山岳ハーフマラソンウォーク   登山日2008年12月20日

              (二度上峠→浅間隠山→笠岩→栗平峠→万騎峠→菅峰→須賀尾峠→高ヂョッキ→丸岩)


浅間隠山から鼻曲山方面


浅間隠山(あさまかくしやま)標高1756m 群馬県吾妻郡/笠岩(かさいわ)標高1589m 群馬県吾妻郡/栗平山(くりだいらやま)標高1375群馬県吾妻郡/菅峰(かんぽう)標高1474m群馬県吾妻郡/高ヂョッキ(たかぢょっき)(標高1200m)群馬県吾妻郡/丸岩(まるいわ)標高1124m群馬県吾妻郡




先月、南天山から県境周回山行を一緒にした同僚のTさんが、こんなのはどうだろうかと計画を持って来た。みれば、二度上峠から浅間隠山に登り稜線伝いに北上して、菅峰を経て須賀尾峠まで行こうというものだ。さらに時間があれば高ヂョッキと丸岩にも登ってしまおうと言う。ざっと見ると距離は20キロ前後でハーフマラソンの距離に等しい。一般のランナーならば2時間もあれば充分に走れるはずだが、山ではそうは行かない。まして、エスケープルートもなさそうなので、これはかなり気合いを入れて行かないとバテそうな気がした。ともかく車二台を使わなければ成り立たない計画なので、この計画に乗ることにした。


12月20日(土)


Tさんの車を須賀尾峠にデポして、私の車で二度上峠に向かう。午前5時半を回った頃、浅間隠山の登山口に到着した。少し上部の広場には軽自動車が一台止まっていた。我々はここではなく登山口のすぐ傍の路肩に駐車した。当然の事ながら、浅間隠山に登るためにこんなに早くここに来る人はいないので、駐車してあるのは私の車だけだった。暗がりの中でヘッドランプを点けて支度を調える。雪は少なそうなのでワカンのたぐいはいらない、アイゼンはどうしようかと考えたが、もしもの事を考えて軽アイゼンを持った。Tさんはさらにピッケルとストックを持つ念の入れようだった。私は新しく新調したカーボン製のストックを持った。


Tさんを先頭にして、ヘッドランプの灯りを頼りにして歩き出した。カラマツの植林地の中に付けられた明瞭な登山道を登る。左に曲がり岩淵山の山腹を回り込むように進んでいく。このあたりわずかな積雪があり、ハッキリとしたトレースが付けられている。トレースの周囲には小動物の足跡が無数に残っていた。鷹繋方面からのの道を分けて道を右に折れる頃になると、ヘッドランプの灯りが必要なくなるまでになってきた。浅間隠山の本格的な登りにさしかかると南方面が赤く染まってきた。見る間にその赤い光は周囲に広がり遠くの山々を照らして輪郭をハッキリと浮かび出すようになった。妙義山の特徴あるノコギリ状の稜線は、モヤの中に墨の濃淡で描いたように見えている。近くの鼻曲山は雪を纏った部分だけ白く筋を見せていた。


標高1690mのピークを過ぎて左に曲がり、カヤトの原を登り詰めるとそこが浅間隠山の山頂だ。いつもながらここからの展望は素晴らしく360度の展望が広がっていた。この山の人気がこの展望にあることは間違いないだろう。かつては正月の年中行事のように、山頂にテントを張って無線運用したのだが、人気の山である以上いまではそんなことは無理だろう。Tさんと二人で山座同定をやりながら楽しんだが、あまり合っていなかったかもしれない。これから目指そうとしている菅峰はなんと遠くにあるのだろうか。とにかくあのピークを目指して歩くしかないのだ。そのうちに男性の単独行者が登ってきた。恐ろしく早いペースであることは間違いなさそうだ。高崎から来たというこの男性は、この後一旦降りてから鼻曲山まで往復するそうだ。このペースなら午前中に予定をこなしてしまうだろう。

