因縁の山はあまりにも遠かった「鉾ヶ岳」
                                        登山日2019年7月7日


金冠山鞍部のナイフリッジ 左は能生海岸

金冠山(きんかむりやま) 標高1140m 新潟県糸魚川市/鉾ヶ岳(ほこがたけ)標高1316m 新潟県糸魚川市
新潟県上越市在住のTさんと「鉾ヶ岳」「権現岳」に挑戦したのは3年前のこと。しかし、あまりの暑さに負けて金冠山での途中敗退となった。その後、何度か再挑戦の計画があったが調整が付かずにまとまらなかった。今回も計画したが、雨が降り続いたため何度も延期して、満を持しての挑戦となった。

7月7日(日)
前日の夕方出発し北陸道「谷浜SA」で車中泊としたが、これが大失敗でエンジンをかけっぱなしのトラックの騒音に悩まされ、一睡もできなかった。仕方なく3時前に起き出して車内を片付けた。能生ICで降りてコンビニで朝食をとってから現地に向かう事にする。

ところがアクセス道は夏草が生い茂り、車の横をこする音が切ない。4時ちょっとすぎに棚口の権現岳登山口に到着した。夜明けが始まったところで東の空が赤く染まって天候悪化の兆しが見えていた。ほどなくTさんが到着し3年ぶりの再会を喜び合う。この棚口登山口にTさんの車を置いて、私の車で溝尾登山口に向かう事にする。

溝尾登山口は前回来た時よりも夏草が生い茂り、この時期に登るのを後悔させるようだ。ザックに必要最小限のものを持って出発する。さらに続く車道を過ぎてから杉林の中に入ると、湿気を帯びた空気があたりを支配していた。杉林を過ぎ、しばらくは歩きやすい道が続いている。しかしそれもわずかで、斜面に取り付けられた道に変化していく。この斜面には豪雪で倒れた木が頭の高さにあるので、注意しないと思い切り頭をぶつけることになる。またうっかり足を踏み外したら滑落は免れないだろう。

歩き始めて30分で島温泉からの道と合流する。ここで一休みするが、目を閉じると寝不足のためついウトウトしてしまう。Tさんは絶好調のようで、ザックを背負ったまま余裕の表情である。さすがは出勤前に米山登山をするだけあって体力的にも十分なのだろう。合流地点から少しばかり歩くとササユリが咲いている。カメラを取り出して構えると、なにやら近くでケモノの低い声が聞こえる。思わず前を行くTさんに声をかける!!二人で耳を澄ますと今度はハッキリと声が茂みの中から聞こえてきた。二人で大きな声を出すと、ケモノの声はそれっきり聞こえなくなった。「ひょっとしてクマ?」「いやあ!イノシシでしょう」などと気持ちを落ち着かせた。でも私は、近くにある木に古い熊棚があるのを見てしまった。しかし、これは帰りまでTさんには黙っていた。


棚口登山口の夜明け

溝尾登山口に向かう途中で朝焼けの権現岳

溝尾登山口

ヤマアジサイ

タニウツギ

ササユリ

ウラジロヨウラク

金冠山のドーム

道は山襞をそのままトラバースするような形で徐々に高度を上げて行く。この辺りから寝不足と昨日の草刈り作業が効いているのか、ペースが全く上がらない。Tさんの後ろ姿が見えなくなり、やがて足音も聞こえなくなってきた。こうなればここで引き返すのも選択肢のひとつかもしれないと考え始めていた。そんな時に前回敗退した金冠山の岩峰が見えた。まだ遠いなあ!!本当にもうだめかもしれない。雲が空の大部分を占めて麓はガスが流れているので、天気がこのまま持つかどうかも不安要素として頭の隅に残った。道は下草が多く、とても一般登山道とは思えないような雰囲気になっている。それだけ登山者が希な山のだろう。

上部に行くにしたがって周囲の様子がわかるようになってきた。鉾ヶ岳の沢には雪が稲妻のように残って見えていた。たかだか標高1000m程度の山で、これだけの雪があるということは豪雪地帯を証明しているようなものだ。バテバテで息を切らしながら立ち止まってはため息をつく。先行するTさんは気配さえもなくなるほど離れてしまっている。また、目を閉じるとそのまま眼が開かなくなるほどの睡魔が襲ってくる。

