富士見峠を越えて尾瀬ヶ原へ「アヤメ平、中原山」
                                        登山日2020年6月20日


アヤメ平
中原山(なかはらやま)標高1969m 群馬県利根郡

富士見峠は尾瀬の登山口として人気がない。それに拍車をかけたのが富士見小屋の廃業だ。もっとも私としては富士見小屋に良い印象は持っていないのだが。
しかし、魅力はなんといっても駐車料金とバス料金が発生しない、ということと、静かな山歩きが楽しめるということだ。

6月20日(土)
自宅を朝4時に出発、6時に富士見下に到着した。すでに車は2台あり、そのうちの1台は出発準備を終わり歩き始めるところだ。ほどなくもう一台が到着して準備を始めたが、その後、車はやってこなかった。登山口には新型コロナウイルスに対する注意書きの立て札があり、遭難救助も従来通り行えない場合があると書いてある。いつも以上に注意して歩かなくてはと気を引き締めた。

しばらくは車道が続くが、これはマイクロ高台のメンテナンスの道だから、よく整備されている。道は歩きやすいのだが、展望はほとんど望めない。もっとも鳩待峠、大清水でも同じように展望はないから仕方ない。後ろから気配を感じて振り返ると、マウンテンバイクがやってきた。出発前に到着した登山者で、一瞥をくれることもなくひたすら車道を登って行った。まあ、これも新しい生活様式で、見知らぬ人と会話するのを避けるというのも当然だろうが何か味気ない。さらに歩くと先行して出発していった男性登山者に追いついた。聞けば群馬県内東毛の在住で、私よりも4歳若いというが、かなりのお年寄りに見える。いや、自分もこんな風に見られているに違いないだろう。しばらくは四方山話をしながら並行して歩いたが、歩くペースが合わないので先に行かせてもらうことにした。さらに歩くと今度は先行していたマウンテンバイクの男性が、座り込んで下を向いている。「具合が悪いのですか?」と聞いたが、首を横に振ったので、これ以上は関わらず横を通り過ぎて先に進んだ。標高を上げるにしたがってガスが巻き、そのガスは時折雨粒になって林道の路面を濡らすようになった。今日は天気が良いと考えていたがそれほどでもなさそうだ。

富士見小屋の大きな建物は出入り口や窓がすべてベニヤ板で打ち付けられ、内部に入ることはできない。屋根は一部が崩れ落ち、雨漏りもしているに違いない。閉館して5年という歳月は、この建物を再利用することを困難にしている。まして解体するにしても、費用が1000万円以上になるとあっては個人の所有物であっても難しいだろう。しかし、将来的には、これだけ自然保護が叫ばれる尾瀬にあって、このまま廃屋が放置されるのも問題に違いない。


富士見峠下

この時期は

林道歩き

林道歩き

富士見小屋(廃業)

立派なトイレが設置されていた


旧富士見小屋からわずかに歩くと富士見田代だ。池塘があり周囲は湿原が広がっている。ここに来たとたんに3組6人ほどの人とすれ違った。まさかここで人に会うとは思わなかったので驚いた。おそらく朝一番のバスで鳩待峠まで来てからこちらに来た人たちなのだろう。それが証拠にその後、人並みは続かなかった。木道をたどって登ると小湿原があり、その先にアヤメ平が広がっていた。以前来た時よりも湿原が回復しているようにも見える。もっともここに来るのは20年ぶりだから、裸地もわずかながら回復作業の結果、植生が変わったのだろう。今日はあいにくとガスが掛り燧ケ岳との写真が撮れないのが残念だ。

アヤメ平を過ぎて整備された木道を進んでいく。緩やかに上り上げたところに三角点があり、「中原山」の標識があった。かつて鳩待峠から富士見峠を歩いたときに、ここを通過したはずなのだが全く記憶がない。今回はこの「中原山」を確認することが目的だったので、とりあえずは目標を達成した。時刻は9時前だ!こうなれば尾瀬ヶ原まで行ってみようという気になった。


富士見田代

富士見田代

アヤメ平に向かう

ミツバオウレン

アヤメ平

アヤメ平

中原山

FSCマーク


それにしても前日の雨で濡れた木道は滑るのなんのって、氷上にいるようで木道の上に乗っているだけで滑っていく。注意はしていたのだが富士見田代の手前で盛大に尻餅をついてしまった。カメラは放り出して草むらに、痛む腰は木道にしたたか打ち付けてしまった。富士見田代の分岐から尾瀬ヶ原に向かう道は長沢新道と呼ばれている。木道は相変わらず徐々に高度を下げながら続いており、ここでも3回ほど転倒してしまった。もうこりごりと、しまいには木道を外して脇のぬかるんだ道を歩く羽目になった。富士見田代から約30分で「土場」さらに15分で「長沢頭」までくると木道はなくなり、露岩の多い道となった。傾斜が強いところは木製の階段が設置されておりこちらは歩きやすい。しかし、帰りの階段昇りを考えると憂鬱になる。


滑る木道

土場

長沢頭

長沢を渡る

ウツギ

尾瀬ヶ原に入る

竜宮小屋

人影まばら


眼下を流れる長沢の沢音が耳につくようになり、その長沢に架けられた木橋を渡ると平坦な道となった。ミズナラの清々しい緑の中をゆっくりと歩くと、突然に目の前が開けた。まさにそこが尾瀬ヶ原だった。しかし、その尾瀬ヶ原はかつて見慣れた風景とは違っていた。人影がまばらなのである。よく見れば竜宮小屋は窓に板が打ち付けられ休業しているようだ。設置された休憩スペースは13区画ほどあるがほとんどが空いている。その一区画を占領して大休憩だ。鳥の声が静かな原に響き渡り、未曽有の新型コロナショックが及ぼしている影響を感じる。これで鳥の声がなくなったらそれこそ「沈黙の春」そのものだと思いたくなる。食事後、竜宮現象の見られる地点に行ってみる。水が吸い込まれ、別の場所で湧出するというもので竜宮名称の由来ともなった場所だ。誰ともすれ違わない木道を一周してから尾瀬ヶ原を離れることにする。


チングルマ

オゼヌマタイゲキ

リュウキンカ

ミツガシワ

カキツバタ

タチツボスミレ

ひとつだけミズバショウ

イワカガミ


憂鬱な長沢新道の登りは登る前から気合を入れなければならない。幸いなことに蒸し暑さがなかったことなのか途中休憩一回で登りきることが出来た。しかし、痛めた足首は悪化するばかり、半月前に痛めた腰は相変わらず重い痛みが続いている。旧富士見小屋の廃屋に着いたときは痛みも強くなっていた。それでも何とか足をかばいながら1時間半かけて富士見下に到着した。


昼食休憩

ひっそり

人がいない

竜宮入口 NA9-05

竜宮出口 NA9-04


ワタスゲの中を富士見峠に向かう


「記録」
富士見下06:19--(1.50)--08:09旧富士見小屋--(.11)--08:20富士見田代--(.17)--08:37アヤメ平--(.09)--08:48中原山--(.22)--09:10富士見田代--(1.37)--10:47尾瀬ヶ原(竜宮)11:24--(1.54)--13:18富士見田代--(.06)--13:24旧富士見小屋13:33--(1.27)--15:00富士見下

この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。
(承認番号 平16総使、第652号)

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