浅間隠山から妙義山
浅間山
菅峰の方面


浅間隠山の山頂を辞して北に向かう。北斜面は急斜面で積雪があるので、スリップに注意しながら下降した。しかし、何度か転倒してしまった。もう少し積雪があれば楽に下降できるのだが地面が凍っている上に雪が積もったことで、なかなかうまくいかない。鞍部に着くと道は右にわずかばかり下ると標識があり、そこには浅間隠温泉郷2.9kmと書いてあった。Tさんはかつてこのコースを歩いた事があると言うので、途中に分岐があったような騎がすると言う。しかし、標識を過ぎて下降してみたがそれらしき分岐は見つからなかった。そこで、わずかに戻ってからクマザサの斜面を稜線に向かって登る事にした。積雪もあり、なかなかうまく進めないがなんとか稜線に付くと踏み跡らしきものが見られた。これからは、稜線を忠実に辿って進む事にした。磁北に向かって進めば良いのでコンパスの設定は楽で、その先には菅峰が青空の中に浮かんでいた。


笠岩は地形図では小さな表記があり、顕著なピークに見える。まずはそこを目指して藪の中を歩くことにする。しかし、この藪はなかなか手強く、身の丈を越す笹の海が広がっていた。Tさんは藪は苦手なようでかなり苦戦を強いられている。笹薮からあまり逃げると稜線から離れてしまうので、我慢して歩くしかない。したがって、たどり着いた笠岩の山頂は雑木に阻まれて展望は望めなかった。地形図では東側が岩場になっているが、それさえも解らないほどだ。

標識
笠岩へ続く笹藪
笠岩山頂
笠岩から下降した鞍部の石祠


笠岩からは一旦、西に向かって下降することになる。カラマツの植林地の中の道を下降していくとやがて鞍部に到着。ここには石祠があり、賽銭が置かれていた。ざっと見て200円くらいあったかもしれない。地形図を見るとこのあたりから栗平峠へ続く道があるわけだが、結局それは見当たらなかった。鞍部から目の前のピークに向かってだらだらと登っていく。時折伐採の跡があるところを見ると、この辺はかなり人が出入りしているのだろう。このピークはカラマツで遮られているが、これが無ければ、浅間山、笠岩、浅間隠山が見られる絶好の場所になるだろう。このピークに名前が無いのはなんとも惜しい気がする。


ピークからは再び下降して栗平峠と呼ばれる鞍部に着く。ちょっと明るい場所で、なんとなく人工の構築物があった形跡がある。文字もすっかり消え、朽ち果てた標識の残骸がそこにあった。ここで大休止として、Tさんとゼリー飲料と菓子パンで腹を満たした。栗平峠からは再び展望の無い稜線に沿った斜面を歩くだけだ。このルートは展望が良ければ人気が出そうだが、これでは物好きが歩くだけのルートと言っても間違いないだろう。

栗平峠手前のピーク
栗平峠
栗平山
竜ヶ岳と笹とや山


栗平峠から30分弱で三角点峰の栗平山に到着した。三角点があるから展望が良いかと思ったが、ここでも展望が無かった。ここでTさんの紛失物が判明した。ザックに差しておいたストックの先端が無くなっているのだ。おそらく藪に引っかかって取れてしまったのだろう。このストックは最近購入したばかりなので、かなり落ち込んでいた。しかし、前回の私のプロトレックからみればたいした事は無いと慰めたが、残念そうに先端を眺める目は潤んでいた。


栗平山からは尾根の分岐を左に向かう。アップダウンの少ない笹原をゆっくりと下降していくと、なんと林道に出てしまった。林道は車も走行したようで、轍が残っていた。このままいけば万騎峠まで行くのかもしれない。これでは面白くないので、稜線からあまり離れない適当なところで稜線に戻った。しかし、こんな山深い場所で林道があるとは興ざめである。