先行していたTさんが金冠山手前の岩場で休んでいた。私を見ると同情しているのがわかる。ここでヘルメットを被って岩場の落石に備えることにした。私が休んでいる間にTさんは岩場に取り付き、やがて灌木の中に見えなくなっていった。頃合を見計らって私も岩場に取り付く。フィックスロープに掴まり力任せに身体を持ち上げて登って行く。かなりの急傾斜で体重をかけるとロープが伸びるのが実感できる。途中から鎖も一部出てくるがロープのほうがなんとなく安心感がある。傾斜が緩くなりわずかに歩くと金冠山の山頂に飛び出す。山頂ではTさんが余裕の表情で岩に腰かけてくつろいでいた。


金冠山の岩場

金冠山山頂

金冠山から大沢岳(右)、鉾ヶ岳(左)

金冠山の山頂は露岩となっており展望が素晴らしい。曇ってはいるが能生海岸に並ぶ街並みが見える。その先にあるのは佐渡島だろうかガスの上に浮かぶ姿は巨大な船のようだ。目を転じれば特徴ある鋭鋒は米山だろう。秋の澄み切った空気の中でここからの景色を楽しみたいものだ。それにしても息絶え絶えで、なかなか息が整わない。考えようによればよくここまで来られたというべきだろう。ここから見ると鉾ヶ岳は指呼の距離、対峙する権現岳は稜線を辿るとかなり時間がかかる距離にある。ともかく、もう少しだけ体力に余裕がありそうなので先に進んでみることにする。

金冠山からの下降は鞍部まで長い1本のロープが渡してある。さすがに二人がそのロープに掴まることはできないので一人ずつ下降することにする。ヨカッタ!これで目をつぶって少しだけ休める。すぐに下から声がかかって今度はこちらが下降することにした。下降した鞍部は両側が切れ落ちた狭い「馬の背」になっていた。ここから再び登りとなるが、下草が道を覆い足元が見えない状態だ。うっかりすると木の根や段差で転倒する恐れがあるので慎重に進んで行く。この時期としては時折涼風が吹いてくるが、湿度が高くあまり爽やかな感じはしない。


鉾ヶ岳に向かうために金冠山から降りたところ

鉾ヶ岳手前にあった残雪

鉾ヶ岳の避難小屋

避難小屋内部

鉾ヶ岳の一等三角点

疲れた身体には柑橘類

この日は七夕 この地区ではこんな飾りが立っていた

大沢岳はピークという感じは無く、ただの通過点に過ぎない場所なのでそのまま先に進んで行く。しばらくは高低差の少ない道が続き、その先に残雪が現れた。残雪はかなり固くなっており、うっかり乗ったら転倒してしまった。登山道は土が流れて、溝になってしまっていた。ここも滑りやすいので慎重に登って行く。

目の前が開け、明るくなったところが鉾ヶ岳だった。金冠山から44分かかったが、Tさん10分前に到着していたという。その差は歴然としたものだった。一等三角点がありその横には老朽化した避難小屋があり、内部は本当に避難小屋そのものと言った建物だった。展望は曇りという事もあり近くが確認できるだけだ。それでも雨飾山の特徴ある上部が確認できた。しかし晴れたとしても雑木に阻まれて展望は得られないだろう。それにしても疲れて、ここから先を歩くのはどうだろうと思っていた。

ここでTさんから提案「雨が降ってきましたから、この先の岩場のことを考えると引き返したほうが良さそうです」確かに霧雨程度の雨粒が顔に当たっているが、それほどのものではない。あまりにも疲れている姿を見かねて助け船を出してくれたのに違いないのだが、それに甘えることにした。なにしろこれ以上進んだら危ないのではないかと思われた。ここから引き返すにしても権現岳に進むにしても、いずれも3時間はかかるだろうが、ルートを知っている往路を引き返したほうがリスクが少ないという判断だ。

鉾ヶ岳から引き返すという判断で気持ちがかなり楽になったと同時に、この山はつくづく縁が無いという事になった。Tさんと登るときはこの山以外を登ることになるだろうと思う。

群馬山岳移動通信/2019

溝尾登山口05:03--(.41)--05:44島道分岐09:18--(1.12)--7:40金冠山07:44--(.38)--08:22大沢山--(.22)-- 08:44鉾ヶ岳09:20--(.37)--10:57金冠山10:27--(1.04)--12:31溝尾登山口


この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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