部隠すほど大きなザックを揺らしながら駆け下りていった。おもわずスゲェ〜〜〜と後ろ姿を見送った。

15時を過ぎても登山者は登ってくる。なかには、かなり疲労している人も見受けられるが、これからの予定はどうなっているのだろう。こちらが心配になってくるほどだ。

それとは別に、この下降でも何人もの人に追い越された。中には走るように下降していく人がいるから驚きだ。いやいや、自分だってかつてはあんな感じだったなあ。下りは絶対人に負けなかったものなどと考えても、今はこの有様だ。

道は次第にハッキリとしてジグザグに下降する。植林地なのだろう、索道のワイヤーが錆びて放置されていた。あと1時間40分の標識を見たときは安心して、思わず立ち止まってしまった。ふたたび後続の男性に追い越され、さらにトレランの3人組に追い越され、最後は単独行の男性に追い越された。その男性が歩いていく先は植林地をジグザグに降りている。どんどん離れていくのだが、直線距離にするとわずかな距離のままである。

何も考えず歩いていくと、上方から空を切るような音が聞こえた。横目で見ると上部から平べったい握り拳大の石が飛んでくる。思わず急制動を掛けて止まった。石はほんの数十センチ前に落ちて止まった。あのまま進んでいたら、頭部を直撃したに違いない。思わず上部を見ると、1人の登山者が下降してくるところだ。怒鳴る気力もなく、黙って何事もなかったように歩き続けた。




中道の様子

御座石(青木鉱泉まで2時間40分)

登山口

青木鉱泉に向かう近道(沢を渡る)



廃屋が現れると、そこが登山口だった。先ほど追い越していった男性が標識の前で立ち止まっていた。川崎から来たという男性は、まだ30才前だと言う。たしか、山頂で何度か見かけていたが、途中でシャリバテになり薬師小屋で昼食を食べていたという。ここからは林道歩きとなり、この単独行の若い男性と話をしながら青木鉱泉への道を歩いた。

青木鉱泉には17時の到着。バテバテとはいえ、ほぼ標準タイムで歩いたことになる。しかし、追い越されても、追い越した登山者は皆無だった。もう少し体力の維持に努めなければならないと痛感した。青木鉱泉の湯舟を独占して、汗を流してから帰路についた。


青木鉱泉04:50--(3.37)--08:27五色滝8:48--(1.11)--09:59鳳凰小屋10:08-1.03)--11:11地蔵ヶ岳11:28-(.16)--11:44赤抜沢ノ頭11:49--(1.09)--12:58観音ヶ岳13:03-(.32)--13:35薬師ヶ岳13:42--(.43)-14:25御座石14:31--(1.51)--16:22登山口--(37)--16:59青木鉱泉




この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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