時刻は10時半になるところ、ここまで順調に来ているので、カヤトのピークで大休止とした。ここは比較的展望が良く、目指す菅峰が近くに見えていたが、先はまだ長そうだ。この先はバラの藪がひどく、強行突破したら棘が太ももに引っかかり、後で見たら傷だらけになっていた。この先もバラの藪と笹薮の繰り返しとなる稜線歩きが続いた。相変わらず展望は無いから結構つらい歩きとなった。Tさんはこのあたりで持ってきた地形図を紛失した事に気が付いた。ストックと地形図を紛失した事でさらに意気消沈と言ったところだ。地形図も予備を持ってこなかったことは失敗だった。実はわたしはエアリアマップも持ち歩いているし、GPSもあるのでその辺のバックアップは十分と思っている。

 
そろそろ万騎峠と言うところでルートを失ってしまった。1380mのピークの北で1350m付近である。あとから見れば地形図上には顕著な稜線が見えているのだが、当日の現場では気が付かない広い尾根だった。本来ならば右に行くはずだったのだが、左にルートを取ってしまっていたようだ。ここで引き返さなかったのは眼下に林道が見えており、さらに植林地のカラマツには番号が振られていたために、安心しきって下降する決断をしてしまったのだ。急傾斜の斜面を慎重に下ると、日陰部分は雪が凍っている林道に到着した。みれば万騎峠はずいぶん上部にある。そして万騎峠に続く稜線ははっきりと見えていた。なぜあれが解らなかったのか不思議でならない。

万騎峠に続く車道
万騎峠のブナの大木


林道をつめて、万騎峠に到着するとそこには大きなブナの木があり、万騎峠の由来を記した表示板が設置されていた。ここでTさん凍結した場所で見事に滑ってしまった。見ていてもかなり派手な転びかただった。おもわずヒヤリとしたが、立ち上がったのでまずは一安心だ。しかし、かなりのダメージを負ったらしく、右手の小指の付け根は晴れ上がっていた。


万騎峠から菅峰に少し登ったところでちょっと休憩だ。きょうは果物を忘れてしまったTさんとミカンを半分ずつ分けて食べた。さて、長い縦走も先が見えてきたようだ。今までと違って道がはっきりしているので、歩きやすく何も考えずに登れる事はありがたい。しかし、ここにきても展望は相変わらず得られる事は無かった。そして道がなだらかになるころに、なんの特徴も無い菅峰の山頂に到着してしまった。三角点と小さなGさんの標識があるだけの展望も無い山頂だった。本日の最後に近いと言う事で15分ほど休む事にした。りんごを分けて食べてから、私は熱燗の180mlを呑んだ。まあ、あまりゆっくりと呑む事は出来なかったので、ちょっと酔いが早く回った気がした。


さて菅峰から須賀尾峠に向かって下山だ。幸いに雪の上には今日の登山者のものと思われるトレースが付いていた。そのトレースを追いかけていたつもりだったが、いつの間にか違う方向に下っていることに気が付いた。雑木が無くなり、笹原となり展望が開けたのだ。おかしい!!!しかし、赤テープがあるぞ????でもおかしい。
こんな時は戻る事が大事だ。ザックから本日はじめてGPSを取り出して確認しながら斜面を登った。どんどん戻って行くとなんとなくそれらしき場所にたどり着いた。そこには表示も無く、非常に解りにくいところだった。ともかくそこに入って進むと赤テープがあり、なんとなく安心した。急下降の斜面を辿り、道形に沿って歩くと、あとはゆっくりとTさんと話しながら歩くことが出来るようになった。

菅峰への登り
菅峰の三角点
菅峰の下降で迷った


須賀尾峠のTさんの車のところに着いたのが14時20分。明日が冬至とは言え、まだまだ行動できる時間が残っている。そこで高ヂョッキに登っておこうという事になった。


**高ヂョッキ**

須賀尾峠の車道から北の斜面を登りはじめる。頭部が無くなり代わりに石ころとすげ替えられたお地蔵様の脇を抜けて落ち葉の積もった広い斜面を適当に登っていく。上部では子供のはしゃぐ声が聞こえている。おじいちゃんが孫二人と落ち葉の斜面をプラスチックのソリで滑って楽しんでいた。孫はかなり怖がっていたが、下で待っているおじいちゃんに向かって元気に滑っていた。冬の太陽は高度を下げて周囲を赤く染め始めている。ちょっとスピードを上げなくてはならないが、これまでの疲れがありなかなか足があがらなかった。

