バカ尾根経由で浅間外輪山に登る
登山日2017年9月9日
![]() 鋸岳からのパノラマ いつものことながら夏の暑い時期は山に行けなかった。恵那山に登ってからすでに二ヶ月が経ってしまった。こうなると体力的にもかなり衰えていることは間違いない。いきなりロングコースの山は不安があるので、近くの浅間山周辺の山にいく事にする。車坂峠から登る黒斑山は混雑が予想されるので、まだ登ったことが無い「浅間シャクナゲ園」からのルートを選択してみた。 「バカ尾根」と「草すべり」は、医師である南木佳士さんの短編の表題にもなっている。この小説によればバカ尾根はおばあちゃんに案内されて、溶岩樹形の所まで下降している。しかし、バカ尾根は山行記録を見るとシャクナゲ園から登るのが圧倒的に多い。 ところでこの外輪山は嫌な思い出があり、パーティー登山の不信感につながり、単独行が中心となった契機の山でもある。 9月9日(土) 朝4時に起きて、頭上のオリオン座、東の空の金星を見ながら自宅を出発する。二度上峠を過ぎて北軽井沢に入ると、キャベツの収穫に忙しいトラクターが増えてきた。「浅間シャクナゲ園」は道が複雑に入り組んでいてルートの選択が難しい。まして下手に入り込むと行き止まりとなったり、周回して元に戻ったりしてしまう。結局は嬬恋牧場を経由して行くことになった。(結局はこれが一番わかり易い) 「浅間シャクナゲ園」の広い駐車場は一台の車もなく閑散としていた。ゆっくりと出発準備をして予定よりも早く出発する。園内に入ろうとすると犬を連れた男性が先に園内に入り登って行った。ここは私有地という事もあり、通過させていただくにはそれなりの礼儀が必要だろう。案内板を見ると縦横無尽に散策路があるので、どこを通れば最短で上部に行けるのかわからない。とりあえず右側の端の道を利用させてもらい上部に向かう事にする。途中には展望台があり眼下の景色を見ることが出来る。 ところが犬の散歩で先に入園した男性が展望台の上で犬の毛を漉いている。私が近づくと吠えだして、ノンリードの犬はことらに向かってくる構えを見せている。何とも嫌な気分での出発となってしまった。私は犬嫌いということは無いが、山で犬を見ると不愉快な気分になることは確かだ。犬連れ登山の是非が議論されることがあるが、喫煙と同じで嫌がる人がいるのならそれに配慮するべきだろうと思う。「リードをつけているから」「おとなしいから」「吠えないから」「糞は持ち帰っているから」というのは理由にならないと思っている。 シャクナゲ園を過ぎると道はカラマツの林の中に入る。笹も多くなり初めは踝あたりだったのが、膝丈となり、やがて腰丈あたりまでの高さとなった。朝露に濡れた笹はズボンを濡らしあまり快適ではない。その笹の道も道形ははっきりとしているので迷うことは無い。 その笹の道も上部に行くにしたがって薄くなり歩きやすくなってくる。そして「尾根頂上」と書かれた標識のところまで来ると砂礫の裸地となった。ここには夏の名残のコマクサが一株だけ咲いていた。そして周囲はロープが張り巡らされ、シャクナゲ園の管理地であることを示しているようだ。 ここからどう進むのかちょっとだけ迷ってしまった。上部に向かって左に下るようにしてロープをくぐり藪に入るのが正解だ。藪の中に入れば道形ははっきりとしているので一安心といったところだ。ところが藪の中を通過していくのだが、妙な踏み跡があるのでそれにつられてしまう場所が何箇所かあった。やはり一般ルートではないことは確かで、それなりの判断力を持っていないと危険と思われる。
砂礫の場所もあり、そんなところでは振りかえると大展望が広がっていた。正面は四阿山でその周囲は見慣れた山々が連なっている。かつては毎週のように歩いた懐かしい山々だ。何度もそれらの山々を見ては若き日の出来事を思い返した。 シラハゲケルンまで来ると、目の前に浅間山の勇姿が大きく見える。浅間山の特徴である縦縞の溝にある岩が確認できるまでの距離だ。噴煙は相変わらず多いような気がするので立ち入り禁止の規制は正しいだろう。登山規制も無かった40年ほど前に登ったときは、息ができないほどの亜硫酸ガスに巻かれたことがある。それにしても気持ちの良い場所で、ここまで登るだけでも価値があるというものだ。 このシラハゲケルンからは低木の薮となっており、ルートがはっきりとしない。低木は綾織りのように絡み合ってすんなりと歩くことはできない。ルートもはっきりしないから適当に歩きやすいところを登るしか方法が無い。この尾根はバカ尾根と言うらしいが、バカしか登らないからなのか。 採取している人がいないのか、カモシカの食餌になっていないのか、鋸岳の直下はクロマメノキの実がおびただしいほど実っている。アカザレの斜面を登り切るとそこが鋸岳の山頂だった。ここからは浅間山と外輪山に挟まれた湯ノ平が印象的だ。それは荒涼とした浅間山の斜面と、外輪山の荒々しい岩壁とは対照的に緑に溢れているからだ。振り返ると登ってきたバカ尾根の向こうに青い稜線が連なる山々がまぶしい日差しの中に見えていた。
時間も早く、体力もそれほど心配なさそうなので、鋸岳から左回りに周回することにした。 外輪山を歩き始めると、予想通り車坂峠からの登山者とひっきりなしにすれ違う事になる。各ピークには休憩する登山者で溢れている。19人パーティーとすれ違ったときは道を譲ってもらえず、立ち止まらなくてはならない。まして黒斑山の近くでは子供がはしゃぎながら走ってくるのは閉口した。とても私がいられる場所では無いので、休まずに草すべりの下降点まで歩いてしまった。
草すべりの下降点から下を見ると恐ろしいほどの急斜面だ。転がったらおそらく止まることは不可能だろう。ストックを支点にしておそるおそる下降していくと目の前の景色が徐々に変化していくのが楽しい。それほど急傾斜なので、景色がめまぐるしく変わると言うことなのかもしれない。中程まで来たときに下からオレンジ色のヘルメットを被った単独行者が登ってきた。山側によけてすれ違いに備えた。登山者は若い女性で、聞けばJバンドを降りて湯ノ平を経て草すべりを登っているのだという。なんとも健脚であり頼もしい限りだと思った。
大きな岩が現れると草すべりも終盤で、笹原と唐松が目立ってきた。湯ノ平口まではほとんど平坦で分岐までは直ぐだった。分岐で休もうと思ったが、どうも落ち着かないので先に進むことにする。道はなだらかに登り気味になって唐松林の中を進んでいく。あの外輪山の賑わいが信じられないほど、静寂に包まれた道だ。
やがて賽ノ河原分岐点に到着する。ここは前掛山への登山口となっているが、今は登山禁止なので厳重にロープが道をふさいでいた。正午になろうとしていたが、ここも休むには向いていないので、さらに先に進むことにする。 分岐から5分ほど歩いたところで展望が開けたので、ここで休むことにした。首にかけたタオルは汗を吸っており、絞ると汗が地面にしたたり落ちた。シャツを脱いで汗をぬぐってから腰を下ろした。実に心地よい日差しと素晴らしい展望を愛でながら総菜調理パンを口に運ぶ。それにしても静かな世界で、時折登山者が通過していくが気になるほどでは無い。 休憩後、15分ほど道をたどるとJバンドの基部に到着する。見上げれば上部は今にも崩れそうな岩壁が覆い被さるように連なっている。ここで用意してきたヘルメットを被ることにした。登っている人は3人ほど、下ってくるのは2人ほどなので、それほど心配は無いが、落石の恐れは充分あるだろう。もっとも落石があれば、ヘルメットくらいでは防ぐことはできないだろう。 Jバンドの登りはジグザグに道が付けられているので、それほど息は上がらない。意識してゆっくりとゆっくりと登り、休憩しないで一気に登ることにした。こうすることで足が攣ることも防げるはずだ。 頭上で賑やかな声が聞こえるようになると約20分でJバンドに到着することができた。湯ノ平から登るなら草すべりよりもJバンドのほうが負担は明らかに少ないだろう。ここまで来れば何の問題も無いので鋸岳まで進んでゆっくりビールを呑むことにする。
鋸岳でゆっくりと休んでからいよいよ下山することにする。ところが砂礫の斜面を数メートル下ったところでスリップしてしまった。その時に左腕をしたたか打ち付けてしまった。見れば傷口から血が流れ出している。治療をしようかと思ったが、このまま放置するのが良いと判断して腕まくりをしておくことにする。 さて下山は簡単と思ったが、薮に阻まれてルートを失うことが数回あった。そのたびにGPSで往路のルートを検索して辿ることで事なきを得た。それにしても、どこからやってくるのか出血した腕にハエが来て血を舐めるのには、ちょっとドキッとした。途中で先行して下山した外人さんに追いついた。このルートに慣れているらしく的確に道を辿っている。腕の傷を見せると「ダイジョウブ?」と心配してもらった。 駐車場に到着して、ポリタンクの水で傷口を洗うと出血は止まっていたので一安心だ。ついでに顔を洗うために眼鏡を外して傍らに置いた。顔を洗い終わって眼鏡を探すとなんと眼鏡は登山靴に踏まれてグチャグチャになっている。・・・・・・・・・・・・トホホ とんだ怪我と出費に意気消沈して帰途についた。 浅間シャクナゲ園06:40--(.18)--06:58シャクナゲ園上部--(.39)--07:37尾根頂上--(.56)--08:33シラハゲケルン--(.38)--09:11鋸岳--(.37)--09:47仙人岳--(.26)--10:13蛇骨岳--(.25)--10:38黒斑山--(.14)--10:52草すべり下降点--(.44)--11:36湯ノ平分岐点--(.23)--11:59賽ノ河原分岐点--(.06)--12:05休憩12:29--(.13)--12:42Jバンド基部--(.19)--13:01Jバンド--(.12)--13:13鋸岳13:38--(.15)--13:53シラハゲケルン--(1.12)--15:05シャクナゲ園 群馬山岳移動通信/2017 |
この地図の作製に当たっては、国土地理院長の承認を得て、同院発行の数値地図25000(地図画像)及び数値地図50メッシュ(標高)を使用したものである。(承認番号 平16総使、第652号) |