ちょっとした岩場を登ると稜線に到着、右に折れて高ヂョッキに向かって歩くことになる。稜線は痩せてはいるが危険を感じるところもなく歩くことが出来る。稜線の北側が断崖にもかかわらず、雑木があるために恐怖心を感じないのだろう。やがて高ヂョッキの岩峰が見えてくると、どうやったらあの頂きに登ることができるのか不安になってくる。ところが、いざ近づいてみるとその不安は皆無だった。登山道は手を使わなくとも登れる程で、実際に動画撮影をしながら歩いても問題ないものだった。

須賀尾峠の地蔵
高ヂョッキから観る丸岩
王城山と白砂山方面
本日の縦走したピーク


高ヂョッキの山頂は展望が素晴らしく、今日の山行は展望がないところばかりだったもので、ようやく開放されたような気がした。まずは眼下に見える川原湯温泉付近の八ツ場ダム工事が目に付く。吾妻川を渡るJR吾妻線の汽笛の音が頻繁に聞こえている。雪をかぶった上信越国境の山並みが、この時間になってもくっきりと見えている。場所を移動しながら振り返ると、本日の長かった浅間隠山からの稜線が逆光のなかに浮かんでいた。Tさんと、その稜線をなぞるように今日の山行を振り返った。時間を見ると、まだ15時ちょっと過ぎだ。ついでに丸岩も登ってしまおうと考えた。見れば丸岩は残照に照らされて、山頂部分が最後の明るさを保っていた。

須賀尾峠に着いたのは15時40分。急がなくてはならないので、Tさんの車でここから丸岩の登山口まで移動することにした。


**丸岩**

丸岩の登山口には一台分の駐車スペースがあり、そこに車を置くことにした。すでに太陽は山陰に沈んでしまったのだろうか、日中と違って寒い風が吹き抜けるようになったので、急ぎ支度をして歩き出す。道は山腹を巻くようにしてなだらかに登っていく。はじめは登山口のすぐ上が丸岩と思っていたが、実際は違っていたようだ。一旦鞍部にたどり着き、そこからなだらかに登っていく。木々の葉はすっかりと落ちてしまい、緑色のヤママユの繭が枯れ枝にとりついているのが目立つ。丸岩の山頂は細長くなっており、特徴のない場所だった。山城があったらしいが、この様子からは小さいものだったに違いない。小さな石碑もあったが、文字を読み取るのも不可能なほど風雨による劣化が進んでいた。
夕闇が迫ってくるので山頂に留まる時間も少なく、急ぎ下山することにした。

ヤママユの繭高ヂョッキが残照に染められる
丸岩山頂


帰ってからGPSの記録を基にして歩いた距離を計測すると、合計で20.8キロ。惜しいかなハーフマラソンの距離には、300mほど届かなかったようだ。



「記録」
二度上峠05:56--(1.15)--07:11浅間隠山07:19--(.17)--07:36分岐--(.50)--08:26笠岩--(.41)--09:07栗平峠09:17--(.28)--09:45栗平山09:50--(1.58)--11:48林道--(.16)--12:04万騎峠12:16--(.30)--12:46菅峰12:59--(.13)--13:12笹原(迷う)--(.12)--13:24分岐--(.56)--14:20須賀尾峠14:26--(.39)--15:05高ヂョッキ15:13--(.27)--15:40須賀尾峠====15:46丸岩登山口--(.22)--16:08丸岩16:13--(.24)--16:37丸岩登山口:13--(.24)--16:37丸岩登山口


群馬山岳移動通信/2008


GPSトラックデータ
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)